混沌の拡大と終わり

tefnen 作
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その次の日からも、昨日までと同じような事件が立て続けに起こり、地方局だけでなく大手テレビ局
まで、これを放送し始めた。各局はワイドショー番組で「専門家」を呼んで視聴率を稼ごうとしたが、
なぜか呼んだ人が番組の当日になって次々と事件の毒牙にかかっていった。ただ、事件の規模が
大きくなったわけではなかった。病院に担ぎ込まれた男性はその日のうちに元気になって戻っていった
上に、日毎の通報件数は変わっていなかった。ただ、リピーターのように何回も事件に巻き込まれた
男性もいた。

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拓也は、街の中を歩いていた。

「僕の呪いが、呪いを解こうと考えたら力が抜けて、何かに口をつけたら、胸が大きくなるだなんて、
馬鹿馬鹿しいし、鬱陶しいけど…」

うだるような夏の暑さの中、セミがうるさく泣いている。

「効果的ではあるよなあ」

拓也はこれまでは、いろいろあり過ぎて自分の呪いのことなどあまり気にしていなかったが、―というの
も家族に女の子として受け入れられてしまったので、問題なく過ごせたためだ―いざ、机に座って自分
の呪いを解こうと考えた瞬間、力が抜けて顔が机にくっつき、それが原因のように胸が膨らみ始めた
のだ。拓也は口づけをしているような状態から脱し、胸が戻ったのを確認してから、すこし実験した。

「壁とか床でも膨らむってどういうこと…ベッドの上でも膨らんでたってことなのかな」

腹ばいになったときに枕に顔が埋まって膨らんでいた、ということは十分にあり得た。

「どうしたんですか、そんなに困った顔して〜」
「いや、僕は…って、どちら様ですか?」

拓也の前に、急にキャミソールと短パンを身につけた金髪碧眼の少女が現れた。欧州人のようだが、
スタイル的には日本でも普通に見る程度だ。猫の顔がプリントされているキャミソールはふっくらと胸の
部分が膨らんでいた。

「あ、私〜?私は、あなたの呪いを解きに来たんですよ〜」
「本当!?だから、ヨーロッパの人の格好してるんだ」
「そうそう〜、でも、まずアイスクリーム、奢ってくれませんか?」
「え?」
「日本暑すぎます〜私の国では、考えられませんよ〜」
「あ、そ、そうですか」
「あ、さっき通った広場でアイスクリーム屋さん見つけたんですよ〜、そこにしませんか〜?」
「は、はい…」

半ば強引に少女は拓也を引っ張っていった。

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「おいしい〜っ!」

二人は、駅前にある広場で、ベンチに座って、アイスを食べていた。

「ご満足いただけたようで…」
「あ、そうそう〜私の本当の用事、思い出しました〜」

不意に少女は立ち上がり、振り返って拓也を見下ろした。

「本当の用事…?」
「それは〜」

ぼうっとした笑みを浮かべていた彼女が、急にニヤけ、新世界の神のような顔芸ともいえる表情に
なった。

「お前に、仕返しすることだっ!」
「えっ、どうしてっ!?何の!?」
「あぁ、こんな可愛い子ちゃんの姿じゃ分かんねぇだろうなぁ。俺だよ」

そして、彼女は片目からコンタクトのようなものを外した。そこには、今まで碧い目ではなく、黄色の目
があった。

「もしかして…」
「そうさ…」
「オッドアイなの!?」

ステーンと少女はひっくり返った。

「僕、オッドアイの子に一度あってみたかったんだー!」
「おいぃっ!む、待てよ?」

考えてみれば、拓也はこの青と黄色のオッドアイを持っている男の顔など、一度も見たことがなかった
のだ。しかも、このような激しい男口調だが可愛らしい声のせいで拓也はこの少女が元男であること
すら気づけなかったようだ。

