世にバレンタインデーなる、不幸の極みだと嘆く男共よ。
何故、そんなに嘆く必要がある?
女の子からチョコを貰えないからか? 独り身が寂しいからか? 貰える奴が妬ましいからか?
卑屈な者達よ、なぜ、そうネガティブに捉える?
少なくともこの僕、相沢裕(あいざわゆう)はそうは思わない。
確かにこのバレンタインデーは、お菓子業界の陰謀論がささやかれるようなモノだが、その陰謀に加担しようという気概こそ、我々に必要なモノではないか?
‐‐‐‐結論。
バレンタインはチョコを貰う日ではない、菓子業界がこぞって作り上げた特別なチョコ菓子を思う存分、買い漁る日である。
2月14日、僕はルンルン気分で、都会の街中を歩いていた。
バレンタインは実に良い。あのお店では限定ケーキ、こっちのお店では限定クッキー、別のお店では限定プリンといった、チョコの見本市が開かれているからだ。
甘くて美味しいチョコのお菓子が、職人達によって生み出された限定品が僕を待っているっ!
あぁ、なんて素晴らしい日なんだ!
「……とは言え、ちょっと買い込みすぎてしまったか」
いけない、いけないと僕は自嘲する。
バイトしているとはいえ、高校1年生の身で3万円というのは大きい買い物だ。
お目当てのモノ以外にも、お勧めをついつい選んでしまったのが原因だが、これ以上は僕も食べきれない。
それに、もうそろそろ6時だ。時期的な面もあるし、これ以上は暗くて危ない。
食べきれないということは、お菓子にとって、作った人にとって、失礼な行為だ。
もうそろそろ帰るべきだろう。
家に帰って、まずはケーキから口にしよう。
「あ、あのっ!」
そう思った時だった、目の前に1人の少女が現れたのは。
‐‐‐‐なんていうか、デカい。まず第一に僕が思ったのはそういう印象だった。
身長は多分、190後半くらい。大きめの男性用スーツが、彼女が着るとまるで子供用の服を無理やり着せたような窮屈な格好になっている。
次に目を引くのが、女性の象徴たる胸。山のように大きく膨らんでおり、ロケットのように大きく前に突き出している。目測だが、恐らくはHカップはありそうである。
そして、最後に目をひくのは、彼女が重そうに持っている大きな袋。どこかのデパートの袋だろうが、その袋からは甘い、良い匂いがしてくる。
そして、そんな彼女の事を、僕は知っていた。
「あっ、確か丘の上の」
「そういうあなたは、相沢君ね。こんなところで会うなんて、偶然ね」
件の彼女、若々しい10代後半に見えるこの方は、近くに住む宮野さんと言うお母さんだ。確か、母がむちゃくちゃ若くて、むちゃくちゃおっぱいが大きい人が越してきたと、話していた覚えがある。
確か、娘さんと2人暮らしだとかなんとか聞いた覚えがあるのだが、それ以上は良く知らない。
と言うか、母に写真をチラッと見せられて、印象的だったから覚えてるぐらいの間柄だった。
「もう夜も遅いし、帰るほうが良いわよ……って、こんなおばさんに言われても仕方ないわよね」
「い、いえ、もう帰りますんで、お気遣いなく」
僕としては、チョコを食べに帰りたい気持ちと、こんな美しくておっぱいがぶるんぶるん揺れる女の人相手だと緊張してしまって恥ずかしいという気持ちの両方がせめぎ合っていて、適当に理由をつけて、とっとと帰りたかった。
けれども、それは宮野さんの言葉によって、その考えは吹き飛んだ。
「そうだ、実は近くのデパートで売っていた、高級和菓子チョコがあるんだけれども一緒に食べない?」
「ぜひとも!」
‐‐‐‐だって、5万円の超高級チョコには勝てないでしょう。うん。
☆
宮野さんの家は、僕が住んでいる家から道を2つ挟んだ住宅街にあった。その住宅街にある、ひと際大きい家。それが宮野さんの家だった。
「大きいですね」
「えぇ、母と父が資産家で。後、"色々と"都合が良くて」
色々と、という部分をなぜか強調しているのに、ちょっとだけ違和感を覚えるも、僕の心は高級和菓子チョコで頭がいっぱいだった。
「さぁ、入って。今、準備するから」
「お邪魔しまぁ……す?」
と、入ろうとしたとき、玄関にかなり大きめの靴が置いてあることに気づいた。
宮野さんが脱いだ靴も相当大きかったが、このスニーカーはそれよりも2回りほど大きい気がする。どれくらい大きいかと言えば、靴の店の展示品として置いてあるような、履けはしないだろうと思えるくらい大きな靴くらい。
