混沌の拡大と終わり

tefnen 作
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拓也がカッツェに襲われている頃、絵美は自分の部屋に篭もり、寂しげな表情をしてうずくまっていた。
不意にドアがノックされた。

「入っていいよ」

ついえそうな声で絵美が言うと、ドアが開いた。

「失礼致します」
「高木、アタシ、どうしたらいいのかな…?」

絵美は、高木には昨日のことを全て打ち明けていた。悪魔とユリシアに敵意を持つと、胸や体が大きく
なってしまうことが分かったこと、ユリシアにあざ笑われ、コケにされた挙句に何もできなかったこと。

「…」
「このままじゃ、由里、本当にいなくなっちゃうよ…」
「…」
「何とか言ってよ…」
「…」
「ねえ、高木…ねぇったら…」
「…」
「何とか言いなさいよ!言えったらぁ!」

絵美は高木に掴みかかった。しかし、その怒りの表情は、すぐに寂しげな表情に変わる。そして、
絵美は高木に抱きつき、高木も絵美を抱きしめた。

「お嬢様…今、由里さんを助けるには、お嬢様が不可欠なのでは…?」
「…!」

絵美は高木から離れた。

「で、でも…」
「そのためには、由里さんに似たあのユリシアに踏みつけられる覚悟が、必要では無いんですか?」
「それは、そう…だけど…」
「では、なぜ行動に移さないのですか、これまでだって、死に至るような呪いをかけられたり、胸が
膨らむより、もっと酷い仕打ちを受け、なお立ち上がってきたお嬢様が、なぜ今になって立ち止まるの
ですか」
「だ、だって…ユリシアに踏みつけられた時…由里に裏切られたような気がして…アタシも由里を裏切った
ような、そんな…」
「違います!お嬢様は断じて裏切っていません!あの魔術師に嵌められ、それを悪魔に利用された
だけではないですか。なぜそれがお分かりにならないのですか!」
「わ、わからないよぉ…」
「それに、ユリシアは姿やしゃべり方が似ていても、由里さんではないんですよ!悪魔というのは人間
の隙を付いて、崩しにかかるものです!」
「…だ、だったらどうしろって…」

高木の厳しい叱咤に、すすり泣きを始めてしまう絵美。しかし、高木は突き放すのではなく、絵美を
抱きしめた。

「ただ、これはわかっていてください。お嬢様の側から誰一人として仲間がいなくなったとしても、私
だけはお嬢様の味方です。それを信じて、悪魔に立ち向かってください」
「…高木ぃぃ!」
「お嬢様、今日は、休んでください。このところ、お嬢様はご友人の方々の心配をしすぎて、自分を
ないがしろにしていらっしゃいました…今日くらい休んでも、由里さんはきっと許してくださるはずですよ」
「うん…わかった…」

それから数分ほど、絵美と高木は抱き合ったままだった。

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「高木、ありがとう。勇気が、湧いてきた気がする」
「それは何よりです。しかし、空回りしないように、今日はなにとぞ、お休みください」
「…うん…」
「それでは、おいとまさせていただきます」
「またね」

高木は、部屋から出て行った。

絵美は、ベッドに座り込み、考えた。

由里と出会った日のこと、初めて一緒に夕食を食べた時のこと、それがとても美味しかったこと、一緒
に勉強したこと、買い物に行ったこと、呪いを掛けられた時のこと、ぷくーっと頬をふくらませて怒って
いる顔、寂しそうな顔、恥ずかしそうな顔、そして、満面の笑みを浮かべた顔。その全てが、絵美を
後押ししていった。由里を助けだすという決断に。

絵美は立ち上がって叫んだ。

「よし、由里、どんな手段を使っても、あんたを助けだしてやる!」

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ピンポーン

夕暮れが近づいた時、呼び鈴が鳴った。

「高木、出てー」

絵美が大声で言うと、程なくして、高木の声が聞こえた。

「拓也さんがいらっしゃいましたが」
「あ、通してやって」

そして、拓也は絵美の家に招かれた。居間で挨拶し、二人は席についた。

「あんた、元に戻れたんだ」
「うん、なんかカッツェとか言う人が」
「あいつが!?どんなことされたの!?」
「いや、僕の呪いを解いてくれたんだけど…」
「どういう風の吹き回し!?」

