環境呼応症候群 温度の子

tefnen 作
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俺の彼女は「メタモルフォーゼ症候群」に掛かっている。聞く話では、経済成長率とか、世界全体の
人口とか、急に変わらないものに応えて体型が変化する患者の人もいるらしい。しかし、俺が付き合っ
ている、寒川 温(さむかわ のどか)は、困ったことに、体感温度で体の大きさと年齢が変化する
んだ。

ま、困っているのは温だけだけどな。俺たちが付き合いだしたのも、俺が温の病気に理解を示した
最初の一人だからだ。ま、今回は最初から話そうか。

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3年前、二学期が始まってすぐのある日、そいつは俺の高校に転校してきた。この頃の夏ってのは
暑いから、9月に入ってもその暑さは残っていたんだ。その日も、最高気温が30度を超えていたな。

朝礼が始まる時間になると、先生が入ってきた。いつもは扉をぴしゃっと締める先生が、その日だけは
開け放しだ。

(お、転校生かな?女か?)

俺は夏休みに漫画を読み過ぎたせいで、扉から入ってくる「可憐な少女」を勝手に妄想していた。

「今日は転校生を紹介します。サムカワノドカさんといいます。さあ、入ってきて」

俺は、自分の目を疑った。その子は、可憐どころか、そのクラスに居る誰よりも大きく、扉を屈み
ながらくぐって入ってきた。それだけじゃなかった。その子が大勢を戻すと、信じられないほど大きな
膨らみがその子の胸についているのが目に飛び込んできた。しかも、それはバインバインッとまるで
生きているかのように揺れた。
クラスは、その子の大きさによる驚愕と、その胸の大きさによる呆然と嫉妬に包まれていた。その子が
黒板の方に歩いて行く間にも、バルンバルンッと胸の膨らみは揺れた。あまりの光景に男子からは「おぉーっ」とか「でかすぎだろ…」とか見世物を見ているかのような言葉が飛んでくる。俺は、ひとえ
に素晴らしい光景としてその子を見ていた。

「寒川…温…です」

大きい体に見合わない消え入りそうな声で、その子は自己紹介した。先生が補足を続ける。

「寒川さんは、「メタモルフォーゼ症候群」に掛かっています。そのために、このような大きな姿と
なっていますが、あなた達と同じ高校生です。どうか仲良くやってください。キミ、席は、あの黒木君
の隣に座りなさい。」
「…はい…」

(黒木…えっ…俺の隣…!?)

その子は、ズシンズシンと近寄ってくる。そして、席につく前に俺に向かって言った。

「黒木くん…よろしく…」
「お、おう…」

席につくと、そのおっぱいは机の上にドカンッと乗り、背もたれは尻に包まれた。

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授業が始まると、温は汗を掻き始めていた。とても暑そうにしている温をみて、俺は下敷きを内輪
代わりにして仰いでやった。まあ、実際は汗で透けて見えるその大きな乳房を拝みたかっただけ
だが。しかし、温の反応は意外なものだった。

「…や…やめて…必要以上に…小さくなっちゃう…」
「へっ?小さくなる?どういうこと?」
「それは…ふぐっ!…」

温は、奇妙な声を上げた。そしたら、身長がシューッと下がり始めた。

「お、おい!」
「大丈夫…だと思う…」
「思うって…」

その間にも、温の背の高さはさっきまでが嘘みたいに縮んでいって、しまいには、クラスで最下位に
なるくらいまで低くなった。おっぱいもいつの間にか無くなっていて、温の体はぺったんこになっていた。

「もうー、お兄ちゃんのせいだよ…」
「は、「おにっ…」」
「そこ、さっきからうるさいぞ!」
「先生、でも寒川さん、小さくなっちゃったんですけど…」
「そういう病気なんだから、仕方ないだろ!分かったら静かにしとけ!」
「はーい…」

しかし、隣にいる温は服がぶかぶかになってうまく板書をノートに書けないようだ。しかも、それは俺の
せいだという。

「汗で温度調節してたのに、お兄ちゃんが仰ぐからこうなっちゃうんだ!」

(でも、小さいバージョンもいいな…)

今度こそその転校生は「可憐」な少女になっていたのだ。汗が乾き終わると、また隣でおっぱいが
大きくなっていく。心なしか、温はすこしあえいでいるようにも聞こえた。

「おい、大丈夫か…」
「だいじょう…ぶ…ちょっと…おおきく…っ…なるだけっ!」
「汗掻いているのを仰いだら小さくなって、汗が乾いたから少し戻ったってことは…お前体感温度で変化
するんだなっ!」
「あなたが…最速ね…そのこと見つけるの…」
「へへっ…こう見えても俺は…」
「二度目だぞ!お前ら廊下でバケツ持って反省だ!」
「体罰反対です〜」
「うるさい!さっさと出て行け!」
「は〜い」

教室の前で、バケツを持って立たされた俺らは、二人だけの空間に不意に投げ込まれたかのようだった。

「黒木くん…ごめんね、気持ち悪くなかった?」
「へっ…何が?」

温は多少上からこちらを見ている。

「私の…カラダが…ひょいひょい変わっちゃうの」
「はぁ?どうして気持ち悪がるのか、知りたいね」
「えっ…じゃあどうとも思わなかったの?」
「どうとも…ってあっ!」

