『まもなく3番線に急行品川行きの電車が……』
都内のある駅で列車接近のアナウンスが流れる。ホームには多くの通勤客に
混じって一人だけ中学生のような小さな体の女性がスーツを着て立っていた。
「ああもう、急行乗るしか無いのね。こんな離れたところにホテル取るんじゃ
なかったわ」
普段は地方の企業に務める彼女の名前は、矢薙 翔子(やなぎ しょうこ)。
体に見合った、中学生の可愛らしい丸顔をしているが、実際の年齢は30歳を
超えていた。彼女もメタモルフォーゼ症候群にかかっていた。体の発育不良は
この病気の症状の一つだ。
「通過駅がある電車には、乗りたくないのに……また、大きくなっちゃう」
彼女の場合は、電車の通過する駅数が多いほど、身体的に成長してしまうという
メタモルフォーゼ症候群の中でもかなり特殊な部類に入るものだった。溜め息を
つく彼女の前に、赤い下地に白い線の塗装がされた電車が滑りこんでくる。その
中には、彼女が住んでいる地方では考えられないほどの人が詰め込まれている。
「う、うそ、こんなに混んでるの!?私、こんな電車の中で……!」
乗車するのを躊躇する彼女だが、後ろから押されるのに抵抗できず、おしくら
まんじゅうの中に入ってしまった。
「ちょっと待って……私……!」
『3番線の急行品川行き、ドア閉めます』
だが、無情にも発車ベルが鳴り、ドアは閉まってしまった。
ドクンッ…
「んっ……」
その瞬間、翔子の体全体に軽い衝撃が走る。
ドクンッドクンドクン…
その衝撃は定期的に伝わってくる。そのスピードが段々上がると、変化が起き
始めた。
「っ…!」
脚がズボンの中でグッグッと伸び始め、背丈も同じ分だけ伸びて、翔子の頭は、満員電車の人混みの中で、スッスッと上昇していく。だが、その変化はあまり
顕著ではなく、電車の揺れで動く人だかりの中では気づかれることはなかった。
ただし、脚が見えていれば、そのストッキングに包まれた肌が、ズボンから出て
来るのがかなり目立ったはずだ。
ドクドクドクドクッ!
「んんっ……」
背骨がグキグキ言い始めると、脚と同じように上半身の長さが変わっていく。
そしてその音は周りの人々に伝わったようだ。怪訝に思った数人が、翔子の方を
振り返る。しかし、この変化も音だけは激しいものの、外見的にはあまり大きく
なく、視線は次第に散っていった。
ドクドクドクンッッ!!
「んっっ!!」
それまで速いペースで感じられた衝撃が、一回非常に大きくなった。翔子は、
自分の胸の真ん中から、ブルンッ!と何かが出っ張り、上着を押し上げたのを
感じた。そして、それは間接的に、前にいる男性の背中に当たり、電車の揺れで
コリコリと形を変えていた。その形が変化するたび、翔子には言いようのない
刺激が伝わってきた。
――はぁっ……!だ……だめっ!
翔子はその胸に熱が集まってくるのを感じた。そして、次の瞬間、
ドクンッ!
「はううううっ!!」
胸全体に衝撃が走る。と同時に、何も無かった胸の脂肪細胞が爆発的に増殖し、
厚みを数十倍にも増した。リンゴのサイズの乳房が飛び出て、前の背中にグニュッ
と押し付けられる。しかも、
ドクンッ!ドクンッ!
「ちょ…っと…!まだ……大きくなるっ!」
衝撃が加わるごとに、どんどん膨張していく2つの膨らみ。グニュッ!グニュッ!
と前の背中に当たって、段々男性を押しのけ始める。と、ここで衝撃がやんだ。
その頃には、翔子の体は元の中学生のようなものから、30歳としては平均的な
背と、それにしては若々しく、かなりグラマラスな、ムチッと脂肪がついた体に
変化を遂げていた。
「ご……ごめんなさいね……」
前の男性に声をかけるが、その声も幼かったのが、今は立派な大人の女性の声だ。
男性は、俯いたままで、多少荒い息を上げて何も答えなかった。
――これは……まずいかも……
男性の方からすれば、後ろに小さな子が立っていたはずなのに、いきなり乳首の
ような2つの突起をつきつけられ、さらには明らかに乳房であろう柔らかさが
背中全体に感じられるようになったのだ。それに加えて、その柔らかさは、電車
の振動と同期して、その重さの一部を男性に預けてプルンプルンと動き続けて
いる。背中であるにしろ、そのとろけそうな感触を、否応なしに味わっているのだ。
だが、超満員の電車の中で、腕すら動かすことが出来ないまま、無事終点に到着し、
ドアが開くと、翔子の体はすっと元に戻った。男性は翔子の方に振り返ったが、
その小さな体を見て、大きく首を傾げながら電車から出て行った。
――なんとかしのげたわ……
学生時代には、その頃にはもう変身するようになっていた翔子の体質のせいで、
同級生から性的なイタズラをしばしば受けていた。その同級生にとっては、高校生
とは思えないプロポーションに成長する女子生徒に、理性を破壊するほどの魅力
を感じていたのだろうが、翔子にとってはいい迷惑だった。
翔子は、地下鉄に直通する電車に乗って、都内の会議場まで足を運んでいった。
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その帰り。地下鉄の座席に座る翔子の体は、また大きくなっていた。
『日本橋、日本橋です。この電車の止まらない宝町、東銀座へお越しの方は当駅
で……』
放送を聞いて、溜め息をつく翔子。
「地下鉄の電車って、全部各駅停車じゃないのね……」
空港への連絡を良くするためか設定された速達列車だと気づかず、乗り込んで
しまったのだった。
「私の泊まってるホテルがある駅には止まらないだろうし、途中で乗り換えない
と……んっ……!」
電車のドアが閉まると、翔子の体はビクンと動き、全身がムギュッと押し出される
ように大きくなった。胸の部分は服の中がいっぱいになって、ボタンが弾けそうだ。
「……各駅停車に乗り換えよう」
翔子は会議で疲れた体を、これ以上成長で追い詰められたくはなかった。その
次の日には地方に帰らなければならないので、体力を温存しておきたいのだった。
次の停車駅で、翔子の体は元に戻った。それに安心したのか、翔子はついうたた寝を
始めてしまった。電車が運行を続け、乗り換えるはずの駅に着いても、翔子は
気づかない。
ドックンッッ!!!!
