『密 会』







SEEN.1『平次の部屋』〜プロローグ〜


ある日の深夜。


平次は自室のPC(パソコン)の前で唸っていた。
メールチェックをした所、来るはずの無いメールが来ていたのだ。
そのアドレスにはとっても見覚えは・・・ある。
あるのだが、何で自分のアドレスを知ってるのかは皆目見当が・・・いや、
平次の推理はある結論を導き出してはいたのだが、俄かには信じたくなかった。


「ホンマに・・・何考えてんねや・・・あのアホゥは・・・。」


開けば、何を考えてるか少しは判るはず・・・とは思うのだが・・・。
開くのを躊躇してしまう。
なんせ、そのメールを送りつけて来た相手が相手だったので。



稀代のとか、神出鬼没とか、義賊などと言われてる人物。
探偵を自認している平次とは間違いなく敵対関係にあるはずの人物。
国際犯罪者番号1412号。通称・・・『怪盗キッド』。
それが、メールを送って来た相手だったのだ。


平次には選択肢がないわけでもない。
中を見ないで消去する事も無論可能なのだから。
そして見なかった事にしてしまえばいいのだ。
しかし・・・。
平次は探偵としての『モラル』と『好奇心』の闘いを余儀なくされた。


(・・・めっちゃ危険やな・・・。消去した方が絶対ええって!!)

(何言うてるんや、ええやん読んでまえば、めちゃめちゃ興味あるんやろ?)

(ある意味・・・PCウィルス『ナイト男爵』より性質の悪いメールやぞ??)

(そんなん見てみな判らへんやん・・・。)

(いや、危険やな。そもそも工藤にこないな事が知れたらえらい事になるで?)

(中身読んだら消去してまえばええんや。そもそも工藤が俺のPC見る事なんぞあらへんわ。)


平次は深〜〜〜〜い溜め息を吐いた。


「はぁ・・・。なしてメール一つでこないに悩まなアカンねや・・・。」


好奇心。
これが無くなったら探偵としての自分なぞあったもんじゃない。
そういう結論にたどり着いて問題のメールをクリックしようとした、がその手が止る。
不意に、東の名探偵工藤新一の不機嫌そうな顔が浮んで来た所為で。


(・・・・・・・。う・・・。)


平次はその想像を頭の隅に押しやった。


(工藤・・・スマ〜〜ン。けどなぁ俺・・・好奇心には勝たれへんねや〜〜。)


平次は頭の中にいる不機嫌な名探偵に心底詫びながらも、とうとうクリックした。




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DEAR 西の名探偵くん


こんばんは、と始めるのがやはり常識だろう。
さて、今回このようなメールを敵であるあなたに送ったかというと、
この間の大阪での件についてお礼を申し上げ様と思ったからです。
あのときは服まで貸していただいて、感謝しております。

とまぁ、キッドならこういうふうに書くだろうけど、
君にはもう俺の正体がバレてるんだから

そんな必要はないね。

いちおう、キッドは君の敵だが、今は
ただの高校生、黒羽 快斗としてメールを書いてるから
そのへんは理解してくれ

さて、このメールの本題は
君に東京まで遊びに来ないか?といういわば遊びの誘いだろうな。

来てみる気はないかな?

(もちろん、御互い探偵でも怪盗としてでもなく)
ただ、個人的に服部平次という人間について知りたくなったんでね。
もちろん、この間のお礼をかねて交通費はこっちが出そう。
これでどうかな?
なんならハングライダーで迎えに行ってもいいけど?

さて、この辺まできて探偵の君のことだから気付いてると思うが、
俺が何故君のメールアドレスを知ってるかって?
それについての謎は君の好きなように推測してくれるかな?

では、君からの返事を待ってるよ(^^)
あの暗号はもう解読できただろう(^^)
では、また会いましょう

FROM 黒羽 快斗


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ガツン!

この鈍い音は平次がPCに頭をぶつけた音だった。
平次はキッドからのメールを読み終わった後、PCの上に突っ伏したのだ。
そして勢い良く体を起こしつつ叫んでいた。


「だぁぁああああ!!!ホンマに何考えてんねや!!アイツはぁぁぁあああ!!」


ゴンッ!!!

