------------------------------------------------------------------------------
一途な心
------------------------------------------------------------------------------
<ゲームセンター>
シンジは、第3新東京市に来て初めてできた友達であるトウジ,ケンスケと共に、ゲー
ムセンターに遊びに来ていた。
「せんせー、なんでエヴァの操縦ができんのに、ゲームは下手なんや?」
3人は対戦物の3D格闘ゲームをしている。戦歴は、シンジ1勝,ケンスケ12勝、ト
ウジ7勝と、圧倒的にシンジは弱かった。
「そんなこと言われても・・・。」
エヴァの操縦ができるからといって、ゲームが上手いというわけでは無いだろう。
「今日は、もうそろそろ帰ろうか。」
既に日が暮れかけていたので、ケンスケはゲームを切り上げようと立ち上がる。
「そうだね。」
「そやなぁ。ワイも妹の病院に寄っていかなあかんからなぁ。」
ちょうど3人ともゲームが終わった所でもある為、家に帰ることにした。
「じゃあなシンジ、ワイらはこっちやさかい。」
「うん、また明日。」
親友達と別れたシンジは、ミサトのマンションへと歩き出すが、ふと違和感に囚われ両
手を見ると、手に下げているはずのカバンを持っていない。
あ・・・忘れてきたんだ。
急いでゲームセンターに掛け戻ると、先程やっていた対戦格闘ゲームのテーブルには既
に他の人が座っており、テーブルの横にシンジのカバンはほおり出されていた。
ひどいなぁ、投げ出すことないじゃないか。
シンジは、いくつか足跡のついた自分のカバンを拾い上げ、ゲームセンターを出る。
「なによこれぇぇぇぇ!! 壊れてんじゃないのぉ!!?」
ん?
UFOキャッチャーの前から、女の子の叫び声が聞こえてきたので、なにげなく振り向
くと、赤い色をしたロングヘアーの女の子が、UFOキャッチャーをガスガスと蹴り飛
ばしている。
か・・・かわいい・・・。
シンジが見とれていると、その女の子も自分を見つめる視線に気がついた様で、ツカツ
カとシンジの側に歩み寄ってきた。
「な・・・なに?」
顔を赤くしながら、歩み寄ってきた女の子におずおずと声をかけるシンジ。
「アンタ! 何、人のことをじろじろと見てんのよ!」
「え?」
「見物料よ! 100円よこしなさいよ!」
「い・・・いいけど・・・。」
鼻の下を伸ばしたシンジが、素直に100円を渡すと、その女の子は再びUFOキャッ
チャーを始めた。
ウイーーーーン。
動き出すアーム。
人形をめがけて、ゆっくりと降下していく。
そして、目当ての人形を掴む。
宙に浮く人形。
ポト。
しかし・・・・重みに耐え切れず人形が落下する。
「な、な、なんで、取れないのよ!!!」
ガンガンガンガンガンガン!!!
