混乱の中(番外)

tefnen 作
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これは、呪いをかけられて小さな少女となった英一と、佳奈の話。
男性としても逞しく、自信に満ちた大学生だった英一は、呪いによって、赤茶色の長い髪をした小柄で
内気な少女、映子に変身させられた。そして、それまでの自分の人生の一切を魔法によって書き換え
られてしまった。それは記憶にとどまらず、身の回りすべての世界の変化を伴っていた。変化し
なかったのは、彼が呪いを受けた場に居合わせた佳奈と、その友人の由里、絵美、そして拓也だけ
だった。

「…私、今日はサークルに行かなくちゃいけないんだったぁ…支度しなくちゃ」

か弱い声で、英一、いや映子が言った。呪いを掛けられてから1晩たっただけだが、外にでる気は
満々である。体が小さくなって、記憶が変わっただけなら当然のことであるが。
彼女の現在の「設定」は、「小学生のような体格をしている女子大学生で、文系のサークルに所属
している文学部の学生」だった。呪いを受けるまでは、英一は工学部所属であったどころか、大学に
文学部など無かったのに、今はそこにあるのが当然のごとく存在している。そして、大学生になって
以来同棲していた恋人の佳奈に対しては、ただの年下だが頼りがいのあるルームメイトという認識しか
持っていなかった。

「先輩、昨日のこと、大丈夫…?」
「え、うん…」

そしてこの映子の呪いは、それだけではなかった。「自分よりも大きな女性に触れると、その体型
まで、痛みを伴って、変化する」という、現実離れしたものが付け加えられていた。しかしむしろこれを
企てた張本人である、魔術師のフリードリヒにとっては、これが主体となっていた。

「そんなわけない。あんなに、痛がってたのに」
「大丈夫だよぉ…佳奈ちゃんー」

映子は、そういって支度をし始めた。薄めの化粧をし、可愛らしい人形のような白い服を着て(と
いってもこれも昨日まではなかった)、大型のスマートフォンをかばんに入れ、と手際よく作業を
こなしていく。

「先輩、そんなに急いで…私も、行く」
「え、佳奈ちゃんも?」
「心配だから」
「うーん…」

映子は困った顔をしている。呪いを受ける前も佳奈が一緒にいくといえば、多少困った顔を見せて
いたが、これほどではなかった。

「でも、サークルのお部屋までは、来ないでよ?」
「なんで?」
「は、恥ずかしいからだよぉ!」
「私も、そこまで行く気はない。電車で不意に女の人に触ってしまうのを、避けるだけ」
「ふーん?」

しかし、これまでの「英一のサークル」は体育会系のものでマネージャも含めて男子のみだったが、
「映子のサークル」は女性で溢れていることに佳奈は考えが至っていなかった。映子は佳奈の
「電車の中にしか女性はいない」というような発言に気づいたが、あえて疑問をぶつけなかった。

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大学の建物の前まで来た二人は、そこで別れた。映子は高校生である佳奈を連れて歩くのにある種の
面倒臭さを感じていた。

「(佳奈ちゃん…私が小さいからって、あんなに馴れ馴れしくしなくても)」

佳奈は電車の中では女性が近づくと、その人に触らないように映子を抱きしめたりしていた。加えて、
大学まで歩くときもしきりに手をつなごうとしたが、電車の中で嫌気が差していた映子は手が繋がれる
たびに振りほどいた。

「(私達…恋人とかじゃなくてただのルームメイトなのに…)」

別れるときの佳奈は心配そうであると同時に悲しそうだったが、映子はただ「じゃあここで待っててね」
と言ってそそくさと建物に入ってしまっていた。映子は、「文学研究会」と張り紙のしてある扉の前に
立つと、背伸びをしてやっと手が付いたドアノブを回し、ガチャッと開けた。

「おはようございますぅ!」
「あ、おはよ!朝から元気だねぇー」

そこには、女性としては普通の身長の、ショートボブに癖がかかったような髪型の女性が座っていた。
正座で座っている前のこたつ机には胸の膨らみがムニュッと乗っかっているのが遠目でも分かるほど
巨乳だった。