壁を殴る音が聞こえる。
平次は青くなると、慌ててPCの画面を消した。
ほどなく、平次の父親で大阪府警本部長の服部平蔵が無断で平次の部屋に入って来た。


「平次!!何時やと思ってるんや!!」

「・・・す・・すんません・・・。」

「そないに騒ぎたいんやったら道場で稽古つけたるぞ?!

 胴着に着替えるか寝間着に着替えるかどっちがええんや?!」

「す・・・直ぐに寝るて・・・騒いですんませんでした・・・。」


ゴッツン!!

平蔵は平次の頭を拳骨で殴って、部屋を出ていった。
平次は殴られた箇所を撫でながら父親が出て行くのを見送って、PCの電源を入れ直した。


「っつ〜〜〜痛いなぁもぉ・・・。・・・はぁ。しっかし・・・見つからんで済んでよかった・・・。」


キッドからのメールが見つかった日には拳骨どころの騒ぎじゃ済まない。
画面に出て来た問題のメールを横目で眺める。


「誰が行くかっちゅうんじゃ!!あほ!!」


そう悪態をついてみる。
しかし、・・・今度は『行きたい』という好奇心がまた顔を覗かせる。
正直な話。
平次はキッドのメールアドレスを知ったあの日から、ずっと悩んでいたのだ。
何度もそのメールアドレスをパソコンに打ち込んだ。
そして、その度消して・・・。
それを繰り返していたのだ。
何を書いていいのか判らない。
そう思っていた。
理由も必要性も無いのにメールを出すわけにもいかなくて、結局ずるずると出しそびれていた。

興味が無いとは言えない。
キッドとしてはもちろんだが、
あの素顔時かわしたほんのチョットの会話は、酷く心地よく楽しかった。
全てを説明しなくても進む会話。
そんな会話は工藤としかしたことがない。
大抵の人にはそう思い至った過程を、ことこまかに説明しなければならないのだ。
平次にとってはそれは非常に面倒かつ苦痛な事だった。
しかも、その過程を説明すると大抵の人が、「ああ、なるほどね。」と訳知り顔で呻づく。
しかし、キッドとの会話にはそれが無い。

『どうしようもなく合う相手』というのは世の中にそんなに居るものじゃない。
そう、合うのだ。
会話の一つ一つが、心地よく響く程に。
工藤新一と会話した時も思った。
自分を高めていく存在。
それと同じ物をキッドにも感じていた。
怪盗と探偵でさえなければ・・・間違いなく親友と呼べる存在になる相手のはずだと・・・。


『ただの高校生、黒羽 快斗としてメールを書いてるからそのへんは理解してくれ』

『(もちろん、御互い探偵でも怪盗としてでもなく)』

『ただ、個人的に服部平次という人間について知りたくなったんでね。』


(キッド・・・お前も俺と同じ事・・・思ったんか?)


平次は暫くキッドからのメールを眺めて返信ボタンをクリックした。



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怪盗はんへ

『こんばんわ』←一応常識ちゅうことで。
怪盗キッド・・・いや、『黒羽快斗』って言えばええんか?
面倒やから黒羽でええわな。
ちなみに、これ本名とかは言わんやろなぁ?

・・・ったく随分びっくりさせてもろたで。
でも、直ぐにネタは割れたんや。(ニヤ)
自分・・・工藤の家のPC覗いたんやろ?
ちゅうのも、このアドレス工藤以外には教えてへんねや。

個人的に言うんやったら、正直俺も自分にはめちゃ興味ある。
せやからその誘い、乗ったるわ。

ああ、せや。
ハングライダーの出迎えは遠慮しときますわ。
ちゅうかそんなんいらんちゅうねん!!
交通費はバイクで行くからいらんし。
自分に借り作る気もあらへん。
そのかわり、そうやなぁなんや美味いもんでも奢ってくれや。

ほな、来週の金・土・日そっちに行くさかい
都合のいい日と時間待ち合わせの場所決めや。

ただし、俺がそっちに居るあいだは仕事するなや?
それ守れんねやったら俺は行かん。
ええな?

ほな、次の連絡待ってるで。

服部平次

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平次は作成した返事を読み返して溜め息をついた。


「あ〜あ。これで俺・・・まっとうな道ふみはずすんやなぁ・・・。」


そう言いながら顔はにやにや笑ってしまう。
かなり強気に書いたメール、これを読んだ時のキッドの反応を思うと可笑しくなる。
平次は送信ボタンをクリックして、PCの電源を落した。


「・・・ついでに、工藤の所にも顔だそか。」


そう呟いて慌てて否定する。


「ちゃう!!ちゃうって、ついではあっちや!!工藤に会うのが目的やぁぁああ!!!」


ゴンッ!!

