<弐号機エントリープラグ>

開けっ! 開けっ! 開けっ! 開けっ!
開けっ! 開けっ! 開けっ! 開けっ!

弐号機とセカンドチルドレンの輸送中、太平洋艦隊はガギエルと遭遇。アスカは初めて
見る使徒と、初対面のサードチルドレンと共にエントリープラグに入り戦っていた。

『ふーん。冴えないわね。』

それが、碇シンジの第一印象。しかし・・・。

コイツ・・・。

今1つのエントリープラグに入り、共にシンクロして様々なシンジの心を感じ取ったア
スカは、驚きの眼差しで目を見開きシンジの顔を見つめていた。

開けっ! 開けっ! 開けっ! 開けっ!

ひたむきに精一杯ガギエルの口を開こうとするシンジの意識が、連続して流れ込んでく
る。シンクロ率もエヴァの操縦技術も未熟な少年の意識が。

開けっ! 開けっ! 開けっ! 開けっ!
開けっ! 開けっ! 開けっ! 開けっ!

もう時間が無い。アスカは思考を中段し、再び全ての意識をガギエルの口を開くことだ
けに集中していった。

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自分を誉めてあげようよっ!
Episode 01 -前を見てっ!-
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<学校>

「ハロー、シンジ。グーテンモルゲンっ!」

「ぐ、ぐーてん・・・もるげん・・・。」

今日もトボトボ登校していると、昨日オーバー・ザ・レンボウで会ったアスカが、背後
から元気に声を掛けてきた。

「このアタシが声掛けてんのよ? ちったぁ嬉しそうな顔しなさいよ。」

元々人見知りが激しく友達を作るのが苦手なので、何と答えて良いのかわからず苦笑い
を浮かべる。

「昨日の使徒、凄かったわね。」

「あのさ・・・。」

「どうしたのよっ?」

「そういうことは、大声で言わない方が・・・。」

ネルフのことはあまり口にしてはまずい。アスカの顔色を伺いながらも、おずおずと注
意してみる。

「なーに言ってんのよっ! アタシ達が、みんなを守ってあげたんじゃない。」

「そりゃ・・・そうだけど・・・。」

「もっ! シャキっとしなさいよぉ、シャキっとっ。」

手に持っていた鞄で背中をバンと叩かれたシンジは、アスカの後から遅れない様に急ぎ
足で歩いて行った。

「惣流・アスカ・ラングレーです。よろしく。」

なんか、苦手だな。
あの娘・・・。

みんなの注目を浴びて自分の席につくアスカだったが、シンジは気にする様子も無く1
時間目の授業の教科書を開いて眺めていた。

「せんせぇ。なんでうちのクラスに転校してくるんやぁ?」

「そんなこと、知らないよ。」

休み時間に真っ先に詰め寄って来たのは、昨日オーバー・ザ・レインボウでビンタを食
らわされ、ボロカスに言われ、散々だったトウジである。

「いいじゃないか。」

話をする2人の所へ、こちらも昨日一緒にオーバー・ザ・レインボウへ行っていたケン
スケが近寄ってくる。

「なにがええんや。」

イライラしているトウジに、ケンスケは無言でカメラを見せると、分厚い眼鏡をキラリ
と光らせた。

「おおっ! ほうかっ!」

トウジは瞬時に、その意図を察する。

「お主も悪よのぉ。」

「ぐへへへへへ。」

そんな2人に付いて行けないシンジは、呆れた顔で自分の席へと戻る。一方アスカは、
休み時間中クラスメートに囲まれ、根ほり葉ほり質問責めに合っていた。

あの娘が来たから、ぼくはもうエヴァに乗らなくてもいいんじゃないのかなぁ?
まだ、乗らないといけないのかなぁ?

その後の授業中、エヴァに乗りたくないシンジは、1人でそんなことをずっと考えてい
て過ごした。

                        :
                        :
                        :

放課後になり、1人てくてくと歩いてネルフへ向かう。今日はハーモニクステストがあ
る予定だ。

ドンっ!

