私の患者、用田 千秋(ようだ ちあき)は、メタモルフォーゼ症候群に羅患
している少女の一人だ。
用田さんは、明るさに応じて体型、というよりバストサイズが変化するよう
だ。このメタモルフォーゼ症候群の患者の約100人…といっても、報告されて
いないだけでもっといるかもしれないが、とにかく…100人の中では、唯一の
症例だ。
そして彼女は、この病気の解明に協力してくれる、数少ない患者の一人だった。
「先生、今日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします。用田さんのご協力に心から感謝いたします」
ふむ…なるほど、今も日本人女性としてはかなり大きな乳房をお持ちのよう
だ。病院の中は、明るい照明で照らされているから、こうなっているのだろう。
「では、CTスキャン室へ…」
「はい…」
今日の検証のために、CTスキャン室には特別な照明器具が設置されている。
光度が0カンデラから1000万カンデラまで無段階で調節可能な、携帯ライト
だ。1カンデラというのは、ろうそく1本分の明るさのことで、1000万カンデラ
ともなると、日本の一番明るい灯台の数倍の明るさになる。発熱量も大変な
ので、水冷式ラジエータを…いや、多分、そこまでは、やらないだろう。用田
さんには、看護婦に手伝わせ、裸になってもらい、スキャナーに寝転んでもら
った。私がCTスキャンの操作盤と、監視カメラのモニターが付いた別の部屋で
スキャンを開始すると、モニターに巨大な乳房が、いやその内部の乳腺が、
びっしりと写った。脂肪は皮膚や乳腺と比べてはっきりとは写らない。用田
さんには、乳房を自分の腕で抑えてもらっているので、少し不自然な形になっ
ている。
「(ここまでの大きさのものは、初めてだ…)」
いや、実際は乳房を集中的にスキャンするのが初めてなのだが。おっと、こう
している間にも放射線が用田さんの体に当たっている。早々に実験を終えなく
ては。
「光度、下げます」
『あ、はい、分かりました』
マイクを通して、用田さんに伝える。用田さんもマイクを通して、返事をして
きた。といっても、用田さんには目隠しをしてもらっているので、あまり明るさ
はわからないだろうが。
つまみを操作して、光度をゆっくり下げていくと、写っている乳腺が萎縮し、
乳房も縮小を始めた。
「(信じられない…本当に小さくなっていく…)」
その動きは、脈拍には関係なさそうだ。どちらかと言うと、私がつまみを動かし
ていくのに同期している。そして、0カンデラになった時、用田さんの大きな
乳房は、跡形もなく消え去っていた。乳腺はほぼ消滅し、母乳の生産機能は
完全に奪われていた。
「(すばらしいツルペタだ…)」
いや、本当になにもないのだ。用田さんの胸部は、何の凹凸もなく、スルッと
した美しい曲線を描いていた。
「では、再度光度を上げていきます」
『あの、先生?』
「何ですか?」
『どのあたりまで、大きくするんですか?』
「最大限まで大きくします」
仕方ない。これは何かの遊びではなく、症候群の検証なのだから。
『…はい…』
用田さんはあまり乗り気ではないようだが、これも仕方ないだろう。彼女に
したら、自分の体を弄ばれているようなものなのだから。
「では、始めますよ」
『はい』
私は、再びつまみを動かし始める。しかし、今度は反対方向に、光度を高める
方向に。すると、乳腺の急速な発達が確認できた。
『…あっ…』
用田さんも何かを感じているようで、時折喘ぎ声を上げる。つまみを動かし
続けると、乳房が段々盛り上がってくる。それは、小さな少女が思春期を超え
て大人になるような乳房の発達ではなく、乳腺と脂肪が均等に発達していく
ような感じだった。
私は、つまみを動かす速度を上げた。すると、それに呼応するように発達の
速度が上がり、2つの膨らみは用田さんの胴体の厚みに急速に近づいていっ
た。用田さんが乳房を抑えきれなくなっているのか、時折タプンタプンと揺れ
ている。私の中で、この検証の目的が、症候群の解明より、この乳房がどこ
まで大きくなるのか見てみたいという個人的な欲求に変わっていく。
『先生…そろそろ…』
「いや、ダメです」
私はつまみを動かすスピードを更に上げた。
『ひゃぅっ…』
用田さんの淫らな喘ぎ声が、私の欲求を更に高めていった。モニターに映る
乳房も、その一つ一つの断面積が凄まじい速度で拡大し、胴体のそれを超える。
