恋愛悪魔のドリームキャッチャー

帝国城摂政 作
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 どんな人間にも、夢がある。それと同じように、コンプレックスもある。
 この2つは切り離すことは決して出来ない、コインの表と裏のように。

 人間には、自分がなりたい姿がある。ある者はそれがサッカー選手になりたかったり、あるいはアイドルになりたかったり、はたまたヒーローになりたかったりなど様々だが、人々がコンプレックスを抱くのは、その姿と自分自身の今の姿、その差を認識・確認してしまうからだ。
 サッカー選手になりたいのにボール運びの技術が雑だったり、アイドルになりたいのに目鼻立ちが悪かったり、ヒーローになりたいのに力がなかったり。
 そういう風に、自分の姿を、将来なりたい自分と比べてしまうから、そう思うのである。

 大抵、人間と言うのはそれに折り合いをつけて生きている。
 他の長所を見つけて夢を挿げ替えたり、あるいは自分の顔とかを悪くないと思ったり、整形したり、そう言う風に自分なりに折り合いをつけて生きている。

 だが私、貞中暦はそうは思っていない。
 高校2年生ながら小学1年生に間違えられることなんてしばしばで、第二次性徴を迎えるも(中学1年の時に女の子の日は経験済)身体は平坦で、女らしさの欠片もない。
 私の身体を端的に分かってもらおうと思ったら、凹凸のない綺麗なお人形とでも言うべきだろう。
 
 そう、私の問題は、この女らしくない身体つき。
 
 頭もそれなりに優秀で、両親との仲もそんなに悪くなくて、そんな私にだって悩みはある。
 たった1つ、この身体だけが。この発育不足な身体だけが。

「でも、それも今日で終わる」

 3日前、私宛に手紙が届いた。この情報化社会で、ポストに直接、しかも郵送されていないことが丸わかりのタイプの。
 怪しい事この上なかったのだけれども、その手紙に書かれている内容は常軌を逸した、素晴らしいモノだった。


【初めまして、コヨミ・サダナカ様
 私は恋愛を成就するのを生きがいとする悪魔、名をアリステイル中西。長年、あなた様を苦しめている発育不足の問題、我々はそれを解決する素晴らしい道具をお送りしたく、この度、【恋愛悪魔のドリームキャッチャー】をお送りさせていただきます
 この商品は、あなた様の夢を取り込みます。そして、その夢を現実のものとする商品です。そして一番重要な事は、この商品の本質が、ドリームキャッチャー…良い夢を見せる、神聖な物である点です

 現実は良い事と同時に、悪いこともあなたに与えます
 大金を手に入れればやっかみや僻み、才能を持てば余計なマスゴミ、そして肉体を変えれば違和感があるでしょう
 しかし、これは夢です。それも良い夢です
 このドリームキャッチャーはあなたの夢の良い部分を叶え、悪い部分を全て取り除きます
 代償はありません、どうぞお気軽にお使いください】


 眉唾としか思えないような内容の手紙と共に、蜘蛛の巣のような装飾品が入っていた。
 ネットで調べたら、それがドリームキャッチャーと呼ばれる装飾品だった。

 購入した覚えもなかったし、ちょっと怖かったけれども、一度、使ってみた。
 "1万円が欲しい"って。


 寝て起きたら、びっくりっ!
 財布の中に1万円が、昨日数えた時よりも多かったの。

 それから何度か同じような事を繰り返して、これが信頼できると確信できた。
 だから今からあたしは、この【恋愛悪魔のドリームキャッチャー】を使って、理想の身体を手にいれる。

「あたしを、あのグラビアアイドルの沖末洋子並みの、ムチムチボディにしてくださいっ!」

 そう願いを込めて、私は眠りについた。



 一晩起きて、驚いた! なにせ小学生みたいな身体だった私が、180cmオーバーでGカップのムチムチエロエロで世の男達を熱狂させた、あの沖末洋子みたいな身体になってるんだから。

「凄い……この胸とか、本物にしか思えない……」

 ゆっくりと、自分の身体なのに自分とは思えない、大きな胸を持ち上げる。
 手を胸の下まで持って行って、上へと押し込むように持ち上げると、たゆゆんっ、と大きな胸の感触と共に質感を、自身の身体だってことも感じる。

 ‐‐‐‐でも、重いとは感じない。

「信じられない……適度な張りや重みは感じるけど、それが苦痛だとか苦しみとかには感じないわ」

 鏡に、自身の姿を映して、何度も確認するも信じられない。
 前へ大きく突き出た溜まらないような胸、それなのに同じ人間とは思えないくらい細い腰。踏んで欲しいと大好評だった揉み心地がありそうなお尻に、今までにはない高身長の景色。

 素晴らしい、これこそ私が望んでいた、大人らしい姿っ!
 誰もが羨む、美しい私の誕生であるっ!

「あぁ、本当に、今でも信じられない! 嫌な感じもないし、代償もないし、それに良い部分しか私にはない!
 本当に、素晴らしすぎるモノよ、これは!」



「あぁ、本当に素晴らしいな。これは」

 と、ぼくは窓の側で裸で自身の、自慢となった裸体を見せつける彼女‐‐‐‐貞中暦に対し、そう呟く。
 彼女は僕の事が見えていない、なにせ"覗きがバレるなんて悪夢を、ぼくは望んでいないからだ"。

 そう、彼女は本気で、あのドリームキャッチャーの性能に満足しているが、あの商品の本当の恐ろしさに気付いていないのだから。
 まぁ、こんな重要な可能性を見落とす事こそ、この商品が【購入者の良い部分のみを見せる】ドリームキャッチャーたるゆえんなのかもしれない。

 自己紹介がまだだった、僕の名前は"・・・・"という名前。
 おっと失礼、あの【恋愛悪魔のドリームキャッチャー】があるのに、名前なんてのを教えられるはずがなかったね。

 そう、【恋愛悪魔のドリームキャッチャー】は、"購入者"の夢を叶える、魔法の道具である。
 彼女はどうも勘違いしているようだが、あれはぼくの望みを反映している。

 彼女に意思はある、けれども"あの身体になりたい"まで。それが彼女の望み。

「ぼくの望みは、その先だよ」

 沖末洋子は、確かに食らいつきたくなるくらいの身体であることは確か。
 けれども、どんな夢も叶えることが出来るし、どんな望みも思いのまま。
 そんな素晴らしいモノがあるのに、どうして誰かそっくりな身体つきで満足しないといけない? そういう話である。

「夢を叶えるだけなら枕でも良い、けれどもあれはドリームキャッチャー。
 ふわふわと浮かぶ夢を捕らえるなら、別に同じ家でなくても良い。まさか、隣の家で夢を操っているとは、思いもしないでしょう。そう、本当に、想いもしない」

 さぁ、夢の時間はこれからだよ。暦ちゃぁん?