突然背中を叩かれ、前のめりに転びそうになるシンジ。

「なーに、じめーとした顔してんのよ。」

「びっくりしたなぁ。」

驚いて振り返ると、今朝と同様に明るい笑顔で元気に話し掛けてくるアスカの姿があっ
た。

「ネルフへ行くんでしょ?」

「うん。」

「じゃ、さっさと行きましょ。」

「はぁー・・・。」

このまま先に行ってくれると思っていたアスカが、自分の横を同じ歩調で歩き始めたの
で、人と話をすることが苦手なシンジは、どうも落ち着かない。

先に行ってくれたらいいのに・・・。
何を話していいのか、わかんないよ。

「まだ、漢字とか良くわかんないのよねぇ。電車に乗るのも困っちゃう。」

「そうなんだ・・・。」

自分と一緒にネルフへ行こうとした理由が、電車に乗る為だとわかると、少し不安がな
くなりほっとする。

そっか、そういうことだったんだ。
それなら、綾波と行けばいいのに・・・。

ふとそう考えたものの、人付き合いの良く無い自分と比べても、レイの方が更に人付き
合いは悪そうなので、苦笑してしまう。

「ねぇ、あの賑やかな店、何なの?」

指差す方に目を向けると、大通りを挟んでパチンコ店が見えた。旗やネオンが飾られて
おり、賑やか音楽が流れている。

「パチンコだよ。」

「何? それ?」

「ギャンブルだから、ぼく達はまだ入れないよ。」

「ふーん。なんだ、そんな店かっ。あっ! あれ何っ!? あれっ!」

次にアスカが指差した所には、江戸時代風の店構えをした和菓子の店があった。萩餅や
団子を売っている。

「和菓子屋さんだよ。」

「へぇ、あれがぁ。今度行ってみよっと。ねぇ、駅までまだあるの?」

「後少し。」

「結構歩くのね。ゲームセンターは近くに無いの?」

「駅の近くにあるよ。」

「UFOキャッチャーある?」

「あったと思うよ。」

「ねぇねぇ、どんな商品があるの?」

「はぁー・・・。」

マシンガンの様に次々と話し掛けられ疲れてきたシンジは、ネルフへ早く着こうと徐々
に急ぎ足になっていった。

<ネルフ本部>

夕方になり予定通りハーモニクステストが開始される。シンジやレイと比べてズバ抜け
たハーモニクス値を叩き出すアスカ。

「シンジ君っ! 前回よりも下がってるわよっ! がんばりなさいっ!」

『すみません。』

わずかに前回のテストの時より、ハーモニクス値が下がってしまったので、リツコに叱
られ俯きながら謝る。

「アスカは、さすがね。」

『へへーん。伊達にエースパイロットやってないわっ!』

「これからもがんばってね。」

『まっかせなさい。』

通信回線から入ってくる2人の会話を聞いていたシンジは、アスカとの力の差を思い知
らされ、期待されていない自分に嫌気がさしてきた。

そんなすごい娘が来たんなら、ぼくなんかいらないじゃないか。
もうエヴァになんか、乗らなくてもいいじゃないか。

シンジのハーモニクス値が更に少し低下する。リツコはその変化を見逃さず、通信回線
をまた初号機に開いた。

「シンジ君っ! また下がってるわよっ!」

『すみません。』

来る日も来る日も、ハーモニクステストをしてプレッシャーを掛けられ、怒られながら
無理矢理戦場に行かされる。いくらがんばっても、ゲンドウは振り向いてもくれない。

シンジは、何もかもが嫌で仕方無かった。

綾波より、少し高いじゃないか。
どうして、ぼくばっかり・・・。

その日のシンジは、最後まで良い値を出せないままハーモニクステストを終わり、家路
につくこととなった。

<ミサトのマンション>

夜になり、シンジはミサトと一緒に夕食を食べていた。いつものごとく連日当番のシン
ジが作った料理を食べながら、ミサトは上機嫌にビールを飲んでいる。

「あの・・・ミサトさん。」

「なーに?」

夕食を食べ始めてからというもの、しばらく黙り込んでいたシンジが、意を決した様に
重い口を開く。

「惣流が来たんだから、ぼくはエヴァに乗らなくてもいいんじゃないですか?」

「駄目よん。」

軽く返されてしまう。

「・・・・・・。」

「どうしたのぉ? せーっかく今迄やってきたんだから、もうちょっとがんばってみた
  らぁ?」

「こういうの・・・ぼくに向いてない気がするし・・・。」

「そんなことないわよぉ。いきなりの実戦で使徒を倒したじゃない。」

「あれは、エヴァが暴走して・・・。」

「ラミエルだって、立派に倒してみせたじゃない。」

「綾波が守ってくれたから・・・。」

「シャムシエルは、シンジくん1人の力で倒したのよ?」

「偶然敵が先に沈黙したから・・・。エヴァの電源が先に切れてたら今頃は・・・。」

