ポツ。
ポツ。
ポツ、ポツ、
ポツ、ポツ、ポツ、ポツ・・・・・
サァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーー
夕立ち
作:むう
--- 1 ---
「あぁ〜〜〜ん、もう〜〜〜、私が何したって言うのよ!!!」
放課後。
第壱中学校2年、惣流アスカは、突然の夕立ちの中を走っていた。
ピシャッ。
ピシャッ。
ピシャッ。
鞄を頭の上にもっていきながら、水たまりを避けようと足下に気をつける。
それでも、降りかかる夕立ちは、制服をずぶ濡れにし、
靴をビショビショにしていた。
家までは、あと5分ほど。
(帰ったら、まっ先にシャワーを浴びよう)
そう思った瞬間、わきを自動車が通り、勢いよく泥を跳ね上げていった。
バシャア!!!
「あぁアアアアアアアアアア!!!!!!」
立ち止まるアスカ。
制服のスカートに泥水がつき、大きなシミが出来ていた。
「馬鹿! どこに目ぇつけてんのよ!!・・・」
アスカは大声で怒鳴ったが、車は遠く走り去っていくだけだった。
「傘持って来なかったなんて・・・もう、最低!!!!」
ふと、同級生で近所の幼馴染み、碇シンジのことを思い出す。
(そっか・・・いつもはシンジが・・・)
几帳面なシンジは、いつでも折り畳み傘を持ち歩いていた。
『シンジぃ、傘持ってこなかったから、入れてってよ』
『なんだよ、アスカ。いつもは、僕を馬鹿にするくせに』
『あら、そうだった?』
『そうさ。雨なんか降りゃしないのに!、って』
『とにかく!
今は雨が降ってて、私は傘を持ってないの!!
見捨てる気ぃ?!!』
それが当たり前になっていた・・・・・。
2週間前、綾波レイが転校してくる、その日までは。
(馬鹿・・・・・・)
再び走り出すアスカ。
夕立ちは、ますます酷くなるばかりだった。
--- 2 ---
同じ夕立ちの下。
傘がひとつ。
入っているのは、碇シンジと綾波レイだった。
「突き合わせちゃって、ごめんね〜〜〜〜。碇君」
肩がふれ合う距離。
シンジの折り畳み傘は小さく、シンジの右肩は傘からはみ出ていた。
「スーパーの場所も教えてもらったし、
おいしいホームベーカリーも教えてもらったし・・・サンキュ!!」
ウィンクしてみせるレイ。
「う、うん・・・・」
ちょっと戸惑うシンジ。
「浮かない顔して・・・・・惣流さんのこと?」
「えっ?!・・・・そ、そんなことないよ」
「きゃはは! 嘘、ヘタすぎぃ・・・」
図星だった。
雨のなか、傘がひとつ。
相手がアスカなら、見なれた光景なのだが。
今は、すごく緊張してしまう。
「い、いや、そ、その・・・アスカ、いつも傘もってないから・・・」
「そうなんだ・・・・・・」
(いつも傘もってないから・・か、差、つけてくれちゃって・・・)
レイの心の中のつぶやき。
シンジには届かない。
「・・・・・・・・・あ、私、ここだから」
アパートの前にくると、レイは言った。
「そんじゃ、ありがと、碇君。また明日」
「う、うん、また明日・・・」
「じゃあねぇ〜〜〜、ばいび〜〜」
明るく手をふるレイ。
つられて手をふるシンジ。
レイは、雨の中、
シンジが見えなくまるまで、後ろ姿を見送った。
「あ〜〜〜あ。
あの、超ド級・ウルトラ・スーパー鈍感少年には、つける薬がないのね〜〜」
視線を落すレイ。
「ま、私としては、あきらめろ、ってことよね」
自分に言い聞かせるように、なんどもくり返した。
「・・・・・あきらめろ、ってことよね」
--- 3 ---
「ふぃ〜〜〜〜、参った参った・・・・」
ようやく家につき、
玄関前の軒先きに走りこむアスカ。
改めて体を見下ろす。
「最っ低!!!」
すでに下着までグッショリ濡れ、体は冷えきっていた。
ブルブルブルッ。
寒気がする。
そして、鞄の中から鍵を出そうとしたアスカは、
さらに追い討ちをかける事態に気付いた。
「鍵・・・・忘れてきちゃった・・・・」
体育の時、ロッカーに入れたままだった。
「は・・・は・・・はくしょん!」
ブルブルブル・・・
アスカは母子家庭で、母は夜遅くまで帰ってこない。
悔し涙を浮かべるアスカ。
(これもみんな、シンジのせいよ・・・)
自分でも理不尽と分かりながら、悪態をつかずにはいられない。
シンジが転校生といっしょに帰るのをみたアスカは、面白くなくて、
