「艦隊これくしょん」。これは戦艦を擬人化した少女達が提督の支持の元、深海戦艦や仲間の艦娘達を取り戻すと言うストーリーであったはずである。これはとある鎮守府の戦艦娘、満潮のお話。
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私の名前は、朝潮型三番艦満潮よ。私は今まで数々の部隊に配属されたけれども、今回、私が配属となった部隊は今までにないくらい最低……いや、提督(あいつ)は良い奴だし、最低のちょっと前くらいと言う所かしら。
私よりも前に所属している艦は駆逐艦の電だけの、たった2人の駆逐艦娘だけしか居ない辺境鎮守府。あいつの料理も不味くて結局、私が料理当番みたいになってるし……。これじゃあ駄目かと思って、あいつに新しい艦娘を建造させるように頼んだら、同型の駆逐艦の荒潮が来るし……。
これじゃあ、この鎮守府はダメになる。いや、既にダメになってる。この中で唯一真面な私が、どうにかしてこの鎮守府を一流の……いえ、せめて名前くらいは知っているくらいの鎮守府にしないと!
……と、とりあえずあいつの料理不味いし、私が料理を作らないといけないのよね。あいつの好物、結構時間かかるから早く寝ないと。
私はそう思って、鎮守府の自分のベッドで眠った。
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……はずだった。そう、そのはずだった。
「さぁ、早く料理の支度を始めやがれ、なのです!」
「あらあら〜、シンデレラちゃんはいつも通りね〜」
目を覚ますと、なんか無駄に派手な衣装を着た電と、綺麗な衣装を着た荒潮の姿があった。電の頭の上には【意地悪な継母】と言うアイコンが、そして荒潮の頭の上には【意地悪な義姉】と言うアイコンが浮かんでいる。
(何をやってんだろう、2人とも。こんな忙しい時に冗談も対外にして欲しい物ね。けれどもちょっと待って……)
意地悪な継母。意地悪な姉。そして、荒潮は私の事をシンデレラと呼んでいた。つまり、ここはシンデレラの世界で私はその主人公の、王子様と結ばれるシンデレラ!?
(ば、バカバカしい。そ、そんな事ある訳ないじゃない)
そう言いつつ、期待しながら自分の服装を確認する私。
灰を被ったドレス。薄汚れた手足。……うん、大分シンデレラっぽい恰好じゃない。
灰を被った白いフリルのついたカチューシャ。良く見たらドレスもメイド服。
「わーい! 完全なメイドさんだー……って、どういう事なのよ!」
えっ!? いつの間にシンデレラってこんなメイドコスチュームを着た女の子になってんの!? えっ、そう言うお話だっけ?!
と言うか、いつの間にか私、これがシンデレラの世界だと思い始めてる!
(そうよ……落ち着きなさい、私。ここはきっと夢の世界か、エラー娘の作り出したエラーの世界。きっと後者だと思いたいわ。それならとっとと、こんな世界をおさらばすれば済むだけ)
そう、話の流れに身を任せていればきっと帰れる……
「そう言えば、今日お城で舞踏会があったはずなのです!」
「何事も無かったように話を進めるな!」
「うるせぇな、なのです。シンデレラはシンデレラらしく、低俗な男達を喜ばせる格好で働きやがれ、なのです!」
「ちょっと口が悪すぎないかしら、電ちゃん!」
「あら〜、落ち着いて。シンデレラ」
継母役の電(いや、あれは完全にプラズマちゃんかも知れない)との言い合いに疲れていると、義姉役の荒潮が話しかけて来た。
「あら〜。私達は〜、今からお城の舞踏会に出ないといけないのよ〜。それにこの世界はシンデレラとして満潮ちゃんがちゃんとしないと出られないのよね〜」
「そうなのです! お城で金を持っている男を捕まえて貢がせる、なのです!」
「だから〜お留守番をお願いしたいのよ〜」
シンデレラの話に沿って来たわね。電ちゃんはともかくとして。
とりあえず、ここは話を乗って置きましょう。荒潮が今行ったけど、ここは話を終わらせないと帰れないみたいね。あの話だと置いて行かれたシンデレラが魔法使いの魔法で、お城に行く話だったし。
「分かったわ。さっさと行ってらっしゃいな」
「ありがとう〜。じゃあ、行って来るわね〜。ツンデレラ」
