混沌の中の混沌

tefnen 作
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朝を迎え、とりあえず元に戻ることが出来た二人だった…はずだが…

「(胸、小さく出来ない…)」

元々はほとんど存在していなかった佳奈の乳房は膨らんだままだった。それ
は、胸囲が想像した姿の2倍にしかできなかったためだった。元の身長の2分の
1の自分は想像できる。だが、いくら胸を小さくしたとしても、胸囲を胴囲
以上に小さく出来ないのだ。

「すー…すー…」

それを嘆く佳奈の隣で、一晩中ずっと6mの巨体のままだった映子は、今はすや
すやと寝ていた。

「先輩…」

その時だった。

《ピンポーン》

「だ、誰…?」

ほとんど部屋の形を成していない、屋根が破壊され開放された空間に、呼び鈴
が鳴った。佳奈は恐る恐るドアに近づいた。

《ドンドンッ!》

「ひっ!」

だが、佳奈が呼び鈴にこたえる前に、ドアが外側から叩かれた。

「この家にお住まいの方、警察です!お聞きしたいことがあるのですが!」
「え、けい…さつ…?」

頭の回転の早い佳奈は、こうなる可能性は巨大化した時から予測していた。
突如として現れた巨人、つまり巨大化した映子を目撃した誰かが、警察に通報
する。そして、警察は半信半疑ながらも二人の家まで来て事情聴取をする。
ここまでは、普段なら大丈夫だが、ドアを通して、破壊された家の内部を見られ
れば、連行される可能性もある。佳奈は、身を隠すことにした。

「先輩っ!起きて!」
「ふぁ…何…?あ〜おはよう〜佳奈ちゃん〜…」

佳奈が体を揺らすと、映子は起きた。しかし、かなり寝ぼけている。

「いいから、押入れに隠れて!」
「あ〜押入れね〜私隠れるの好き〜」

映子はのそのそとクローゼットに入った。佳奈も一緒に入る。体が小さいおかげ
で、そのムニュムニュと潰れる佳奈の乳房を除いて、かなり余裕があった。

《ドンドンドンッ!》
「いないんですかー!?参ったな、留守なのか?奥さん、本当に巨人が…?」
「なんですって?私を疑おうっていうの!?この目ではっきりと見たんだから!ほら、隠れてないで出てきなさいよ!」
《ドンドンドンッ!》

警官の他に、近所の住人までいるようだ。玄関扉が、立て続けに叩かれる。

「佳奈ちゃんっ!怖いよっ!」
「大丈夫だから…」

そのドアの音に目が覚め、ガクガク震え始める映子。ドアの外では、警官と
住人が話し合いを始めた。

「奥さん…巨人が現れたなら、今は一体どこにいるんですか…」
「そんなの、関係ないでしょ!私の家の近くに、あんな危険なものがいて
たまるもんですか!」
《ドンドンドンッ!》

またドアが叩かれる。

「止めてください!言いにくいですが、奥さんの証言には矛盾が多すぎるん
です!例えば、外壁が破壊されていたとか!外から見ても、何も壊れてません
でしたよ!」

実際のところは、屋根だけが壊されて、雨戸が閉まっている家の側面から見て
も、何も破壊された跡は見えないだけだった。ヘリコプターでも通れば、すぐ
にバレてしまうだろう。

「それは…そうだけど…」
「とりあえず、今日のところは虚偽通報にはしませんから。私は、ここで撤収
します」
「わ、分かったわ…けど、胡散臭いのよね…」
「奥さん!いい加減にしてください!」
「…すみませんでした」
「いいえ。それでは、平和な一日を」
「…はい」

そうして、二人は去っていったようだった。だが、佳奈は、早急にこの家を
出て行く必要を感じた。クローゼットから出ると、佳奈は映子に告げた。

「先輩、このままだと、私達、逮捕される」
「え?どうして?私達、何も悪いことしてないよ?」
「それは、問題じゃない」

人間は、訳のわからないものは排除したがる。逮捕されたあとに映子が巨人に
なるようなことがあれば、即刻射殺さえるかもしれない。しかも、小さい子供
の尋問には婦警があてがわれることが多い。映子をほんの少しでも触られたり
したら、全て終わりだ。それに、前回佳奈達が巨人化した時、すんでの所で
二人を救ったフリードリヒは、今や「悪魔」となっていた。二人が死ぬと
わかっても何もしないだろう。

