混乱の中(番外)

tefnen 作
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翌朝、佳奈が目を開けると、元に戻った映子がちょこんと目の前に立って
いた。佳奈は寝転がったまま朝の挨拶をした。

「お、おはよう…先輩…」

しかし、映子の口から発せられた言葉は、佳奈の意表をつくものだった。

「佳奈ちゃんのおっぱい大きくなあれ!」
「えっ?」

すると、布団の中で胸がもぞっと動いた気がした。

「あーれー?おっきくなあれ!おっきくなあれ!」
「先輩っ…やめっ…!?」

さらに胸が圧迫され、布団が盛り上がりだした。

「お、すごいすごいーもっともっと!」

佳奈は、パジャマがどんどん胸を圧迫していくのを感じたが、その圧迫感は
パジャマのボタンがとれたのかすぐに消えた。しかし、布団の盛り上がりは
大きくなり続け、脇の部分から空気が入り込んできた。

「横から見えてるー」
「な、なにしてるんで…」
「もっともーっと大きくなーれ!」

膨らみ方はどんどん早くなり、胸が掛け布団の上と横からはみ出し始め、その
先の突起に布団が引っかかってズルズルとずれていき、足が顕になった。

「佳奈ちゃんの体よりおっきくなっちゃった!」
「先輩、いい加減に…」
「どこまで大きくなるのかなー?」

乳房は高さを増すと同時に、ベッドの横からもはみ出し始めた。掛け布団は]もはや胸の一部分だけを覆っていた。

「わぁー触っちゃおうかなぁ」
「や、やめ…」

映子が触ったら、何が起きるかわからない。だが、

ピトッ

映子の手が自分の乳房に触れたのを感じて、佳奈は叫んだ。

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「だめぇぇぇええ!」
「うおっ!起きたっ!」
「え?」

佳奈の隣には映子ではなく沙耶香が立っていた。その手は…

モミュモミュ

「はぅっ!…やぁ…」
「柔らかくて気持ちいー」

佳奈の巨大な乳房に触れ、揉んでいた。

「あぅ…あれ…おっきく…なったの…夢…じゃないの?さーや…さん…やめて
っ」
「なんか、寝てる佳奈ちゃんに呼びかけたらいきなり大きくなったよ…ここ
は、どうなのかな…」

沙耶香はそのまま胸に寄りかかるようにして、布団のポコッと突き出ている
部分を揉んだ。

「んぐっ?!…いや…はぁん!」
「エロっ、こんな小さな子でも…」

カァーンッ!

どこまでも自重しない沙耶香の脳天にフライパンの一撃が加わった。衝撃で
沙耶香は気絶し、乳房の上でぐったり倒れてしまった。かぶさった布団が
プルンっと揺れた。

「はぁ…はぁ…助かった…」
「ごめんね、やっぱり絨毯の上じゃ寝られなかったみたい、寝ぼけてるのよ…」

攻撃したのは夏菜だった。

「この人、怖い…」
「確かに、今回はやり過ぎね。どかしてあげるから、元に戻って朝ごはんに
しましょう」
「さあ、さーや…ちょっと動かすわよ…」

乳房の海に浮かんでいる沙耶香を、夏菜が持ち上げた。そしてそのまま、床の
上に落とした。

「大丈夫なんですか!?」
「この子、無駄におっぱい大きいから、クッションになるでしょ。多分」
「多分って…」
「それにしても、佳奈ちゃんって本当に大きくなれるのねー」
「まじまじと見ないでくださいっ!」

佳奈の乳房は一瞬にして小さくなった。布団が佳奈の上半身と顔にかぶさった。

---

「「「ごちそうさまでしたー」」」

朝食が終わって片付けが終わる時間になっても沙耶香は結局倒れたまま
だった。映子は、昨日夏菜と一緒に買った服を着、体型も夏菜に合わせて
いた。

「どうしよう、さーや先輩…」
「そうねー…あ、起きてきたわ…」
「お、おはようございますー、なんか後頭部からすごい頭痛がするけど今日も
元気ですー」
「さーや、そろそろ大学行くから準備してね」
「はーいナカ様ぁー」

沙耶香はその場で服を脱ごうとした。

「さーや、ここで脱がないでね。あと、何に着替えるの?」
「え、何言って…あ、ここ映ちゃんのお家だったっけ!あ、それであんまり
急だったから着替え用意してなかったんだっけ!あ、あと佳奈ちゃんの…」
「はぁ…思い出したようね」
「ごめん!佳奈ちゃん!つい好奇心で!」
「今度は気をつけてください」
「えっなにしたのっ?」
「「ううん、なんでもない(の!)」」
「じゃあ、お邪魔しました。佳奈ちゃん」
「いえ、こちらこそ何もお構いできず…映子先輩のこと、よろしくお願いし
ますっ!」
「了解!」

