バレンタイン 後日談

帝国城摂政 作
Copyright 2020 by Teikokujosessyo All rights reserved.

 宮野姫による、相沢裕に対する大胆すぎるバレンタインプレゼントから数日後。
 彼女は、そこから少し離れた場所にある中学校に居た。

 ‐‐‐‐聖アリア大学付属女子中学校。
 100年以上続いている名門中の名門で、県内各地から名家と呼ばれる少女達が数多く在籍している。
 ある者は財界の娘、また別の者はテレビ関係者の娘。現役アイドルから、社長の娘と言った、世に言う《お嬢様》と呼ばれる高貴な人々の中で、ひと際目立っている少女。
 それが中学2年生にして、この学校一美人でスタイルが良いとされている、宮野姫なのであった。

 そんな宮野姫はと言うと、自分のクラス----2年A組のクラスで、バレンタインの事について、親友の浅黄丘明日香(あさぎおかあすか)に話を聞いてもらっていた。


「いや、それはないわぁ〜。ひめっちよ」

 で、バレンタインでの出来事、とりわけチョコレートを唇に使ったキスの話を姫がした途端、明日香は頭を抱えながらそう呟いた。

「えっ?! で、でもっ、《キスしたら良いよ》って教えてくれたのは、あずあずじゃん……」

 一方で、姫の方も親友の対応に、ちょっぴり不満気な様子を見せていた。
 姫は、どうしても相沢裕----あの人にチョコレートを渡したかった。
 何故なら彼は、姫にとって、大事な人だから。



 姫が彼に会ったのは、2年前の1月。ちょうど、この中学校の外部入学試験があった日の事だ。
 学力的には問題なしと親、教師揃って太鼓判を推されてはいたのだが、元来、緊張しいな臆病な性格である彼女は----吐いた。主にストレス系のやつで。
 試験に向かうバスの中で、それはもう、ちょっぴり大きめの水たまりくらいに。
 その頃の彼女は眼鏡もかけていて、身長も小学生にしても小柄で、はっきりと言ってあまり可愛くはなかったと思う。

 当然ながら、そんな目をひく程の容姿ではなかったので、彼女の事を助けようと動く人はいなかった。
 姫自身もそれが当然だと思っていた。もし自分が相手の立場だとしたら、関わり合いになりたいと思わない。だから、それが当然の反応だ。

 当然、だと思っている。
 そう、当然。
 誰しもが当然で……

「ほら、大丈夫?」

 そんな時だった、彼がハンカチを差し出したのは。



 その人が、相沢裕という名前だと知ること。それから彼が私を助けた理由が、一緒に乗っていた好きな女の子にかっこつけるためだということ。その2つを知るのは、後の事だった。
 けれども、その時の姫にとっては、彼こそが、こんな状況で助けてくれる、絵本の中の王子様のように見えたのだ。



「で、その王子様のことを調べたのは良くて、その上でその女の子さんに彼氏が出来て、だから今こそは〜っていう気持ちになったひめっちの気持ちは分かるよ」

 うんうん、と頷く明日香。
 彼女はとある名探偵の孫で、それなりに金持ちだ。後、スタイルも良い。
 中学2年生にして、身長168cmのFカップというのは、かなりスタイルが良いと言えよう。

 ‐‐‐‐けれども、姫には負ける。

 入学した当初は140cmくらいで、銀色のツインテールへアーと人形を思わせる愛らしい顔立ちで、話題となった。けれども、それはあくまでも可愛さで、だ。
 それから、なんか見る見るうちに成長していって、それと同時に愛しの王子様への想いも日に日に強まっているようだった。
 流石に一人で5m近いマフラーを、無心で編み続けている姿を見たときは、明日香もかなり動揺していたくらいである。

 そして、今では、身長228cmというギネスレベル。それなのにウエストは80cmというくびれはっきり感。
 豊満で吸い付きたくなるようなバストは、129cm‐‐‐‐およそ、Kカップ。
 ちょっぴり大きめなのを気にしているとされるヒップは、116cm。

 そして本人には絶対には言わないけれども、これは絶対過少報告気味で出しているだろうなと言う事は、名探偵譲りの推理力を持つ明日香は気づいていた。

「(めっちゃデカくて、その上、めちゃくちゃ美人……。
 性格もちょっぴり自分に自信がないことを除けば、奥ゆかしくて可愛らしいだろう)」

 実際、本人非公認のファンクラブまで出来ているくらいである。
 ここ、名門の女子高なのに。

 アイドルやらモデルやら、本職の人たちも通っているのに。
 ‐‐‐‐まぁ、彼女達、当人自身が入っているんだけれども。

「(そんな娘がたった1人の王子様のために、一生懸命頑張っている……。
 頑張っているから応援したいんだけど‐‐‐‐‐)」

 そう思いながら、明日香は姫を見る。
 姫はと言うと、キョトンとまるで子リスのように首を横にする。その際に彼女の胸がたぷるるるんっと、巨大バケツプリンのように揺れていた事も忘れずに。

