集会場は、水をうったように静まり返っていた。
出撃前の緊迫感。これから戦に向かうという、兵士の命の鼓動。
死ぬかもしれない。敵兵の命を狩らなければならない。
そういった緊張感が、出撃前の集会場には必ずあった。
…が、今回は違った。
兵達は別の意味で硬直し、そして驚いていた。
それは、集会場の壇上にたつ、ユルキナ騎士団長にあった。
普段ならここでユルキナは皆を緊張から解く為に、ニッコリと笑い、皆に向かって手を振る。すると、兵や、ユルキナを一目見ようと城に許可を経て入ってきた一部の城下町の民が騒ぎ始め、一気に明るいムードが城全体を包む。そして兵の士気は一気に高まり、その状態で戦線に出て、勝ってきた。
それが今までだった。しかし…
ユルキナが壇上に立つ。しかし民や兵は、驚きや疑問に満ちた顔を、笑顔にすることは出来なかった。
ユルキナの乳房は今や、頭よりも大きく、ふくよかに膨らんでいたのだ。
以前はユルキナの装備する胸当ては、胸を覆う位の丁度いい鎧だった。
しかし今では、胸当てを押し引きちぎらんばかりの乳房があった。
みずみずしく、豊満な巨峰。胸の谷間が、まるで魔道士が使う幻術の様に妖しく、誘惑の色を放っていた。
ユルキナは、いつもの様に微笑みを浮かべた。しかしその笑みは、とても硬く、恥ずかしさを隠すような表情だった。それに対して兵は、どこかぎこちない表情で笑みを返す事しか出来なかった。
いつもは勇敢で、頼もしく、まるで女神が微笑む様な雰囲気を持つユルキナが、今は双つの豊満な乳房のせいで、とてもいやらしくみえているのだ。無理もない。
そしてユルキナは気付いた。集会の文面が、今手元に無い事に。
慌てて自分の身の回りを見回す。無い。
ユルキナに緊張が走った。
前までは文面などなくとも、文を暗記し、堂々と読み上げていた。しかし今回は違った。文面を覚える暇が無かったのだ。
仕方がないので、覚えている文に多少のアレンジを加えて号令をかける。
「…我々は…すべき…が国を……為…」
声が、出なかった。
流れる汗。震える脚と手。そして口、言葉。真っ赤に染まった顔。
もう駄目…耐えられない…そう思った時
「我々は愛すべき我が国を守る為、日々剣術に励んできた!」
突如響いた、男の声。
副騎士団長・ヴェイラだ。ユルキナが号令をかけられないと判断したのか、ユルキナの隣にあがり、号令をかけ始めた。
ユルキナは、安堵のため息を心の中でついた。助けてくれたのだ。
…やがて号令が終わり、ユルキナ騎士団長とヴェイラ副騎士団長を筆頭に、キスカ城を離れた。
「先程は、ありがとう、ヴェイラ副騎士団長」
ユルキナが照れながらヴェイラに言った。
「気にしないで下さい。しかし…」
ヴェイラは馬に乗ったユルキナを見上げた。
「どうされました?…その体…」
ユルキナは少し震えた。怯えの表情を隠せないでいる様だ。
「…わからないわ…。今朝起きたら…突然…」
俯くユルキナ。それに対しヴェイラは言った。
「今は、戦のことを考えてください。もし
そんな悩みを持ったままで戦うと、最悪の場合…命を落としてしまいがちです。今は、戦いのことだけを…。」
「…はい」
ヴェイラの言葉に、ユルキナは少し楽になった。
ユルキナが落ち込んでいたりした時は、率先して彼が悩みを聞いてくれた。
そうだ、今は戦いの事だけを…
ユルキナはそう心に誓い、悩みを頭の隅に追いやった。
今回の戦いに勝ち、考えて原因を追求するのは次だ。
そうしなければ死んでしまう。悩みを持ったまま戦う程、愚かなことはないのだから。
それに、私にはここに心強い味方がいるではないか。
ユルキナはそう考え、ヴェイラに踵を返した。
ヴェイラはユルキナに相槌をうち、強い微笑みを返した。
大丈夫だ。いける。そう信じよう。今は。
ユルキナは蒼い空を見上げ、戦いの事だけを考える様にした。
馬に揺られて、同時にユルキナの大きい乳房も揺れていた。
続く