僕は、最近一人の子に惚れていた。高校の同じクラスの女の子で、かなり背が
小さい子だ。小学生のようにも見える。名前は立川 茜(たちかわ あかね)
という。
「みんなっ!おはよーっ!」
その子がクラスに入ってきて、元気に挨拶した。クラスのみんなも、挨拶を
返す。行動も子供っぽい。でも、友達思いで、純真さしか感じられない、天使
のような子だ。
「おはよう…名高くん…」
「あ、おはよう」
だけど、僕に挨拶するときだけは、なぜか声が小さいんだ。そして、その後は
そそくさと自分の席に行ってしまう。僕のこと、嫌いなんだろうか?
「おい、どうしたんだ?名高」
突然、背中の後ろから、友達の声が聞こえた。心臓が飛び出すと思った。
「うわっ!なんでもないよ!」
振り返ると、親友の岡部がいた。
「本当か〜?」
「なんでもないったら…」
「とぼけんなって!クラスのみんな知ってるんだぜ…お前が…ムグッ」
その口を塞ぐ。
「うるさーいっ!」
ずっと立川さんの方を見ていることが多いせいか、僕が彼女に気があること
は、クラスには公然の秘密になっていた。当然、立川さんにもそのことはバレ
ているんだけれど…自業自得か。
「と、とにかくさぁ…見てるだけじゃなくて、もっと何かしてみろよ…」
手を離すと、岡部が続けた。
「何か、って?」
「セ…」
「バカな事言わないでよ!」
「おい、まだ一文字しか言ってないぞ…変なことを考えたのはお前も同じだから
な。ろくに話したこともないのにいくらなんでもそれはねえよ」
「冗談キツイよ。まじめに言って」
「そうだな、まずは一緒に帰るとかだな」
「え…」
一緒に帰ってみる。確かに、僕の家と立川さんの家は同じ方向にあった。誘って
も、不自然なことはあまりないかな。でも、僕が立川さんの方を向くと、立川
さんはすぐそっぽを向いてしまった。大丈夫かな…
---
放課後。授業が終わると、立川さんはさっさと帰り支度を始めてしまった。
「ほら、行って来いって!」
「うんっ!立川さんっ!」
僕は、岡部の後押しを受けて、立川さんに呼びかけた。
「ひっ!な、なに…?」
立川さんは、ビクッとして、こっちに振り返った。体が震えていて、確実に、
怖がっている。嫌がらせに、ならないかな…と思いつつ、近づいていった。
「僕と、一緒に帰ってくれない、かな…」
「え…あの…私…」
「やっぱり、ダメ?」
「えっ!そんな…こと、ないよ…」
そして、何かの覚悟を決めたかのように、背筋を伸ばして、言ってくれた。
「うん、一緒に帰ろ…名高…くん」
「良かった、じゃあ、ちょっと待っててね。荷物、まとめるから」
「分かった…」
机に戻ると、岡部が両親指を立てていた。僕も、左親指を立てて、返した。
---
そして、帰り道。僕たちは、何もしゃべらないで、ずっと前を向いて歩いて
いた。冬ということもあって、コートを着ている僕達の間を、寒風が吹きすさぶ。
「(う…なんか気まずいな…)」
近所の公園に差し掛かった頃、僕は、沈黙に押しつぶされそうになっていた。
「ね、ねえ、立川さん…」
「ひっ!」
僕が喋りかけると、立川さんは飛びのいてしまった。リスのような小動物みたいに。
「そ、そんなに、僕のこと、怖いの…?」
「ち、違うの…名高くんが怖いんじゃないの…」
トコトコと、また近寄ってきてくれた。俯きながら、立川さんは喋り始めた。
「私、ちょっとした秘密があってね…それが、バレちゃうのが怖いの…」
「そうなんだ…それは、教えてはくれないよね…」
「ごめん…名高くんでも、それは言いたくないの…ううん、名高くんだから
こそ、知られたくない…」
「僕だからこそ…?」
「…でも、いつまでもこんなのはいや…」
彼女の顔がこっちを向いた。その顔は真面目だったが、少し赤くなっていた。
「名高くん、私の事、好き?」
「えっ!?」
いきなりの質問に、戸惑う。
「…うん…好き…」
「私が変な怪物になっても、好きでいてくれる?」
「え…」
そこまでの事は、今聞かれても分からない。だけど、思い切って言った。
「うん…」
「そう…私も、名高くんの事、好きなの」
「えっ!」
さっきから、驚きの連続だ。でも、あんなに怯えていた立川さんの口から出て
きたのだから、仕方ないと思って欲しい。
「最初に会った時から、っていったら嘘になるけど、名高くんの優しさ、私、
好きだった…」
「立川さん…」
立川さんは、また俯いてしまった。
「だから、この体のこと、知られなくなかったんだよ。今も、勇気はない…
だから、今度、教えてあげる、から…」
その時だった。ドッと突風が吹いてきて、立川さんがよろけた。僕は、転び
そうになった彼女の手を、思わず掴んだ。
「大丈夫…?」
「あ…あ…」
なぜか、放心状態になっている。立川さんの目の焦点が定まらない。
「ど、どうしたの…?」
「私…うっ!」
立川さんが急に身をかがめてうめき声を上げたその時、僕の掴んでいた手が、
グニュッと大きく動いた。筋肉の伸縮と骨の動きだけでは説明できない、妙な
