僕、遠藤鷹人は夕霧家にてコーヒーカップにお茶を注ぎながらゆっくりと休憩を行っていた。身体は確かに安心の気持ちを表していたが、それ以上に僕の心は晴れなかった。何故ならば今日の同好会での彼女に対する侮辱のような言葉がまだ心の中に残っていたからだ。
「流石に言い過ぎたかなぁ……」
と、僕は今日、異母兄妹にして想い人である夕霧・S・アイリスに対して酷い言葉をかけてしまった。そして何故、自分の家ではなく夕霧家に居るのかと言うと、アイリスの母親であるエリスさんに家に来てと言われたのである。
エリスさんの話によると、僕が部室から帰ったあの後、部室で1人で双六をしていたらしい。昔からアイリスはそう言った事がある。神経衰弱や知恵の輪と言った1人で出来るような物が好きかと思ったら、オセロや大富豪と言った本来ならば複数人で遊ぶようなゲームでさえ1人で遊んで楽しむのが多かった。その1人でゲームを自己完結する性格を母親であるエリスさんは気にしていた。それ故、僕が一緒になって楽しむことでなんとか体裁を保てていた。今までも1人遊びは少なくなかったのだが、帰ったのに顔も見せずに自室に入るだなんて今まではなかったのだそうだ。だから、母親として気になるのだそうである。
僕もちょっと気になるからアイリスの事を知るために家の近所にある夕霧家へと向かった。そして、チャイムを押して、扉を開けると中からエリスさんが出て来る。相変わらず、こちらが驚くくらいの巨大さである。身長もそうだけれども、山のような大きなあれに関してもこちらからしてもビックリ仰天である。確か身長が約3mで、胸もだいたいそれに匹敵するくらい大きいと言っていたし。胸も大きくて柔らかい双丘ですし、まるで胸も動く山のようである。
「あらあら、鷹人君。来てくれて嬉しいわ」
そう言って、相変わらずの無表情な顔でこちらを見るエリスお母さん(叔母さんと言うと怒るのでお母さん)。
「あ、あぁ……よろしくお願いします」と言う僕。
「じゃあ、今すぐアイリスに会って……」
「えいっ」
そう言って、話しているといきなりエリスさんが僕に抱き着いて来た。それによって僕の身体に感じる、柔らかい肌色の大きな胸の感触。それが僕の身体越しにひしひしと伝わって来る。
極上の絹ですら感じ得ない、天にも昇る心地良さ。そして鼻から香るお花畑のような美しい香り。一秒でもそこから離れたくないと言う、まさに楽園のような感触が伝わって来る。
「ちょ、ちょっと……」
どうにかして離れようとしても、僕の2倍はあろうかと言うその身長の前では僕の身体はちっとも動かない。
「鷹人君は隼人に似てる。抱き心地とか、触り心地が」
「そ、そう言うのは父さんに頼んでください!」
「あんまり会えないから、鷹人君で代用」
僕は父さんの代用品か! だからあんまり母さん達には会いたくないんだ。月母さんも花見母さんもハート母さんも、そしてエリス母さんも皆娘を出産して、僕の母である彩母さんだけが僕と言う息子を出産した物だから、何故だか可愛がられている。とは言っても、その可愛がるがいつも胸を押し付けたり、胸の中に挟んだりと言った胸ばかりをしているのはどうしてなんだろう。おかげで、僕は母さん達のような巨乳でしか反応出来なくなってしまった。まぁ、アイリスはそれでも好きなんだが。
「うぅ〜♪ 良い匂い♪」
「ちょ、ちょっとエリスさん」
あなたの方が良い匂いさせているんですが、と言う事を言う前に僕の香りを楽しんでいるエリスさん。何故か、その度に胸がたゆんたゆんと揺れていて、僕は落ち着かない気持ちになった。
結局、アイリスの事を見舞いに来たはずが、エリスさんが満足するまで僕は動けなかったのであった。
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ようやく解放されたのはそれから30分後。上でガンガンと言う、足で壁を蹴るような音がしてエリスさんが「うちの子……苛立っているみたい。まぁ、そうよね。私の娘だし」と分かったような口調で、ようやく解放してくれた。最後に離れる前に、今まで以上の密着度をするための強いハグを受けて全身が柔らかい感触で一瞬感覚を忘れてしまうほどの心地良さだった。
そして、ようやく僕はアイリスの部屋の前までたどり着いた。ここまで来てなんだが、もう既に疲れたから帰りたいんだけれども。まぁ、一応来たと言う名分は果たしておこう。
トントン、と扉を叩く僕。
「アイリス? 大丈夫か?」
「……鷹人?」
と、声が聞こえて来る。よし、声に別に異常なしだから、病気の類ではないみたいだ。
「お前のお母さんが心配してたぞ。一応、挨拶だけはしておけよ」
「……うん。そうする」
「じゃあ、帰るわ」
「へっ?」
そう言った途端、中でガチャガチャと言う何かが倒れる音と共に「あちゃー」と言うアイリスの声が聞こえてきた。
「大丈夫そうだし、後はエリスさんに任せておくわ」
「えt、ちょっと……」
「じゃあ、後は頑張れよな。アイリス」
僕はそう言って階段を降りて家へ帰ろうとしたその時、扉が開くような音と共にガシッと僕の背中が掴まれる。それはアイリスのような小柄な女の子では考えられないような、物凄いさっきエリスさんに喰らった万力のような力だった。
そして僕はそのまま部屋へと連れ込まれる。
「痛いなぁ、もう。アイリス、なんだってんd……」
そう言って、言葉を発しようとしたが僕は声を失った。そこに居たのは僕よりも20cm以上高い、2mサイズの大人の美女となったアイリスが居たのだ。しかも裸で。
その姿はまるで美術館で飾られているヴィーナスのように綺麗だった。そしてそんな美しい女神と化したアイリスはこちらを見ながら、涙目で