そして、大学生3人は大学へと家を出て行った。

「(面白い、良い人たちだったな…)」

---

その日の昼下がり。昼食を済ませた佳奈は、ソファに座ってアクションものの
ライトノベルを読んでいた。

「(この人、英一先輩にそっくり!ちょっと中二病ぽいっけど、面白い小説だ)」

ピンポンピンポンピンポーン!

三連続のドアコールに飛び上がる佳奈。落ち着きを取り戻してチェーンを
掛けたままドアを開けた。

「はい?」

そこにいたのは沙耶香と夏菜だった。

「佳奈ちゃん!大変なの!」
「さーやさん?ナカさん?」
「映ちゃん、帰ってきてない!?」
「いいえ…まさか…」

その時、佳奈の携帯電話がメール受信音を発した。それには、こう書いて
あった。

『かなちゃん、たすけて おとこのひとたち、おってくる いま、いしい
こうえんのなか』
「っ…!!」

「いしいこうえん」とは、大学の近くにある石井公園であった。

「行かなきゃっ!」

佳奈はドアチェーンを外し、部屋着のまま靴を履いて飛び出した。夏菜と
沙耶香が不安そうに立っていた。

「佳奈ちゃん…」
「あんたたち二人に任せたのが失敗だった!」
「ごめんね…」
「もう私抜きで学校には行かせませんから!」

そして二人を置き去りにし、佳奈は走り始めた。

---

佳奈は小さい体を必死に動かし走っていたが、駅までの途中にある川を渡る
橋で、ついに息が切れてしまった。

「先輩っ…私っ、間に合わないよぉ…助けられないよっ!」

佳奈は絶望と、先輩2人を突き放してしまった後悔に苛まれた。

「佳奈ちゃん…」

後から追いかけてきていた沙耶香が喋りかけた。

「なんですかっ…さっきのことは謝りますが、でも先輩は自分にしか…」
「こんなこと言うのも酷いかもしれないけど、体大きくしたほうが走りやすい
んじゃない?」
「体…大きく…」
「映ちゃんを守れなかった私からは、そういうアドバイスしかできないかも
しれない…」
「さーやさん…この川、石井公園の近く、通ってます?」
「え!そういえばそうだけど…どうするの…?」
「…離れててください」

佳奈がそう言うと、姿勢を立て直し、そして、川が流れる方向に体を向け、
大きくなり始めた。

「まさか、大人サイズに大きくするんじゃなくて…巨人にでもなるの!?」
「…その通りです…だから、離れてて…」

服が縫い目からビリビリと裂けていく。佳奈の身長は3m,4mと大きくなる。
沙耶香は一歩づつ後ずさりながら言った。

「そんなことしたら、恥ずかしいだけじゃすまないよ!」
「…分かってます。でも、先輩が危険な目に合うのは、私は耐えられないん
です」

佳奈の身長は加速度的に大きくなり、あっという間に10m,20mと巨大化して
いく。周りにいた沙耶香以外の人間は、悲鳴を上げながら逃げていく。

「…そう、踏み潰しちゃわないように…逃げて…」

そのつぶやきのような声も周辺に響き渡るようになっていく。身長が40mに
達し、足の長さが橋の幅に達すると、橋桁が軋み始めた。

「橋、壊れちゃう」

佳奈は川に降りようとしたが、片足に体重を掛けたせいでそこから橋は崩落
してしまった。

「でも、まだ大きくならないと…」

佳奈の身長は100mほどになっていた。ビルで言えば30階建ての高さだった。
そこで足底の幅が、川の幅と一緒になった。

「これ以上は、ダメだ」

そこで佳奈の身長はクッと大きくなるのをやめた。地面は少しかすみがかって見えた。

「よし、行こう」

佳奈は走り始めた。一歩一歩のゆれがあまりに大きく、周りの電線が切れ
たり、駐車されていた車がひっくり返ったり、また途中にあった並木道の橋の
木を折ってしまったり、橋そのものを破壊してしまったりしていたが、佳奈は
気にせず走り続けた。

---

「佳奈ちゃん、早くきてっ…」

映子は、トイレの個室に隠れていた。しかし、男グループは段々近づいてきた。

「おうおう姉ちゃんここにいるんだろっ!?」
「あんなおっぱい出した状態で俺らを煽ってくれちゃって!」

映子の乳房は服から飛び出てしまっていた。沙耶香に不意に触れてしまった
ためだった。映子は、恥ずかしさのあまり、後先考えずに逃げ帰ろうとし、
迷子になっていた。

「こわいよぉ…」

バァンッ!

