宇宙人街。
そこは多様な宇宙人が住むため、入り組んだ構造になっており、慣れていない人間にはとても迷いやすい街なのだ。
優弥と川田の友達、松尾は1人裏道へと迷い込んでいた。
「もう……。迷ってしまったみたいだね」
と、1人松尾は小さく声を出していた。
今日は川田に連れられて、優弥の温泉へと向かっていた。しかし、その際に川田の暴走に引きずられるようにして、松尾は宇宙人街を右往左往していた。気付いた時には宇宙人街の裏道へと辿り着いてしまっていた訳だ。
「宇宙人街の裏道って所かな。まぁ、とにかく知っている道を探さないと」
そう言いながら松尾は歩いていると、
「ニャ〜」
「……あれ?」
どこからかネコの声が聞こえて来た。松尾はその声の主を探そうと、辺りをきょろきょろと見渡す。
別に松尾は猫好きと言う訳では無い。とは言っても極端に動物嫌いと言う訳でも無い。
『こんな場所で会ったのも何かの縁』。
一期一会を大事にしている松尾は、たまたまポケットにあったポッキーを取り出す。猫だろうから本当なら魚肉ソーセージか何かが望ましいが、これは仕方ないので猫には勘弁して貰おう。
そう思いながら松尾は、辺りをきょろきょろと見渡し、そして
「にゃー、なのですにゃ!」
……段ボールに入った猫耳を生やした銀髪の女の子が居たのであった。
その後、しばらくして元の道に戻った川田は優弥の温泉へと辿り着いた。川田は先に到着しており、松尾は川田に連れられて旅館の中へと入った。ちなみに優弥達は温泉で忙しくらしく、こっちにはこれないらしい。
「おー! 可愛らしい女の子だな! しかも猫耳とはギザ萌え――――――――!」
「……ちょっとうるさいよ、川田」
そう言って、松尾は川田にそう言う。松尾の後ろに居る猫耳宇宙人が声をあげる。
ネコミーミ宇宙人。それが彼女の宇宙人としての名前らしい。
「吾輩は猫なのにゃー♪ 名前はまだないのにゃー♪ そして猫は松尾様の物なのにゃー」
と、銀色の髪をした少女が言っていた。全身裸の猫耳獣人。身長としては松尾より小さいくらいだから150cmくらい。胸の大きさは多分、B。
ちなみに今の情報は川田から聞いても居ないのに教えられた情報。松尾にしてみればどうだって良い。
「あー、羨ましいぞ! 松尾! 優弥に続いてお前まで可愛い娘ちゃんと仲良くなりやがってこのこの―!」
「そう言われても僕は……川田のように女の子と付き合いたい訳じゃないんだけど」
そう。松尾としてはたかが学生の身で彼女を持つなんてどうかと思っているくらいなのだ。だから、川田のようにどうしてそう簡単に女の子と付き合えるのかが信じられないくらいなのである。
「にゃ、にゃにゃ? ご主人様は私は、お気に召さないかにゃ? じゃじゃ、ご主人様はどうやったら恩返し出来るにゃ?」
「恩返しって……」
多分、おせんべいを渡したお礼だと思うけれども。
それで恩返しって言われても……実感が無いんだけれども。
「ご、ご主人様が気に食わない事があるのならば、今すぐ直すにゃ。だ、だから教えて欲しいにゃ。どうすればご主人様に娶って貰えるにゃ?」
「娶るって……」
そんな言葉、どこで覚えたんだか。そう思っていると、川田が余計な事を言った。
「あの山くらい大きくなれば考えない事も無いな」
「山、にゃ?」
そう言って川田は窓の外、大きな山を指差す。そして猫は
「分かったにゃ! ご主人様、今すぐ神社星に行くにゃ! ご主人様、また来週会おうなのにゃ!」
そう言って、猫はとたとたとどこかに向かって走って行った。
「おい、川田……。どうしてくれるんだよ、話がややこしくなった」
「だってー……ここまでやらないと諦めそうに無かったじゃん。
大丈夫、大丈夫だよ。松尾」
「だと良いんだけど……」
松尾はなんとなく嫌な事が起こりそうな予感を感じながら、その日は帰ったのであった。終始、にやにやしている川田を松尾はジト目で見つめていたのであった。
一週間後。
松尾は優弥から電話を貰っていた。
何でも、『お前の知り合いと言うナイスバディなお姉さんが尋ねに来てるぞ』らしい。松尾はそれを聞いて嫌な顔を思い浮かべながら、温泉へと向かった。
川田と一緒に歩かない宇宙温泉街は松尾にとっては新鮮その物である。何せ、松尾はここで一人で来るのなんて考えもしなかったのだから。
温泉に入ると、
「あっ、松尾。今日は1人だったな」
『こんにちは、松尾さん』
優弥とノヤさんが松尾を出迎えた。ノヤさんは身体が巨体過ぎるためにパソコンから顔を覗かせているだけだけれども。
「絵草の間にお前の知り合いと言う人間が来てるぞ」
「……そうか」
松尾はそう言いながら、絵草の間へと向かっていた。しかしノヤさんがそれを止める。
『あっ、松尾さん。その方が名前をご所望なんですけど……』
「名前? 僕が名付け親に?」
もしかして……あの猫宇宙人だろうか? まぁ、そうとしか考えられないし。
名前か……。そう言えば無かったんだよな。名前。
「じゃあ、シュレで」
『シュレ?』
「シュレディンガーの猫のシュレ」
「『……』」
2人の顔が凍る。
何だよ。まぁ、あまりにも具体的すぎて言葉に詰まったのだろう。
感動は人を止めるから。
と、自身の名付けセンスを疑わない松尾はそのまま、絵草の間へと向かった。
☆
【絵草の間】
絵草の間と書かれたそこを開けると、肌色の壁と銀色の大きな毛の塊が見えた。
「ご主人様――――――――――――――!」
大きな声が遥か上から聞こえて来る。
上を覗いてみると、山脈クラスの胸を持ったナイスバディの猫耳美女がこちらをにこやかな笑みで見つめていた。
――――――――ウェディングドレスで。
そう、結婚式に女性が着るような服を着て。
「神社星の大伊勢神宮でお万度参りして願いを叶えて貰ったにゃ!」
「お万度……」
それは普通、お百度参りじゃないのだろうか。その百倍って……。
しかも神社星の大伊勢神宮と言えば、地球の伊勢神宮の100倍くらい大きいサイズだと聞くし。その代り、叶う願いも高いらしいが。
「川田さんの言っていた通りにゃ! あの山レベルのヤマを手に入れて来たにゃ!」
そう言って、彼女はその山脈レベルの胸をぼよんと揺らした。
……猫、いやシュレよ。川田は山脈レベルの『背丈』を言ったのであって、『胸』の事を言ったのではないと思うのだが。いや、大きい胸はヤマと表現する場合もあるにはあるが。
「しかも、にゃ! ご主人様は猫に名前をくれたにゃ! 猫の惑星、恩返しが大切! 猫、腹減りすぎて死にそうだったにゃ。それを助けてくれたご主人様は『イノチの恩人』にゃ! イノチにはイノチを返すにゃ!」
そう言って、彼女は松尾を手の平に載せて、その山脈クラスの胸の上に載せた。
柔らかく、温かい感触が足の裏から松尾へ伝わって来る。
「だから、ご主人様! にゃーの命を、にゃーを貰ってなのにゃ!」
そう言って、彼女は顔を微笑ましく笑顔にして松尾を思いっきり抱きしめていた。
こうして、松尾は『嫁』を手に入れたのだった。