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第三章 工藤新一の推察







「不穏だな・・・。」


昼下がり、大学の図書室でいつものように本を借りにきた新一は、
かなりの量の本に埋もれてる快斗をみつけ、呟いた。

普段快斗が図書室によく足を運ぶのは知っている。
しかし、もっぱら本を枕にお昼寝をしているはずなのだが、
今は調べモノに追われているのか、新一が見ている事にも気がつかない。

これが、試験前というのなら・・・
もしくは積まれている本が犯罪学、鉱物学、工学だというのなら
別段気にも留めないところだが、
詰まれているのは遺伝子工学の本に、医学書。


(遺伝子工学・・・ねぇ・・・。)


前日の夜、平次が新一の元を訪れて、工藤優作のデータベースを貸してくれといった。
その時チラッと覗いた画面の向こうには
やはり遺伝子工学についてのデータ―が並んでいた。

新一はつかつかと快斗の座ってる席に近づき
快斗の向かいの席に腰を下ろすと机の上の本をパラパラとめくった。


新一が座る音に気がついて快斗が新一に視線を向ける。
どこか不機嫌そうな名探偵は無言で本を見ている。


「・・・どったの?」


快斗の問いに新一は視線をちらっと快斗に向けると
また本に視線を戻した。


「・・・新一?」

「・・・俺はのけ者か?」


その一言を聞いて、冷や汗が背中を伝うのを感じる。


「のけ者って・・・なんのことさ?」

「とぼけんな。いいから吐け。」


新一は本を閉じると快斗に突き出した。


「・・・・・・。」

快斗が言葉に詰まってると平次が本を抱えて現れた。


「快斗〜これで遺伝子工学の本はぜんぶ・・・・げっ・・。」


仏頂面の新一を見て平次も本を抱えたまま立ちすくむ。


「座れば?」


新一がにっこりと平次に笑みを向ける。

(やっぱくどぉは事件の匂いには敏感やなぁ・・・。)

平次は諦めたように本を机に置くと快斗の横に座った。


「ほらみぃ、工藤に隠すのは無理やって言うたやないか。」

「でもよぉこんなに早く気がつくとは・・・」


カツッカツッカツッ
黙って二人のやり取りを見ていた新一が、机を軽く爪ではじく。
バツが悪そうに黙った快斗を横目に、平次がいままでの事情をざっと話した。


「ふぅ〜ん・・・・それで?」

「そ・・・それで・・って、できればその子を助けたいて思ってるんやけど・・・。」

「書類を盗み出してか?」

「・・・・・・・。」

「快斗はともかくとして・・・お前、探偵としての自覚はあるのか?」

「・・・・・・・。」


二の句がつなげなくなった平次を助けようと、今度は快斗が口をはさむ。


「いや、実際盗み出したりはさ、俺の領分じゃん?それはコイツにはさせね〜し。」


新一の冷ややかな視線が快斗を射抜く
そして、平次をかるく顎でしゃくってみせる。


「それをコイツが納得して、おとなしく待ってると本気で思ってるなら、おめでたいな。」

「いや・・・でもさすがにそれはさせられないってか、シロートは邪魔・・っと・・。」


快斗の口をついてでた一言に平次の眉がぴくっと動く。
慌てて口をふさいでも遅く、微妙に不機嫌になった平次はそっぽを向いている。


「い・・いや、でもほら・・告発とかの部分になったら俺じゃ駄目だしさ?」


とってつけたような言葉もしらじらしく聞こえてるの、かやっぱり平次はそっぽを向いている。
そんな状況おかまいなしで、新一は二人の計画を揶揄するかのように


「ふ〜ん・・なるほど矢面には平次一人が立つわけか・・・。」


と、わざと快斗の神経に障る言い回しをする。
これにはさすがの快斗も黙ってなどいられない。


「ちょっと待てよ〜。盗み出すって一番危ない橋は俺だろぉ?」


新一の言いように、さすがの快斗もむっと眉根をひそめた。
三人の間に険悪な空気が流れた・・・・のもつかの間、平次が軽くため息をついた。


「もぉええやろ?工藤。」

「う〜ん?」

「ホンマに険悪になったらシャレんならん。」


快斗がひとりぽけっとした表情で当分に二人を見た。
平次が苦笑を浮かべて快斗を見る。


「いまさら・・・自分の失言のひとつや二つで怒るかいな。」

「平次ばっかり組んで、俺の能力軽視しすぎだと思うんだけど?
それに、矢面に立つ人間は顔が売れてるほうがいいんじゃないか?」


そういって快斗の額を軽く小突いて、新一はニヤリと笑った。


「ちぇ・・・。なんだよ人の悪い聞き出し方しやがって・・。」


ぼそりと拗ねたように快斗はつぶやいた。
あまりにも平次ばっかり頼ってるのを不当に思った新一が、ちょっと意地悪をしただけ。
平次は新一の言動でそれに気がついて、その場で適当に合わせたのだとやっと気がついた。
『心臓に悪いぃぃ。』 『悪趣味ぃ〜〜〜。』
うめくようにいいながら、あっさりと新一についた平次を恨みがましく睨む。
そうしてぶすむくれて机につっぷした快斗の頭を、新一は軽くぽんぽんと叩いて、


