環境呼応症候群 湿度の子

tefnen 作
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(はぁー、今日も乾燥注意報、嫌だなぁ…)

一人の少女が、模擬試験会場に向かって歩いていた。彼女の名は、水沢 潤美(みずさわ うるみ)。
今は小さい少女の姿だが、れっきとした高校生であった。彼女もまた、『メタモルフォーゼ症候群』を
患っている。その条件は、湿度だった。彼女の周りの空気が乾燥していれば小さく、湿っていれば
大きくなる。その黒髪だけが彼女の唯一変化しない部分だ。

(また、こんなに小さくなっちゃった。あの静電気みたいに体がピリッとなったとき以来、変になっちゃった
んだよね…)

潤美は、ブカブカな制服を見て嘆いた。今トコトコと早足で歩いているのも、あまり小さい体でいたくない
からだ。だが、建物に入る所になると、潤美は躊躇した。

(また、湿度急に変わっちゃう…)

建物の内外では、扉が開いているとしても、湿度は急に変わる。だが、立ち止まっているわけには
いかず、ゆっくりと建物に入る。

(あぅっ…きたっ…)

全身に軽い衝撃が走り、体がぴくぴくと震えている。

「ぐぎゅっ…」

思わずうめき声を上げると、手足が伸び、平らだった胸がボンッと前に飛び出した。

「ふぅっ…」

何度経験しても、変身時の衝撃にはあまり慣れられないようだ。そんな潤美に、後ろから声がかけ
られた。

「あ、あなた…もしかして」
(はわっ!見られてたっ!?)

潤美は、後ろにもう一人の少女が立っているのに初めて気づき、振り返った。少し上から目線で、
冷めた表情の少女だった。潤美は冷静を装って、言葉を返した。

「ん…ええ、そうよ。『メタモルフォーゼ症候群』」

その少女は、少し満足気な顔をして返事をしてきた。

「お気の毒に」
「(ちょっと、嫌な人。それ、聞く必要ある?)どうも」

少女を疎ましく思った潤美は、そのままきびすを返し、試験室に向かう。

(でも、仕方ない、のかな…こんなの、珍しいし…)

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その後、難なく試験を終え、部屋から出て、潤美は玄関に向かった。潤美は寒風吹きすさぶ建物の外
を眺めて思った。

(はぁ、また小さくなるのかぁ…)

だが、後ろからどたどた駆けてくる足音がした。潤美が立ち止まって振り返ると、試験開始前に会った
少女だ。なぜか、泣きそうな顔をしている。それに、ブレザーの胸の部分が異様に盛り上がり、ボタン
が左右から引っ張られている。

(あ…)

少女は潤みのことなど気にせずそのまま潤美の側を通り過ぎ、建物から飛び出していった。少女の
乳房は、遠ざかっていく間にもブレザーから飛び出し、後ろにいる潤美からも確実に見えるほど大きく
なっていった。

(あの子も、掛かったのかな…脈拍でも関係してるのかな?)

潤美も建物から出る。すると、また衝撃が襲い、服の中に体が埋もれていく。

(はぁ、この体で歩くの疲れるんだよなぁ…でも…)

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駅で電車を待つ潤美。

(電車の内外の差が、一番ヤバイんだよね…)

丁度夕方ラッシュ帯の電車の中は、人でいっぱいだ。その体から出る湿気は、相当なもので、カラカラ
な外気に反して、中は蒸す、という度合いが他の閉鎖空間の比ではない。
そして、電車が来た。

(ま、仕方ない…かな…)

電車のドアが開き、覚悟を決めて潤美は中に飛び込んだ。だが、それが早すぎて、後ろから来た受験
生が潤美を中に押し込んでいく。そんな潤美の体は、急に変化した湿度に反応した。

ドクンッ!

「くぅっ…!」

体に衝撃が走り、思わず声を出してしまう潤美。

(大きくなるなら、さっさとなってぇっ…!)

ドクンッ!

「きゃぅっ!」

次の衝撃で、手足がグッと伸び、ブカブカだった制服が伸ばされる。靴の中も足で満たされる。そして、
潤美の体は、他の客を押しのけて、伸びていく。潤美は、人混みの中で、前後左右を完全に挟まれて
しまった。胸には、男性客の背中が当たっている。

ドクンッ!

「あぁんっ!」

乳首と乳輪がビクンッと大きくなり、男性客に押し付けられる。男性客の方は、「え?」と不思議そう
な声を上げている。

ドクンッドクンッ!

「いやんっ!はぁんっ!」

衝撃がかかるごとに胸に脂肪が送り込まれ、大きくなった乳房が男性客の背中に押し付けられる。
男性客は何が起こっているかを理解しているのかしていないのか、黙りこくってしまっている。だが、
潤美も男性客も動くことが出来ず、男性客の表情を窺い見ることはできなかった。ただ、電車で立って
いたら、背中の方から喘ぎ声とともに柔らかいものを当てられ始めたその客に限らず、少女のうめきが
大人の女の喘ぎに変わっていくのを聞いている他の男性客全員が息が荒いようにも感じる。

「はぁっ…はぁっ…終わったぁ…はぅっ!」

潤美は変身の衝撃から抜け出せたことにつかの間の安堵を得たが、それは尻に感じる、揉まれるような
感触によって打ち消された。

(また…痴漢の人…なの…?)

潤美が変身すると、いつもこうだった。潤美は、自らの身を呪った。

(もう、いやだ、こんな体に、誰がしたのぉっ!)

そんな潤美を、金網の上から眺める一対の目があった。人間の目には見えない、大きな目が。