その女の子は、UFOキャッチャーを再び蹴りつける。よほど、あの人形がほしいのか、
それとも意地になっているのか・・・。
「そんなことしたら怒られるよ・・・。」
店員でも出てきたら大変だと思いシンジはおずおずと注意するが、その女の子はキッと
シンジを睨み付けた。
「アンタ! 人形が落ちた時、笑ったでしょ!」
「え?」
「笑ったわね!」
「わ、笑ってなんかいないよ!」
「いいえ、笑ったわ! 笑い賃よ、100円よこしなさい!」
「えーーーーー!!!」
「早く!!」
「う、うん・・・。」
またしても、100円を巻き上げられたが、すっかりその女の子にのぼせ上がってるシ
ンジは、鼻の下を伸ばしてUFOキャッチャーをする様子をじっと見ていた。
:
:
:
「ほら! 次!」
「も、もう無いよ・・・。」
「えーーーーー、もう無いのぉ! さいっていね! アタシ帰るわ!」
財布の中身を全て巻き上げられたようだ。それでも1つの人形も取れていない。
「あの・・・君の名前は?」
「なんで、アンタなんかに教えなくちゃなんないのよ! じゃね!」
その女の子は、シンジに振り返ることも無くツカツカと帰って行く。シンジは、女の子
の姿が見えなくなると、ぼぉっとしながらミサトのマンションへと歩き出した。
<ネルフ本部>
今日からこっちへ来ることになった、セカンドチルドレンのアスカよ。
シンジとレイを司令室に集めると、ミサトは真っ赤なプラグスーツに身を包んだアスカ
を紹介する。
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
思わず声を上げるシンジとアスカ。
「き、君は・・・・。」
シンジの目の前に現れたのは、まさしく昨日ゲームセンターでシンジから金を巻き上げ
た女の子だったのだ。
「むぐぐぐぐぐぐぐ。」
咄嗟にシンジの口を押さえるアスカ。そんな様子をきょとんと見つめるミサト。
「あなた達、知ってるの?」
「え、ええ・・・。昨日、ちょっと街で困っている所を助けてもらったの。」
「ふーーん。まぁ、面識があるなら話は早いわ。仲良くやってね。」
「もちろんよ。よろしくね、シンジ。」
「むぐぐぐぐぐぐぐ。」
ミサトが退室するまで、口を押さえつけられるシンジ。レイもミサトに続いて退室して
行った。
「ぷはぁぁぁぁぁぁ。」
ようやく、アスカの手から開放され、シンジは大きく息をする。
「余計なこと言うんじゃ無いわよ!」
「余計なこと?」
「アタシがゲームセンターに行ってたとか、アンタからお金を借りたとかよ。」
「う・・うん・・。言わないよ。」
「よろしい。しっかし、アンタがサードチルドレンだったとはねぇ。世も末だわ。」
「ごめん・・・。」
「まぁ、いいわ。それじゃアタシは帰るから、ばいばい。」
真紅のプラグスーツに身を包み、ロングヘアをなびかせながら去っていく少女を目で追
うシンジ。
やっぱり、かわいいなぁ・・・。
<学校>
翌日、アスカはシンジと同じクラスに転校して来た。その時の、男子クラスメートの反
応はもの凄いもので、あっと言う間に全校にアスカの名前は轟いた。
昼休み。
授業が終わると男子生徒注目の中、アスカがシンジの側へと寄ってくる。
「シンジ、パン買ってきてよ!」
「いいけど・・・パンなの?」
「そうよ。悪い?」
「よかったら、ぼくのお弁当あげるよ。」
「そう。じゃ、貰っておくわ。」
アスカは、シンジの弁当を受け取るとさっさと自分の席へと戻り1人で食べはじめる。
シンジは、自分の作った弁当を食べるアスカを嬉しそうに眺めていたが、しばらくする
と、自分の昼食が無くなったことに気付き、購買にパンを買いに行くのだった。
「おいシンジぃ、なんで惣流に声をかけられるんや。」
シンジがパンを食べていると、人一倍量の多い弁当を食べ終わったトウジがやってくる。
「うん・・・惣流もエヴァのパイロットだから・・・昨日会ったんだ。」
「なんやてぇ、ちゅうことは何かい、お前が惣流に一番近い人間っちゅーことかい。あ
ぁ、なんちゅう羨ましいやっちゃ。」
ヒカリの刺す様な視線も気にせず、大袈裟に天を仰ぐトウジ。しかしシンジは、アスカ