「さーやさん〜なんだか疲れてませんか?」
「うん、実は学祭に出す同人誌のテーマがまとまらなくてさぁ、徹夜しちゃった」

机の上には何かがビッシリと書かれた紙が、胸の下敷きになっている。

「お疲れ様ですー」
「ありがと。映ちゃんも早めにテーマ決めないとね」

女性は胸を持ち上げ、座り直した。仲の良さそうな二人であるが、昨日までは面識すらなかった、と
いうより、「さーや」と呼ばれたこの先輩、沙耶香は大学すら違っていた。しかし、二人とも何の
違和感もなく喋っている。

「でも映ちゃん見てると、部屋に入ってきた妹を触ったら体が膨らんで、気づいたら裸Yシャツーとか
いうシチュしか思い浮かばないんだよね…」
「やめてくださいよ〜あれ、恥ずかしいんですから〜」
「ねえ、また触ってもいい?」
「やです〜…でも、先輩がそんなに言うなら、また佳奈ちゃんにお願いして…」

当然のように会話が進んでいく。彼女らにはこの状況だけでなく、呪いの事すら日常のこととして認識
されていたのだ。

「いいよ!またその可愛いお洋服が破れちゃうから!それに、膨らむときの痛い音がやだから」
「そうですかぁ?」
「それより、ちょっと手伝ってくれない?私のテーマ作り」

映子はなぜか残念そうな顔を浮かべる。

「分かりましたぁ…私なんかで良ければ…」

映子は荷物をおろし、沙耶香と机を挟んで正座で座る。

「なんでも言ってみて」
「じゃぁ…『妖精さんと…』」
「妖精さん…は、もういいかな…」思わず苦笑する沙耶香。
「そうですかぁ…?『借金を踏み倒して、駆け落ちしちゃう』とか、どうですか?」
「映ちゃん、どこでそんな言葉を…あと、駆け落ちって夜逃げのこと…?でも、駆け落ちは行けるかも…
うん、ネタが湧いてきた!」
「良かったですぅ」
「ありがとう!」
「えへ…」

沙耶香は映子の頭をなでた。悪気のない行為だったが…

「うっ…」
「えっ?あっ…やっちゃった〜」

あどけない笑みを浮かべていた映子の表情は、あっという間に苦悶へと変わった。

「い、いやぁぁああっっっ!」

映子は腕を組み、歯を食いしばっているが、服の袖の先からニョキニョキとその腕が伸び、長い
スカートは正座した足に挟まれたまま引っ張られ、真ん中からビリッと割れるように敗れた。骨盤が
広がり始めると、さらにスカートの腰の部分が引っ張られ始め、横にシワが出来た。次に肩甲骨が
大きくなり始め、服を左右から引っ張った。

「お服、きついよぉ!」

沙耶香の見ている前で映子はどんどん変化していき、目線の高さが段々高く、沙耶香に近づいて
いく。服のボタンがプツンッと飛ぶと、映子の大きく放ったものの未だに幼い体型があらわになった。

「肩、苦しいよっ!」

細かった腕に脂肪が付き始め、服が食い込んだが、破れる前に太くなるのが止まった。しかし、
すでに骨盤だけで限界だったスカートの方はヒップが大きくなり始めると、すでに破れていた膝の方
から、縦に裂けてしまい、ハラリと映子の足元に落ちた。そしてついに…

「お、お胸が、あついっ…」

ちょこんと申し訳程度にあった薄いピンク色の突起がムニュッと絞り出されるように大きくなると、胸
全体がブブブッと風船を撫でるようなときの音を出しつつ、プルプル震えながら大きくなっていく。

「お、重い…」

胸の大きさに耐えられなくなったのか、映子が前のめりになると、バレーボール並みの胸はタプンッと
机の上に横たわり、机の方はガタンッと大きな音を立てた。胸はプルプル震えながらズッズッと前に
出て、沙耶香の紙を曲げていく。