動きだった。
「き…来てっ…ここで…するのは…いやっ!」
立川さんは、僕の手を振りほどいて、公園の多目的トイレに駆け込んでいった。
「ま、待って!」
訳が分からないけど、僕は立川さんの後を追ってトイレに入り、ボタンを
押して、扉を閉めた。中では、立川さんが壁に寄りかかって、荒い息を立てて
いた。そして、コートのボタンを外そうとしているけど、体の震えが大きいの
か、うまくいっていない。
「胸…苦しい…」
「て、手伝うよ!」
僕は、コートに手を伸ばして、ボタンを外そうとした。すると、ボタンがスッ
と上に動いた。
「え…?」
「うぐ…」
立川さんの小さな背が、伸びていた。苦しいのか、小さな声を上げている。
「早く…脱がして…」
そういう彼女の服が、プチッ、プチッと音を立てていた。僕は、急いでコート
のボタンに手を掛けた。だが、生地が左右に強く引っ張られていて、僕が少し
引っ張っても、うんともすんとも言わない。
「えいっ!」
強い力を掛けて、僕がボタンを外す間にも、その張力はどんどん増していって
いた。何かが中で膨らんでいっているようだった。
「はや…く…」
弱々しい立川さんの声が、妙に大人っぽい。そう思って、ボタンから目を離す
と、その体はかなり大きくなっていて、立川さんの目の高さが、僕の目の高さ
と同じくらいになっていた。
「(どういうこと…?)」
すると、僕の体に、何かが飛んできた。床にカランカランと音を立てて落ちた
それは、コートのボタンの一つだった。僕は、コートの方に目を向け直した。
そうすると、またボタンが飛んだ。張力に耐えかねて、ボタンがどんどん飛んで
行く。そして、コートから、何かが飛び出してきた。
「あ…」
立川さんの、おっぱい。制服も、シャツもすでにボタンが取れ、キャミソール
か何かだった布生地に、それは押さえつけられて、その上と下から、はみ出して
いた。
「恥ずかしいぃ…」
立川さんは、長くなった腕でそれを隠そうとするが、それに負けじというふう
に、膨れ上がるおっぱい。立川さんの体は、1分前にはクラスの誰よりも小さく、
胸も平だったのに、今となっては、身長は男子よりも大きく、メロンサイズと
なり更に膨らみ続ける乳房を持っていた。
「いた…」
そして、ものすごい高さにあるトイレの天井に頭をぶつけてしまった。その
拍子に腕から解放されたスイカサイズのおっぱいが、生地を突き破って、ブルンッ!
と僕の目の前に現れた。
「はぁ…はぁ…んっ…」
だけど、それでも足りないというふうに、膨張は継続された。プルンプルンと
揺れながら、どんどん大きくなる立川さんのおっぱい。僕の視界が、肌色の
膨らみに占領されていく。
「こんなはずじゃ…まだ…見せたくなかったのにぃ…」
立川さんは泣き出してしまった。そんなことも構わずに、僕の眼前で、おっぱい
が膨らむのを止めることはなかった。
---
次の日。
「昨日、どうだったんだよ!」
「あ…うん…」
昨日は、おっぱいが床につく頃になってようやっと成長が止まった。大きく
なった立川さんに、「帰って!」と叫ばれ、トイレから一人出てきたのだった。
その後、立川さんがどうなったのかはわからなかった。
「失敗、かな…」
「失敗?なにがあったんだ?」
「それは…言えない」
その時、ガラガラ…とクラスの扉が元気なさげに開いた。そして、立川さんが
一言も発せずに、俯いて入ってきた。
「(立川さん…)」
僕の側を通り過ぎる時は、立川さんは顔を合わせないようにして行ってしまった。
「なにやらかしたんだよ…まあいいか」
岡部も、詮索をやめて、去っていった。
その日は、立川さんは誰とも話さず、話しかけられても短い返事だけで終わ
らせていたようだった。僕もあまり元気が出ない。放課後も、そのまま立川さん
はそのまま帰ってしまうと思った。だから、謝罪をするために、僕は急いで
立川さんのところに行った。
「立川さん!」
「ひっ!ごめんなさい!」
立川さんは、急いで廊下に出て行ってしまう。僕は、追いかけて叫んだ。
「立川さんに、謝りたいんだ!」
すると、彼女の足が、ピタッと止まった。そして、振り返ってくれた。
「謝る…?私…に?」
「そうだよ、立川さんの、こと、知らなかったから、あんなことに…」
「私、怖かったでしょ…バケモノだって、思ったんでしょ…?」
「なんで…?」
「だって、あんなに大きくなって…」
「僕は、立川さんが、そのままの心でいれば、どんな姿でも、好きだよ」
「え…」
「言ったでしょ、あの時。僕を、信じてなかったの…?」
「そういう訳じゃ、ない…けど…」
「だから、大丈夫だよ」
「ありがとう…でも、ちょっと、恥ずかしい…」
「え?」
僕は、我に返って、まわりにいた同級生がニヤニヤしながら僕達のことを見て
いるのに気づいた。
「うわあっ!ご、ごめんね、立川さん…」
「いいの…でも…」
「なに?」
「今日も、一緒に帰ってくれる?」
「…うん」
そして、その日から僕と立川さんは恋人になったのだった。