混乱の中(番外)

tefnen 作
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家についてから、映子は昼食も食べず、自分のベッドに篭もりきりだった。佳奈が夕食を作って映子を
起こそうと思った時は、泣き疲れたのか眠っていて、佳奈は映子をそっとしておくことにした。しかし、
佳奈が朝早く起きた頃には、食卓にラップがけして残した映子の分の夕食は、無くなっていた。
そして、起きていた映子が言ったことに、佳奈は唖然とした。

「佳奈ちゃん、私、先輩に謝りに行きたいの…」

昨日帰る途中は「もうどこにも行きたくない!」という表情をしていた映子が、このようなことを言った
せいで、佳奈は取り乱してしまった。

「先輩、本当に大丈夫なの!?私だって先輩は守りきれないんだよ、昨日みたいになっちゃうかも
しれないんだよ!?」
「ご、ごめんなさいっ!…」
「あ、こちらこそ…ごめん。でも、心配」
「それは…そのぉ…昨日の服を着ていけば、大丈夫…」
「先輩…」
「でも、佳奈ちゃんについてきて欲しいの」
「…!」

佳奈は昨日の、自分が付いて行くといった時に見せた映子の困惑した表情を思い出した。今は、
映子は懇願するような、上目遣いの顔になっていた。

「先輩が、言うなら…」
「本当っ!?」
「ただ、私も、責任はとれない」
「分かったよ。じゃあ、支度してくるねっ」
「あ、朝ごはんは…?」

映子の出来るだけ早く行きたいという懇願のせいで、佳奈の朝食はトースト一枚になった。

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そして、20分後、駅に向かって歩く二人。佳奈の服は丈が少し長いのか、もともと上腕までを覆うはず
の服が、ブカブカで、肘より少し先まで埋まっている。

「そういえば、どうして、私についてきて欲しいって…」
「あ、うん…佳奈ちゃんが一番頼りになるの、分かったの!昨日は、今まで大人しかった佳奈ちゃんが
いきなり付いてくるっていうからびっくりしちゃって!」
「(私は先輩の記憶の中ではあまり積極的じゃないんだ)」
「だから、ちょっと嫌だなって思ってたんだけど…あ、ごめんね。でも、建物から出てきた時に、佳奈
ちゃんはそこにいてくれて、それにお服もくれて…あ、私と佳奈ちゃんはなにかで繋がれてるのかな…
って…」

映子の顔が真っ赤になる。

「私、何言ってるんだろ、女の子同士なのにー」
「…」
「佳奈ちゃん?」
「あ、なんでもない。ありがと、先輩…」
「え?ありがとうって、私がいう言葉じゃないの?」
「ううん、いいの」
「変な佳奈ちゃんー」
「(先輩は、何も覚えてないみたいだけど、何か赤い糸みたいなの感じているんだ、うれしい…)」