に一番近い人間だと言われたことを内心喜んでいた。
放課後。
学校が終わり、週番以外の生徒達がそろそろ帰り支度かクラブ活動の準備をしている時、
シンジはいつになくいそいそと帰り支度を済ませると、アスカの席へと駆け寄った。
「あ、あの・・・今日もネルフへ行かないといけないよね。」
「そうよ。」
「よ、よかったら、い、一緒に行かないかな・・・。」
シンジは張り裂けそうなほど心臓をドキドキさせて、どもりながらアスカを誘う。
「どうしてよ。」
「え・・・あの・・・まだ、この辺りの道とか知らないだろうし・・・。よかったら・・・
だけど・・・。」
「ふーーーん、まぁいいわ。じゃ行きましょ。」
アスカと一緒に帰ることになったシンジは、天にも登る様な気持ちだった。
<通学路>
1mほどの距離を置いて下校するシンジとアスカ。
「ねぇ、アンタから誘ったんだから、カバンくらい持ってよ。」
「う、うん。」
アスカのカバンと自分のカバンを持つシンジ。まだ新しいアスカのカバンを持つ手に力
が篭る。
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
しかし、カバンを持ってから駅の近くの繁華街にたどり着くまで、2人の間には一言の
会話も交わされなかった。
何か、話題は・・・。
何でもいい、喋る切っ掛けを必死で探すシンジ。
「あ、あのさ・・・。」
「何よ。」
「えっと・・・あの・・・そ、そこの喫茶店だけど、結構美味しいんだ。」
「ふーーん。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
途切れる会話。
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
シンジとアスカは、そのまま駅へと入って行った。
<駅>
「シンジっ!」
「な、なに!!?」
ずっと沈黙が続いていた中、突然アスカから声を掛けられたシンジは、あわてて答える。
「アタシまだ定期できてないから、切符買ってきてよ。」
「う、うん。ちょっと待ってて。」
シンジは全力で走って、アスカの切符を買いに行った。
「これで、ネルフまで行けるよ。あ、お金はいいから。」
「あっそ。」
シンジから切符を受取ると、1人でさっさと改札を通って入るアスカ。その後を走って
シンジは追いかけた。
「あ、そこより、3両目の真ん中がいいよ。」
何気なさを装い、電車を待って立っているアスカに声を掛けるシンジ。
「これでも、コツがあるんだ。3両目の真ん中だと、電車を降りた時すぐにエスカレー
ターがあるから・・・。」
「そんなこと、どーでもいいわー。」
あまり感心がなさそうに、目も合せずに答えるアスカ。
「は、ははは・・・そ、そうだね。どうでもいいけどね。」
「ま、そういうならそこで待ってあげてもいいけど。」
「え!? あ、そ、その方がいいよ。すぐにエスカレーターに乗れるし・・・。」
アスカが3両目の真ん中に向って歩き出したので、シンジもアスカのカバンを持ちなが
らアスカの隣に並んだ。
「ちょっと! 暑いんだから隣に並ばないでよ!」
「え・・・あ、ごめん。」
あわてて一歩下がり、斜め後ろに並ぶシンジ。しばらくすると待っている人が増えてき
た。
「ちょっと、そこの兄ちゃん。前空いてるんじゃないの? 詰めてよ!」
シンジの2つ後ろに並んでいた40歳くらいの女性が、1つ前を空けて並んでいるシン
ジに文句を言う。
「え・・・あ、はい・・・。」
アスカの表情を気にしながら、少しづつ前に出るシンジ。しかし、今度はアスカは何も
言わず、澄ました顔で前だけを見つめていた。
●
そんな毎日を過ごしながら、2週間が過ぎようとしていた。
<学校>
昼休み、今日は曇り空だったということもあり、シンジ達はめずらしく屋上で昼食を食
べている。
「なぁシンジ、惣流はやめとけ。」
「え?」
突然トウジからアスカの名前が出たので、シンジが驚いて反応する。
「そうだよ。みんなおまえのことを、惣流の奴隷だと言って笑ってるぜ。お前には所詮
