混沌の中の混沌

tefnen 作
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佳奈は6m位まで体を大きくして、周りを探した。仮にも人を襲ってしまった
ために、もう隠す必要がなかった。

「先輩…どこ…?」

すると、すぐに映子は見つかった。そこに行くまでに見つからないためにも、
佳奈は再度体を元に戻し、足だけを強くして、走った。その体は、どんな陸上
選手よりも速く動いた。

「先輩…待って…」

佳奈は、1分もしないうちに映子のもとに辿り着いた。

「先輩っ!」
「佳奈ちゃん…ダメッ!ついてこないで!」

映子は逃げようとする。佳奈は瞬時に追いついて、止めようとした。

「先輩っ!逃げても、何も解決しない!」
「解決って!私、無意識のうちにあんな酷いことしたんだよ!もうどうしよう
もないよ!」
「それは、呪いのせい!だから、それが解ければ!」
「解けたら私、消えちゃうんでしょ!」
「それは…え…なに…これ…」

佳奈は、目の前の道が、肌色の何かで塞がれているのに気づいた。

「もしかして…おっぱい…?」
「まさか…」

二人とも、その手前で、立ち尽くしてしまった。

「先輩、触っちゃダメ…」
「わかってる…」

しかし、これが何かを理解しようとしている二人の前で、その膨らみは、光を
発し始めた。

「な、なに…!?」
「分からないっ!」

あまりの眩しさに、手を目にかざす二人。その光が収まると、膨らみは消えて
いた。

「なんだったの…」
「…」

呆然とする二人の前に、一人の女性が姿を現した。膨れきった猫の絵が書かれ
た服を着た、ウェーブが掛かった長髪のブロンド。それにオッドアイを持つ、
妖しい女性だった。二人を見て、驚いたようだ。

「うわぁっ!お…あ、あなたたち…今の、見てた…?」

コクコクと頷く二人。

「それに…うっ…あなた…大き…すぎぃっ!」
「ひゃっ!」

急に、女性の声が大きくなる。映子が驚いて、一歩後ろに下がった。そして、
女性の全身から何かがうごめくような、妙な音が聞こえ始めた。

「そうだ…お前…うぐっ!…見覚え…がぁっ!」

手足がベキベキと音を立てながら伸び、身長が伸びる。

「なんなの、アナタ…」
「俺…ぐぅっ!…だよぉっ…」

すでにすさまじい大きさの乳房が、液体を入れられるようにフルフルと膨れ、
耐え切れなくなった服が、破け始めた。

「その…オッドアイ…まさか、あの魔術師の相方の…」
「お…お前は…グワッ!…あの小僧と違ってぇっ!」

身長と乳房の大きさが映子と同じになったが、足の太さだけが、まだ細かった。

「鋭いっ!…なあっ!」

左足がブクッと膨れ、右足が続いた。そして、妙な音は鳴りを潜めた。

「はぁ…終わった…」
「小僧って…拓也のこと…?カッツェ…」
「そうさ」
「何をしたの!?何をっ!?」

佳奈がすごむが、体がかなり小さく、あまり効果はなかったようだった。

「おいおい、落ち着けよ。俺は、アイツの呪いを解いてやっただけだ。あの
悪魔の手下に対向する手段として、な」
「嘘だっ!」
「おい、俺だって人間だぞ?悪魔になんか支配されたかねぇ…なんなら、お前
の呪いも解いてやろうか?」
「え?」
「いや、お前の場合、解かないほうがいいか。なんなら、そっちの映子…
いや、英一の呪いならどうだ」
「…」
「おいおいどうしたってんだ。愛しの人なんだろ?」
「それは…」

