「艦隊これくしょん」。これは戦艦を擬人化した少女達が提督の支持の元、深海戦艦や仲間の艦娘達を取り戻すと言うストーリーである。これはとある鎮守府の駆逐艦娘、暁のお話。
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玖汀島鎮守府。そこでは提督の指示の元、艦娘達が今日も司令官に勝利をもたらすため、日々を過ごしている。そしてこの玖汀島鎮守府は、数々の司令官が勝利をもたらす優秀な鎮守府とは違って、艦娘達も少なく、どちらかと言えば弱小な部類であった。
そしてこの玖汀島鎮守府で提督の秘書艦として頑張っているのが、駆逐艦の暁型一番艦の暁であった。
「はぁ……暑いなぁ。ちょっと暁、空調壊れてるんじゃないか?」
「司令官、何を言っているのよ。エアコンはちゃんと28℃を指しているわ」
と、リモコンの設定温度を見せる暁。服装はセーラー服に海軍帽、同型の響とは違う黒髪長髪の少女。一人前のレディーとして扱って欲しいと言う割には、幼い容姿の彼女はさも当然のように『冷房;28℃』のリモコン設定を見せる。
「おいおい、暁。28℃は暑いって! せめて26℃くらいに……」
「提督、それじゃあダメでしょ。地球環境に悪いわ」
「ふん!」と、そう言う暁。
「はいはい。分かりましたよー。流石、大人な暁さんは違いますねー」
そう言って暁の元に近付いて、暁の頭をいつものように撫でる提督。それに対して嬉しそうな、だけれども嫌そうな顔の暁。
「て、提督! いつも言っているでしょ! 私はレディーなのよ! こ、子供扱いしないで!」
「はいはい。分かっているよー、暁はレディーだもんねー」
「だーかーらー! 頭を撫でないでー!」
今日も玖汀島の鎮守府は、賑やかだった。その後、暁と同じ同型の駆逐艦の3人、響、雷、電が提督の所に来てじゃれに来たり、それに乗っかるように金剛が来たり。それに対処する秘書艦の暁は怒ってばっかしであった。
その夜。暁は自分に与えられた部屋で1人、秘書艦としての仕事を全うしていた。いくら弱小な部類にあるとは言っても、その仕事は多い。
「えっと……第1艦隊の旗艦は金剛さんで、第2艦隊の旗艦は私で良い、か。補給物質はちょっと足りないですし、遠征に行って貰わないと……。それでえっと、ここの計算は……」
一生懸命、秘書艦として勤めている暁だが、それでも暁はチョットした所でミスをしたりしている。そう言った所で提督に迷惑をかけているが、それを子供だからと言う理由だけで許されている自分の存在が暁はどうにも許せなかった。
「はぁ……。これじゃあ駄目だわ! だって私は大人のレディーなん……だから」
そうやって頑張ろうとしている暁だったが、日頃の疲れのため眠ってしまうのであった。
丁度、その頃、暁の部屋の上で玖汀島に来ていた出張妖精さん達が仕事を始めようとしていた。
「ミツケタヨ、アノコガクナギサシマノアカツキサンダヨ」
「ココニホンブカラ『デカイアカツキヲキンダイカイシュウセヨ』トイウメイレイモアルシ、サッサトハジメヨウ」
「チョットマッテ。アノヒト、オオキクナイヨ」
「ムシロ、チイサイネ」
「セモ、ムネモ、チイサイヨ」
「ジャア、オオキクスレバカイケツダヨ」
「ツイデニ、キンダイカカイシュウモシトコウ」
「ソウシヨウ! ソウシヨウ!」
この時、この玖汀島に来た出張妖精さんの話をちゃんと聞く者が居れば、その電報が『玖汀島(クナギサシマ)』宛てではなく、『和渚島(ワナギサシマ)』に宛てられた電報である事はすぐに分かったはずである。そして『デカい暁』とは、本部でそう言うあだ名が付けられている戦艦娘の『ビスマルク』である事も。
そして妖精さんを語る上で一番大切な事がある。妖精さんがどんな無茶な命令であろうともやり遂げるほどの科学力があると言う事を。
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その翌朝、暁は自分と同じ型の駆逐艦娘、雷に起こされる。
「ちょっと暁! そろそろ起きないと、秘書艦としてダメじゃないかしら!」
「……あぁー、うん。いま、おきるー」
「秘書艦として頑張っているのは知っているけれど、ちゃんと起きてよね。後、近代改修のお知らせが机の上にあるから、ちゃんと見といてよね」
「……うん、わかったわ」
そして、雷を外に追い出した暁はゆっくりと、布団から出る。そして机の上に妖精さんらしい半角文字で書類が置かれているのを目にする。
「えっと……『キンダイカイシュウ、ヤッテオキマシタ テイトクアテ シュッチョウヨウセイヨリ』ね。可笑しいわね、近代改修なんて聞いてないけど……。それに出張妖精? 何なのかしら? ちょっと、これは後で提督に聞いておかないと……」
そう思いながらも、頭が痛くてそれどころではない暁。頭が痛いと言うよりかは、いつもと身体が違う感じがすると言う事だが。とりあえず、顔でも洗おうかと思って、鏡の前に立つ暁。
「あれ……?」
そして鏡に映っていたのは、いつもの暁ではなかった。身長もいつものちみっこい駆逐艦娘サイズではなく、大人な戦艦娘であった。そして胸の方も、手のひらに収まりきらないサイズの大きすぎるおっぱいになっていた。
ちょっと大人びた、いつも暁が口に出して言っている『大人のレディー』の姿であった。
「な、何……これ……。これが……私?」
まず身体を触り、そしていつも以上に大きくなってしまって柔らかく、そして匂いも強く香る巨乳と言うべきそのおっぱいを揉み揉みと揉みしだく。それはとっても大きく、そしてずっしりとした大人の重みが感じられた。
「こ、これが私……」
大人になりたいとは思ってはいたが、こんないきなり大きくなるとは思っても見なかった。多分、この急激な成長は妖精さんによる効果でしょうが、一体何がどうなってんだろうか?