「(ちょっぴりお茶目な面もあるのかな。こんな、履けそうにない靴を置いとくなんて)」
僕はそう思いつつ、家の中へ入っていく。
結論を言おう、高級和菓子チョコは絶品だった。舌の上で柔らかく溶けていく感触は、もう二度と忘れる事はないだろう。
あと、その隣で嬉しそうに笑う宮野さんの、たゆんたゆん揺れる視界の暴力の事も。
お邪魔しましたと言って、帰ろうとしたその時だった。
だんだんっ、と大きな音と共に、2階から1人の女性が下りてきた。
「(でっか……)」
本日、二度目である。しかし、その感想は1回目よりも、遥かに凄かった。
なぜなら出てきた女の子は、190cm後半はあろうかという宮野さんよりも、さらに大きかったからだ。
恐らくは2mは軽くあろうかという感じだろう。
銀髪のツインテールに、西洋人形を思わせるような端正な顔立ち。
愛らしい子供のような顔立ちなのにも関わらず、身体つきは僕の身体くらいありそうな突き出たおっぱいに、どこまでも触っていたくなるような柔らかそうなお尻。という、ボンッッッ、キュッ、ボォォォォンといった感じの凄まじいボディライン。
まるで、現世に降り立った女神様のようである。
そんな彼女は頬を真っ赤にして、階段の上から僕の事を見つめていた。
「あっ、姫ちゃん。下りてきたの?」
"姫ちゃん"、宮野さんがそう呼んだことで、この女神ちゃんがこの家の娘さんであることがはっきりした。
と言うか、姫というよりも、女王様のような貫禄の持ち主である。
「…………」
その姫ちゃんはと言うと、右手を胸の上に載せて、深呼吸しながらゆっくりと階段を下りてくる。
彼女にしてみれば、恐らくは自分の気持ちを落ち着かせようとしているのかもしれないが、僕からしてみれば、呼吸するだけでも目に毒だ。なにせ、その呼吸をするたびに、そのバルーンボールのような胸がゆっくりと膨らんだり、しぼんだりを繰り返すのだから。
そして彼女は階段から下りると、そのままゆっくりと僕の方へと歩いてくる。
‐‐‐‐ぶちゅっ!
「〜〜〜〜っ!」
そしてそのまま、僕の口に、自分の口をくっつけた。いや、もう舌まで入れてきた。
どことなく、チョコのような甘ったるい感触が伝わってくる。
彼女は耳まで真っ赤にして恥ずかしそうにしているのに、何故か舌を入れる速度は止まらない。
「(と言うか、それ以上に柔らかいっ!)」
彼女が口づけしているために、彼女の特大おっぱいが僕の身体に押し付けられてくる。
たゆんたゆんっと、しっかりとした重量感を持ったおっぱいが、僕の身体に押し付けられてくる。
極上の感触の布団の中に、自分の身体がしっかりと入り込み、そしてどんどん押し付けられるような、そのような感触がある。
柔らかく、どこまでもその感触に浸りたくなってしまうような、どんどんとその天国にいるような心地よさが自分の身体に伝わってくる。
「いや、ちょっと!」
これ以上は流石にまずい、そう思って僕は彼女の身体から慌てて離れる。
そして、彼女は----顔を真っ赤にしたまま、
「……どうでしたか、チョコの味、しましたか?」
と、彼女はそう言ってくれるのだが、それ以上に----僕はもう、彼女の胸の感触しか覚えてなかった。
ーおまけー
「もう、お母さん! お兄ちゃん、すっごい困ってたじゃない!」
「姫ったら、いきなり大胆にも口づけするからよ。相沢君も困ってたんじゃない?」
「……うっ、だって」
「大体、"好きな人にチョコを渡したい、けれども誘うのが怖いから手伝って"なんて言われて、お母さんびっくりしたわよ」
「だっ、だって! いきなり行ったら……お兄ちゃんも、困るかな……って」
「もう、姫ならそのおばあちゃん譲りのダイナマイトボディなら余裕なのに……きっと、口づけの時に相沢君、ドギマギしてたわよ?」
「そ、そうかな? お兄ちゃん、高校生だから中学生の私なんて、子供っぽいと思ったんじゃ……」
「大丈夫よ、自信をもって。ねっ、姫ちゃん?」
「‐‐‐‐うっ、うん」
「それに、宮野家にはおばあちゃんから伝わる言葉もあるのよ。【恋する乙女はさらに女らしく成長する】って」
彼が帰った後、母娘でそんな会話があったとか、なかったとか