口元がほころぶ佳奈。映子が呪いを受けてから初めての笑みだった。

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「うわ、なにこれ…」
「おじさんたちが一杯ー」

駅のホームに到着した列車は、スーツ姿の通勤客で一杯だった。

「普段は、こんなに混んでないよぉ…」

すると、案内放送が流れてきた。

『ただいま、JNR線は脱線事故の影響で運転見合わせとなっております…』

「脱線事故だってー怪我した人とか、大丈夫かな…」
「うん…」

『そのため、当路線でも振替乗車を行っており、列車が大変混雑しております。なにとぞ、ご理解と
ご協力を…』

「仕方ないね、佳奈ちゃん、大変だけど行こっ!」
「先輩っ!?」

映子は電車の開いているドアに駆けて行ってしまった。佳奈も追いかけ、二人は超満員電車に乗り
込み、直後にドアが閉まった。二人は、ドアと乗客に挟まれる形となった。

「こんな列車じゃ、先輩、守れない」
「だーいじょうぶだよっ」

佳奈が周りを見ると確かに、列車の中はほとんど男性で占められていた。男性に接触しても何も起き
ないはずなので、逆に安全である、と思っていた矢先、車内放送が流れた。

『まもなく、この列車の終着駅に到着します。列車が激しく揺れますので、ご注意ください』

次の瞬間、車両が激しく揺れ、映子はバランスを崩して、後ろの客によっかかる形になってしまった。

ポフッ…

「「えっ…」」

映子の頭には、誰かの背中でも胸板でもなく、柔らかいものが当たっている。佳奈は、そちらを見て
悪い予感が走った。映子の後ろの客だけが、紅一点と呼べるほど(映子と佳奈がいるので一点では
ないが)の女性で、しかもその胸はスーツを押し広げ、下に着ているシャツとタンクトップにも水平に
シワが走り、その上から少しだけはみ出した乳房の間には明らかに谷間の線が見える。その高めの
身長のお陰で、JからLカップ程度の胸は直接映子に当たらずに済んだようだ。

「ご、ごめんなさい…」
「あなた、大丈夫?こんなにこの電車が混んだのって、初めてよねぇ」

映子が謝ると、女性は20代後半程度の若々しいが少し大人らしい声で返した。

「ええ…」
「気をつけて…わぁ!」

次の揺れで、女性もバランスを崩し、手を前に出してドアに手をついた。映子も同じように手を伸ばし、
二人の手が触れ合った。

「ったたたぁ…ごめんね…」
「ううっ…」
「(先輩っ…!)」

女性の方からは自分の胸にくっついた反対側を向いた映子の顔は見えないようだったが、うめき声は
聞こえたようだ。ドアにくっついた状態の映子が、頭を打ったのかと疑った女性が声をかける。

「だ、大丈夫…?」
「はぃ…!…ぐぅっ!…」

次のうめき声で、映子の体から関節が外れたりくっついたりするようなボキボキッという音が聞こえ
始めた。その音に同期するように映子の頭がガクガク揺れた。

「えっ…何、この子…」

映子の頭の高さが上がり始め、女性の胸が持ち上げられる。

「や、やめて!」

女性が自分の胸を押さえつけて離すと、その瞬間に赤茶色の長髪がバサッとその長さをました。映子
の背は、女性のそれとほぼ等しくなった。映子は腕と手をドアの窓に押し付け、痛みをこらえる。元々
なら佳奈の腕に引っ張られて伸びるはずの袖が、骨格だけが伸びた細すぎる腕に引っかからず肩くらい
しか隠せていない。

「くっ…きゅっ…」
「やっ…なんでこんなに細いの!」

映子は声を押し殺そうとするが、女性は骨と皮だけのような腕を見て大声を上げてしまう。そして、段々
映子に注目が集まり始めた。

「う、うで…膨らむっ…」

と言うと、腕が部分部分でバラバラに脂肪がつき始める。潰れたペットボトルを膨らませるようなバコ
バコという音が聞こえてくるのが止まったかと思うと、後ろの女性と全く同じスラっとした、しかし十分に
脂肪のついた腕になった。

「おっぱい、きついよぉ!」

痛みに耐えられなくなったのか映子は大声を上げ、周りがざわついた。

「(先輩、かわいそう…)」

映子はその胸をドアのガラスに押し付けるような状態だったが、体とガラスの間に隙間が生まれ、胸の
部分から服がムクッムクッと横に伸びていた。

「おっぱいが、つぶされちゃう!」

乳房の前の部分は窓ガラスで平らに潰されていた。そして、次の瞬間、ブレーキがかかると、映子の
体が動いたのに乳房はドアにくっついたままで、横にムギュッと歪んだ。

「いやぁっ!」

ブレーキはかかった途端に解除され、またかかった。終着駅では諸々の事情で運転士が停止位置に
慎重になるが、今回は単に下手な運転のようだった。

「おっぱいが、えぐれちゃう!」
「(先輩っ)」

ブレーキがかかったり緩んだりするたびに乳房は左に右に引っ張られ、大きくなった。そして、悲鳴を
上げているのは映子だけではなかった。服も何回も衝撃を受けて、ところどころがほつれ始めていた。
最後に電車がガタンッと止まると、ビリッという音がした。