「どうしよう、鷹人君! 私の胸、全然育ってない!」
彼女はそう言って、2mサイズにしては全然育っていないぺったんこの胸をこちらへと向けるのであった。
☆
幼児体型で女らしさにかけていた私、夕霧・S・アイリスがどうして2mサイズの女になっているのか? その事を知るのはあの後、部室で双六を見つけた所まで遡る。
「これは……人生ゲーム?」
私は取り出した箱を見て、それが人生ゲームである事を知った。真ん中にはルーレットのような物が取り付けられていて、スタートとゴールがある。それに車のような物まである。一つ気がかりな事と言えば、ルーレットの上に取り付けられている透き通ったガラスのような物と、この箱のどこにもお金やカードが入っていない事である。これじゃあ、人生ゲームとしては間違っている。
「マスには何も書かれていないし、どうなってんのよ、これ……」
私はそう言いながら、まぁ、とりあえずやってみれば分かるかなと思い、駒を置いた。すると、さっきのガラスのような場所に文字が書かれる。
【S143,B64,W52,H62 Total;AAA】
「これって……もしかして私?」
と、私は数字を見て驚いていた。この数字群が私だったからである。
S143とは私の身長143cm、B64,W52,H62は私のスリーサイズ、そしてTotal;AAAと言うのは私の胸のカップ数である。相変わらず私って小っちゃい。143cmなんて、11歳女子の平均だし、最近だと私より発育の良い子なんて大勢いるから。
「でもなんで、私の?」
疑問に思いながらも、ルーレットを回す私。クルクルと回り、出たのは4。私は4マス進める。すると、鏡の文字に変化が訪れる。
【S157,B70,W59,H72 Total;AAA】
「ちょっと変わったけど……これが何か……」
そう思いつつ、私はルーレットに手を伸ばすと服の裾からビリッと言う、何かが破ける音が聞こえて来る。
「えっ……」
慌ててみると、私の学生服の裾が破けていた。良く見ると他の箇所もちょっとほつれかかっている。これってもしかして……。
「鏡の中の文字通りになっているって事?」
つまり私は、143cmから一気に157cmになり、そのせいで学生服が破れかかっていると言う事なのでしょうか? けれども、この人生ゲームにそんな力があるなんて……。
「まぁ、続けましょう」
私はそう楽観視して、ルーレットを回す。そこに書かれていたのは6。6マス進めると、また鏡の文字が変わった。
【S170,B78,W63,H76 Total;AAA】
私の服がビリビリと言う音と共に、破れていく。流石に143cmと言う私基準で作った学生服が、170cm代の私の今の身長で持つ訳が無い。私はそう思いながらも、170cmになった私がどれだけ高いかを感じてみようと立ち上がった。
「おぉう……」
立ってみると、景色が全然違って見えた。いつもの部屋、いつもの部室なのにも関わらず、身長が違うだけでここまで景色が違って見えるだなんて思いもしなかった。
「この人生ゲーム凄い! 凄いけど……」
そう思って、私はゆっくりと目線を下に合わせていく。そこには真っ平の、何も付けていないような平坦な丘があった。いや、丘と言うよりも平野と言うべきか。
「この人生ゲーム、身長を高くしてくれるのは嬉しいけど……せめて胸のサイズはどうにかならなかったの?」
私はそう思いつつ、溜息を吐いた。けれどもそんな事言ったってどうしようもない。これ以上やると服が全部破けてしまいそうだ。この辺でやめておこう。明日、この身長が高くなった私の姿を鷹人君に見せてびっくりさせよう。私はそう思い、鍵をかけて部屋の外に出て、家へと帰った。
その後、誰も居なくなった部室に、隙間風が入り、机の上に置いていたその人生ゲームのルーレットを回していたとは私は知らなかった。
そんな事を知らずに帰っていた帰り道。私はご機嫌だった。今まで2,3歩かけて行っていた距離が普通に1歩歩くだけで大丈夫になった。身長が違うだけでここまで人生って変わって見えるんだなと私はそう思っていた。もう夕暮れ時で走りたいが、走ってしまうともう既に破れかけの私の制服が大破してしまう可能性もあったし、走らなくても身長が高くなった今ならば大丈夫だと思って私は歩いて下校していた。
そんな事を考えながら歩いていると、目の前でがたいの良い高校生が歩いていた。あれは確か……学年一高いかもと噂の佐藤君だろうか? 確か190cmはないが、それに近い数字であるとは噂で聞いた事がある。今までは並ぶと大人と子供サイズだった私だが、今だと普通に同じくらいのサイズになっているんじゃないだろうか?
(鷹人君とも、今までは子ども扱いだったけどもう大丈夫!)
佐藤君を見ながらそう思っていると、急にビリリと言う音が服から聞こえて来る。
(ちょっと走りすぎた?)
と、私は破けてずれ落ちそうなスカートを押さえながら家へと帰る。その時、佐藤君の横を通り過ぎる際、190cmくらいはあろうかと言う佐藤君の背とほとんど同じであった事は気のせいだと思いながら。けれども家に帰って、自宅に備え付けられた特注の扉を見て確信に変わった。
私の家の扉はちょっとした特注サイズになっていて、150cmくらいの所と2mくらいの所の2か所にノブがある。下の所にあるのは普通サイズ、上の所にあるのはお母さん達のような長身の人用に作っている。私はそのノブを見て、驚いていた。
何とか破れながらも服で身体を覆っている私の目の先には、2mサイズのノブがあった。
(成長してる?)
私はあまりのショックに、部屋に引きこもってしまうのであった。