千春は、一時間目の英語の授業を、ぼーっと受けていた。隣の席にいる月亜
は、大きすぎる乳房に四苦八苦しながら、ノートをとっている。それを見て、
千春はため息をつく。
「ほんと、私を置いて大きくなっちゃうなんて…」
そして、自分のペタンとした胸を見下ろす。何も遮るものがなく、制服のボタン
が全てくっきり見える。手で撫で下ろしても、抵抗なくストンと落ちていく。
「はぁ…」
《ピリッ!》
「ひっ…!?」
突如体に電撃のようなものが走り、声を上げてしまう千春。周りのクラスメート
は気づいていないようだった。
「なんだったんだろう…今の」
再度、自分の体を見下ろすと…
「ん?なんか、おかしいような…胸、膨らんでる?」
先程は平面だった胸に、すこしだけ凸面ができていた。
「…な、わけないよね…服が歪んだだけだよね…」
パンティも少しきつくなっている気がしたが、千春は気にせず授業を受け続けた。
授業が終わる頃には、下着からの違和感は無くなっていた。
「千春ー、なんか授業中、ぴくってしなかった〜?」
授業が終わると、月亜がそのほんわかした声で聞いてきた。
「え?あ…いや、別に…」
「本当に大丈夫?声も上げてたし…」
「ちょっと、体がピリッってなっただけだよ!だいじょぶだいじょぶ!」
だが、それを聞いて、すこし顔を青ざめる月亜の顔。
「ど、どしたの?月亜?」
「あのね?私が大きくなり始めた時も、なんか電気みたいのが、私の体を通って
行ったの」
「だ、だから?」
「千春も、私みたいになっちゃったんじゃないかって…いや、多分違うよね…」
「…あ…あっはは!それだったら、私の胸が大きくなるってことじゃない!
…私はそうなってくれたほうが、嬉しいよ!」
「そう?それならいいんだけど…」
しかし、千春の内心では、不安が渦巻き始めた。英語の授業中に、自分の胸に
少し膨らみができたことを思い出し、千春の頭はそれでいっぱいになった。
「千春ちゃん、そろそろ着替えないと…次、体育の授業だよ」
「あ、そ、そうだね…体育ね…」
千春は何とかジャージに着替え、ふらふらと校庭に出ていった。そして、体育
座りした他のクラスメートに加わって、自分も地面に座った。千春としては、
メタモルフォーゼ症候群の傍観者でいたかった。たとえ、自分のバストカップ
が上がるとしても、予測の出来ない成長は、したくなかったのだ。
「(どうしよう、どうしよう、私の胸が月亜みたいに大きくなったら…)」
今の小柄な千春には、バランスが悪い、変な目で見られるに間違いない、千春
は、それしか考えられなくなって、周りが全く見えていなかった。
《パァンッ!!!》
「きゃああっ!」
突如空砲の音がして、思わず立ち上がり、大きな悲鳴を上げてしまう千春。
あまりの驚愕に頭が真っ白になり、心臓がバクバクし、止まらない。
「千春ちゃんっ!?どうしたの?…あ…」
月亜が千春に聞きかけるが、何かに度肝を抜かれたのように言葉を失う。
「おい、お前!空砲のデモンストレーションをするといったのに、聞いて…
お…おい…」
体育教諭も同じように叱咤を途中で止めてしまった。至高が停止していた千春
は、最初その原因が自分にあると気づかなかった。
《ポンッポンッ》
「…へ…?」
千春が、自分の足を叩く何かに気がついて、そちらを向くと、体育座りした
クラスメート全員のなかでひと際目立つ、乳房でいっぱいになっているジャージ
を着た月亜が、あわあわしながら、千春に何かを気づかせようとしていた。
「どうしたの…月亜?あれ…なんかみんな背が低いような…」
「じゃなくて、千春ちゃんが高いんだよ…おっぱいも、大きくなってるよ…?」
「え…?」
千春が下を見ると、その視界はすぐに、限界まで膨らんだSサイズのジャージ
に阻まれた。
「え…?」
千春が体をひねって、自分の体の後ろを見ると、今までのくびれのない幼児体型
のボディとはかけ離れた、力を入れれば折れそうな胴体がジャージから
はみ出し、外気にさらけ出され、ズボンはそのプリッとしたヒップのラインを
強調するように、ピチッと千春にくっついていた。
「え…え、えええええっ!?」
千春はまた驚愕の叫び声を上げた。すると、千春の目線が更に上がり、ただで
さえ高校生のレベルを超えて大きくなっていた乳房が再度膨らんだ。そのせい
でジャージが吹き飛び、月亜並みのサイズまで成長した2つの豊かな果実が、
ボインッと公衆の前にさらされた。ズボンの方は、股の縫い目が裂けつつも、
何とか持ちこたえたが、それはまるでキツ目のスパッツだった。
千春は狼狽えつつも、何とか思考を働かせた。
「…っ…もしかしてこれって、驚いたら大きくなるの…?」
「そう、みたいだね…千春ちゃん…」
月亜が驚いたような、しかし、微妙に嬉しそうな顔で言った。同じ症候群の
仲間が増えて、安心したといったところだろう。
「お、おい…お前…いいから、服を着ろ…」
体育教諭は、千春のあられもない姿をなるべく見ないように、下を向きながら、
注意した。それを見て、千春はイタズラを思いついた。そして、気付かれない
ように近寄っていく。
「ね、センセ…」
「な、なんだ…?うわっ!」
驚くのも無理は無い。教諭が前を向こうとした先には、大きな2つの膨らみと
ピンクの突起が迫っていたのだ。千春もその大声に少しびっくりしたのか、
ズボンは更に少し裂け、乳房は一回り大きくなって、教諭の顔にタプンッと
くっついた。その瞬間、後ろ手に持っていた携帯電話を、乳房の前に回りこま
せ、教諭の顔が乳房にくっついている写真を、パシャッと撮った。
「あーセクハラだーっ!」
「な、何っ!?」
教諭に謂れのない罪を着せ、千春は叫んだ。
「ね、バラされたくなかったら、私の頼みを聞いてくれる?」
「…ぐ…言ってみろ…」
「私の体育の成績、満点にしてよ」
「…な、そんなことが出来るはずが!」
「あれ?いいのかなー?」
携帯電話の写真を見せつける。
「…し…仕方ない…」
「あはは、ありがとっ!…あ、あれ…?」
千春の乳房が、風船の空気が抜けるようにシューッっと縮んでいく。
「わ、私の体がぁ…」
背丈も元に戻り、ズボンをギュッと押し上げていたヒップも、幻のように消え
ていく。
「ひどいよぉ…あっ!」
千春の手に握られていた携帯電話が、もぎ取られた。その時の驚きで少し成長
したが、携帯電話の奪取を抑えるには至らなかった。
「ふふふ…これで…こうだ!」
携帯電話を奪い取った体育教諭に、写真は削除された。
「さて…よくも先生を馬鹿にしてくれたな…」
「ひっ…」
教諭の顔が鬼の形相を呈していた。
「罰として、昼食の時間が終わるまでずっと校庭を走るんだ!いいな…?」
「は、はいぃっ!」
千春は、携帯電話を教諭の手に残したまま、逃げるように走り始めた。
「千春ちゃん、調子に乗るから…」
そんな千春を、憐れむような目で眺めていた月亜だった。