「アレ、一体何なのかしら。ツグミなら知ってるんじゃない?」
「一応生きているみたいだけども・・・さすがに私にも分かんないよリリ姉」
プーシ星出身の、双子の姉妹であるリリとツグミ。
2人は温泉の入り口付近から聞こえる音に気付き
お客が来たのだと知り、こうして入り口までやって来たようである。
だがそこにいたのお客は、「人」の姿では無かった。
「でっかいアサリだねー!いやハマグリかな?」
「どっちでも良いでしょ、それより何で温泉の前にこんな巨大な貝が?さっきまで無かったのに」
温泉の前に突如現れた、巨大な二枚貝。それも100メートルはありそうな巨大貝である。
つい数時間前までは何も無かった温泉の玄関付近は、今では巨大貝で大きな影になっていた。
一体誰が設置したのか、全く検討が付かない2人であった。
「聞こえてたよね、ズッズッて動いてくるような音。温泉に来て入りたかったのかな?」
「あのねツグミ、貝がこの温泉までやって来たとでも?そんなありえない話・・・」
「あのー、温泉に入りに来たんですけどぉ・・・」
突如当たりに響き渡る大きな声。その声の聞こえる方向に振り向く2人。
そこにあるのは、あの巨大貝だけである。
「あの、私クラック星から来たシェルって言います・・・」
だがこの弱々しくも可愛らしい声は、この巨大貝から響いて来たのであった。
「ありました!宇宙生物事典に!クラック星に昔から住むという人語を話す二枚貝。確かにこう書かれてますね」
モニターからノヤが答えてくる。
リリとツグミがノヤに宇宙ネットで調べてもらったのだが
どうやら彼女、シェルの言葉は正しいらしい。
「まだ続きがあります。その姿から貝の怪物として迫害されていた、らしいですけど・・・」
「事実です・・・確かに私達の種族は、喋る奇妙な二枚貝だって昔から色々と言われて来ました」
そう語るシェル。貝なので表情の変化は無いのだが
彼女が落ち込んでいることはその声からよく分かる。
「ごめんなさい、私もツグミも悪気は無かったの。ただ始めて見る種族だから驚いちゃって」
「いえいえ、初対面でのこういう反応は、慣れてますから」
「シェルさん、今日はここへ温泉に入りに来たんでしょ?なら早速こっちに来て!一流の体洗いのサービスもあるから!」
彼女の暗い雰囲気を何とかしようと、持ち前の明るさでシェルを奥へと招き入れるツグミ。
シェルはズッズッと滑るように移動しながらツグミの後を追う。
「私、この星に来た目的はそれなんです。今日はその体洗いの人に貝の表面を磨いて欲しくて」
「大丈夫!今まで古今東西あらゆる種族を相手にしてきたウチの優弥さんは誰でもオッケーだよ!」
「ユウヤ、さんって言うんですねその方。なんだか楽しみです!」
こうして巨大な二枚貝であるシェルの体洗いを行う事になった優弥。
今回はどんなハプニングに巻き込まれるのだろうか・・・。
「じゃあ、まずは上から洗っていきますので」
浴場にやって来たシェル。待っていた優弥はさっそく貝のてっぺんに何とかよじ登った。
そしていつものように体洗いを開始するのであった。
「あの、優弥さんは私を見ても驚かないんですか・・・?」
少し怯えながら優弥に尋ねたシェル。だが優弥はいつもどおりの口調でこう答えた。
「もちろんですよ、それに話していてシェルさんが凄い優しい方だってよく分かりますし」
その言葉にシェルは衝撃を受ける。初対面の人にこんな事を言われるのは初めてだった。
驚かれたり不思議がられたりはしても、可愛いだなんて・・・。
「貝の怪物だなんてホント酷いですね。シェルさんは、こんなに可愛らしいのに!」
「ゆっ、優弥さん・・・!」
その瞬間、優弥の足元が大きく揺れる。思わず巨大貝の上から転げ落ちてしまう優弥。
落ちていく優弥の体は最終的に、ある場所へと転がりながらすっぽりと収まった。
とても柔らかい、もにゅもにゅとした肉感的な塊。
そんな塊に両側から、力強く体を包み込まれる優弥。
もちろん彼自身には、悪気はなかった。
だが優弥は今回もまた、巨大なおっぱいの谷間に挟み込まれてしまったのである。
しかし優弥の驚いていた事は、それとは全く別の事柄だった。
「へっ!?あ、あなたは一体・・・貝が開いたら中から・・・」
「すっ!すいませぇん!!つ、つい貝を開いちゃってっ!」
その後、声から想像付く可愛らしい容姿そのものの人物であったシェルが
真っ赤な顔で恥ずかしがりながらも、優弥に語りかけた。
普段は貝の中にいるが、実は貝の中に入っているのは人間のような姿の種族である事。
そしてこの貝は服のようなものであり、貝の中の姿を晒すという事は
地球でいう全裸の姿を晒してしまうような、とても恥ずかしい事なのだと。
「私ったら、優弥さんが優しくしてくれたもので、つい何だか・・・」
「俺こそすいません!そんなに見られて恥ずかしいものだ何て!」
背中合わせで赤面している優弥とシェル。先に振り向いたのはシェルであった。
「あっあの、優弥さん!頼みたいことがあるんですがっ!」
「な、何ですか・・・?」
「わっ、私の体を洗ってくれませんか!?この貝を脱いだ私を!!」
真っ赤な顔をしながらも、貝から完全に出てきたシェル。
透き通るような白い肌を輝く金髪が眩しい。
そして今まで全く気が付かなかった、とてつもなく大きな胸。
「もちろんです、それが仕事ですから!」
優弥は早速、いつものように足の先から彼女の体に登っていくのであった。
「ありがとうございますね!また来ますから・・・」
来た時と変わらぬ姿で帰って行くシェル。
だがその声には、さっきまでは無かった元気さが溢れていた。
「優弥さんったら、まーた女の子に好かれるなんて・・・何て言うかさー」
「あのなツグミ、別にそんな変な気は無いって。あくまでお客さんとして丁寧に接客しただけだって」
「でもシェルさん、絶対またここに来るね!それも優弥さん目当てでさ!」
「それで儲かるなら私は大賛成だけどね!さあっ!今後とも頑張ってリピート客を集めなよ!優弥!!」
突然優弥の後ろから現れてポンッ!と肩を叩き
この台詞を言い終わると、貴子はまたフラフラと消えていった。
「ツグミ、俺ってそんな女タラシに見えるか?なるべく優しく親切に接してるつもりなんだが」
「そういう発言がもう天然のタラシでしょ、優弥さん・・・」
今日もまた多くの女性客を相手にする優弥。
そして多くの宇宙人たちに気に入られている事に、本人は気付いていない・・・。