小学生の頃、長井千草は良く転校する子であった。
別にそれは親の事情であるし、そのことについて彼女が恨んでいるとかは決してない。
しかし、彼女にはどうしても許せないことがあった。
それが、名前である。
良く転校する子出った彼女の名前を、覚えてくれる生徒は少なかったのである。
だから、だろうか。
転校する際に貰う色紙には、「中居さん」だの、「赤城さん」だの書かれていた。
一番ショックだったのは、一番仲良くしていたと思っていたはずの女の子の友達から、別れ際に「あずさちゃん」と名前を間違えられた事だろうか。
この件に関しては、彼女は未だに悪夢として良く見るくらい、トラウマになっているくらいだ。
故に、長井千草は考えた。
名前を覚えてもらうのが難しいのならば、自らがそう近付けば良いんじゃないか、と。
そう決めた彼女は、髪を伸ばすことにした。
「髪が長い=長井さん」というイメージを定着させようとしたのである。
そうして伸ばし続けて、彼女は腰まで伸びる長髪を手に入れた。
中学の入学式を皆が真剣な表情で受ける中、彼女だけはこれで間違えられずに済むと、1人違う決意を固めていたくらいである。
そして、中学生の生活にだいぶ慣れてきた5月の半ば。
彼女は、クラスメイトの男子からとんでもない挨拶をされたのである。
「おはよう、ちぶ……いや、長井さん」
「ちぶっ?! ねぇ、それってどういう間違え方なのかな?!」
怒り心頭の長井さんに詰め寄られながら、クラスメイトの男子は考える。
本人的には意識して伸ばした、腰まで伸びる髪。
----それよりも、本人的には全く意識していない、中学生離れしためちゃくちゃ大きな、推定Hカップはありそうな胸。
たゆんたゆんっと、意識してないからこそブラジャーをしていない、その大きな胸。
それ故に、皆の間で、「乳房さん」と呼ばれていることを、どう隠して伝えようかな、と。