「今すぐ、荷物をまとめて、絵美にかくまってもらう」
「絵美ちゃんに…?」

絵美もかなりのスタイルの持ち主で、映子が触れれば確実に巨大化する。だが、
同時にそれなりの財力を持ち、家の敷地が広い。たとえ映子が巨大化しても、
隠しきれるはずだ。

「そう。急いで」
「う、うん。分かったっ!」

二人は一番大きなカバンを取り出し、数日分の衣服や、貴重品を詰め込んだ。
そして、伸縮性のいい服を着て、家を出た。

---

そこからは、悪夢の連続だった。体の小さい映子は、触れると変身してしまう
対象が多すぎたのだった。

「先輩、危ないっ!」
「へ?うわぁっ!」

少しでも体が大きめの中学生や、高校生がいれば、佳奈が身を挺して守る必要
があった。佳奈は、映子を守るという緊張感から、その対象がどんなに小さな
女の子であれ、ものすごい形相で睨みつけてしまった。

「え…?そんなに、睨まないで…怖い…」
「あ、ごめんなさい…」

その対象に怯えられるごとに、佳奈のなかで罪悪感が積み重なっていったが、
どうすることもできなかった。

だが、次第にその日のうだるような暑さのせいで、佳奈の集中力が抜けてきて
しまった。それどころか、水分不足でふらふらし始めた。

「佳奈ちゃん、大丈夫?」
「大…丈夫、だから…でも、ちょっと水、飲ませて」
「分かった」

佳奈は、目の前にあった自販機に、財布を取り出しつつ近づいていった。

「はぁ…喉、乾いた…」

そして、自販機に置かれているミネラルウォーターのボトルにしか、目が行か
なくなった。

《チャリン!》
「水…」

ボタンをめがけて、指を伸ばし、

《ポチッ》《ゴトン》

取り出し口に落ちてきたボトルを無我夢中で取り出し、開けた。ごくごくっと
水を飲むと、生気が戻ってきたような気がした。

「はぁ…先輩も、飲む…?」
「うんっ!」

佳奈は、持っていたボトルを渡そうとした。だが、その手の先にあった映子の
体が、何かにぶつかるように動いた。

《ボンッ!》
「いたぃっ!」

通りかかった女子高生のカバンが、映子の頭にあたってしまったのだ。

「あっ!ごめんね!大丈夫?痛くない?」

心配した女子高生が、映子の頭を、なでた。佳奈にはとても自然な流れのよう
に見えて、それが意味することに気づいた時には、もう遅かった。

「はっ!せんぱ…」
「あああああっ!」

映子が、悲鳴を上げた。

「え、どうしたの!?そんなに、痛かったの!?」

その悲鳴に、女子高生は戸惑う。

「ひああああっ!」

そんなことはお構いなしに、悲鳴を上げ続ける映子。その輪郭が、ムクッと
大きくなった。

「え…?」
《ピンッ!》
「いたい!いたいよぉおおっ!」

映子の胸の部分から、2つの突起が、飛び出してきた。

《ムクッムクッ…》
「いやああっ!」

そして、胸全体が持ち上がり始める。

「どうなって!え?」
《ググッ!ググッ!》
「やだああっ!」

映子が、女子高生の身長を通り過ぎる。

《ビリビリーッ!》
「んっ!」

服が破け始めて、肌が露出していく。それはまるで、人間の殻を破って真の姿
を表す怪物のようだった。

「ひっ!」

女子高生は腰を抜かして、地面に崩れ落ちてしまう。佳奈はというと、絶望で
ただただ立ち尽くし、何も口にすることが出来ない。

《ブルンッ!》
「ぅぅぅううっ!」

大きくなり続けていた乳房が、服の中から飛び出し、振動しながら、さらに
膨らむ。身長は隣にあった家庭用ガレージの屋根を超えている。

「きゃああああっ!」
《ドーンッ!》

足に痛みが走ったのか、それまで立っていた映子が、女子高生の体をかすめて
膝から崩れる。そして、アスファルトに亀裂が走るほどの衝撃が地面に加わった。

「いやあああっ!」
《ボンッ!》

すでに赤ん坊が二人も入りそうなほど成長した乳房が爆発的に膨張して、
コンクリート塀を、ぶち壊してしまった。そして、変身は終わったが…

「はぅ…アハッ…」

映子の脳から快楽の媚薬が流れ始めた。