「でもね、流石に舌を入れてのキスはやりすぎ。ひめっち、えっちい」
「えっ、えっちい!?」

 あわわわ、と酷く慌てた様子だが、明日香からして見れば、もう存在自体がえっちい、なので、話を続ける。

「良い、ひめっち? 普通はね、付き合ってもいない者達同士が、唇にキスってのもやりすぎなくらいなの」
「でっ、でもあずあずは、《絶対、印象に残って忘れない》って……。祐さん……私のこと見ても、ちっとも気づいてないみたいだし。そりゃあ、げろまみれの女の子の事なんて、忘れていてもしょうがないけど……」

 普通は、そんな印象的な娘は忘れないはずである。
 多分、気付かなかったのはそのでっか過ぎるお胸様やら、枕のようなお尻様だとか、その他もろもろの場所だと思ったのだが、今は彼女に自覚してもらわなければならない。

「ひめっち、確かにキス作戦は良いと提案したのは私だよ? でもね、私としてはほっぺに軽くキスレベルだったの。仲が良い夫婦が、朝行ってきますのチューしてるレベルのやつ」
「えっ……でもお母さんとお父さんは、いつも舌とか入れてるよ。朝の時に」
「ひめっちの、両親の凄まじいいちゃらぶっぷりについては、さておき。
 これじゃあ、ホワイトデー、王子様からはもらえないかもしれないよ?」
「どういう事、あずあず?」

 身をより出して、机の半分以上をたっぷりと重量感がある胸に載せた彼女に、明日香は分かりやすく説明する。

「世間的にはバレンタインに女性からチョコを貰った男性は、よほど人格的に問題とかない場合はホワイトデーにお返しをするものなの。まぁ、私としては、その際にひめっちが《お返しはデートで》作戦で、裕さんと徐々に仲を深める計画だったんだけどね」
「うっ、うん……。デート、楽しみだったのに」

 そのデートのために、インサイダー取引で1億円稼いで、そのお金をデート代にしようとする、健気な女子中学生。
 ……突っ込みどころが多すぎるので、明日香は当然スルー。

「けどね、問題なのはひめっちがやったのが、大人のキスだったこと。それもその、エロスボディで、お胸を押し付けたりとかしてさ」
「エロス……ボディ?!」
「一々、驚かないでよ。話が進まないから」
「そんなエロスなボディなんて、私してないよ! あずあずの気のせい! きっとあずあずの方が魅力的だもん」
「止めて、なんかこう……傷つくから。主に精神面で」

 自分より魅力的な身体つきの、同姓で親友の明日香でさえ、帰ったら姫の身体を思い返してむんむんとしてしまう、それほどの大きなお胸を持つ姫に「魅力的」だなんて言われても、悲しくなるだけだ。

「ひめっちは、自分の魅力を自覚した方が良いの。多分、祐さんはお返しになにをするか、すっごい困ってる。男には、謎のバレンタインチョコ2倍お返しルールってのがあるから」

 1000円のチョコレートをくれたから、2000円分のお返しを。
 10個入りの箱入りチョコレートをくれたから、20個入りのお返しを。
 一概に2倍と言えるかどうかはともかくとしても、出来ればくれたものよりも、大きめで返したいというのが、ホワイトデーにおける男性の心境だ。

 明日香の元の計画としては、キスでほんのりと誘惑し、その上で明日香が仲を取り持つ形でホワイトデー前に、お返しをデートと言う行為にすることで、2人ともWin-Win系な計画だった。
 だが、姫が無意識的にやった行為だと、デートではバランスが取れなさすぎる。

「多分、計画通りに裕さんはひめっちの事で頭がいっぱい、胸いっぱいって感じだと思うけど、ひめっちのお返しとなるとちょっぴり困っちゃってるかも。多分、デートを提案しても、このままだと《いや、それでは申し訳ないから》って受け入れてもらえないかも」
「そっ……そんなぁ……」

 まるで自信があったテスト全てで0点を取ったかのように、今世紀最大級の絶望した表情を浮かべて胸ごと机に突っ伏す姫。

「(しっかし、ひめっちも、もっと自信を持てば良いのに。わざわざこんな面倒な計画にしなくとも、ひめっちならイチコロだろうに)」

 まぁ、それも姫----いや、宮野家の家系なのだろうと、明日香は考える。
 【惚れた男に一途】……いや、【惚れた男を逃がさない】と言う感じだろうか。

 すでに姫は身体的な面でも素晴らしい発育を披露しているが、運動神経も良く、その上で軽く株取引で1億を稼げるほどの知能もある。
 元々は、極々普通の、ただの一般的な家系の女の子とは思えないほどの。

 それが【恋する乙女はさらに女らしく成長する】という、姫の母親の口癖の通りだとすると……

「裕さんも大変だねぇ〜」
「どっ、どうすれば良いのかな、あずあずっ!」

 とは言え、親友の悩みを放っておくことは、明日香には出来なかった。

 なので、"1つだけ"と言って姫をそれ以外の道に考えさせる余裕を無くすように、そういった探偵的なテクニックを使って、姫に1つだけアドバイスをした。



「なら、とびっきりのホワイトデーのお返しを考えたの。
 デート以上で、それでいてひめっちの魅力で裕さんメロメロにしちゃうような作戦を」