恋愛悪魔のアパート 第8話「狐里水は体型を気にする」

帝国城摂政 作
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 アパート、『愛詩荘(アイシソウ)』。1階4部屋の2階建て、月給4万円で3LDKの間取りのちょっとした古ぼけた賃貸アパートなのだけれども、このアパートにはちょっとしたジンクス的な物がある。それは恋愛が生まれやすいと言う事である。しかもその恋愛がちょっと普通の人間的な物とは違っていて……。
 そして今この場でも、愛詩荘の一部屋でも恋が生まれようとしていた。

第8話・「狐里水は体型を気にする」
 九島玲人は愛詩荘の102号室の扉に手をかけると、「はぁ〜」と溜め息を吐いた。

「蘭さん、激しすぎるよなぁ……。身体が参っちゃうよ」

 彼の言う「蘭さん」とは、クラスメイトとなった桜色みがかった腰よりも長くて、お尻の辺りまで長く伸びた、長身のメリハリの付いたモデル体型の美少女の桔梗里蘭(ききょうざとらん)の事である。クラスで会った後、昼食の時も激しいボディタッチがあったし、それにお菓子もくれたりとコミュニケーションが多くて、桔梗里蘭の積極的なアプローチに既に既に初日から九島玲人は疲れていた。

「早く家で休もう……」

 そう思って扉のノブをゆっくりと回して、何も引っかからない事に玲人は「あれ?」と首を傾げる。九島玲人はそこまで神経質と言う訳ではないが、それでも一人暮らしをするにあたって戸締りは念入りに行っている。なのに、どうして鍵が開いているんだろう? 不思議に思いながら、玲人は部屋を開ける。

「……えっ?」

 玲人は自分の部屋を開けると、部屋の中に1人の少女が座っている事に気付いた。その少女はひどく幻想的な雰囲気を放つ、銀色の狐の耳と金色の狐の尻尾を持つ美少女であった。
 扉を開けるとその美少女はこっちに振り返るとニコリと微笑んでいた。銀色の髪は腰よりも長く伸ばされており、その顔には染み一つない美しい顔立ち。肩幅や手足、腰つきなども健康的かつ美しく出来ており、神が自ら作り上げた一つの芸術作品、そう言うような感じがしていた。身体の真ん中には自己主張が激しい、柔らかなバレーボールを2つ入れているかのように揺れる大きな胸が特徴だった。

(あれ……? あの眼鏡と制服……どこかで……)

 制服に関しては、今日玲人が行った高校の女性用制服である。それに眼鏡に関してもごくありふれたデザイン。どちらも1つ1つは取るに足らないような、別段珍しくもない物ではあるが、その2つを組み合わせた物を玲人は前にどこかで見た事があると思い返していた。

「あれ……? なんでだろう?」

 玲人は頭を悩ませる。記憶にはあるはずなのに、どうしても誰なのか分からない。
 これは玲人が悪いという訳ではない。実際、彼女が使っていた野暮ったい眼鏡は彼女が特徴を失くすように付けていた物であり、その時の彼女と体型が、特に胸の辺りが違うのだから分からなくて当然である。

「あれ……? どうして?」

 この時の玲人が言った「あれ?」とは、彼女が誰なんだろうという事よりも、彼女の身体に疑問を持ったからだ。別にアドバルーン並みの大きさの胸にビビったのではない。
 彼女が、部屋から玄関に向かっている彼女が、徐々に身体が大きくなっているからである。

「いや、違う」

 明らかに可笑しいと、彼女が天井に背中を付けている姿を見て確信した玲人だったが、その時には既に遅かった。
 彼女はその長い腕を彼にガシッとしがみ付け、そのまま彼を自分の胸元に押し付けていたのだ。

「〜〜!?」
「くすぐったいよ〜」

 嬉しそうな、どこか楽しそうな声をあげる彼女だったが、当の本人である玲人の立場からしたら違う。

 柔らかく、なおかつ弾力やハリ、そして確かな大きさもある。しかし、それと同時に息が出来ない。
 全身を文字通り包み込むその柔らかな物体は、彼の息を止めていた。

(柔らかい……でも……死ぬ……)

「嬉しい? 桔梗里さんの性格通り、演じてみたけど、いかがでしたか?」

 そう言いながら彼女からゆっくりと解放された玲人は、ゴホッゴホッと咳を吐きながら彼女を見る。そしてその声を聴いて、ようやく誰か分かった。

「……水、さん?」
「〜♪ こんな身体でも分かってくれるって嬉しい〜」

 そして再度、胸の中へと包み込まれる玲人。
 そしてぐんぐんと、徐々に成長していく彼女の身体と胸が、玲人をさらなる地獄へとやっていった。

(柔らかくて……温かい……。でも、死ぬ!)

 あの謎の液体を飲んでしまって地球人には普通出来ない体型変化を宿した事に彼女が気付くのは、酔っぱらった彼女が正気に戻った次の日の朝の事だった。

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104号室;
狐里水、高校生。15歳。
灰色のセミロングヘアーの野暮ったい眼鏡。身長は平均的で、胸は小さめ。
両親の影響からか、精神が希薄な面が目立っており、メイクをして演じる役柄を変えるような生活を送っていたが、玲人のさり気ない、彼女の素顔を見透かしたような言葉がきっかけで彼女に好意を持つ。
イルルがあげた薬で、体型変化能力を手に入れ、酔っぱらった状態で彼に迫った。

203号室;
イルル・シューベルト、宇宙の死神。??歳。
顔に仮面を付けた、長い艶のある灰色のポニーテールの男性。
放浪者。良く色々な場所に行っている。宇宙、それに地獄や天国などの変わった物を持ち帰り、愛詩荘の住人に与えている。