そのままゲームセンターで30分ほど時間を潰して帰ったのだ。
まっすぐ家に帰っていれば・・・・
(シンジ。 今ごろ、転校生と・・・・・・
別にどうってことないけどね。 ただの幼馴染みだから。)
言ってみて、嘘だってことが分かる。
「馬鹿シンジ!!!!」
と、その時。
雨の中、傘をさしてやってくる人影が見えた。
我が目を疑う、アスカ。
「・・・・・・・・シ、シンジ!!!」
「ア、アスカ・・・・・」
それは間違いなく、シンジだった。
「何してるんだよ、自分の家の前で」
「そ、それは・・・・鍵、学校に忘れてきたから」
「アス・・・」
シンジが何か言いかけたが、アスカが遮った。
「一緒じゃないのね」
「だ、誰と・・・・」
ぶぜんとした顔のシンジ。
「さあねぇ・・・・誰かしら・・・・」
激しい夕立ちに打たれ、アスカの制服は下着までずぶ濡れになっていた。
体にピタッとついてしまう。
シンジの視線が、つい胸元に集まる。
その視線に気付いて、あわてて胸元を手で隠すアスカ。
「な、何見てるのよぉお。いやらしいわね!」
「だ、誰が見るんだよぉ!! そんなもん!!!」
バシッ!!
アスカの平手打ちがシンジを襲う。
「いって〜〜〜〜、何すんだよぉ」
「あったりまえじゃない!!! この・・・この・・・・はっくしょん!!!
身体中が氷つくように冷たい。
「その・・・・・もし良かったら・・・・・家、よってく?」
「・・・・・いやらしい事、考えてるんでしょう!!」
「ち、違うよぉ・・・だいたいうちは、母さん、いるだろ」
言ってから、はたと気付くシンジ。
(今日は母さん、学会に行くって言ってたよな)
「ま、良いわ。
お言葉に甘えるとしようかしら」
(もしかして誰もいないかも・・・・)
シンジはそう思ったが、黙っているしかなかった。
一方のアスカは、なんだかんだといいながら、機嫌が直っていた。
--- 4 ---
「こんにちわ」
「ただいま〜〜〜。母さん、母さん! アスカがねぇ〜〜〜」
シンジの家。
が、返事はない。
(やっぱり・・・・・
じゃあ、二人っきり・・・・)
戸惑うシンジ。
「・・・・・・・・あ、あの、誰もいない、みたい」
「・・・・・・・・・・・」
シンジの上ずった声に、アスカも気付く。
「べ、別に良いわよ。今日初めて来たんじゃないし」
気にしないって、ふりをする。
「雨宿りだけさせてよ。ここでいいから」
「そ、そんなの、駄目だよ。風邪、ひいちゃうよ!」
「・・・・・そうね。じゃあ、バスタオルと足拭き持ってきて」
「うん。分かった」
ドタドタとおふろ場に急ぐシンジ。
「アスカ、これ・・・」
戻ってきたシンジが、ふろ場のマットを敷いた。
靴を脱いで、マットに上がるアスカ。
グショグショの靴下を脱いで、素足になる。
ちょっとドキッとするシンジ。
「ふぁあ〜〜〜〜。全く、酷い雨だったわよね」
髪をふきながら、アスカが言った。
「そ、そうだね。
最近、夕立ちってあんまり無かったし」
「今日のは特に酷かったわ」
「そうだね」
アスカが髪を一通り拭き終わると、無言になる二人。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
なんとなく、気まずい。
「・・・・・・くしゅん!」
アスカがくしゃみをした。
「あ、あの・・・シャ、シャワーあびて・・・着替えてったら?」
口ごもりながら言うシンジ。
「え?」
いぶかし気にシンジを見るアスカ。
「・・・・いや、その・・・着替え貸すよ。母さんの・・・」
「あんた、おばさまのタンス、開けたりしてんの?」
「ま、まさかぁ・・・だ、だけど・・」
「くしゅん!・・・・分かったわ。シャワー借りるわよ。
あと、ドライヤー貸して。髪の毛と下着は、すぐ乾くだろうし。
あそうだ、洗濯機に乾燥機、ついてたわよね。
それで服も乾かせるし・・・、痛んじゃうけど、ま、いっか」
そして、何げない口振りで、アスカは続けた。
「・・・・・着替えはシンジのワイシャツで良いわ」
「え?」
驚くシンジ。
「母さんの、出すから。今」
「女の人のタンスなんて、開けないの。
いいの!! シンジのワイシャツで!!!!」
「そ、そう・・・・・・」
視線を外すアスカ。
顔がちょっと紅潮してるのを、気付かれぬよう。
--- 5 ---
「アスカ〜〜〜、いい?」
