俺、今年高校に入学した中通勇(なかどおりゆう)には困った悩みがある。それは小学生からの幼馴染である
剣持藤枝(けんもちふじえ)の事である。
藤枝は昔からトロくて、可愛くて、成績が良くて、無表情と言う、美少女だった。勿論の事、そう言った女子
と言う物は多くの場合に置いて虐めの対象になりやすく、藤枝も例に漏れずにいじめにあっていた。靴を隠され
ると言った初歩的な物から、クラス総無視と言うある意味残忍な物まで、彼らの頭の中はそう言ったいじめと言
う名の娯楽に飢えていたらしくて、レパートリーは様々だった。俺はいじめとかには興味が無くて、最初はただ
見ているだけだったのだが、そのうちエスカレートしていき、クラスでも一番の乱暴者が彼女に手を上げようと
した時に咄嗟に庇ってしまった。念のために言っておくが、その時の俺に彼女への同情がなかったとは言わない
。ただ、そんな同情よりも、やりすぎたと思っただけだ。クラスの連中も頭を冷やしてほしかった。それだけの
気持ちでかばっていた。とは言っても、人に出来る事なんて本当にちっぽけな物であり、俺が行ったのは彼女一
人の無視が、俺を加えた二人の無視に変わったと言うだけの話であった。一人ぼっちが二人ぼっちに変わっただ
けだ。
「まぁ、気にする事は無いさ。あいつらもそのうち、自分達がどう言った事をしでかしてしまったのか分かるに
決まっている」
こう言うのは、たいていその場の流れと言う奴だ。多くに従い、小数を虐める。良くある奴であり、分かりや
すい。彼らももう少しすれば、時と共に自分達がどのような事をしでかしてしまったのかを理解するだろう。た
ったそれだけの信望である。
「じゃあな、剣持。もう少し空気を読むように努力した方が良いぞ。じゃあな」
俺はその時、そう言って帰ろうとした。しかし、ガシッと俺の半袖が掴まれていた。
「…………」
心当たりは、容疑者は一人しか居らず、後ろを振り向くと予想した通りの人物、剣持藤枝が俺のシャツを握っ
ていた。しかも、絶対に逃がさないとまでのそう言った気合すら感じられるほどの強い握力で。
「どうした、剣持……。離してくれないと帰れないのだが」
「やだ。絶対に離れない。離れたらいじめられる」
「…………」
こいつはいじめと言う物には無関心で、どんだけ虐められようとも、虐められている事に気付かないうちに、
ぽっかりと忘れてしまうだろうと考えていたのだが、どうやら見当違いだったらしい。彼女は彼女なりに傷つい
ていて、そのために俺と言う存在を求めているにすぎないとそう思った。我ながら小学生らしくない発想だとは
思ったが、その時の俺はそう信じていた。
「剣持」
「藤枝で良い」
「じゃあ、藤枝。お前の考えは理解した。だが、俺はお前がどうなろうとも構わない。だからついて来るんじゃ
ねえ!」
「いや、私、決めた。あなたに付いて行く」
そうやって、先程よりもさらにギューっと握りしめる藤枝に、俺は冷たく当たった。
「触るんじゃねえ!」
「分かった……触りはしない」
それから彼女は俺のすぐ後ろに付きまとい始めた。それが当たり前に思われるくらい、ごく自然に。
小学生の運動会、俺が徒競走で走っているのに、あいつはその後ろを選手でもないにも関わらず、後ろにいて
走っていた。中学生、どんなにクラス替えや席替えが起ころうが、あいつの定位置は常に俺の後ろの席だった。
トイレや修学旅行先の部屋にまで一緒についてきたがり、クラスの連中や先生達が必死になって止めようとした
が、無駄だった。俺は藤枝とセットとして、二人で一人として扱われ始めていた。
――――今まではそれでも良かったかもしれない。なんだかんだで、あいつは俺の言いつけを守って自分から
触って来ようとはしなかった。俺も意地になって、あいつがどれだけ一緒に居ようが、俺は自分から話しかけよ
うともしないし、居ない物として扱ってきたのである。だが、高校生になり、それもそろそろ厳しくなり始めて
いた。
「くっ……!」
最近、藤枝の胸が成長しすぎてしまっている。昔は腹と胸の区別もつかないくらいまな板だったのだが、中学
2年生辺りから急激に大きくなり始めてしまっていて、今では高校一年生にも関わらず、胸の大きさでは学校一
の大きさになってしまっている。勿論、その学校一とは教職員問わずでそうなのである。詳しい大きさは尋ねて
いないので分からないのだが、少なくとも高校生で百四十を超えるのは大きすぎだと思われる。カップだと一体
どれくらいのサイズになるのだろうか? ともあれ、そんなのが常時背中に当たってしまっている、俺はいつも
息子が元気すぎで学校中の笑い者である。
「あぁ、くそう! 藤枝!」
「何?」
藤枝に問いかけると、藤枝はあの時となんら変わらないような、無表情そうな声で話しかけてくる。俺はちょ
っといらついたような声で、話しかける。
「お前のその、無駄に育ってしまった胸のせいで、俺が皆に嫌われてしまったではないか! どうしてくれるん
だよ!」
今もなお、俺の後ろに押し付けられてしまっているこの豊かに、そして大きく膨らんでいる柔らかな胸が俺の
背中に今もなお押し付けられている。その柔らかさは極上のタオルよりも柔らかく、そして確かな重量感が俺の
背中にのしかかってしまっている。
「前からこうだった。だから変えられない」
「そうは言ってもだなぁ……」
「それに私は言った。私はずっとあなたの側に居るって。昔からずっとこの位置だったから、今更離れる事なん
て出来ないし」
昔からその位置だったと言っていたが、昔と今では身体つきが変わってしまっていると言うのに、こいつは分
からないのだろうか?
「それに……あの時、あたしを助けてくれたのはあなただけなのだから」
藤枝はそう言って、俺の前に顔を出してくる。その顔はあの時よりも遥かに美しく成長していて、髪も伸びて
いたが、身長以上にその大きく育った胸は俺の視線を離さなかった。
「お前、こんなに綺麗になってたのか……」
「そうだよ、勇君」
そう言って、藤枝は「これからはここが私の場所だよ」と言いながら、俺の腕にその大きくて、豊満な胸を押
し付けるのであった。