キスカ城・王の間。
ヴェイラは王に謁見を求めてここにきていた。
「副騎士団長ヴェイラ。用件を述べよ」
王がゆっくり口を開き、しゃがれた声を王の間に響かせた。
「はっ…」
ヴェイラは頭を上げ、そのまま王に語り出した。
「我が軍の、騎士団長殿のことですが…」
ヴェイラは説明した。
ユルキナの体の異変の事、そしてその異変が突然、兵達が一斉に集まる集会の前に起こっていた事。
王は黙ってそれを聞いていた。
「…という事なのですが」
ヴェイラはひとまず用件を言い終え、王の反応を待った。
暫くの沈黙。王は瞼を閉じ、何かを思案している様だった。
そして…。
「忌々しき事態ではあるな。ただちに原因を究明させよう。」
ヴェイラの心なしか険しかった表情は思わず歪み、笑顔がこぼれた。
「では…!」
「その件、確かに承った。さがってよい」
ヴェイラは自分の事の様に感激し、喜びのあまり、脚の動きが速くなってしまっていた。
「…ハッ!失礼しました!!」
勢いよく敬礼をし、やや足早に王の間を出て行った。
…数分後。
『なかなかの役者振りだな』
突如、王の間に声が響いた。いや、正確には“王の脳内に直接”響いていた。
すると王は玉座に座ったまま目を閉じ、口を開いた。
「これで…貴様の願いは聞き入れた筈だ。」
『まだまだだ。』
声の主は即座に答えた。
『あと…そうだな、二人はいるな。』
頭に響く声の主は笑っている様だった。
「…欲張りな…」
王は呆れたように呟いた。
『そう言うな、お互い様だろ?あんたは俺の国にある“機械”を手に入れてえ。俺の国はアノ薬…“へキエルの薬”に選ばれた女が欲しい。…もう解るよなあ?』
王は小さく溜息をつき、頭を横に小さく振った後、答えた。
「あの薬か…。選ばれた女にしか効果はなく、それ以外の者が服用すると、その者の命を死に至らしめる。しかし選ばれた女にも苦痛と恥辱に満ちた日々を与える…。そしてその効果は…わが国の騎士団長を見れば一目瞭然という訳か。なんとも残酷よのう。」
『残酷なのはあんたも一緒じゃねえか?』
声は悪びれもせず言った。
「ふむ…そうだな。で、次にあの薬に目覚めうる女は解っているのか?」
『今…あんたの国の城下町に一人いる。こちらで国に潜り込んで鋭利調査中ってやつだ』
「手が早いな…」
王は少々面食らった表情をし、声に問い掛けた。それに対し声は
『まあな。全てが順調、首尾よく目的に向かってる。』
と、ヘラヘラした様子で答えた。
『じゃあここらで通信を切る。次の連絡は…』
「わしが回線を開く。」
即座に答えた。
『了解。んじゃまたな〜!』
…それっきり声は王の脳内に響かなくなった。
「機械、か…」
王は溜息をつきながら呟いた。
「確かに、機械とやらがあれば…この世界を統治するのも遥かに楽になるやも知れぬ、な。」
外は夜。王は遠くの方で雷鳴が木霊するのを静かに見守った。
続く