高嶺の花なんだよ。もう近づかない方がいいよ。」
トウジもケンスケも口を揃えて、アスカに関わるなと言っている様だ。
「どうしてだよ。ただ友達として仲良くしているだけじゃないか。」
せっかく仲良くなれたと思っているシンジは、そんなことを言うトウジとケンスケが信
じられない。
「あんなんのどこが仲良くやねん。ただ足先でいいようにあしらわれとるだけやないか。」
「そんなこと無いよ!」
「カバンを持たされたり、ジュースをおごりで買いに行かされてるだけじゃないのか?」
「トウジもケンスケも、どうしてそんなこと言うんだよ! いいじゃないか! ほっとい
てくれよ!」
シンジは不機嫌な様子でガバッと立ち上がると、自分の弁当を持って1人教室へ帰って
しまった。
「あかんわ・・・重傷やな・・・。」
「今は、何を言っても無駄だよ・・・。」
トウジとケンスケは、シンジの去っていった方向を悲しげな顔で眺めているだけだった。
<通学路>
シンジは、久しぶりに1人で学校を帰っていた。その足取りは重く、頭の中にはトウジ
とケンスケに昼食時に言われたセリフが駆け巡っている。
わかってるよ・・・惣流がぼくなんか相手にしてないってことくらい・・・。
でも・・・話ができるだけでもいいんだ・・・。
とぼとぼと歩く。
はぁ・・・もう学校に行くの嫌だな・・・。
ネルフにも行きたく無いよ・・・。
ミサトのマンションが、ゆっくりとゆっくりと近づいてくる。
惣流・・・今頃何してるんだろう・・・。
アスカはミサトのマンションの近くにあるワンルームマンションに住んでいる為、転校
してきてからずっとシンジと一緒に帰っていたのだが、今日初めて1人で帰ることにな
った。
ぼくが一緒に帰らなかったことを、どう思っているのかな・・・。
なんとも思ってないだろうな・・・ははは・・・。
いつもの倍くらいの時間をかけて、シンジはミサトのマンションに帰り着いた。
<ミサトのマンション>
ん?
シンジがミサトのマンションに帰ると、なぜかドアのロックが外れていた。
ミサトさん、もう帰ったのかな?
あまり、今日は顔を合わしたく無いな・・・。
シンジが、ただいまも言わずにすっと家の中へ入っていくと、ミサトの部屋からガサガ
サと音が聞こえてきた。
「もぉ!! なんで無いのよ!」
え?
部屋でミサトが探し物でもしているのかと思っていたが、聞こえてきた声はまぎれもな
くアスカの声だ。
どうして?
なぜここにアスカがいるのかわからないシンジは、そっとミサトの部屋の襖を開けると、
そこには土足で上がり込み家捜しでもしている様なアスカの姿があった。
「そ、惣流!!」
思わず声をあげるシンジ。
「!!!!」
アスカは、その声にビクッとしたものの声の主がシンジであったことがわかり、無視し
てさらにガサガサとミサトの部屋をあさる。
「何してるの?」
「ほっといてよ!」
「でも・・・。」
「アンタ! このことを誰にも言うんじゃ無いわよ!」
「そ・・・それって、泥棒じゃないの?」
「ウッサイわね! アンタにとやかく言われたく無いわよ!」
「惣流・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「惣流。」
シンジの声など無視して、探し物を続けるアスカ。既にミサトの部屋はめちゃくちゃに
なっている。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
シンジは、無言でアスカの後ろに近づいて行く。
「惣流!!!!」
大声を張り上げるシンジ。
「ウッサイ! 見つかっちゃうでしょ! 静かに・・・・・・・・」
パーーーーーーーーーーーーーン!!
文句を言いながら振り向いたの頬に、大きな平手の音がした。唖然とシンジを見つめる
アスカ。
「何してるんだよ! やめろよ!」
「こ、このぉぉぉぉ!!!!!!」
パーーーーーーーーーン!!
今度は、アスカがシンジに平手を放つ。
「やめとけよ! そんなことして何になるんだよ!!!」
「アンタに何がわかるってのよ! 今まで散々良い顔しておいて、今度は正義面!!?