佳奈は、映子の方を振り返る。映子は、怖がった顔を佳奈に向け、小刻みに
震えている。

「必要、ない」
「は?どうして!あんなに恋人になりたがってたのに!?」
「英一先輩がいないのは寂しいけれど、その分映子先輩が、私のそばに居て
くれるから。それに、映子先輩は呪いを解いたら、消滅してしまう。私には、
それは出来ない」
「英一はどうするんだ。呪いを解かなければ、そっちが消滅するんだぞ」
「…英一先輩なら、映子を守るために、自分を犠牲にする、と思う…そういう
人だから、私は好きだったの」
「けっ!じゃあどうすんだ?そのままでいいってか!」
「そうね…できれば、ユリシアにされたこと、打ち消してほしい…それに、
痛みも、快楽も、なくして欲しい」
「前者は大丈夫だ。後者はムリだ」
「なんで…」
「痛みと快楽は、元の呪いの一部だ。それを消すとなれば、呪い全部を消す
ことになる。つまり…」
「つまり、映子先輩は、いなくなるってことね」
「そうだ」
「じゃあ、ユリシアの分だけ、取り除いて」
「待てよ。呪いを解くのはお前の体じゃないんだ。そっちの嬢ちゃんの話も
聞かないとな」

カッツェは、映子の方に向き直った。

「どうなんだ?」
「私…私は…」

映子は、佳奈とカッツェを交互に見る。

「私は…佳奈ちゃんが言うなら、いいよ」
「おい、自分の意志で決めなよ」
「…っ!…私…最初は、怖い由里ちゃんの呪い、嬉しかったの。誰よりも
大きくなれて…気持ちよくって…でも…」
「先輩…」
「やっぱりダメ。私、このままじゃおかしくなっちゃう。いつか、人を殺し
ちゃう…かもしれない…」
「殺す?なにがあったってんだ」

カッツェが怪訝そうな顔をする。

「ごめんなさい。だけど、それは言いたくない」
「そうか」
「とにかく…佳奈ちゃんが、言ったとおりにして…お願い」
「そっか、じゃあその通り、やってやろう。手のひらを見せてみな」

映子が言われたとおりに、呪いの刻印がされた手のひらを、カッツェに見せ
る。カッツェは、それを勘定するように、じっくりと見つめる。

「おおー!こりゃすげえな…由里の嬢ちゃんの魔力あってこそのゴリ押しって
か…だが、お安いご用…あ…しまった…」

カッツェが、やれやれと言った表情になる。そして、どこからともなく、光り
輝く万年筆のようなものが現れた。

「どうしたの?」
「いや、解呪に必要なペンが、今の体の大きさじゃ持てねえんだ…」
「えっ!?」

カッツェも映子と同じ3m超の身長になり、普通の人間の大きさに合わせて作
られた道具を、大きくなった手ではつかむことすらままならなかった。

「私じゃ、出来ない?」

佳奈が申し出る。

「カナが?うーむ…失敗する可能性もあるぞ?そしたら、どこかの神話に出て
くるような肉塊みたいになりかねん」
「だけど、今先輩の体型を直さないと、私達、どうなるか分からない…」
「ふむ…」

どこかで、パトカーのサイレンが鳴り響いている。

「一か八か、やってみるか?」
「…私は…佳奈ちゃんを、信じる…」
「先輩…カッツェ、やり方、教えて」
「分かった。責任は取らないからな」

---

「…てな感じに、ここを消せばいいんだ」
「え!ここだけ?」

カッツェは、ペンの使い方と、修正箇所を佳奈に伝えた。だが、その「修正
箇所」は、たったの一つだけ。呪いの紋章の中にある、一つの点を消すことだ
った。

「簡単だと思うだろ?実はそうじゃない。呪いが反抗するせいで、解除する
ときにはものすごく歪んだ形に見えるんだ。だが、それに惑わされずに、
正しい点を指し示せば、解呪は完了だ」
「…」
「やっぱり、一日待って、エキスパートの俺に任せるか?」
「いや、やる」
「そう…か」
「先輩、来て」