「そうそう。それで良い……って、誰がツンデレラよ!」
荒潮の言葉に対してそうツッコんだけど、その時にはもう電と荒潮の2人は馬車に乗って「じゃあ、行ってくるなのです!」「あら〜。またね〜」とお城に行ってしまった。
「かなりハイスピードなのね、このシンデレラは……」
これならばもうすぐしたら、魔法使いのシーンになるのでは……。
「満潮ちゃ〜ん。巻雲はいつだって万全ですよ〜」
そんな事を考えていると箒に乗った魔女……いや、艦装の上に乗って大きめのダボダボの白いローブを着た魔法使い、駆逐艦娘の夕雲型二番艦巻雲が現れていた。どうやら魔法使い役は、巻雲だったみたいである。
「いつもはメイドとして、頑張っている満潮さんに〜ご褒美で〜す。お城の提督王子に合わせてあげま〜す」
「はいはい、って提督王子!? えっ……ちょっ……」
提督が王子になっている事について巻雲に話を聞こうとしたのに、巻雲はそんな事を聞かずに「そ〜れ!」と魔法をかけようとする巻雲。
「聞きなさいよ! 人の話を!」
「轟沈しようと〜チャラララ〜!」
「何、その変な呪文!?」
変な呪文を唱えた巻雲。
すると、私の身体が光り輝き、薄汚れたメイド服がフリルのついた綺麗なメイド服に、背中には艦装、そして頭にはメイドカチューシャ。ついでに駆逐艦としては大きすぎる胸にいつの間にかなっている。
「うわー、この胸、大きいわね」
いつの間にかこんなに成長しちゃって、自分でも信じられないくらいである。胸の谷間に私の腕なんか収まってしまいそうで。それに、こんなに大きければ戦艦娘と大差ないほどとっても大きい。わぁ、これ巨乳とか爆乳とかの領域じゃない?
「……って、何これ!?」
ちょっと乗ってみたけれどもやっぱりありえないこれ! なんでいきなりキラキラのメイドコスになって、胸まで巨乳になってるのよ! えっ、シンデレラってこんなのじゃないでしょ、絶対!
「ツンデレラ〜。12時になる前に、海の上に浮かぶ鎮守府城の舞踏会に行って〜やって来るのですよ〜」
「いや、海の上の城!? どう言う意味!? と言うか、この胸部装甲は何!? ついでにツンデレラって何!?」
「ツンデレラ〜。12時までだよ〜」
そう言って、巻雲は消えた。
「……もうどうでも良いわ」
その後、私は鎮守府……いや、鎮守府城までやって来た。途中、大きな胸が揺れて、揺れて本当にやになっちゃう。こんなのに、魅力を感じるとかバカじゃないの!
「全く……あいつにあったら、さっさと帰ろう」
あいつが王子になったって絶対カッコよくないし……。それに、朝から仕込みとかがあるから早くこの世界から出ないと。
「よ、よし! さっさと入って即帰ろう!」
私はそう思って、扉を開けるとそこには電ちゃんと荒潮にデレデレしているあいつが居た。……な、何よ。意外に似合ってるじゃない。
「あの〜、君は……」
「わ、私はあんたの事なんて!」
そう言おうとした時、「鬼怒だよ〜! 11時56分だよ〜!」と言う声が聞こえてきた。
「鬼怒さん!? えっ、もうそんな時間!? 早くない!? 展開、早すぎない!?」
ええい。もうこうなったらやけよ!
私はそう思い、来た道を帰る。
「ちょ、ちょっと君!」
「ふ〜んだ! どうせ胸しか覚えてないだろうに! バーカー、バーカー!」
私はそう言って、階段を降りて、その最中に何故か頭のカチューシャを落としてしまう。
「えっ、このカチューシャ……ガラスでできてる!?」
何、このぐたぐだ劇!? 最初から最後まで早い!
「君〜!」
「ちっ、あいつが来た!」
私はカチューシャを落としたまま、あいつから逃げるように退散……
「はい、落としたよ」
の前に、何故か頭の上にカチューシャを置かれた。……って、
「アホかー! 届けんなー!」
と、あいつを殴りつけた所で目が覚めた。
「酷い夢を見た……」
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登場人物
メイドなツンデレラ;朝潮型三番艦満潮
意地悪な継母;暁型四番艦電(プラズマちゃん)
意地悪な義姉;朝潮型四番艦荒潮
魔法使い;夕雲型二番艦巻雲
天然王子様;提督さん
時を告げる時計;長良型五番艦鬼怒