ハン! ヘドが出るわ!」
「ぼくのことを嫌うなら、それでもいいよ! でも、そんなコソ泥みたいな真似やめろ
よ! 自分が恥ずかしくなるだけじゃないか!」
「ウッサイ!!」
パーーーーーーーーーーーーン。パーーーーーーーーーーーーン。
再びシンジをアスカの往復ビンタが襲う。
頬を腫らしながらも、抵抗せずアスカを睨み付けるシンジ。
「アンタなんかに・・・ママを失ったアタシの気持ちがわかるもんですか!」
「ママ・・・・?」
「ママの死んだ理由を調べて何が悪いのよ!!!!!!!」
アスカは、それだけ叫ぶと涙を流しながらミサトのマンションを走り去って行った。
ママ・・・。母さん・・・。
涙・・・惣流が悲しそうな顔をするところ初めて見た・・・。
シンジは、その後散らかったミサトの部屋を奇麗に片付け、電気もつけずに自分の部屋
のベッドに潜り込んだ。
●
<学校>
翌日の放課後。
「シ、シンジ・・・あの・・・。」
シンジの席にゆっくりと歩み寄るアスカ。
「え?」
帰り支度をしていた、シンジがきょとんとアスカの顔をみつめる。
「ちょっと、話があるから一緒に帰らない?」
「ごめん・・・今日はちょっと用事があるんだ。」
「え・・・?」
「それじゃ、急ぐから・・・。」
シンジはアスカに取り合わず、さっさと席を離れる。そんなシンジの姿を追うアスカの
視線の先には、レイの姿があった。
ファースト・・・。
レイと一緒に帰って行くシンジ。
アタシのことを真剣に心配してくれてるのかと思ったのに・・・。
所詮アイツもただの男だったのね・・・。
フン!
今日は、ネルフへ行かなければいけない日だ。アスカは、シンジ達と会わない様に、少
し時間をずらしてネルフ本部へ向った。
<ネルフ本部>
「シンジくんは?」
ハーモニクステストの時間になっても、シンジは姿を現さない。心配になったミサトは、
アスカとレイにシンジの行方を聞く。
「知りません。」
レイは静かに無表情で答える。
「知らないって・・・アンタ。」
「アスカ、シンジくんの居場所を知ってるの?」
「知らないわよ。」
「おかしいわねぇ。諜報部に聞いたらネルフ本部へ入るまでは確認したって言ってるの
に・・・。」
「トイレにでも入ってるんじゃないの?」
「そうかしら・・・。仕方が無いから、あなた達だけでテストを始めるわよ。」
ビーーーーーーービーーーーーーービーーーーーーー。
その時、ネルフ本部に警報が鳴り響いた。
「何!?」
「MAGIがハッキングされています! プロテクトを展開しました!」
ミサトとリツコは、マヤの報告を聞きモニタを見つめる。
「なにこれ・・・幼稚な手口ね・・・犯人は第3コンピュータールームからアクセスし
ているわ。」
リツコの言葉に反応したミサトは、すぐさま諜報部に連絡を入れ自分自身もコンピュー
タールームへ向う。
まさか!!!