ふろ場の脱衣室の前で、シンジはノックする。
「は〜〜〜い」
そっとドアをあけるシンジ。
見慣れたはずの脱衣室を、シンジはキョロキョロと見回す。
ゴウンゴウンゴウン
乾燥器の中では、アスカの衣類が回っていた。
曇りガラスごしに、アスカのシルエットが浮かびあがってる。
ごくっと、唾を飲み込むシンジ。
「シャツ、ここ置いておくよ」
「うん」
ハンガーにかかった白いワイシャツをおき、シンジは脱衣室を出た。
脳裏には、曇りガラスごしのアスカのシルエットが、焼き付いていた。
--- 6 ---
(シンジ・・・・・・・)
シャワーを浴びて出てくるアスカ。
身体中がホカホカと暖かい。
目の前には、ハンガーに掛かった白いワイシャツ。
乾燥機は止まり、中の衣類は、あらかた乾いていた。
(どう思ったかな・・・・私のこと)
ドキドキしてた。
曇りガラスごしに、シンジがいる。
シンジはそんなことしないって分かってても、ついヘンな想像をしてしまう。
(もしかして・・・もう・・・綾波さんと・・・・)
不意に、不安が込み上げてくる。
幼馴染み。
気付いた時には、隣にいた。
それが、シンジ。
二人でいるのが、当たり前すぎた。
それが今は、いない。
(なんなんだろ・・・・・この気持ち)
乾燥機の中から下着をとりだし、まだ少し湿ってるけど、とりあえず着た。
まあ、そのうち乾くだろう。
他の衣類は、ワイシャツの掛かっていたハンガーに掛けて干しておいた。
シンジのワイシャツに袖を通すアスカ。
(シンジのシャツ・・・・・・おっきい・・・)
長袖のシャツ。
袖を折らないと、手が出なかった。
洗面台の前にたつ。鏡の向こうの自分を見つめる。
(さすがに、これじゃあ、シンジの前には出られないな・・・)
下着をしてるとはいえ、シャツ一枚。
「くしゅん!」
やっぱり、まだ寒い。
アスカは腰にタオルを巻いて、脱衣場を出た。
その格好で居間に出ると、シンジがティーポットにお湯を入れていた。
「ア、アスカ・・・・」
シンジが戸惑っているのが分かる。
が、アスカは知らないふりをした。
「い、今、お茶入れてるから・・・・・・部屋で待ってて」
「・・・・ちょっと寒いから、毛布借りていい?」
「うん」
シンジの部屋は、玄関から階段を上がって2階にある。
間違えるはずない。
十年以上前から、来てるのだから。
部屋に入ると、中はちゃんと片付けてあった。
アスカがシャワーを浴びている間に、かたづけたに違いない。
(二人っきり・・・・か・・・・・・)
どうしても意識してしまうアスカ。
2週間ぶりの、シンジの家。
それまでは毎日、部屋まで起こしに行っていたって言うのに。
(なんだか、懐かしい・・・・)
窓の外は、相変わらず雨が激しく降っているようだった。
--- 7 ---
「アスカ、紅茶入ったよ」
フォションのアップルティー。
部屋中に拡がる、林檎の香り。
「ありがと」
カップを受け取るアスカ。
ベットの上に座り、腰には毛布をかけている。
カップとソーサーを受け取り、膝の上に置いた。
シンジは机に自分の紅茶を起き、椅子に座った。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
無言の二人。
外の雨音だけが、微かに聞こえる。
「雨、止まないわね・・・・」
「そ、そうだね・・・・」
窓の外を見つめる、アスカ。
長い髪をかきあげ、肩の後ろに回す。
思わず息をのむ、シンジ。
胸元から首筋に、目がいってしまう。
アスカは、そんなシンジの視線を横目で確認しながら、
そしらぬ顔つきで窓の外を見つめていた。
シンジは体をこわばらせながら、その光景に戸惑っていた。
自分の部屋の中に、アスカがいる。
シャワーあがりで髪が濡れていて、
腰には毛布をおいてあるけど、その下は、たぶん下着だけ。
白いワイシャツ越しに、ブラがうっすら透けていた。
アスカがブラをつけてるのに気付いたのは、小六の夏。
いつの間にか、オンナ、になってた。
あるいは、自分がオトコの目になっただけかも知れない。
『な、な。惣流とは、ドコまでいってるんや?』
『べ、別に、ドコにも、いってないさ』
『最近、チチがでかくなっとるんは、碇のせいやって噂やでぇ』
『じょ、冗談じゃないよぉ!!!!』
クラスメートからからかわれるたび、つい、否定してしまう。