隣の個室のドアが破壊された音がした。

「お、ここじゃねぇか…ってことは、隣かなぁ!?」

バァンッ!

そして、映子の個室のドアが壊された。

「みっけたー!おい、こんなに手間かけさせてくれて、どう償ってくれるの
かなぁ?」
「えっへへへっ…お、何だ地震か?」
「強いぞっ!」

映子にもゴゴゴゴという地響きが感じられた。しかもそれは段々大きくなって
きた。

「お、おい!やばいんじゃねぇか!?」

次の瞬間、ドシンッ!という衝撃を最後に地響きは止んだ。

「なんだったんだ…」
「さぁな、さあ、お楽しみの時間だぜ!」
「や、やだぁ…」

しかし、巨大な声が周りに響いた。

「そうはさせない…」
「この声、佳奈ちゃん!?」

映子は二人組を突き飛ばしてトイレの建物から出た。しかし、周りには肌色の
壁があるだけで、そこには誰も居ない。

「佳奈ちゃん、どこ?あ…」
「おいおい、何してくれるんだこ…の…!?」
「なんだ、この怪物!?」

3人が上を見ると、巨大な佳奈が日本一高いビルの6割程度の高さから二人組を
見下ろし、睨みつけていた。肌色の壁は、佳奈の足底だった。

「よくも先輩を…お前たち、許さないっ!」
「「ひ、ひぃっ!巨大な貧乳幼女だっ!」」
「貧乳は、余計なお世話っ!」

なぜか二人組の声が聞こえた佳奈は足を少し持ち上げ、地面に落とした。元の
体なら蟻すら気にしないほどの揺れだが、巨大になった佳奈は震度6くらいの
揺れを生み出した。

「つ、潰されるっ!」
「兄貴、待ってくださいよ!」

二人組は全速力で逃げていった。

「佳奈ちゃん、ありがとっ!」
「先輩のためなら…って、だめ、触っちゃ!」
「おっそーいっ!」

映子は、佳奈の足底に触れた。佳奈は下手に動けず、避けられなかった。

「あれ、いたくない…でも、体大きくなってく!」
「先輩っ?」

映子はその巨乳のプロポーションを保ちながらググググッと大きくなって
いく。そして、1分後には佳奈と同じ背まで成長した。その二人の姿は、巨乳
長身の成人女性と、幼児体型の少女が同じ背になっているという遠近感が狂い
そうなものだった。

「先輩、どうして…」
「だって、佳奈ちゃんこんなに大きくなっちゃって、恥ずかしかったでしょ
っ?」
「いや、別に、そんな…」
「恥ずかしかったんだよ。でも、私のために、それを抑えて…」
「先輩…」
「それにほら、これから痛い思いするかもしれないし…」

横をすっと向いた映子に釣られて佳奈が横を見ると、軍用ヘリコプターが
近づいてきていた。人的被害は一切なかったが、かなりのインフラ整備が破壊
され、その原因となった巨人を掃討すべく派遣されたらしい。

「私も、一緒に…」
「先輩、ありがとう」
「その必要はないですよ。あなた達に死なれては、味気ないですから」
「「え?」」

二人の目の高さに、ローブ姿の男性が浮かんでいた。

「あなた、フリードリヒ…」
「ご名答。派手にやってくれましたね、カナさん。私にとっては収穫以外の
何者でもないですが、ざっと10億円位の物的被害を出したようですよ。あなた
は、えい…こさんのためならなんでもやるようですね、呆れたものです」
「…」
「いまはあなた達を他の人から見えないようにしています。それに、あなたの
破壊活動も、いろいろな理由をつけて、あなたのせいではなかったことに
なっていますよ。一旦、私の特製シェルターに移動して、次の夜明けをお待ち
ください」

そして、二人は納得行かない表情ながらもフリードリヒの南国風の結界で一夜
を過ごした。

---

そして、次の日。兼ねてから楽しみにしていたISJに、計画を変更せずに二人
は向かったのだった。二人の、互いへの信頼と真の愛の記念として。

「(先輩は、私が守ってみせる)」
「(佳奈ちゃんを、絶対に悲しませない、一人にしないよ)」