脳裏に嫌な予感が走ったアスカは、ミサトの後を追いかけた。
<第3コンピュータールーム>
アスカがコンピュータールームにたどり着いた時、そこには手錠をかけられたシンジの
姿があった。
「レイも共犯なの?」
「いいえ・・・ぼくが綾波のIDカードを盗んだんです。綾波は関係ありません。」
シンジのIDカードより、レイのカードの方が入れるゲートが多い。シンジのカードで
は、MAGIにアクセスできるコンピュータールームに入ることすらできない。
「何をしていたの?」
「母さんがなぜ死んだのか知りたくて・・・。」
コンピュータールームでは、諜報部の人間達とネルフのスタッフに囲まれ、シンジはリ
ツコに尋問されていた。
ママが・・・死んだって・・・。
シンジの母親もいなかったことを知り、少なからず衝撃を覚えるアスカ。
「それだけなのね。」
「はい。」
「あなたの処置は、指令と話し合って考えます。結果が出るまで反省室でおとなしくし
ていなさい。」
「はい。」
諜報部員に連行されて部屋を出て行くシンジがアスカとすれ違う。
「ごめん・・・力になれなくて・・・。」
その瞬間シンジは、アスカにだけ聞こえる声で謝った。アスカは、ハっとしてシンジの
顔を見たが、もう目を合わせることもなくシンジは暗い廊下へと消えて行った。
●
<反省室>
その日、ハーモニクステストが終わると、アスカはシンジが監禁されている反省室へ行
ってみた。鍵がかかっている為中に入ることはできないし、会話も録音される。
「どうして、あんなことしたの?」
「・・・・・・・・・。」
冷たい鉄の扉を隔てて、話し掛けるアスカ。
「こんなことして・・・アンタ下手したら、刑務所行きよ。」
「うん・・・。」
「何考えてるのよ。」
「いいんだ・・・。」
「何がいいってのよ!」
「君が・・・。」
「え!?」
「君がこうなるよりは・・・いいんだ。」
「ア、アンタ・・・。」
「もう、話をしない方がいいよ。帰ってくれないかな。」
「・・・・・・・・・。」
「さよなら。」
「シンジ!!? シンジ!!?」
その後いくらアスカが話し掛けても、シンジは一言も答えなかった。
●
3日後。
シンジの処分は、貴重なチルドレンであるという理由とミサトの根回しの結果、ミサト
が責任を持つということで、罪には問わないという結論となった。
<学校>
数日振りに学校へ登校するシンジ。教室へ入ると、何も知らないクラスメートは何事も
無かったかのようにシンジを迎える。
「ようシンジ、病気でもしてたのか?」
「また、ネルフの仕事ちゃうんか?」
「惣流に振られて落ち込んでるんじゃないかって、心配してたんだぜ。」
トウジとケンスケが、シンジの周りに集まってくる。
「うん・・・ちょっと、ネルフの用事でね。」
「いいなぁ、俺もエヴァンゲリオンを操縦してみたいよ。」
「そんなにいいもんじゃ無いよ。」
何気ない会話をするシンジ達の所へ、1人の少女が近寄って来る。
「シ、シンジ。」
「あ、惣流・・・あの・・・。」
反省室で話をして以来会っていなかった為、どういう対応で接していいのかわからない
シンジ。
「惣流って・・・アスカでいいわ。」
「え・・・?」
「あの・・・アンタ、今朝帰ったからお弁当を作ってないと思って・・・。」
「う、うん。」
「今日アタシ・・・お弁当作ってきたんだけど・・・初めて作ったの・・・。だからお
いしくないかもしれないけど、よかったら食べて。」
かわいらしい大き目のハンカチにつつまれた、弁当をそっぽを向きながら後ろ手でシン
ジに手渡すアスカ。その手には、いくつものバンドエードが巻かれていた。
「あ・・・ありがとう。」
シンジとアスカの会話を、トウジやケンスケをはじめクラス中が驚いた顔で遠巻きに注
目している。
「それで・・・お、お昼だけど・・・お弁当を一緒に食べていいかしら?」
「え・・・・う、うん!」
アスカに貰った弁当を抱かえながら笑顔で答えるシンジに、アスカは軽く手を振ると、
両手を後ろに組んでどことなく嬉しそうに自分の席へ戻って行った。
アスカ・・・か・・・。
こんなに、お弁当が待ち遠しいのは初めてだな。
授業開始のチャイムが響き、席に戻ったシンジは、膝の上に置いた少し小さ目の弁当箱
を見つめ続ける。そんなシンジを、少し離れた席からアスカは見つめ続けるのだった。
2人の未来は、まだわからない。
しかし、シンジの一途な心がアスカに通じたことだけは、シンジを見つめるアスカの瞳
が語っていた。
fin.
素晴らしい小説を書いて下さった作者様にぜひ感想を!
感想は作者への感謝と次回作を生み出すエネルギーです。