今迄の打解けた表情を真面目な物に変えたミサトは、ぐいとシンジを覗き込んで真剣な
目で見据える。

「甘ったれるんじゃないわよっ。」

ぎょっとして、ミサトを見返す。

「ミ、ミサトさん・・・。」

「誰だってねぇ、最初から上手くできるわけないでしょ。」

「でも・・・。」

「なにっ!?」

「・・・・・もういいです。」

シンジは夕食もそこそこに済ませると、逃げる様に部屋へと入って行く。そんなシンジ
の後姿を、ミサトは溜息をつきながら見ていた。

<通学路>

シンジは学校が終わると、今日も1人で下校していた。ハーモニクステストも無いので、
後は家へ帰るだけである。

「シぃ〜ンジっ!」

声がした方へ振り返ると、昨日と同じ様にアスカが後ろから歩いてきていた。今日はネ
ルフへ行かなくてもいいのに、どうして呼び止められたのか想像できない。

「またぁ、シケた顔しちゃってぇ。」

「ごめん・・・。」

「どうしたの? 昨日、リツコに怒られたから?」

「そんなんじゃ・・・ないよ。」

「ねぇねぇ。アタシのハーモニクス値、見た見た?」

「すごいね。」

「アンタもさぁ。がんばんなさいよぉ。」

「ぼくは・・・いいよ。」

「え?」

アスカはその言葉の意味が良くわからず、シンジの顔を覗き込んでみると、覇気の感じ
られない目でただ地面を眺めているだけだった。

「アンタ・・・もしかして、エヴァに乗りたくないの?」

「・・・・・・。」

「せっかくチルドレンに選ばれたんでしょ? どうして?」

「そういうの、向いてないから・・・。」

頼りなげに言ったシンジの言葉を聞いたアスカは、目を大きく見開き口を半開きにして、
”まさかっ!”という表情で驚く。

「だから、惣流が来たんだから、もう辞めたいって言ったんだけど、ミサトさんは駄目
  だって・・・。」

「そう・・・。そうなの・・・。」

それからしばらく、シンジとアスカは会話もせずただ無言で肩を並べて通学路を歩いて
行く。

「アタシこっちだから。」

通学路の途中にある交差点に差し掛かった時、アスカが口を開きシンジの家の方向とは
別の道を指差した。

「そうなんだ。」

「家が決まるまで、まだホテルに泊まってるの。じゃ、また明日。ね。」

「うん。」

手を振って歩いて行くアスカと別れたシンジは、少しホッとして見慣れたいつもの道を
ゆっくりと歩いて帰って行った。

<学校>

翌日の土曜日、学校が終わり帰る準備をしていると、鞄を手にしたアスカが、また話し
掛けてきた。

「ちょーっと、頼みたいことがあるんだけど?」

「なに?」

毎日の様に話し掛けてくるアスカに、どう接していいのか良くわからず、その度に困っ
た表情を浮かべる。

「生活に必要な物とかさ、買い物に行きたいのよ。」

「ふーん。」

「アタシまだこの辺知らないからさ、付き合ってよ。」

きょろきょろと自分の周りを見回すシンジ。

「誰が?」

「アンタバカぁ? 誰に話し掛けてると思ってたのよ?」

「・・・・・・ぼ、ぼく?」

「あったりまえでしょうがっ!」

「えーーー!」

「なにが『えーーー!』よっ。付き合ってくれるの? くれないのっ?」

「わかったよ・・・。」

「よろしい。じゃ、早速行くわよ。」

「えーーーっ? 今から?」

「今、頼んでるんでしょうがっ!」

やれやれといった呆れ顔で、教室を出て行くアスカの後を、シンジはおずおずと付いて
出て行った。

<繁華街>

JRに乗り繁華街までやってきたシンジは、駅の前でアスカと一緒にきょろきょろして
立っている。

「へぇ。結構賑やかじゃない。」

「そうだね。」

2人の周りを幾人もの人が次々と歩いていき、街のあちこちに数多くの店が立ち並んで
いる。

「洗面用具とか売ってる店に行きたいんだけど?」

「ふーん。」

「『ふーん』じゃなくて、早く連れてってよ。」

「えーっ!? ぼくが?」

「ア、アンタねぇ・・・人をバカにしてるわけぇ?」

「だって、ぼくもここは初めて来たから・・・。」

「は、はぁ?」

さすがのアスカも、ぽかーんと口を開けたまま、何も言うことができなくなってしまっ
た。

「アンタ・・・、アタシが何を頼んだかわかってたんでしょうねぇ?」

「ごめん・・・。近くのスーパーへ行くんだと思ってて・・・。」

「だったら、電車に乗る前にそう言いなさいよっ!」

「ごめん・・・。」

「もうっ! いいわよっ! それじゃ、一緒に探すのよっ! いいわねっ!」

「うん。」

そうは言っても、大きな繁華街だ。洗面用具を売っている店など、少し歩いただけであ