「ふんっ、仕方ねぇなぁ…じゃあ、分からないうちにやってやるよ!」

少女は、二人が座っていたベンチの後ろにあったポスターをじっと見た。それは、3mほどの高さの
ポスターで、全体に拡大コピーされたグラビアアイドルの写真があった。

「くっ…変身するときの痛み…慣れてきち…まった…なぁ…ぐっ…」
「大丈夫ですかっ!」

駆け寄った拓也は、少女の全身から、ベリッバリッという音が発せられているのに気づいた。

「何かの発作?」
「お…前っ…うっ!」

ひときわ大きなベキッという音がすると、腰が広がり、短パンのボタンが取れる。

「何ですか…あれ、変身してる…?てことは…」
「やっと…ぐはっ!」

次に手足から発せられるボキボキいう音が大きくなり、左腕と右腕、左足と右足が別々の早さで長く
なる。

「あいつらに呪いを掛けられたの?」
「ひっ…んっ…ちげ…え…よ!」

足が伸び終わると背骨がコキコキ言いながら一つ一つの節が太く、長くなり、胴が縦に伸びていく。

「何とかしないと!救急車っ!」
「呼ばなくていいっ!うっ!?」

胸の部分でボコォッと水中から大きな泡が出てくる時のような音がすると、キャミソールの胸の部分が
前に横にと引っ張られ、猫の顔が急激に横長になる。

「え、何で!?」
「そっ…それ…うわっ!」

空の容器に水が入っていくような音がして、少女の足がブルブル揺れながらムッチリとしたそれになって
いく。

「痛がってないで早く言ってくださいよ!」
「む…むちゃ…いうなっ!」

その膨らみは尻にも伝播し、膨らんだ尻は短パンを引きちぎった。他の部分も全体的に元の2倍の
大きさに成るとともに肉感的になり、肩紐がちぎれて、胸の半分くらいを覆っているキャミソールの猫の
絵はもはや横に伸びきっている。少女の背はポスターと同じように3m近くなり、周囲に見せつけている
ような、それこそグラビアアイドルのような体型になった。

「髪が…痛い!」

少女はそう言いながら自分の金髪を引っ張った。すると髪の毛は抜けるどころかギューッと引き伸ば
され、ウェーブがかかった腰まで伸びるロングヘアになった。

「はぁ…はぁ…やっと…収まった…」
「だ、大丈夫ですか…」
「こんなの、あの日に比べれば…」
「あの日って、何の…」
「お前と、あの由里にしてやられた日だよ!パスタ屋で!」
「僕と、由里ちゃんが…パスタ屋…あっ!」
「どうだ…思い出したか…?」
「あの時の変態さん!」
「へん…たいか…まあいいだろう!先ほどお前に合う前に、呪いのもう一つの効果の発動条件を盗み
聞いたからな!」
「もう一つ?」
「お前、自分が女の姿になってるの、忘れてるのか?」
「僕が…女…」

再度自分の境遇を自覚させられた拓也は不作為にも自分の呪いを解きたいと思ってしまった。拓也の
全身の力が抜け、ベンチの上でぐったりとしてしまった。

「さぁ…私のパインアップルに、くちづけしてみなぁい?…なんてな。あとな、俺の名前はカッツェだ。
忘れるなよ」

そしてカッツェは巨大化した体で拓也をヒョイっと持ち上げると、自分の乳房に拓也の顔を持っていった。

「せいぜい動けなくなるまで膨らむがいい」

そして、その顔を乳房に埋めた。

「(ま、また大きくなる…胸が、熱い!)」

拓也が母親に着せられていたふりふりのドレスの胸の部分がピクッと動いた。そしてググッと持ち
上がったと思うと、瞬く間にそれは大きくなり、ドレスを引っ張っていく。肩口がどんどん引っ張られ、
脇の部分も横から拓也の体を締め付け始めたかと思うと一瞬で破け、胸は、腰の紐と、破れていない
肩口で強調され、脇からはみ出しつつさらに大きくなっていく。

「お、ちゃんと膨らんでいるようだな」

とカッツェが言った時には、拓也の乳房がカッツェのそれにくっつき始め、腰紐が引っ張られ始めた。
ドレスは胸の部分に腰紐を通り抜けて引きこまれていき、その都度横の縫い目がビリビリと裂けていく。
ついに一番下まで裂けた時には、乳房は尋常な人間のそれの大きさをはるかに超えていた。カッツェ
の乳房に抑えられ、拓也の乳房はどんどん下に膨らんでいく。