でも、それは本当の気持ちじゃない。
シンジが沈黙に耐えられなくなったとき、アスカが口を開いた。
「覚えてる?・・・
ほら小学校入ったばっかのころ、やっぱりこんな風に夕立ちにあって・・・」
「・・・うん、覚えてる」
シンジが応える。
「あのときは、おばさまがいて・・・一緒にお風呂入ったよね」
「・・・・・う、うん」
「また一緒に入ろっか?」
「えぇええ?!!」
「う・そ・よ。本気にした?」
「・・・・・・」
二人の表情が、やわらいでいく。
「最近、こんな風にしゃべったこと、なかったね」
「そりゃ、アスカが・・・」
「なによぉ! シンジのほうこそ・・・・・・・いえ、やめましょう」
「そうだね。うん」
見つめあう二人。
やさしい微笑み。
「なんか緊張するなぁ・・・2週間ぶりだから、かな?」
シンジが照れくさそうに、横を向いて言った。
「ここに来るのも、2週間ぶりね・・・・。それで久しぶり....か」
しみじみ言うアスカ。
「そうだね・・・・ずっと、一緒に登校してたから」
「・・・・・・・・シンジ・・・・・」
喉元まで出かかった、言葉。
(言うなら、今よね・・・)
意を決して、シンジを見据えるアスカ。
紅茶を飲み干すと、カップとソーサーをシンジに渡す。
「綾波さんと・・・つき合ってるの?」
「えっ?・・・まさか」
シンジの目がそれる。
その動きを、アスカは見逃さなかった。
「いいの! 本当のこと、言って」
「つき合ってないよ!!! 本当さ!!!」
「じゃあ、私の目を見て言って!!!」
「う、うん・・・・」
アスカの迫力に押されて、視線を戻すシンジ。
真直ぐ見つめあう二人。
「綾波さんとは・・・付き合ってない」
「本当に?」
シンジの瞳を覗き込むアスカ。
その奥に何かを見つけようとするかのように。
「ほ、本当さ・・・・・・き、今日だって・・・」
「言わないで!!!!」
シンジが言い訳しようとすると、アスカがそれを制した。
(シンジの気持ちが知りたかったの・・・ホントの気持ちが・・・それだけ・・・)
言葉の代わりに、じっとシンジを見つめる。
「アスカ・・・・その・・・・・」
シンジも口を開いたものの、言葉が出てこない。
(言わなきゃ・・・・・言わなきゃ・・・・・今度は僕から・・・)
「その・・・・その・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
アスカは黙って、シンジの言葉を待つ。
「ま、ま、また、あ、あ、あ明日から・・・・・
朝、起こしに、き、き、来てくれない、かな・・」
(い、言えた・・・・いちおう。)
ほっと息をつくシンジ。
が。
アスカの次の言葉に、シンジは再び息を飲んだ。
「それだけじゃ、イヤ」
「えぇえ?」
「・・・・・・・それだけじゃ、イヤ」
シンジをじっと見つめる、アスカ。
(そ、そ、それって・・・・・)
戸惑いが隠せないシンジ。
胸の鼓動が自分でも分かる。
(言っちゃった・・・どうしよう)
アスカの胸も高鳴っていた。
静まり返った部屋。
もう、雨音も聞こえない。
(アスカ・・・・)
(シンジ・・・・)
幼馴染み。
それだけじゃ、もういられない。
たぶん、それは、二人とも同じ。
「・・・・アスカ・・・・」
シンジがゆっくり立ち上がる。
ぐっと構えるアスカ。
「・・・・・・・・・・」
アスカの隣に、シンジが腰掛ける。
ベットが沈んで、アスカがシンジに寄り掛かる姿勢になる。
長い髪がふわっとシンジの肩に触れ、シャンプーの匂いがシンジを包む。
シンジの左手が、アスカの膝の上の右手に重ねられる。
アスカは手を返して、シンジの手を握り返す。
横を向くシンジ。
「・・・・アスカ・・・・・」
アスカは視線で応え、そして目をつむる。
シンジの手を握るアスカの手に、少しだけ力が入る。
そっと、口を寄せるシンジ。
息が拭きかかる距離。
アスカが口をつきだすと、そっと、そっと、唇の先端が触れあう。
唇同士の感触。
くすぐったい感じ。
「・・・・・・・・・・・・・・」
そしてシンジは体を乗り出し、ゆっくり唇をおし当てていった。
鼻がぶつからないように、角度をつけながら。
膝に置かれた手と手が、ぎゅっと強く握られる。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