ちこちに見かける。アスカは手近な店に、早速入って行った。

「じゃ、これ持って。はいっ。」

「ぼくが?」

「アンタ、男でしょうがっ。」

見た感じ少しお洒落な店で必要な物を買い揃えたアスカは、それらが入った紙袋をシン
ジの手の中へ遠慮なく押し込む。

「お腹減ったわね。あそこのファーストフードでも行きましょうか。」

「え? まだ帰らないの?」

「まだ昼過ぎでしょ。付き合ってくれたお礼に、奢ってあげるわ。感謝しなさい。」

言うが早いかさっさとファーストフードショップに入ってしまったので、仕方無く片手
で紙袋を抱えつつ後に付いて行った。

<ファーストフードショップ>

店に入ると、昼時ということもあって混雑していた。少しの間並び、ようやく自分達に
注文の順番が回ってくる。

「アタシ、ランチセットのA。シンジは?」

「ぼく・・・ハンバーガーだけでいいや。」

「なに遠慮してんのよっ! アタシと同じのにしなさいよ。」

「うん・・・じゃ、そうする。」

「ランチセットのAを2つよっ。お願いね。」

頼んだセットは、直ぐトレイに盛られて出てくる。カードで清算を済ませたアスカは、
それをシンジに持たせ、空いている席を探して奥へ入って行った。

「凄い人ねぇ。あっ、あそこ空いてるわっ。」

カウンター席に2つの空いている椅子を見つけたアスカは、他の人に取られる前に急い
で座りに行く。

「日本のハンバーガーって初めて。シンジは?」

「ぼくは、食べたことあるよ。」

「そりゃ、そうよね。」

隣に座ったアスカは、いろいろと喋りながらハンバーガーを口に頬張る。

「アンタさぁ。どうしてエヴァに乗ってるの?」

「父さんが、乗れって言うから。」

「じゃ、どうして乗るのが嫌なの?」

「ぼくには似合わないよ。無理だよ。」

「・・・・・・そう?」

アスカは一旦言葉を止め、食べ終わったハンバーガーの包み紙をくしゃくしゃと丸める
と、ジュースに持ち替える。

「アタシはね。がんばった自分を自分で誉めてあげたいから、乗ってるわ。」

「ふーん。」

「自分で自分のこと誉めてあげたことある?」

「誉めるとこなんて無いから・・・。」

カウンター席の前に設置されている大きな窓から、何処を見るでもなしに外を眺めるシ
ンジの顔を、アスカがニコっと微笑んで覗き込んできた。

「アタシには、アンタのこと誉めれるけどなぁ。」

「ぼくのこと?」

「会ったばかりのアタシに、わざわざこうやって付き合ってくれてるなんて、いいとこ
  あるじゃん。」

「それは惣流が・・・。」

「付き合ってくれて助かったわ。ありがとう。」

お礼を言いながらにこりと微笑み掛けられ、それ以上何も言えなくなってしまう。シン
ジはハンバーグを食べるのも忘れて、しばらく唖然としていた。

<最寄りの駅付近>

夕方迄アスカの第3新東京市見物に付き合わされた後、ようやく最寄りの駅まで帰って
来た。

「そろそろ、自分で持つわ。」

アスカの泊まっているホテルへの道と、自分の家への道が分かれる交差点が近づいてき
たので、紙袋を返す。

「アンタさぁ。歩く時いつも下向いてるわね。」

「そうかな?」

「顔上げてごらんなさい。夕日が綺麗よ。」

言われて顔を上げてみると、真っ赤な空と大きな夕日が見えた。

「下ばっかり見てないでさっ。前を見て歩きましょうよ。いろんな物が見えるわよ。」

「うん。」

「歩く時は、前を見てっ! ねっ。」

「わかったよ。」

アスカは手を振ってホテルへと帰って行く。その姿を見送ったシンジは、今日も自分が
住んでいる家へ帰って行く。

前を・・・か。

言われた様に、ほんの少し顔を上げて歩いてみた。

本当だ・・・。

前に伸びる歩き慣れた道の景色だったが、どことなく新鮮に感じられるシンジだった。

To Be Continued.

次話


 なしつぶです

 タームさん,ミリオンヒット記念投稿ありがとうございます。

しかも今回はミリオンヒットまでの連載とのこと!

なしつぶ感激ですΠΠ

自分を誉めてあげたくなりました。

 少しアスカがおとなしめですが何かにつけて元気なアスカと
やる気のないびくびくしたシンジとの対比がそれぞれの個性を出していて良かったです。

 シンジがアスカに言われて前を見たときに感じられた新鮮さ。
ぜひそれをシンジには忘れないでいてもらいたいですね(^^) 


素晴らしい小説を書いて下さった作者にぜひ感想を!
感想は作者への感謝と次回作を生み出すエネルギーです。
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