環境呼応症候群 気圧の子

tefnen 作
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「はぅ〜…また大きくなってるよぉ…」

高校生の少女は眼下に広がる、膨れ上がって今にも弾けそうなパジャマを見て、
悲嘆にくれていた。襟からは肌色の谷間がその姿を覗かせている。
彼女、熱田 月亜(あつた つきあ)は、その朝の天気予報の大気圧で、体型
が変化するメタモルフォーゼ症候群の羅患者だった。

「今日も、晴れなのかぁ…」

窓の外には、青空が広がっている。月亜は今起きたばかりで、掛け布団が信じ
られないほど大きくなっているのを見て、上体だけ起こして、胸を確認してい
るのだった。その乳房は、布団にくるまった下半身にタポンッとくっつくほど
大きかった。

「仕方ない、か…」

月亜が布団を全部のけて、起き上がった。パジャマの下半分も、むっちりと
した足と臀部に引っ張られ、パンパンになっている。それをチラッと見てため
息を付きながら、月亜は制服に着替え始めた。月亜の日によって変わる体型に
合わせて、サイズが違う数着が揃えられている。今日は、その中でも特大を
選ぶ月亜。だが、それでも多少乳房を抑えこまないと、ボタンを留めることが
出来なかった。

「一体、今日は何ヘクトパスカルなんだろう…」

鏡にうつる自分に、これまでに無い存在感を醸し出している胸の膨らみが付い
ている。

「はぁ…」

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そんな月亜は、学校でも話題になっていた。顔はそれほどでもないが、晴れの
日にはいつもその肉感的な体を動かし、胸を揺らし、太くてすべすべした絶対
領域をさらけ出して歩くのだ。

「おはよー」

教室に入ると早速、クラスメートの千春が喋りかけてくる。小柄で、元気の
良さそうな少女だ。月亜にも友達はいるが、それは症候群が発症する前からの
友達だ。発症した後は近寄りがたいのか、皆が皆月亜のことを注目するだけ
で、話しかけてこようとしなかった。

「おはよ…」
「お、今日もこんなおっきいおっぱい付けてきちゃって…それっ!」

千春は、月亜に後ろから飛び込んで、その胸を揉む。

「ひゃぁっ!やめ…てぇっ!」
「月亜、そんなエロい声出せるんだー」
「千春が…悪いん…でしょっ!」

月亜はやっと振り切った。

「ほんっと、初めて会った時は私よりちっさいおっぱいの子もいるんだって
思ったのに、ずるいよ、一人だけ大きくなっちゃって!」
「私だって、好きで大きくなったわけじゃないよ!それに、台風の時は元の体
に戻るし」
「台風の時は会わないじゃん!普通の雨の日もデカぱい見せつけてくれちゃっ
てさー…晴れの日はもう、あれだよ、爆乳だよ。今日は、超乳?」
「よくわからないこと言わないでよ。どっちにしたって、私は大変なんだから」
「もっと大変な人もいるんだよ?調べてみたら、その場の温度で身体全体が
大きくなったり小さくなったりする人もいるんだって。それに比べたら、月亜
は楽だよ。一日一回だけ、むちむちの度合いが変わるだけなんだから」
「それでも、台風の日に小さいパジャマ着て寝たら、思ったより台風が速く
行っちゃったせいでパジャマがダメになっちゃった時だってあるんだから」
「もう、うるさーい!」

千春がまた月亜の胸を揉みにかかる。

「ひゃぅっ!」
「こんなに大きなおっぱいは、ああして、こうして、こうしてやる!
そりゃっ!」
「やめてぇ…おっぱいムニュムニュしないでぇっ!」

今度は大人しく千春が揉むのをやめた。

「もう…ああ、私もメタモルフォーゼ症候群にかかったりしないかなー」
「はぁ…おっぱい大きくなったって、良いこと無いよ?」

そんな二人を、何かがじーっと見ていた。だがそれは透明で、誰にも見ること
は出来ない。

『ニシシ…だったら、かからせてやるよ、カワイコちゃんっ!』