数秒が過ぎ、ゆっくり唇を離すシンジ。
ほうっと、大きく息をつく。
目をあけるアスカ。
しばらく続く、無言の時間。
「そ、その・・・・・・・・」
先に口を開いたのは、シンジだった。
「どう・・・・だった?」
おずおずと聞く。
「どう・・・・て、言われたって・・・・」
適切な言葉が見つからない。
「ま、こんなもんでしょ・・・・・初めてなんだから」
「・・・・そ、だね」
ほっとしたシンジの声。
「あ、まさか・・・シンジ・・・初めてじゃなかったとか?」
アスカは、急に不安になった。
「そ、そんな。は、初めてだよ」
「いいのよ。今なら、許してあげる。正直に言って!」
「は、初めてだよ。本当に」
「本当に?」
「うん」
「本当に、本当に?」
じっと目を見つめる、アスカ。
その視線をまっすぐに受け止める、シンジ。
「・・・・・うん、本当に」
「そう・・・良かった」
と。
アスカは、すっとシンジの頬に唇をつけた。
「あ!・・」
あまりのすばやさに、シンジはどうすることもできなかった。
アスカはすぐに唇をはなすと、腰に毛布を巻いたまま立ち上がった。
そして、さっきまでシンジの座っていた椅子に腰かけた。
「覚えてる? 昔、犬に噛まれたときのこと?」
さも何ごともなかったかのように、話だすアスカ。
「ああ、あれ・・・・気が動転しちゃって・・」
シンジもそれに合わせる。
「アスカが人呼びに行ってくれたんだよね。格好悪いね・・・」
「ううん・・・・だって、シンジが噛まれたの、私をかばったからだもの」
「そうだっけ?」
「あら? 覚えてないの?」
「噛まれたことしか・・・・・・」
「そうなんだ・・・。私、覚えてるわよ」
二人は少しずつ、気持ちを落ち着けていった。
--- 8 ---
「あ、こんなの覚えてる? 家に遊びに来たとき、
アスカ、オネショしたよね?」
いつの間にか、昔話に花が咲いていた。
「ちょっとぉ、それ、いつの話よぉぉお」
「でさ、僕がオネショしたことにしようっって、言ってさ」
それは、幼馴染みの会話。
「そ、そんな、こと、あったっけ?」
「あったさ」
「な〜〜〜い。シンジの勘違い」
以前のように。
いつものように。
「あったさ」
「ない」
でも。
二人とも、ちゃんと分かっていた。
「あった!」
「ない!」
もう、『ただの幼なじみ』じゃない。
といっても、じゃあ何?って聞かれたら、たぶん答えに困ってしまうけど。
「あったってば!!!」
「なかったのよ!!!」
でも、まだ唇が覚えてる。
「ずえったい、あった!!!!」
「ずえぇぇぇえぇったい、ない!!!!!」
この先何があろうと、たぶん、一生忘れない。
「あった!! あった!!! あったぁあああああ!!!」
「ないっ!! ないっ!!! ぬぁあああああああいいいいい!!!!」
それは、柔らかくて暖かい、初めての口づけ。
「あ・・・そういえば・・・」
ふと。
アスカが窓の外をみつめた。
「雨は?」
「あがったみたい」
(終劇)
[なしつぶさんへのお祝い by むう]
なしつぶさん、いつもお世話になってますぅ。
このたびは、5万アクセス、おめでとうございますぅ(^^/
で。つたないながらも御礼にSSを、と思って投稿させていただきましたぁ〜〜。
ただ・・。この作品、他ページにいったん投稿したものなのですが、
そのページが閉鎖されてしまいまして(;;)。 で、こちらに・・。
新作をと思ったのですが。それだと間に合わないんで・・・。
次回が許されるなら新作をお届けしますんで、許してくださいぃ。m(_ _)m
今後とも、よろしくお願いしますぅ〜〜〜。
[後書き by むう]
このSSのアイディアは、ZXさんやJURIさんなどとのチャットから、
生まれました。皆様に感謝いたします。m(_ _)m
なお、JURIさんから、イメージイラストをいただきまして。
それをもとにした番外編「翌朝」が、私のページにありますぅ。
ありがとうございます,むう様。こんなに素晴らしいSSをいただいてなしつぶはもう感無量です。
夕立の情景と夕立と同調したアスカの心が何とも言えません。
最後にはきれいに晴れ上がりましたね。
素晴らしいSSを書かれたむう様にぜひ感想を!
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