また壁を叩く音がした。
平次は大慌ててで着替えて布団に潜りこんだ。

ドスドスと歩く音がして、平次の部屋のドアが物凄い勢いで開けられた。


「平次!!ええ加減にせんかい!!!」


平次はそのまま寝たふりを続けた。


「・・・。なんや?寝言やったんか・・・。寝てまで騒がしいんやな、このアホは。」


しかし、平蔵は部屋の中に入って来ると平次の布団を剥いだ。


「・・・なんて騙されると思っとるんかっ!!このどアホゥがぁ!!」

「・・・・・・・。」


それでも平次はタヌキ寝入りを続けた。

ゴッツン!!

平蔵は平次の頭を殴った。


「っつ〜〜〜〜〜。」


唸る平次をジロリと睨んで平蔵はキッパリと言った。


「胴着に着替えて道場で素振り千回やってから寝ろ!!ええな?!」


平蔵はそう言い捨てて部屋を出ていった。
平次は諦めて立ち上がると胴着に着替えだしたのだった。



次の日

キッドから返信が来ていた。
今度は迷う事無くクリックした。


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DEAR 服部平次くん


> 面倒やから黒羽でええわな。
> ちなみに、これ本名とかは言わんやろなぁ?

なんで?
これが俺の本名だぜ?
何か変かなぁ?

> 自分・・・工藤の家のPC覗いたんやろ?
> ちゅうのも、このアドレス工藤以外には教えてへんねや。

流石は名探偵ですね。
そうです。彼のPCをこっそり覗かせてもらいましたよ(^^)
いつかは秘密にしときましょう。少しくらい謎でもいいでしょう
 
> 個人的に言うんやったら、正直俺も自分にはめちゃ興味ある。
> せやからその誘い、乗ったるわ。

あ、来てくれるんだ? 

> 交通費はバイクで行くからいらんし。

事故るなよ?「東京着いたぞ!」っていう連絡が病院からだったら
あまりにも滑稽なんでね

> そのかわり、そうやなぁなんや美味いもんでも奢ってくれや。

ちゃっかりしてるなぁ 

> ほな、来週の金・土・日そっちに行くさかい
> 都合のいい日と時間待ち合わせの場所決めや。

金曜日は俺学校があるから会うのは夕方ごろになるけどいいか?
それだったら・・・・そうだなぁ東都タワーの展望台に6時でどうだ?
 
> ただし、俺がそっちに居るあいだは仕事するなや?
> それ守れんねやったら俺は行かん。

分ったよ、怪盗業は休むよ
安心して来いよ
ついでにこっち(東)の名探偵にも会うか?
突然来たらあのすました探偵さんもビックリするだろうよ

それじゃ、待ってるよ

FROM快斗


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ガツン!

平次はまたPCに突っ伏していた。


「アホかぁ!!本名まで教えるなぁぁああああ!!!」


今日は平蔵が留守なので心置きなく叫ぶ事ができる。

しかし、『怪盗に連絡のつく男』服部平次は、
更に『怪盗の本名を知る男』にまでなってしまっていたのだ。
平次は自分の作成したメールは間違いだったと心底後悔していた。


「・・・俺・・・。隠し事めちゃ苦手なんやけど・・・どないするんやぁぁあ・・・。」


平次は頭を抱えつつも、何処か嬉しそうに返事のメールの作成をしはじめた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜プロローグ終
                                 next SEEN.2『快斗の部屋』




あとがき(中がき??)

裏話を一つ。
この小説の中に『メール』が三回でてます。
それは、某チャットで仲良くして下さってる『怪盗キッド様』が、
本当に私(平次)にくれたメール&私(平次)がその返事として作成したなりきりメールなのです。
夜乃はいつもこんな事して遊んでるわけですね(爆笑)
『事実は小説より奇なり』です♪
ネタ提供してくれた、『怪盗キッド様』さんきゅ〜です。
このシリーズはちょっと長くなりそうですので、皆様気長にお待ち下さいませ。

(しかし。。。シリーズモノにまでなってしまうとは・・・。(爆笑))