『先生…やめ…てぇ…』
「この病の検証に携わるとおっしゃったのは、用田さんです、もう少しで終わり
ですから、耐えてください」
もちろん、もう少しで終わりにする気は、更々なかった。低解像度の監視カメラ
映像に映る、巨大な球体と、CTスキャンに映る巨大な円を、交互に見ながら、
興奮した私はつまみをもっと速く動かした。今は、1万カンデラといったところ
か。まだまだじゃないか。
『あっ…あぅっ…』
ここで、乳房の拡大の仕方が、私のつまみを動かす速度だけでなく、脈拍にも
依存し始めた。乳腺がまるで血管のように脈打ちながら発達し、乳房を押し
広げていく。乳房は横に潰れ、もはや円形を保っていない。CTスキャナーの
壁にも当たり始めて、一番横が、壁の形にゆがんでいる。
『せんせ…きつ…やめ…』
私は、患者の懇願を無視し、つまみを動かし続けた。2つの乳房はCTスキャナー
の壁だけでなく、互いに押しつぶされ、歪な形になっている。乳腺の密度から
見て、かなり圧迫されている。
『おねがい…』
「(いいぞ、もっと喘げ、私の欲求を満たし、科学の発展に貢献するのだ)」
私の理性が崩れ始めた。もう当初の目的など覚えていない。私は、つまみを
暴力的に、できるだけ速く回す。CTスキャンは、胴体と、2つの乳腺がつまっ
た領域で埋め尽くされている。そのとき、
《バチッ》
「な、なんだ…つまみが壊れた…?」
しまった。これでは、光度の調節が出来ない。だが、乳腺の発達は止まるどころ
か、加速度的に速くなっていく。光度は上がり続けている。これでも、まだ
10万カンデラか。どうなるんだ、この女の乳房は…
『あっ…せんせ…ひゃっ…ひどい…』
「どうやら、機械の故障があったようです。すぐに対応しますから」
「(よし、何とか理性を保てた…)」
すると、CTスキャンの画像が歪み始め、エラーが発生して、消えてしまった。
「(しまった…こうなったら…)」
緊急用に用意していた遮光メガネを掛け、スキャン室に飛び込んだ。そこに
は、CTスキャナーに挟まれ、ひょうたん上に膨らんだ乳房の下半分が見えた。
それにしても、すごい光だ…しかも、さらに強くなっていく。
すでにバランスボール並みの大きさの肌色の球体が、ドクン、ドクン、と波打ち、
スキャナーを歪ませながら、大きくなっている。
「(素晴らしい…ただの乳腺と脂肪の塊が、ここまでの美しさを形作れる
とは…)」
《ベキッ…バキッ》
スキャナーがついに乳房からの圧迫に耐えられなくなり、破壊された。解放
された乳房は中に液体が入っているかのようにタプンタプンと揺れ、乳腺の
発達により巨大化した乳首がその位置を上下に振動させている。私の血圧が
上がっているのか、鼻から出血してしまった。ペニスも硬化し、精巣では精子
が生産される。もう、理性を保つことだけに必死になっている私がいた。
すると、一回、乳房全体がドクンッ!と振動した。そのせいで、部屋全体が
揺れたような気がした。
「(な、なんだ…?)」
答えは、すぐに私の目に飛び込んできた。それまで発達のスピードは線形的に
上がっていたが、それが指数的になった。ようするに、それまでも物凄かった
スピードが更に輪をかけて、大きくなっていった。
《ドクンッドクンッ》
脈動が私の体でも感じられるほど大きくなり、乳房の大きさはあっという間に
部屋の高さに達し、部屋を埋め尽くし始めた。もう、それは乳房というより、
脂肪の海だった。その海が、私に迫ってきていた。生存本能で、私は一瞬逃げ
ようとした。が、性的本能がそれを許さなかった。私は、逆にそれに飛び込ん
でいった。
「おっぱい最高!メタモルフォーゼ症候群バンザイ!」
ああ、私は何を叫んでいるんだ。だが、そんなことはどうでもいい。私は、
この柔らかいマシュマロのような海に、いつまでも包まれていたかった。そして、
その望みを満たすように、私の体は包み込まれていった。
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結局、乳房が照明を壊し、その瞬間に乳房はペッタンコに戻った。用田さん
は、私を訴えるつもりらしい。その前に私は懲戒免職処分を受けて、病院
から、いや医学界から追放された。私は、反省はしているが後悔はしてい
ない。他の人が到底味わえない感触を、体感することが出来たのだから。それ
に、CTスキャン映像の記録は、絶対に役に立つはずだ。私の後継が、いい仕事
をしてくれることを祈る。