「アハハハハッ!」
「え…き、き、きょ…巨人だぁあああっ!」

映子の不気味な笑い声がきっかけとなったのか、腰を抜かしていた女子高生
が、身を守ろうとする本能から立ち上がった。そして、そのまま走り去って
いこうとする。だが、

「待ってぇ!」
《ガシッ!》
「きゃぅっ!」

映子が、何を思ったのか、女子高生を両手で掴んでしまった。

「先輩っ!?」

我に返った佳奈が、叫んだ。だが、映子はその声に気づかない。

「アハハッ!お人形さん、何して遊ぶ…?アハッ!」

そして、錯乱し、女子高生を何かのおもちゃと勘違いしていた。

「いや、放してぇっ!」
「だめだよ…?アハハハッ!」
「先輩!やめて!そんなことしたら、その人死んじゃう!」
「人…?アハハッ!佳奈ちゃん、何言ってるの…?」

映子はそう言いつつ、女子高生を自分の大きな乳房の間に差し込んだ。その
乳房を、自分の手で揉み始めた。女子高生の体を挟んだ乳房が、縦に横にと
形を変える。

「これは…私の、おもちゃ…あ…」
「先輩?」

映子の顔が、青ざめた。手の動きが止まる。

「私、何して…何で、この人、挟んで…あっ!」

映子は、少しかがんで、乳房を横に引っ張り、女子高生の体をするすると滑り
落とさせた。

「き、きもち…あぅ…!」

その滑らせるときの快感で、喘ぎ声を上げてしまったが、女子高生は、その下
の地面に、衝撃なく立った。

「だ、大丈夫?お姉さんっ!」
「だい…じょう…ぶ…」

とぎれとぎれに、女子高生は言葉を紡いだ。

「な…わけ…が…」

そして、バタンッとその場で倒れてしまった。

「うわあっ!え…死んじゃった…?うわああっ!」
「先輩っ!?」

映子は、泣きながら走り去ってしまった。

---

「追いかけないと!」
《ガシッ!》
「えっ!?」

走りだそうとした佳奈の足首を、女子高生が掴んでいた。

「いや、放して…」
「私を、こんな目に合わせて…ただで済むと…」
《グイッ!》

そして、大きな勢いで横に引っ張られた。

「思うなよっ!」
「きゃっ!」

バランスを崩して倒れる佳奈。受け身を取って、頭の強打だけは免れた。しかし、
仰向けになった直後に女子高生に覆いかぶさられ、逃げることが出来なくなった。

「あんな巨人の仲間…私が、退治…してやる…」

首を両手でグッと掴まれ、気管を抑えられる。

「ちょっと…まって…」
「うるさいっ!」
「くび…しめない…で…」
「死ねぇっ!」

女子高生も錯乱状態に陥っているようだった。ただ、それは映子と違って恐怖
によるものだ。佳奈から見えるその顔に浮かぶのは、常人の表情ではない。

「(本当に…死んじゃう…こうなったら…っ…!)」
《ムクッ》

佳奈のすでに一人前に大きい胸が膨らむ。佳奈の切り札は、その呪いだった。

「胸なんて膨らませても、意味ないわよっ!」
「(間に合って…お願いっ!)」
《ボンッ!ボインッ!》

その膨らみ方が、一層激しくなり、女子高生の体にくっついたと思うと、それ
を押し上げ始めた。

「な…」
「(もう…意識が…)」
《ムクムクムクムクッッッ!》

膨らむスピードはさらに加速し、バランスボールほどになったそれは、女子高生
の体を完全に支える形になる。

「手が…痛いっ!」

今や、女子高生の手は、押し上げられる体と佳奈の首をつなぐ細い紐のように、
引きちぎられそうになっていた。

「いやああっ!」
《ボーンッ!》

たまらず女子高生が手を離すと、乳房に溜められた弾性エネルギーによって、
女子高生は、飛んでいってしまった。

「かはぁっ…ゲホッ!ゲホッ!」

佳奈はやっと息をすることが出来た。自身の体と同じくらいの体積と重さの乳房に抑えられて、まだ息苦しい状況ではあったが。

「なんとか…なった…はぁ…」

シュルシュルと乳房は元の形に戻った。

「ごめんなさいね…」

佳奈は、遠くのほうで、頭を打ったのか倒れている女子高生に向かって謝罪
すると、映子を探すために、身長を大きくして走り始めた。