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「怪盗キッド様っ・・・・・!!」


仕事を済ませて、いつものように姿を消そうとしていたキッドの耳に響いた自分を呼ぶ声。
それは助けを求める少女の精一杯の叫びだった。

キッドが振り返った瞬間、少女の長い髪が風に広がった。









第一章 バンシーの鳴き声





快斗はそれから暫く、その声が耳について離れなかった。
あの時は、迫り来る警部から逃げるため、
その少女に、何も話しかけてあげる事はできなかったのだ。


「まぁた、ぼ〜〜〜っとして・・・いったいどないしたん?」


大学の図書室で、何をするでなく窓の外を見ていた快斗を見掛けて。声をかけてきたのだ。


「んだよ〜〜へいじぃ〜俺がぼーっとしたら駄目だっつ〜のかよ〜〜。」


快斗はそのまま窓辺に頭を預け、にやにやと笑ってる平次をジロリと睨む。


「アカンとは言うてへんやん。ここ二、三日様子がおかしいのを心配してるんや。」

「まぁそんな事もあるんだよ。お前みてぇにいつでもの〜天気じゃねぇのっ!」

「ごっつ失礼やな、自分。誰が能天気やねん。」

「お〜〜ま〜〜え〜〜。」


しっかり指まで差している。平次はその手をべしっと叩いた。


「かわいげちゅ〜〜もんは、まったくあらへんな。

普通こういう時はすこしは・・・まぁ快斗やしなぁ。」


そういうと、またニヤニヤ笑って快斗の顔を覗き見る。


「・・・あん??」

「いやいや、ええねんで?よぉ〜〜解ってるんや・・・。」


快斗は一体何が言いたいのかと首を捻っていた。


「ズバリ!その溜め息の原因は・・女やなっ!!」


びしっ!!そんな擬音がする勢いでポーズを決める。


「すごい・・・なんで解ったんだ?」

「ふっ・・・探偵をなめたらアカンでぇ?毎日窓辺でぼ〜っとして、授業もどこか上の空、

そのうえ・・・溜め息ときたら・・・恋の病しかあらへんやろっ!」


がたっ。
快斗はいきなりずっこけた。


「平次、お前・・・ぜって〜新一には勝てね〜わぁ。」

「なんでやね〜〜〜んっ!!」

「そんな推理だったら、その辺の女の子の方がよっぽどできるっての・・・。」

「ほな、一体なんでそんななってるちゅ〜んやぁ?」


平次はぶすっとふくれっつらを見せつつ、快斗の向いの席にどかっ!と座った。


「あんなぁ・・・バンシーの鳴き声に呼ばれたんだよ。」

「はいぃぃい?」

「バンシー・・・しらねぇ?」

「いや、それは知ってる・・・所謂アレやろ?神話とかに出てくるヤツで、
確か、海の岩の上なんかに居るっちゅ〜・・・。髪の長い女の形をした化けモン。」

「その鳴き声を聴くと、船が遭難するっていう伝説つき。」

「あ〜そうやったっけ・・・って、なんでそんなモンに自分が呼ばれるんや。」

「それが、解るんだったらこんなトコで溜め息つかねぇって。」

「つまり・・・アレかぁ?髪の長い女に必死な形相で呼び止められたんか?自分。」

「”俺を”呼んだじゃない・・・。」


そういうと、快斗は一瞬だけ、キッドの顔をして見せた。


「せやったら、”WHO”は知らんけど、”WHAT”は解る。」

「えっ・・・?」

「な〜にが、『えっ』や。自分かてホンマは解ってるんやろ?」

「まぁ、怪盗に用事つったら・・・恋の病じゃぁねぇわな。」


快斗は苦笑してみせた。
今になって気が付いたのだ。
最初に平次が、『恋の病』などとふざけた理由が。
素直には言わない自分の口を、滑らせるための話術。


「お〜や、やっと気が付いたんかぁ?」

「食えねぇ奴だよな〜〜お前って。」

「人から話を聞き出すのも探偵の才能や♪」

「話聞き出すだけできてもなぁ・・・。聞き出す相手が何処かわかんね〜んじゃ・・・。」

「方法は無いわけちゃうねんけどな。でも、・・な〜んや、嫌な予感がするでぇ・・・。
事件の前触れ・・・。それも、とてつもない事件の・・・や。」

「・・・・平次?」

「なぁ自分?ボーッとしてるよりも、行動する方がマシやろ?」


そう言った平次の顔は、いたずらっ子の様に輝いている。


「そりゃまぁ・・・。」

「なんでもええから”お仕事”したらどや?それも、できるだけハデに♪」

「・・・お仕事を薦める探偵って、どうかと思うぜぇ?」

「まぁ、そんなもん大事の前の小事やがな〜〜♪」

「お前のそういう、やたらサバけた性格・・・好きだぜ。」

「お〜〜きにぃ♪」


平次はにっこりと笑った。




三日後・・・・。

今回の獲物が収められている、博物館を眺められるビルの屋上で
キッドはシゴト前の下準備をしていた。
そして、今日の仕事を決める原因を思い返していた。

平次の言いたい事は、直ぐに解っていた・・・。
と、いうよりも、自分でも考えてはいたことだった。

怪盗に呼び止めるのは・・・『盗み』に関係のある事に決まっている。
つまり、『何か』をとんでもない『誰か』から盗んで欲しい・・・。
これが、呼び止められた理由だと、自分でも結論はでていた。
それも、『キッドに』と言うのなら、
それがどれだけ盗み辛い物であるのか、押して知るべし、だ。