「もっと詳しいこと聞かせてくれるよな?」


と、すごくわくわくしたような表情をして見せた。
よくよく考えてみれば・・・新一は『三度のメシより事件が大好き♪』な人種なのだ。
ましてや今回の事情を聞く限り・・・盗みも不当とは思えない。
新一の敬愛しているホームズも、本当の悪人を懲らしめるために
少々強引な真似――詐欺まがいに書類を盗み出したり――
なぁんて事も何度かしているのだ。
今回の事件はまさにそれで・・・新一の心が動かないわけがなかった。

(そうだよな・・新一がノッてこないわけね〜んだよなぁ〜。)

納得した快斗がヤレヤレと肩をすくめ説明をしようとし始た。
しかし、新一の発言の後ずっと固まっていた平次が、
やっと・・・少し引きつった表情で新一の袖を引っ張った。


「ちょぉ・・・まった。工藤さん?
今さっき・・・めっちゃ聞き捨てならんこと聞いたんやけど・・・。」

失言に思い当たった新一は 『ははは〜。』と笑って誤魔化している、しかし・・・

「う〜ん、でもホントの事じゃねぇ?新一は全国区で顔売れてっけど、お前関西方面だけじゃん?」

と、快斗が平然と言ってのけた。
その言葉はぐっさりと平次に突き刺さり、
平次が完全に固まったのを見て取った新一がぼそりと呟いた。。


「・・・快斗、お前それトドメ刺してる。」

「大丈夫だってぇ〜俺の失言なんていつもの事だから〜♪」


さっきの平次の言葉尻をとりつつ、その場の呼吸で新一に合わせた平次に対して
しっかりといやみを言う。しかもとびっきりのにっこり微笑付きで。

「俺の失言なんかじゃ、平次は怒らないもんなぁ?」


(お・・・怒らなくてもしっかり傷つくんやぞ〜〜〜。)

平次の心の叫びは、無論発せられることなく終わった。



実はこの三人、それぞれ心の中では微妙に不穏な感情を相手に持ってるのだ。
『本来、自分は必要とされてないのでは?」というのがソレ。

新一曰く・・・・

『平次と快斗は何かっていうとつるんでるし、平次は快斗にはめちゃくちゃ甘い。
そのうえ、快斗はそれを当然だと思ってるように見えるし・・・いかにも悪友ですとばかりに
悪巧みから遊びまで一緒だもんな・・・。』

と、悪友同士の固い絆を見ているし、

快斗曰く・・・・

『平次はなんだかんだ言っても、結局新一につく。もともと新一のファンだってのは
いやってほどよ〜〜〜く判ってるけど、『あ、うん』の呼吸を見せ付けることもないだろぉ?
やっぱ、探偵同士の絆に怪盗じゃはいれね〜って思っちゃうじゃんっ!』

と、探偵と怪盗は相容れない部分があるのかと悩み、

平次曰く・・・・

『普段、そんなに仲ええとこみてへんけど・・・どっちかってゆ〜と悪態の応酬やけど・・
なして俺を責める時はめっちゃ呼吸合うねん・・・コイツ等。
その悪態にしたって、お互いを認め合ったライバル同士が楽しんでやってるように見えるし・・・
ホンマは俺に内緒でどっかですき放題言ってるんとちゃうやろなぁ・・。』

と、お互いを認めたからこそのライバルだと、見せ付けられてる気分になるのだ。

お互いがお互いをライバルと、親友だと認めているからこその不毛なすれ違い。
はた目からみれば、三人そろってワンセットに見えることなどまったく気が付いてない。
しかし・・・認めている相手だからこそ、『ホントは俺いらない?』と聞けるわけもなく、
ましてや花いちもんめじゃあるまいし友達の取り合いなどと、
みっともない真似ができるはずもない。
そんなことを思ってるのさえ 相手に知られたくはないのだ。


三人三様の思いはあるものの、とりあえず基礎調査を終えて図書室を後にした。
大学の構内を抜け、校門をくぐる。

「とりあえず続きは俺んトコいこー。今まで調べたデータ−纏めてーし。」

快斗の言葉に新一と平次は頷き、三人は快斗の自宅へと向かった。




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