「い、いやぁ…」

しかも、映子がいた方のドアが降り口だった。そして、

ビリビリビリ…ボンッ

ドアが開くと同時に、服は胸の部分から破れてしまい、さんざん歪まされていた乳房がボンッと前に
出た。さらに列車の中から出ようとする客に二人は押し出され、映子は転んでしまった。

「う、うぅ…」
「先輩、だいj…」
「うわぁぁん!なんで!どうしてぇ!」

転んだ衝撃は今はムニュッと潰れている乳房が吸収していたが、それよりも映子は羞恥心に耐え切れ
なかった。事実、何もなかったように通り過ぎるのを装う人々の視線は、痛いほどに映子に向けられて
いた。

「先輩を…一人に、させない…」
「もうやだぁ…えっ…」

映子が目を上げると、上半身裸になった佳奈が立っていた。そして、佳奈の体は一瞬にして大きく
なった。胸の突起が大きくなったかと思えば、その周り全体がムリムリッと膨らみ、髪がざわついて
バサッと長くなり、尻が震えれば、丸い重量感のある膨らみがブルッと出てきた。
その一瞬の変化に、人の流れが止まったのも気にせず、佳奈は映子を抱き上げ、互いの乳房が
ムニッと潰れるのも気にせず、抱きしめた。

「先輩が辱めを受けることがあれば、私も一緒に受ける」

その一言は、この状況においては病的なものだったが、それでも映子の心に響くものだった。

「佳奈ちゃん…ありがと…」
「うん…あと、これ…」

佳奈はもう一着カバンから同じ服を取り出した。

「すごいね…また助けてくれた…」

その服を映子が着た後、佳奈は元の姿に戻り服を着直したが、あの巨乳の女性に呼ばれた駅員に
事務所まで御用となった。しかし結局駅員は事情を飲み込めなかった上にスタイリッシュになった映子
に「早く行きたい場所がある」と、まるで男のツボを抑えているような迫り方をされて、すぐに大学へと
向かうことができた。

---

「先輩、いるかなぁ」
「え、いるか分からないの?」

部屋の前に着いたところで映子から発せられた言葉に佳奈は驚愕した。
佳奈は、先程から悶々とした視線を周りから感じていた。なにせ、佳奈が用意したのは服だけで、
フリースのような服のせいで形を強調された、映子の胸から出ている2つの球体は、あまり拘束されず
大きくユッサユッサと揺れていた。
それを自分の目の真横で見ている佳奈はそのせいで気が気でなかったのだった。

「うん、実は…」
「もう、先輩ったら…」
「あと、今日は、部室まで来てもいいよ?」
「わかった」
「じゃあ、失礼しまーす」

ガチャッ

「お邪魔します」

中には少しカールがかかったセミロングの女子生徒がいた。体型的には普通だ。

「お、こんな朝早くから…って、ずいぶん大きくなったわね、映ちゃん!」
「ええ、いろいろあって。あと、この子は私のルームメイトの…」
「佳奈と言います。高校2年生です。いつも映子先輩がお世話になってます」
「ご丁寧にどうも。奇遇ですね、私もカナって言うんです。漢字は、違ってそうですけどねっ」