「これが、野太いオトコの声だったら・・・動かねぇトコなんだけどなぁ。」


シルクハットを深くかぶり直す。


悲鳴のような叫び。
耳の奥にこだまする声。


「あんな声で呼ばれて、返事をぜすいたら、怪盗キッドの名が廃るってモンだぜ。」


そう呟くとキッドは夜空に飛び立った。



守備良く獲物を盗み出し、キッドは博物館を離れた。
ワザと目立つように、サーチライトに影を映す。
これでもかとハデに、逃げてみせた。
ただし、ダミーは一切ださずに。


「・・・さぁ、俺は・・・ココだぜ?」


ビルからビルに飛び移った瞬間、


「怪盗キッドさまっ・・・!!」


待ちかねていたその声が耳に響く。
ビルの谷間、下を見るとあの少女が髪をなびかせていた。


バラバラバラバラバラバラ・・・・・


警視庁のヘリコプターがキッドに光を当てる。
キッドはビルの谷間に飛び降りるようにして、ハングライダーを開くと、
そのまま、夜の闇に姿を消した。




少女は、夜空に消えゆくキッドを見詰めていた。
その少女を見詰める黒い影に気が付かずに。
キッドの姿が見えなくなり、少女は深い溜め息をついて、その場を離れ歩き出した。
少女を追うように、黒い影が動き始めた。
そして、その後ろからバイクに乗った男がその二人の動きを見ていた・・。

暫く歩いて、静かな通りにでた。
あたりにまったく人影がない。

さすがに、少女も自分を追ってくる気配に気が付き走り出したが、
黒い影の方が動きが速く、少女を捕まえ口を塞いだ。


「大人しくしろ・・・。」


篭もった声で、少女に命令をする。
少女の目に見えるようにナイフをチラつかせた。


カシャーーン

黒い影のナイフはトランプに弾かれて、弧を描いて地上に落ちた。


「なっ!!」

「レディをデートに誘うのは、もっとスマートになさった方がいい。」


建物のスキマの暗闇から、白い影が現れた。

夜空に消えたはずの、怪盗キッドが月の光りの元静かにたたずむ。


黒い影はきびすを返して走り出した。
しかし、キッドは追いかけようとはせずに、少女の側に立っていた。


「大丈夫ですよ、お嬢さん・・・。」


キッドはにこやかに微笑みかける。
その時いきなり眩しい光が二人を差した。


バウゥウンッ!

バイクが逃げた黒い影の向こうから、自分達の方に向かってくる。
そしてそのバイクの主は、逃げていった黒い影に
バイクのスピード分の手痛いラリアートをかましたのだった。
黒い影は避けることもできずにそのばにノビた。


「おまっと〜〜さん。」

バイクの主はメットでその顔こそ解らなかったが、関西弁のオトコだった。
キッドは少女の手を引くと、オトコのバイクの後ろに乗るように促した。


「で・・・でも・・・。」


戸惑いを見せる少女にやさしく微笑んだ。


「かぼちゃの馬車よりも乗り心地は幾分よくはないと思いますが、
話をできる場所に移動するためです・・・。」


少女は無言でオトコのバイクに乗り掴まった。


暫く走って、海の見える丘に立つ廃屋の中に三人は居た。
外から見た時は、廃屋としか思えなかったその建物は、
中に入ると意外と小奇麗に片づけられていて、応接セットのある居間に三人は入った。


「さて、お嬢さん申し訳ありませんが着替えて頂けますか?」

「えっ・・・?」


キッドが自分のマントを少女にかけ ワン・ツー・スリーと呪文をかけて外すと、
もう少女は違うドレスを着せられていた。
そして、少女が着ていた服をそのままマントに包み、表に放り出した。


「万が一・・・ということもありますのでね。あのマントは電波を通しませんし、
ここでの話を録音する事も・・・これで不可能です。」


少女は、ハッとしたように窓の外の包みをみた。


「さぁ、どうぞそこの椅子に腰をおろして・・・今、飲み物をお出ししますから。」


キッドは胸元からハンカチを取り出すと、ワン・ツー・スリーとまた呪文を唱えた。
そうして、少女の前で手を振ると、少女の膝の上に可愛いウサギが現れた。


「おや、間違った。飲み物を出すはずが・・・。」


少女は急に現れた可愛いウサギを見て、ふっと微笑んだ。


「気に入られましたか?じゃぁ、暫くお嬢さんのひざの上にいてもらうことにしましょうか。」


キッドは今度はテーブルの上にハンカチを載せてティーセットを取り出した。


「今度は成功♪」


キッドがキレイに決まるウィンクを少女に向ける。
少女のこわばっていた表情がリラックスした表情に変っていった。


ヘルメットを取らないまま、バイクを運転していた男がお茶を煎れている。
キッドは何を聞き出そうとするでなく、少女の向いの椅子に腰を降ろした。
少女は暫くウサギを撫で、キッドに視線を戻すと話し始めた。


「怪盗キッド様、お願いです・・・父の犯罪の証拠を盗み出しては頂けませんか?」





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