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第二章 少女はかく語りき







私の父は・・・医学者です。
遺伝子の研究をしていると言うことですが、
私は・・・父が何をしているのかは・・・
はっきりとした事を知っているわけではないので・・・。

父が何か悪いことに荷担しているのはずっと・・・気が付いていました。
でも・・・その事で父を責める気は毛頭ありませんでした。

父が、悪いことに荷担したのは・・・私の為だったのだと・・・
それも解っていたからです。

父の元には、よく「研究所の人」がやってきます。
私が小さい頃から・・・ずっと。
ですが、その人はどうみても研究者には見えません。

研究者というよりも・・・私には、悪魔にしか見えないのです。
その悪魔は、わたしの事をいつも蔑むように下卑た笑いを浮べてみます。

その人が来ると、父は私に自室に戻って出てこない様にと言い含めてきました。
ずっとその言い付けを守っていたのですが・・・。

半月前の晩・・・・。
寝ていた私は、大きな音で目を覚ましました。
階下で人の荒そう声が響いてきました。
私は階段を半分降りたところで、その話の内容を聞いてしまいました。

一人は、父で、もう一人は「研究所の人」です。


「もうこれ以上協力をする事はできないっ、昔の借りはもう十分返したはずだ!!」


父は・・・そう言っていました。
でも、「研究所の人」は・・・。


「いまさら手を引いたところで何が変ると言うのかね、
その血で汚れた手が綺麗になるとでも?」

「お前等は・・・人間じゃない悪魔だ・・・。人の命なぞ、なんとも思わない悪魔だ!!」

「あなたの現在の地位とお嬢さんの命があるのは誰のおかげだというのだ?
我々は貴方に感謝をされるならまだしも、悪魔呼ばわりされる謂れはない。」

「・・・・・・・。」

「いいですか?アレは・・・家畜です。我々はただの・・・牧場主ですよ・・・。」

「・・・・・・・。」

「必要な肉を必要なところへ・・・それだけの仕事です。
しかし、いい返事が頂けないと・・・お嬢さんの屍をみることになりますよ。」

「・・・・・・わかった・・・。」


悪魔が帰る時、わたしは階段の影に身を潜めてみていました。
けれど、男はわたしに気が付いたのです。
その、氷のような視線を忘れる事はできません。





そこまで話すと、少女はウサギを抱きしめて肩を震わせた。


「一つ、聞いてもええかな?」

「はい・・・。」

「おやじさんには、言うたんか?悪いことに荷担するのを辞めてくれて。」

「言いました・・・。けれど父は、『お前は何も知らなくていい』としか、
答えてくれませんでした。」

「君の為に悪いことに荷担をしているっていうのは・・・。」

快斗の問に少女は黙って、ドレス肩紐を解いた。


「お・・・お嬢さん何を・・・?!」


少女の華奢な身体には、幾つもの手術痕があった。
正視するのが痛々しい程に・・・・・・。


「わたしは生まれつき内臓に幾つも疾患がありました。
その所為で、臓器移植を行わなければならなかったそうです・・・。
多分・・・普通に待っていても・・・その臓器が手に入らなかったのだと・・・、
だから・・・父は・・・・・・・。」


キッドが胸ポケットから小さいハンカチを取り出し、少女の肩に掛けると
それは大きな白い布をなり少女の胸の傷跡を包み隠した。
ヘルメットの男は黙ったまま、少女の前に煎れたばかりの温かい紅茶を差し出した。


「あ・・・ありがと・・・。」


少女はうつむいたままでその紅茶を受取った。
紅茶の中に、少女の涙が一粒・・・落ちた。
ヘルメットの男は、メットを脱いで椅子の上にぽんっと放りなげた。


「げっ!お前なにやってんだよ・・・顔・・・。」

「もぉええやん。俺の顔みられたかて問題ないやろ。」

「・・・あぁもぉ・・・お前ねぇ。俺とお前が一緒ってのは問題あり過ぎだろ。」

「いや、あらへんな。少なくともこの子の前やったら大丈夫や。」

「・・・ったく、お前ときたら・・・工藤に頼みゃよかった。」


キッドは肩をすくませて、ちょっとおどけてみせた。


「俺は、服部平次、探偵や。」

「た・・・探偵さん?」

「せやねん。よろしくな。」


平次は人懐っこい笑顔を見せた。
少女は戸惑いがちに、キッドと平次を等分にみた。


「あ・・・あのだって・・・。」

「まっ、キッドとは一応敵対関係の時もあれば共同戦線をはる事もあったりでな?」

「共同戦線張ってる方が多い気もするけど?」

「やかましい。俺の専門は殺人なんやっ!」

「まっ、こ〜ゆうヤツだから、俺同様、信用してくれていいよ?」

「アホいいな、探偵の方が怪盗より信用できるんが、当たり前の世間様の反応や。」

「あ〜、そいう事いいますかね。」

「泥棒はウソツキさんの始まりいうやんけ。」

「い〜や、怪盗紳士はレディの前ではウソはつきません。」


いきなり目の前で繰り広げられる、ボケ漫才に少女がぷっと吹き出した。


「よしっ!笑ったな?女の子は泣いてるより笑ったほうがええよ?」

「気障だねぇ、それは俺の専売特許だぜ?」


女の子は頬に残る涙を拭って二人を見た。


「わたしは、野々瀬 花澄 (ののせ かすみ)といいます。」


儚げなその姿とは対照的に瞳に強い光を宿している。
キッドは、花澄が落ちついたのを見て取ると、話をすすめた。


「花澄ちゃんは、お父さんの犯罪の証拠を盗み出して、どうする気でいるのかな?」

「父を・・・告発します。そうして、父をあの悪魔から解放したいんです。」


花澄の目がその決意の強さを示す。
キッドと平次はニヤリと笑った。


「それだけでええの?どうせやったら・・・その悪魔をこそ、告発するべきちゃうんか?」

「そ〜そ、そっちを告発して花澄ちゃんやおとうさんに手出しできなくした方がいいよ。」


自分が考えてたことよりも、もっと凄いことを言い出す二人に花澄はビックリした。


「そんなこと・・・できるんでしょうか・・・?」

「できますとも」


キッドは立ち上がり少女の前で舞台劇のようなお辞儀をしてみせた。


「この怪盗キッドには・・・不可能はありませんよ。・・・お嬢さん♪」


そして、見事に決まるウィンクを一つ。


「ついでになぁ、俺とキッドのタッグは無敵やねん。」


平次はキッドの肩に肘を掛けるようにもたれると、にっと笑ってみせた。









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