そういってカナが見せた紙には、「夏菜」と書いてあった。

「そういえばナカちゃん先輩、さーやさんは?」
「学祭に出すののテーマが決まって、徹夜用物資を買い出しに行ったわ。あと、昨日のことはごめん
って。何かあったの?」
「あの…こういうことがあってですね…」
「それは、災難だったわね。あの子ももうちょっと気をつけてくれないといけないわ」
「いいえ、私も、なんにも言わずに飛び出してしまって…今日はその謝罪に来たんです。それに、
明日からは秘策がありますし」
「そうだったの…いいわ、私から伝えておくわ。あと、何、その秘策って」
「それは…佳奈ちゃん!」
「えっ、私?」
「大きくなってみて、今の私より!」
「今の…先輩より!?」
「え、なになに、もう一人のカナちゃん、何ができるの?」
「見ててください。ほら、佳奈ちゃん」
「仕方ない。じゃあ、まずは」

佳奈はまず身長を伸ばした。

「おお、すごい!佳奈ちゃんは、自分で変身できるのね!」
「驚かないんですか?その…」
「ナカでいいわ」
「ナカ…」
「ほら、私の夏菜って名前の一文字目、ナツって読めるでしょ?だから、私が入学したての時、誰
だか忘れちゃったけど、私のこと「ナ…カナちゃん!」ていい間違えそうになった人がいて、それで
あだ名が「ナカナ」になって、それで今に至るわ」
「なるほど」
「つまらない話はおいといて、続き続き!」
「は、はい」

佳奈の胸がムクムクッと大きくなり、大人しく待っている映子と同じくらいになった。

「壮観ねぇ…」
「えっと、あとなんで驚かないかを一応…」
「あーそれね、うちの彼氏持ちの部員が「映画館に行った時に、いきなり自分が爆乳になって、周り
にいた女の子やおばあちゃんがみんなボンキュッボンの子になっちゃう夢を見た」って、言ったの。
笑い話だったんだけど、その時にさーやが、あ、沙耶香っていう部員の子で、その子はスタイルが
良いんだけど」
「ほら、昨日言ってた先輩だよ!」
「そう…その子が「映ちゃんも大きくなってみたかったー?」と言って頭をなでたら…同棲している人なら
わかるわよね」
「なんか…阿鼻叫喚な風景が…」
「そうそう、あんまり痛がるから、救急車呼びそうになっちゃったわ。でも、話のタイミングが良かったおかげか、映ちゃんをお化け扱いする人はこのサークルにはいないわ」
「お化け…」
「他のサークルの子は、映ちゃんの事気味悪がっているみたいね。だって、いきなり知らない人が
建物の中にいるんですもの」
「なるほど」
「佳奈ちゃん、お話中悪いんだけど、もうちょっとだけ大きくなって?」
「わかった、先輩」

佳奈が全身に少し力を込めると、体がムクッと全体的に1割増の大きさになった。

「佳奈ちゃんは、どこまでも大きくなりそうね」
「言いにくいですけど、多分そうかと…」
「あ、分かった。映ちゃん、佳奈ちゃんの体型に予めなっておけばいいのね」
「そう、佳奈ちゃんに叶う人なんて、いないですから」

そして、映子が佳奈の手に触れた。映子の体から何かがうごめくようなグチャグチャした音が聞こえて
くる。同時に、映子の体が波打つように動き始める。夏菜は耳を塞いだ。

「私、映ちゃんの体から出る音、まだ慣れないのよね」
「うっ…ごめんなさい…っ…だから…うわぁっ!」
「先輩っ!」

映子の体がボンッと大きくなり、一瞬の間佳奈より大きくなったが、最後には佳奈と同じサイズに落ち
着いた。

「終わった?」
「ナカちゃん先輩、明日からは、最初から変身してくるからねっ」
「別にいいのよ、こういう日常への刺激が創作のきっかけになったりするんだから」
「そんなこと言っても、通学途中に大きくなるの嫌ですよー」
「佳奈ちゃん、この子の面倒、ちゃんと見てあげてね」
「分かりました、ナカさん」

佳奈は、優しい先輩に恵まれていること、それ以上に映子の提案で、安堵を覚えることができた。

「(明日からは、先輩、大丈夫そう…)」

しかし、二人には別の苦難が待ち受けていた。