「はぁ…」

映子がため息を付いたところで、胸は成長を止め、変身が終わった。ふっくらとした下半身は下着以外
裸になっていたが、上半身の方は服は丈が足りず、二の腕に食い込んでいるだけで破れては
いなかった。しかし、まんまるとした乳房は、前に突きだし、映子が呼吸するたびに揺れている。

「え、映ちゃん…?」
「あはは…」

映子は、恍惚としているようだった。これも呪いの効果で、痛みによる精神的ショックを和らげるための
ものだった。沙耶香もこれを承知していた。

「映ちゃん!しっかりして!」

沙耶香は乗り出して映子の肩を両手で揺すった。映子の乳房が自分のそれに当たり、自分が映子を
揺らすたびにブルブルと揺れているのに気づいたが、それでも揺らし続けた。

「あ…。先輩…。私今、幸せです…」
「起きて!」
「…はっ!」

映子はやっと気がついたようだ。

「また大きくなっちゃったぁ…」

「あの子、あんな裸になって嬉しいのかしら…」

サークル部屋の入り口から聞きなれない声が聞こえた。映子がそちらを見ると、悲鳴を聞きつけた他の
サークルのメンバーが数人集まっていた。呪いのことは映子のサークル内では認知されていたが、
他のサークルまでは届いていなかったようだった。

「違うの!これには事情が…!」

沙耶香は説得しようとしたが、「まさか…露出狂?」「うわ、信じられない…」という疑惑や嫌悪の声
が聞こえてくる。映子の顔は真っ赤になり、いきなり立ち上がった。

「ちょ…映子!?」
「先輩の、馬鹿!」

といって、映子は部室を飛び出してしまった。走るたびに、ブルンブルンと揺れる胸を、映子は両手で
抑えた。

「恥ずかしい、恥ずかしいよぉ…」

映子が建物を出ると、そこには佳奈がいた。

「先輩…っ!どうしたの、それ!」
「私…先輩に触られちゃったの…それで…」
「!…そう…一応、これ持ってきておいてよかった」

佳奈は、自分のカバンから、伸縮性の良さそうな服を取り出した。佳奈には、自分の体型を変える
能力があり、その変形ごとに服が破れないように伸びの良い服を数着買っていた。

「佳奈ちゃん…」
「さあ、着て。レインコートじゃ、不自然」
「うん…ありがと…」

映子は、破れそうな服の上から、佳奈が渡した服を着た。

「む、その先輩、おっぱいだけは、大きい」

映子の服は、胸の部分だけ明らかにプクッと丸く膨らんでいた。

「そうなの…今まではこんなことなかったのにぃ…」

佳奈は複雑な表情をしている。

「どうしたのぉ…?」
「いや、先輩、本当に、記憶ないんだ、って」
「佳奈ちゃん、昨日から変。何回も私に変なこと言ってくるし…」
「私は、先輩の、恋人…」
「女の子同士なのに?」
「…恋人じゃなかったら、こんなに尽くさない」
「佳奈ちゃんの言ってること、わからないよ…」
「…」
「でも、今日は、もう帰ろう?」
「分かった」

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二人は歩き始めた。来た時は佳奈のほうが15cmも身長が高かったが、今は映子は160cmくらいに
なっていて、佳奈は完全に逆転されてしまっていた。佳奈の目線の高さで、映子の胸が揺れている。

「…先輩…」

佳奈には、映子が英一だったころの記憶が残っていた。二人は、一緒に何回もデートに行っていたし、
受験勉強も一緒にしたし、スキーや、胸揉みや、それ以上のこともした。それなのに、憧れの先輩は
女性になってしまい、佳奈を疎み、どこの誰かも知らない女性に似せた大きな胸を揺らしている。一緒
に歩いているのに心は遠く、佳奈には悲哀と絶望が入り乱れていた。

二人は何も話すことなく、帰っていくのだった。