調子こいて片足で立っていたのが間違いだった。バランスを崩した俺は、バケツの水を温にかけて
しまった。

「やだっ!つめたーい…」

と温が言ったと思ったら、小学生くらいの子が立っていた。

「なにすんのよ!この馬鹿!」
「ご、ごめんっ!」
「小さくなると性格も変わっちゃうのよね!確かに子供時代はこんな感じだったけど」
「寒川は、いつから変身するようになったんだ?」
「つい最近よ…急にカラダが大きくなっちゃって…」
「今みたいに?」
「今よりもっと。この廊下なら、天井付いちゃうわ…クシュンッ!」
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫…クシュンッ!」
「なあ、保健室行こうか」
「えっ?」

温の顔がポッと赤らんで、体が少し大きくなった。

「あっ…」
「面白いな、温って」
「…」

ちょっと温の体が小さくなった。だが俺は変化したのに気付かずに、言った。

「だけど、どの大きさでも、温って可愛いな」

温がまた大きくなった。しかも、その変化で衝撃が伝わってくるくらいのスピードだった。

「か、かわ…いい…」

バタンッ

「どうしたんだよ、おい!」

温は俺の隣に倒れていた。俺は死に物狂いで保健室に担いでいった。温の体は中学生くらいになって
いて、楽に担いでいくことができたが、クラスに入ってきた時の体だったら、とうてい無理だっただろう。

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「とりあえず、大したことじゃなさそうよ」
「そうですか…よかった」

保健室の先生は、軽く笑みを浮かべていた。俺達の前のベッドで、体操着を着て、薄い掛け布団を
掛けられた温は段々大きくなっていっている。胸の膨らみはムクムクと大きくなり、掛け布団を押し上げ
ていく。それに、足が伸びて、そのたびに掛け布団が動くもんだから、その度かけ直してやらなくちゃ
ならなかった。手に当たる胸の膨らみ…おっぱいの柔らかさに、気が狂うかと思ったよ。先生はいつの
間にかいなくなってるし。

ベッドの長さに身長が達する頃になって、ようやっと温は気がついた。

「あ…私、倒れちゃったの…」
「ああ、びっくりしたよ…」
「迷惑…かけちゃったわね…」
「一体どうしたんだ?」

するとまた温の体が大きくなって、ベッドがガシャンと揺れた。

「お、おい…!」
「信じられなかったの」
「な、なにが…」
「私の事、変身しても可愛いって…言ってくれた…」
「はぁ!?当然のことだろ?誰が寒川のこと可愛くないって…」
「黒木くんが…初めてだったんだよ…変身するようになってからは、だけど」
「マジで?」
「だから…」

俺には一瞬、何が起こったか分からなかった。俺はベッドの脇に立っていたはずなのに、なぜか目の
前に温の顔がある。胸板に、温のおっぱいが当たっている。だが、考えたら一瞬で分かった。温が俺
をベッドに引き倒したんだ。普通の女の子だったら、男子を引き倒すのには相当な力が必要だが、温
は違った。

「な、なにす…」
「あ、ごめん…でも…もしよかったら…」

温のおっぱいから伝わってくる感触が段々強くなる。感触だけじゃなく、俺の目にも、温の胸の膨らみ
が段々楕円に潰れていくのが見えた。多分、またこいつは体を大きくしている。顔が真っ赤になって
いる。

「私と…付き合って…くれる?」

温のおっぱいは俺を包み込むように大きくなっている。まるで、俺を逃がさないと言っているかのよう
に。当然、俺は迷った。会って一日目の温に、そんなに簡単に付き合い始めていいのか?お互いの
ことは、全然分かってないのに。だが、そんな迷いは、ごくちっぽけなものだった。

「ああ…俺で、良ければ」

俺の顔が熱くなっている。多分温もさっきから同じように感じているのだろう。顔を真っ赤にしたままの
温は、ニッコリと微笑んだ。どの女子にもそのような笑顔を向けられたことが無かった俺には、衝撃だった。

「ありがと、黒木くん」
「おい、恋人同士なんだろ?健(たける)でいい」
「じゃあ、私のことは温(のどか)って呼んでね、健くん」
「分かった。温」

俺達は互いの体を向きあわせたまま、10分とも1時間とも言えるような長い時間を過ごした。実際には
たったの1分程度だったようだが。

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そんなこんなで、俺達は付き合いだした。で、今俺は、温を待っている。あ、そうだ。もっとすごい話
もあってな!おっと、温が来たようだ。じゃあ、その話はまた今度な。

「健、待ったー!?」

冬の今は、温は小学生の体で駆けてくる。小さい体を元気に動かして。

「いや、全然」
「良かったー!心配してたんだ!健が寒い中で待ってて、怒っちゃうじゃないかって!」

温は体が小さいほど、性格が幼く、明るくなる。寒くて暗い冬に、大きな太陽のように俺を温めてくれる。
って、俺、何言ってんだろうな。

「いや、実は待ってた。そうだな、少し怒ってるかもな」
「本当!?」

温は心配そうに、俺を見上げてくる。

「う〜そ!」
「健の意地悪!」

温は少しむくれている。後で建物に入った時に、大きくなった温にいじられるかもしれないな。ああ、
大きくなると、温は賢くなる。俺なんかひとたまりもないさ。

「じゃあ、行こうか」
「あ、健、待って!」

今日も、楽しい一日になりそうだ。