佳奈は、説明している間、地面に座り込んでいた映子を呼んだ。

「うん」

映子は立ち上がって、そのまま手を佳奈に差し出した。

「お願いね、佳奈ちゃん」
「信じて」
「うん」

佳奈は、慎重にペンを近づけた。カッツェの言ったとおり、これまで何もな
かった紋章の形が、ぐにゃぐにゃとうごめいていた。

「視覚に騙されるな。自分の直感を信じるんだ」
「分かった」

佳奈は、カッツェに言われたとおり、ペンを動かしつつ、修正箇所を探す。
そして、見つけた。

「…ここだ…行くよ、先輩…」
「うん!」

佳奈は、映子の手に、ペンを当てた。すると、映子の体が、パアッとまばゆい
光に包まれた。

「成功、だな」

カッツェが満足そうな声を出す。その言葉通り、映子の輪郭が小さくなり、
普通の高校生の体に戻っていく。

「先輩…良かった…」

光が収まると、映子は先程ぶつかった女子高生の体型になっていた。

「佳奈ちゃん…」
「先輩ぃっ!」

佳奈は、思わず映子を抱きしめた。

「ありがと、佳奈ちゃん」
「こっちも…ありがと…信じてくれて…」

映子も抱きしめ返す。それを見ていたカッツェが、口を開いた。

「いやぁ涙ぐましいねぇ…だが、そろそろサツが来たようだぜ…」

サイレンが、近くまで着ていた。

「じゃ、俺はここでオサラバするかね。あーあ、こんなに大きくなっちゃ、
どっかに転移しなくちゃならんな。じゃあな!」

二人が別れの挨拶を返す暇もなく、カッツェは姿を消した。その次の瞬間
だった。

「そこの二人、傷害容疑で、逮捕する!」

到着したパトカーのメガホンから、二人の罪状が告げられた。二人は抵抗する
ことなく、投降した。

佳奈と映子は、留置所の同じ部屋に一晩拘束されることになった。

「私達、大丈夫かな…」
「大丈夫。心配しないで」

その次の朝、何らかの処置がなされるはずだった。

---

だが、次の朝、警察署内の空気がおかしくなっていた。二人が知らない間に、
どこからともなく、グラビアアイドルのような体型の女性たちが押し寄せ、
署員に襲いかかったのだ。そのせいで、留置所は完全に機能を停止していた。

「どうなってるの…?」
「先輩、ここから出よう。もう、アイツの本格的な攻撃が始まったのかもしれ
ない…」
「でも、どうやって…」

佳奈がムクムクッと大きくなり始めた。身長だけでなく、脂肪も筋肉もたっぷり
ついて、相撲取りのようになった。2m半くらいになって、成長が止まった。

「力づくで壁を壊す!」

その大きな体を、壁にぶつけると、大きな凹みが出来た。

「これなら…えいっ!」

もう一度ぶつける。すると、

《ドーンッ!ガラガラガラ…》

壁が崩れ落ちた。

「よし!先輩、行こう!」
「う、うん!」

佳奈は、元の大きさに戻り、映子と一緒に警察署の中を駆け抜けた。ガランと
した警察署内は、電気も付いていない。

「なんなの、これ…」

外に飛び出したが、そこにも誰もいない。警察署は街のまっただ中にあり、
普段は人がひしめき合っているのだ。

「絵美に…連絡しないと…」

佳奈は、昨日女子高生と遭遇したところに向かった。

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カバンは、そこにあった。だが、財布もなければ、携帯もない。誰かが盗んで
行ったようだった。

「佳奈ちゃん、どうしよう…」
「こうなったら…」
「佳奈ちゃん?」

佳奈の体が、またもや大きくなる。今度は、そのプロポーションを保った
まま、巨大化する。

「まって、私も!」
「先輩っ!」

その佳奈に、映子がピッタリと寄り添った。二人の体は、同じように大きく
なっていった。服が破れ、背中と胸がさらけ出され、髪が伸び、足も留置所の
ズボンを破裂させて飛び出し、身長は周りにある家の高さを超え、二人は
どんどん巨大化する。そして、それが終わった時、背丈は3階建のビルくらい
になった。

「これなら、見つけられるはず…」
「うんっ!」

佳奈が、自分の呪いの方は、ユリシアの影響が残っているのを忘れていたの
か、乳房は直径2mほどになり、住宅街にグラマラスな巨大美女が出現するよう
な形になっていた。

「佳奈ちゃん、みて、あの公園のほう…」

赤い髪の女性が、誰かに空手技で蹴られていた。

「あれだ!急ごう、先輩!」
「わかったっ!」

二人は、かくして、最後の決戦に赴くことになったのだった。