「ひゃあああっ!!??」
そして、翔子は全身に走ったこれまでに感じたことのないほど大きな衝撃で、
やっと目が覚めた。通勤ラッシュ帯ではなかったものの、空港行きということで
混みあう車内で、翔子の体はガクガクと揺れた。心臓と横隔膜が激しく動いて、
息をすることさえ困難になっていた。
ドクンッ!ドクンッ!
「んあっ…あっ…!!」
その脚が、ビクンと激しく痙攣したと思うと、太さを変えずにグキッグキッと
伸びる。同時に大きくなる足は、靴を破壊し、ストッキングを破って、20cmだった
そのサイズがものの数秒で30cmをゆうに越えていく。そして、急な叫びで呆気に
とられていた前の乗客をグイグイと押しのける。
ドクンッ!ドクンッ!
「あああっ!!」
最初の2倍ほどに長くはなっているものの、あまり変わっていなかった脚の太さ
が、腰の方から何かが送り込まれるようにギュッと太くなると、ズボンがそれに
連れてビリーッと大きな音を立てて破けた。またギュッと大きくなると、一人分
の幅の座席の上が、完全に覆われてしまった。
ドクンッ!ドクンッ!
「んぐぅっ…!!」
衝撃のせいでつっぱられている腕も同じように、ゴキゴキと音を立てて伸び、
それと同時に、ムチッムチッと段階的に脂肪がついて、大きくなり、スーツの
縫い目がほころんだ。胴もドンッドンッと何かが中で暴れるかのように大きく
なって、スーツとワイシャツのボタンを吹き飛ばしてしまった。パンパンになった
ブラウスの下に見えるのは、大きなくびれの出来た、胸が未発達なものの、成熟
した体型となった翔子の上半身だった。
ムギュギュギュ……
「はぁ……はぁ……」
全身のうごめきが止まらないものの、そこで急激な成長は一段落した。翔子は、
朦朧とする意識の中で目に入った路線図を見て、驚愕した。普通、急行、特急……
と、種別ごとに停車駅が書かれているその路線図に、一本だけイレギュラーな
ものがあった。それは、空港までの直行電車。空港への連絡だけが目的のその
電車は、そこまでの駅を全て通過するのだった。その通過駅の数は、いち、に、
さん……
「十四、十…五っ……!?」
ムクムクゥッ!!!
その事実を確認したのと同時に、ブラウスを突き破って、乳頭が急速な成長を
遂げていく。
「そんな……どこまで……大きく!!」
2cm,5cm,10cmとどんどん大きくなるそれは、リンゴが収まりそうなサイズになると、
成長をピタッと止めた。手で隠し切れないサイズになったそれは、翔子の胸の上
で堂々と居座っている。だが、翔子の髪がバサッと伸びると同時に、その下に
ある平らな胸が、ブルンッと前に飛び出た。
そのサイズは、最初は乳頭と同じ程のサイズまで、次に顔のサイズ、と常識的な
大きさを軽く飛び越える。そしてその2倍、またその2倍と、等比数列的に
ブルンッ!ブルルンッ!!と巨大化していく。その成長は、電車すらガクンガクン
と揺れるほどだった。また脚も腕も成長を再開し、その太さはどんどん隣の乗客
を押しのけ、長さは前の乗客を押しのける。巨大化した胸も前の客を成長の度に
押し飛ばして、ついには床についてしまった。
「もう!!大きくぅっ!!ならないでぇっ!!!」
翔子の叫びも虚しく、間もなく電車の天井にも着いたその2つの柔らかな塊は、
さらに電車内の空間を埋めていく。他の部分に比べて目立たない身長の変化も
大きく、3mを超えた翔子の体は荷物棚の金網を破って、翔子はその乳房と同じ
ように天井に頭をぶつけた。
「きゃあああ!!」
電車の構造が歪み始め、ギシギシという音が車両全体から聞こえるようになって、
電車が緊急停止するまで、その体は大きくなり続けた。
「も、もう都会はいやあああ!!!」
虚しい叫びが、夕方の東京にこだました。