ぼーにゅう部 タだしくない力

帝国城摂政 作
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 ぼーにゅう部所属、梟木瀬良(ふくろうぎせら)。
 蝙蝠坂瑠璃(こうもりざかるり)によって「言葉によって認識を歪む力」を手に入れたその者は、彼女の、彼女達の番人として立ち塞がる。
 ある時はパシリとして手に入らない物を取りに行ったり、またある時は彼女達をバカにする人間に粛清を行ったりと……。

 小鳥遊結良(たかなしゆうら)は、そんな梟木瀬良によって粛清を受けた人間だ。
 自慢の胸は最近の小学生でもまず見ないようなAカップにされてしまい、さらには自身もトラウマを植え付けられてしまった。だけれども「彼女達に勝てない」とは思ってはいたが、「復讐したい」とは考えていた。どんな手段かは考えてはいなかったが、それでも結良は復讐を諦めてはいなかった。
 ――――そんな彼女が、あの女に出逢う事は運命だったと言えるであろう。

第汰話「タだしくない力」

「ここは……」

 結良が目を覚ましたのは、真っ黒の暗闇が支配する空間。全てが暗闇に包まれており、その真ん中には真っ白い光に包まれた人が居た。
 辛うじて身体の中央にある女らしい胸のふくらみ、Dカップの胸がその人物を女性である事を分からせているが、それ以外は何も分からない。そんな不思議な女であった。

「私は普通に部屋で寝て……それから……」

【あぁ、そうだな。君は普通に部屋で寝ていたなの。けれども、あなたがボクを起こしたのだから仕方がないなの。全く……迷惑極まりないなの】

 心底面倒そうな、けれどもどこか嬉しそうな声で語りかける白い女。

「あなたは一体……」

【そうだな、本名ではないけれども……とりあえずは【墓場探(はかばさぐり)クロム】とでも名乗っておきましょうなの。あなたの怒りによって長きに渡る眠りから、無理矢理起こされて少しご機嫌斜めの者なの】

「墓場探……クロム……」

 その名前は小鳥遊結良は初めて効く名前であった。だが、どこか懐かしさを覚えるようなそんな感覚もあった。

「ここは……」

【ここはあなたの深層世界……所謂、夢の中とでも言っておきましょうなの。そこにこのクロムがお邪魔しているような、そう言う認識でいて欲しいなの。
 ――――本来、このクロムが呼ばれるとは思っても見なかったなの。なにせ、このボクは既に存在意義を見失いつつあったから】

 長い間喋る事も、話すことも出来ず、会話に飢えているといった調子で、クロムは語っていた。
 その間、結良は喋る事が出来なかった。いや、会話を邪魔しようと思えなかったのだ。まるで子供に物語を語る母親の母性を感じた彼女は、クロムの言葉を遮れなかったのだ。彼女の意思が、本能が、「そうしろ」と命じているかのように。

【けれどもあなたは『運』が良い。いや、この場合は『丁度』良いとでも言っておきましょうかなの。
 ――――これを手に取れ、なの】

 クロムはそう言って、真っ白の光に包まれた手を差し出す。するとその光の手から浮かび上がり、1本の棒みたいな電子機器が現れていた。

「これは……?」

【とある科学者……ボクの同輩が作り出したメモリと呼ばれる物体なの。これを使用する事によって、あなたは――――力を得る】

「ちか、ら……」

 その言葉に、知らず知らずのうちに笑みを浮かべてしまう結良。
 ――――その瞳は、【復讐】の炎に燃えていた。

【このメモリを使いたまえ、ボクを呼び出すほどの【復讐】に燃えている小鳥遊結良よ。
 このメモリ、【テンプチャー】を】



 その翌日、梟木瀬良は苦虫を叩きつぶしたような顔を向けていた。なにせ昨日、完膚なきまでにトラウマを植え付けた相手、小鳥遊結良が不敵な笑みでこちらを見ていたからだ。しかも昨日、言葉の魔術によってそれもなんとかしたはずだが……。

「一体、どんな手を使ったのでしょうか?」

「ふふっ……それは秘密なのですよ。だけれども、今の私はあなたを凌駕する力を得たのです」

 どんな手段かは分からない。けれども瀬良にはそんなのは関係無かった。
 前と同じく言の葉の力によって、相手を縮ませれば良いのだから。

「【あなたは蟻のように小さい】」

 ……そう、この言葉によって結良は前と同じく言の葉の力で小さく……あ、あれ!?