拓也はその日の出来事を絵美に話した。

「なんか、虫がよすぎる!あいつ、それだけで許されるとか思ってるんじゃないでしょうね!」
「あはは…」
「あははじゃないよ!あははじゃ!」
「あと、僕が切り札になるって言ってたけど、何のことか、分かる?」
「え…それは…」
「僕じゃ、何にもできないんじゃないの?」
「いや、拓也にだけできること、あるよ。あんたが男に戻ってくれたおかげで、かなりやりやすくなった
こと」
「それって…」
「愛の告白だよ。ユリシアの中にきっと由里はいるはず。だからあいつを倒すには…」

ブクッと絵美の胸の膨らみが大きくなった。

「…っ…あいつの中にいる由里に呼びかけて…目を…んっ…覚まさせるの…」

膨らみはシャツを横から引っ張り始めていた。

「そ…そんなこと…できる…かな…?」

拓也は絵美から目をそらしている。

「そんなの…んはぁっ…やってみなきゃ…ふぅっ…分からない…でしょ!」
「ちょっちょっと落ち着いて!」

シャツはまん丸に膨らみ、今にも破けそうだった。絵美は深呼吸をして、テレビのリモコンに手を伸ばした。

「テレビでも、見ないと、落ち着かないかも」
「そ、そうだね…」

テレビを付けると、ワイドショー番組が放送されていた。男性と女性のアナウンサーが、可愛い子猫の
話題を取り上げていた。

「かわいい…」絵美の膨らみはスーッと元に戻っていった。
「…っ」しかし拓也はカッツェのキャミソールの伸びきった猫の顔を思い出していた。
「拓也、なに鼻の下伸ばしてるの?」
「な、なんでもないよ!」
「ははぁ、もしかしてあの魔術師の片割れが変身していく時の様子を思いだしたんじゃ」
「ち、違うよ!」
「はぁ、男だから仕方ないわな」
「違うって…」
「冗談だよ、だから、今度ユリシアが現れた時に、由里に呼びかけてみて」

『それは無駄だよー』

いきなりテレビの中から声がした。

「なっ!ユリシアっ!?」
『あはっ、驚いた?私の甲冑、由里に何も聞こえないように、精神的なバリアがしてあるの』
「じゃあ、由里は生きてるんだね!」
『そうだねー、まあ、一生私の中から出てこれないでしょうけどー』

元に戻っていた膨らみがまた大きくなり始めた。

『まあ、胸大きくしてないでテレビ見ててよ、全国放送で私の力を見せてあげる』

ユリシアの声の奥では、ワイドショーが続けられていた。女性アナウンサーが原稿を読み上げる。
しかし、かなりぎこちない。

『かわいい…こぬ…子猫…達でしたね』
『そうですね!元気に成長してほしいものですね』
『それでは…次…あはぁん…む…胸が…大きく…』
『おい君、どう…し…え、えぇっ!』

HDテレビに映る女性アナウンサーのスーツが、横に開いて行っていき、Yシャツもボタンの部分が横から
引っ張られ始めた。男性アナウンサーは目を丸くしながらその胸を凝視している。大声で叫ぶスタッフの
声が聞こえてくる。

『CMに変えて!ほら早くしろ!なにっ故障だと!?』

その間にも全国ネットで女性アナウンサーの膨乳が放送される。Yシャツの第一ボタンがフッときえたか
と思うと、床にボタンがコンッと落ちる音がした。

『みんな…わたしの…はぁ…おっぱい…みてぇっ!』

悪魔に操られたかのように、Yシャツを強引に左右に引き裂き、その下の服を脱ぎ捨てるアナウンサー。
異様なまでに膨らんだ乳房が顕になる。男性アナウンサーの目は釘付けで、口が開きっぱなしである。
放送室は阿鼻叫喚に包まれている。