「(胸の先が、冷たい?)」

ついに、巨人に50cmほど持ち上げられているにもかかわらず、乳房は地面に付いた。

「お、重いな…」

巨大化する乳房を支えているカッツェの腕は疲労が見え始めプルプル震え始めた。

「そろそろお前のそれもかなり大きくなったし…」

カッツェは拓也を自分の乳房から離すと、未だに力の抜けている拓也をベンチに戻した。乳房は拓也の
足元まで覆うように膨らんでいた。

「自分のおっぱいに口を付けられるなんてそうそうないぞ」

カッツェは拓也の乳房を持ち上げ、顔に押し付けた。さらに乳房の膨らみ方が激しくなり、ついには拓也
の身長すらも超える大きな球になった。カッツェは両腕を使って片方の乳房を揉みほぐす。それはポヨン
ポヨンとしながら腕から掛けられる力に呼応してマシュマロのように変形した。

「すげえな、こんなに大きいのに柔らかい…こんな呪いは、俺じゃ掛けられないな」

感心しているさなかにも、地面に置かれているにもかかわらず自然に口が付くまでに大きくなった乳房
は、どんどんその膨らみ方を速くしていく。広場の一角を占めるようになったと思えば、ズリズリと地面
と摩擦しながら前進し、10秒後には広場の半分くらいを占めるようになっていた。そして、この現実から
脱したいという気持ちが膨らんでいく拓也の体に、一向に力が戻ってこない。というよりも、この時点で
力が戻っても、口を乳房から離すことができないと思われるほど、拓也は巨大化した乳房に覆われ、
そしてベンチに挟まれていた。

しかし、肌色の歪な球が広場全体を覆い尽くすほどになったところで、ようやっと成長は止まった。
だが、止まっただけで縮む方向には移らなかった。
カッツェはいつの間にかその乳房の上に乗り、ポヨンポヨンと飛び跳ねながら遊んでいる。成長が終了
したことに気づいたのか、遊ぶのをやめたカッツェが言った。

「おーっと、これで終わりか!名残惜しいが、十分に楽しませてもらったし…お前の呪い、解いてやるよ」
「(えっ…?)」

唐突な申し出に拓也は戸惑ったが、カッツェは乳房から飛び降りた。その髪はバサッと風になびき、
着地した衝撃で乳房がブルンっと揺れた。カッツェは微妙にバランスを崩した

「おっと、これだから女の体は…どれ、右手を見てみるか…おっ…こりゃあの先生の魔法陣じゃねぇか、
懐かしいな!しかし、今は呪いを出しきっているし…俺にも解呪できそうだぜ」
「(この人、何者?)」
「これを、こうして、こうと!」

カッツェが右手に、どこから出したのか、光るペンのようなもので何かを書き込んでいく。

「よしっ!」

とカッツェが言うと、広場一杯に膨らんでいた乳房と、拓也の体が光に包まれた。拓也は眩しさで目を
つぶったが、顔の下半分にあたっていた柔らかい感触が消えたのに気づいて目を開けた。すると、そこ
にはこれまでのことが嘘のように、スッキリとした広場があった。その上に、拓也の体は男のものに
戻っていた。

「成功成功っと!」
「ありがとう…ございます…」
「どうってことねぇよ。俺がユリに呪いを掛けたのがきっかけだし」
「えっ!?」
「おう、だがな、俺は友達としてあいつに付き合っていただけだ。そりゃ、私利私欲もあったが、先生
に言われて、あいつが悪魔だとわかった瞬間、俺の中で何かが切れたんだ。今日は、仕返しも目的
だったさ。ただし、主な目的は、お前の呪いを解くことだ。一番使えなさそうな、だが切り札に成るかも
しれないお前のな」
「???」
「分かってないようだな。まあ、それもいいぜ。その時になれば、分かる。ま、俺は俺自身の呪いを
解くことができないし、真の姿は一生戻ってこないだろう。それが俺への天からの戒めだ。お前も、
あの悪魔に天の裁きを加えてみせてくれ」
「え?あ、あの…」
「じゃあな」

そして、カッツェは姿を消した。

「誰だったんだろう?」

拓也は根本的なところで何もわかっていなかった。

「だけど、僕が切り札に…?ああもう、分からない…やっぱり絵美ちゃんに手伝ってもらわないと…」

拓也は炎天下の中、絵美の家に向かおうとしたが…

「あっ…服…ヤバイっ!」

何とか破れたドレスを腰に巻くと、自分の家まで走っていった。