「な、なんで縮まない!?」

 それどころか、彼女の身体は風船のように膨らんで行く。不敵な笑みを浮かべ、その胸元はたゆんと揺れる確かな弾力と共にぐぐっと膨れ上がって行く。

「【縮め!】、【縮め!】、【縮め!】」

 どんどん【縮め!】と、瀬良は言うけれども、それと反比例するかのように瀬良の身体は大きさを増していた。

「ふふっ、この私は力を得た。あなたのような、不可思議な力を。
 そして私はテンプチャースペクターとして、甦ったのだ!」

「温度の……亡霊……」

 呆然とする瀬良は満足げな表情を見せ、それを見て結良は自慢げな顔を浮かべていた。

「全ての物体には熱量、エネルギーがある。私はその全てを自分の力として、自分が大きくなるためのエネルギーとして流用出来るようになった。あなたが何らかの力で、他人を縮ませても……」

 たゆん!

 大きく揺れる自慢の胸を両腕で支えて強調し、結良は笑みを浮かべる。

「その他人に影響を与える力のエネルギーのみを吸収し……」

 どんっと、常人の数倍はあろうかという巨大になった手をこちらに向けていた。

「人体を巨大化し……その上でこうっ……」

 どんっと突き出した、巨体に似合った10mにも及ぶ胸の中に瀬良を挟み込む。

「この前は、私をあなたの手のひらサイズに乗るほどの小ささにしてくれましたよね! そのお返しを……いや、それよりも凄い力であなたを倒してみせましょう!
 くふっ、くふふ、くふふふっ!」

 その笑みは小さい物を虐める時の、【復讐】の笑みに見えた。


(ははっ! これだ! これなのだ!)

 小鳥遊結良は、これこそが本来の自分なのだと誇らしげに笑っていた。

 あの、墓場探クロムによって私は真の自分を見出した。
 誇るべき巨体の長身、女らしい母性に溢れた大きすぎる乳! この【巨大娘】とも呼ぶべきこの身体こそ、本来の私なのだ!

「ふはははっ! さて、次はこの女が慕うあの女3人組を殺そう。この私こそが……【復讐】の炎の熱によって永遠に巨大化するこの、小鳥遊結良こそ最強の生命体なのだ!」

【いいや、違うね】

 笑う度に大きな胸をぼよんぼよんと揺れ動かす結良の前に、クロムが姿を現す。

【気分はどうだい、小鳥遊結良?】

「上々よ、クロム! あなたが渡してくれた子の力によって、私は凄まじい力を得た! これで……私は全ての生命体の女王として君臨する!」

【……見事に復讐の炎に呑まれていますなの。まぁ、それこそが狙いだったから良いなの。
 それに……もう、あなたは生命体とは呼べませんから、構わないなの】

「それってどういう……うっ……」

 結良が説明を、どう言う事かを問いただす暇はなかった。
 彼女の全身は真っ赤に輝き、その胸と身体、さらにお尻などがその巨大さを増して行く。

「ど、どうして!? まだ大きく……なって……」

【この世に熱がない場所なんてないなの。全ての物体は個別の熱を持ち、あなたの【テンプチャー】メモリは熱を吸収して女らしく、巨大化するなの。つまり……延々と……】

 "……延々と"。
 その言葉に、死刑宣告でもするかのようなその言葉。

「いやっ……それって……このまま際限なく巨大化……で、でもそれだけ大きく、なるって訳で……」

【『巨大娘』は何故、『大きな女の子』なんかじゃなくて『巨大娘』と呼ばれるのか? それは大きな、巨大さで要られるからなの。普通の人間が大きくなっても、その人間は大きさで押し潰されてるなの。
 太っている人間は自らの体重、自重によって動きを鈍くするなの。それは身体が、筋肉が、その体重に……女らしさに耐え切れないから。

 それに精神的にもそう。
 どんどん小さくなる世界、どんどん動けなくなる自分。知っている者は全て消え、代わりにどんどん世界は狭く、同時に見えなくなっていく。
 それを喜ぶのは物語の女性のみ。1人ぼっちで居たい人間なんて居ない】



【――――さぁ、あなたはどこまで耐えられるなの?】





 数日後。
 宇宙に1つの星が生まれた。

 柔らかい、ミルクのような良い香りをするその星では、なぜか女の子の悲しい泣き声のような音が風に乗って聞こえるとの事だ。
 その星は――――今もなお、大きさを増している。