『モザイク掛けて!はぁ!?それも無理だと!?終わりだ、何もかもがオシマイだ!』

絵美は嫌な予感がして、ほかのワイドショーにチャンネルを変えた。そこでも、同じような事が起こって
いた。しまいには、アニメ番組だったはずのものが、他のチャンネルから電波がジャックされ、全ての
チャンネルで胸が膨らみ、それを露わにして魅せつける女性アナウンサーが放送されてしまっていた。
そして、黒い甲冑を身にまとった赤髪の美女、そうユリシアが画面上に現れた。

『みなさーん、初めまして、ユリシアっていいます!今のは序の口ですよ!あなたもこうなりたければ、
ご家族から離れたところにいてください!そうすれば私もあなたを見つけやすくなりますから!私に会い
たい方は、××広場まで来てくださいねー』

そして、殺気に満ちた表情を見せ、その赤い瞳を文字通り光らせた。
放送室の悲鳴で溢れたテレビを絵美はついに消そうとしたが、リモコンでも直接テレビを操作しても電源
が消えない。電源コードを抜いても消えず、イラついた絵美は膨らんでいく乳房を気にせずテレビを跡形
もなく破壊した。

「こ、これじゃ、明日どうなるか…」
「ひどいことになるのは間違いないけど、規模が想像できない…そろそろ、手を打たないと、この国
全体が機能停止しちゃう…私、ユリシアに会いに行ってくる!」
「僕も、行くよ!」
「お願い!」

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二人は、テレビでユリシアが言っていた広場に到着した。

そこには、巨大な赤い光の玉があり、その下にユリシアがいた。

「あんた、なにやってるの!」
「あ、またあなた。私?そうだね、私の分身を作っているところかな?私に恐怖し、互いに身を寄せ
合っている家族を、利用するために」
「まさか、その中の女の人達に男の人達…」
「を、襲わせて、精をその体から解放させる」
「何のために!」
「マスターの魔力を増大させ、この国を支配するために備蓄する。それが目的だよ」
「あ、あんた…」
「あなた、また胸膨らんでるよ…」

絵美は、自分のユリシアへの敵意を抑えきれずにいた。乳房は、シャツの上と下からはみ出て、
体の成長で短パンもギチギチと言い始めていた。

「は、それがどうしたっていうの!」
「え、もう慣れちゃった?じゃあ…もっと激しいの行ってみる?」

ユリシアは絵美に手を向けた。

「な、なにを…ぎゅっ…くるしい…」
「服が破ければ、すぐに開放されるよ」

シャツからはどんどん肌色がはみ出て、シャツを引き伸ばしていく。更に手足も伸び始め、短パンが
膨らみ始めた足に食い込み始める。
しかし、傍観しているしか無かった拓也が不意に叫んだ。

「由里ちゃん!いるんでしょっ!僕だよ、拓也だよ!」
「(タクヤ…?あ、また魔力が…制御できないっ!)」
「(あぁん!ユリシアからの魔力が、ぐっ、いきなり強く!)」

絵美の全身がボンッと大きくなり、全ての衣服を吹き飛ばした。

「聞こえているんなら出てきてよ!絵美ちゃんも、寂しがってるよ!」
「(あいつ、のせいで、どんどん魔力が!)」
「(また、強くなったっ!)」

さらにボンッと大きくなる絵美。その広場にある建物より、背が高くなってしまった。

「あんた、その呼びかけ、やめて!」
「えっ!どうして…」
「いいからっ!」

そして、絵美はユリシアに向かってニッとした表情を見せた。ユリシアは、急に不安そうな表情になった
が、すぐに気を取り直して言った。

「ふん、今日はここらへんにしておいてあげる。どっか行って」

そして絵美と拓也は気が付くと絵美の家の中にいた。