「オー、アカツキチャン。ドウカシタノ?」
「ナヤミゴト?」
「あっ、妖精さん達。これ、知ってる?」
そう言って、暁は玖汀島の妖精達に、机の上に置いてあった出張妖精から来た書類を見せる。それを妖精は「ホウ……」と、しみじみした顔で見る。
「コレハシュッチョウヨウセイノダネ」
「ソウイエバキノウノヨル、シュッチョウヨウセイガキタヨ」
「……出張妖精?」
「イロイロナトコロデ、ガンバッテルノ」
「ワタシタチヨリ、カガクギジュツガウエナノ」
「エリートナノ」
「へぇー。そ、そうなんだ」
「ケド、ドウモマチガエタミタイ」
「間違い……?」
「ケサ、ワナギサシマノカラレンラクアッタノ」
「デカイアカツキコト、ビスマルクノキンダイカカイシュウガオワッテナイトコウギレンラクガアッタヨ」
「キット、アカツキチャンハソレトマチガエラレタヨ」
つまり、暁は和渚島のビスマルクさんと間違われたと言う事である。
(確かに……ビスマルクさんは『デカい暁』とか、本人である私からしたら不名誉な事を聞いていたけど……)
今はそれよりもこれが直るかどうかである。
「これ、すぐに直るかしら? 私、今日、旗艦を……」
「ドウスル?」
「ガンバレバデキルカモ」
「デモホカニヨテイアルヨ」
「シュッチョウヨウセイダシ、チョットムズイカモ」
「イチニチホシイヨ」
「ソウダネ!」
「イチニチホシイネ!」
どうやらすぐには直す事は出来ないみたいである。
「と、とりあえず今日一日は何とか乗り切るか……」
暁はそう思い、いつもの執務室へと向かった。
提督はすぐに状況を把握してくれた。「今日はそれで頑張れよ」といつものように言ってくれたけれども、いつものように頭を撫でる事はなくて、それがどこか寂しかった。
その日、暁は深雪、朧、伊8、千代田の4人の艦娘と共に海戦を行っていた。大きくなった暁は、一応はいつも使っている自分の艦装を持って海戦を行ったが、その海戦での暁の活躍は素晴らしかった。
(……凄い、いつもより艦装がスムーズに使える)
暁はいつもは艦装が大きかったりして上手く戦えなかったけれども、今日は艦装が軽くて使いこなせる。いつもは艦装に気を取られていたけれども、今日は軽くて使いこなせるし、スムーズに作戦も指揮も考えられる。暁は絶好調だった。
いつもは弱小故に、何体か艦娘達がやられたりするのだけれども、今日は1人も、小破もなかった。
「良かったなー、皆ー」
そう言って深雪と朧の2人の頭を撫でて笑う提督の側に、自分が居ないのが暁はとっても悲しかった。
(大人になっても、良い事無いなー)
夜。執務室の前でそうボヤク暁。
あんなに大人のレディーになりたかったのに、なってみたらみたで、子供の時の方が良かっただなんて笑えると、暁はそう思っていた。
「おや、暁。まだ起きてたのか」
執務室を開けてそう笑う提督。その顔を見ていると、なんだか寂しくなってつい子供っぽく暁は提督に抱き着いた。
「ちょ、ちょっと……暁!?」
狼狽する提督の姿を見て、それがいつもは自分が持っていない柔らかくて、女の子らしい、大きなおっぱいのせいである事は分かっていた。そうして狼狽する提督の姿を見て、えへへーと暁は笑う。
「大人のレディーになった私はどうだった? 提督さん♪」
その顔はしてやったりと言った感じの、大人な笑顔であった。