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自分を誉めてあげようよっ!
Episode 03 -逃げないでっ!-
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<デパート>

アスカと一緒に暮らす様になってからというもの、休日になるとショッピングだのなん
だのと付き合わされることが増えた。今日は、修学旅行の用意の買い物だ。

「見て見て。シンジ。」

あまり興味の無い女性の水着売場に連れ込まれた上、さっきから何度も意見を求められ
る。

「だからさ・・・、よくわかんないってば。」

「もっ!」

何を見せてもこの調子なのでその度に怒るアスカだが、それでも懲りずにまた見せにや
ってくる。

はぁーぁ。
もう疲れたよ・・・。

1時間以上も、目の遣り場にすら困る女性の水着コーナーで立たされている。足も痛く
なってきたので、ベンチを探すが近くには無い。

女の子の水着なんか、わかるわけないじゃないか。
どれも大して変わらないし・・・。

「見て見て。」

また戻ってくるアスカ。その手には、赤と白のストライプのビキニが持たれていた。い
い加減うんざりしていたシンジは、適当に返事をする。

「それで、いいんじゃないかな。」

「でしょ、でしょっ? やっぱりそう思うっ!? じゃっ、これにしよっかなぁ。」

うっ!

まさか、自分の一言で決まるとは思っていなかった為焦ってしまうが、今更訂正すると
どうなるかわからないので、そのまま黙っていることにした。

「ちょっと、買い過ぎなんじゃない?」

「後少しっ。」

修学旅行ということで、買い物にも気合いが入るアスカの後ろを、荷物をいっぱい抱か
えて、へっこらへっこら付いて行く。

「ねぇー、休憩しようよぉ。」

「そう? じゃ、屋上へ行きましょうか?」

「うん。それがいいよ。うん。」

2つ返事でアスカと一緒に屋上へやってきたシンジは、荷物を床に置いてジュースを飲
みながらほっと一息つく。

「沖縄ではスクーバダイビングやるんでしょ? 楽しみねぇ。」

「そう・・かな。」

泳げないので、沖縄への修学旅行なんて嫌で仕方が無い。よりによって、スクーバダイ
ビングなど以ての外だ。

「アンタは買い物しなくていいの?」

「特に必要ないから。」

「ふーん。でもアタシは後少しあるわ。ちゃーんと付き合うのよっ。いいわねっ。」

「うん・・・。」

疲れたから早く家に帰りたいが、そんなことは許して貰えそうにないので、その後夕方
まで黙って荷物持ちに徹した。

<プール>

アスカの修学旅行の用意も、ミサトからネルフを離れる許可が降りず全てが無駄に終わ
ってしまい、今日はチルドレン全員でネルフのプールに来ている。

アスカはかなり怒っていたが、シンジにしてみれば沖縄でスクーバダイビングなどしな
くて良くなり、ミサトに感謝すらしていた。

「どうして、泳がないのよ?」

プールの横で1人椅子に座りPCに向かっていると、髪や水着からぽたぽたと水滴を滴
らせてアスカが近付いて来る。

「宿題してるから・・・。」

「そんなの、ここまで来てしなくてもいいじゃんっ。」

「でも・・・。」

泳げないことを、宿題のせいにしてプールに入らないようにしていたが、アスカに無理
矢理手を引っ張られてしまう。

「せっかくプールに来てるんだからっ。ちょっとは、泳ぎなさいよっ。」

「・・・・・・。」

「ほらっ。50メートル。競争よっ!」

「・・・・・・。」

どんなにアスカに引っ張られても、水の中へ入ろうとしないシンジを、困った顔でアス
カが見返してくる。

「何してんのよ?」

「ぼく・・・その・・・お、泳げないんだ・・・。」

「へっ!?」

「ごめん・・・。」

素っ頓狂な声を出して驚いた顔をするアスカに、恥ずかしさと情けなさの入り交じった
顔で謝ると、また元座っていた椅子へ戻って行く。

「ちょっと、待ちなさいって。」

そんなシンジを追うアスカ。

「だから、ぼくは・・・。」

「人間は、泳げるようにできてるのよっ。来なさいよっ。」

「でも・・・。」

「来なさいっ!」

強引に押し切られたシンジは、しぶしぶTシャツを脱いでプールに身を浸した。足も届
くし水にトラウマがあるわけでもないので、入るくらいは問題は無い。

「泳いでみてよ。」

シンジの横にチャポンと飛んで入ってくるアスカ。

「だから、泳げないんだって。」

「真似ごとくらいはできるでしょ。」

「・・・・・・。」

「なにしてんのよっ?」

「・・・・・・。」

しつこく迫るアスカを恨めしそうな目で見ながら、嫌な顔で見返す。泳げないと言って
いるのに、どうして無理に泳がせようとするのかわからない。

恥ずかしいとこ、見られたくないよ・・・。嫌だよ・・・。
どうして、そんな意地悪言うんだよ。

「ほらぁっ、さっさとしなさいよっ。」

「やっぱり、いいよっ!」

シンジはそのままザバッと水から上がると、再びTシャツを着込んでプールから出て行
ってしまった。

<更衣室>

プールの更衣室で、さっきのアスカのことを思い返し、ブツブツ言いながら怒って着替
える。

泳げないって言ってるのにっ!
下手なもんはしょうがないじゃないかっ!

その日、シンジはアスカを待たずにネルフを出ると、ミサトのマンションへと1人先に
帰ってしまった。

<ミサトのマンション>

家に帰り着いてもまだ不機嫌だったシンジは、膨れっ面で自分の部屋に篭り、ヘッドホ
ンステレオで音楽を聞いていた。

なんだよっ! 自分が泳げるからってっ!
泳げない人だっているんだっ!

バカにされ笑われたという思いがどんどん強くなり、ヘッドホンステレオのボリューム
を上げて暗くなるまで自分の部屋で寝転ぶ。

                        :
                        :
                        :

そうこうしているうちに、外が暗くなってくる。トイレに行きたくなり部屋を出ると、
リビングにはいつ帰ってきたのか、横になってテレビを見ているアスカの姿があった。

顔・・・合わせたくないな・・・。

気まずい雰囲気を感じながら、背を向けて寝そべるアスカの後ろを通り過ぎそそくさと
トイレに入る。幸いアスカからは何も言ってこなかったので、内心ほっとしていた。

さっさと部屋に入っちゃお。

トイレを出たシンジが、再び急ぎ足でリビングを通り過ぎようとした時、背を向けたま
まアスカが、ぼそりと聞こえる様な声で独り言を呟いた。

「ヨワムシ。」

その1言が耳に入ったシンジは、さすがにムカっとして背を向けているアスカに大声を
張り上げる。

「なんで弱虫なんだよっ!」

その声に僅かに反応したかの様に、ゆっくりと立ち上がったアスカは、ツカツカと部屋
へ向かって歩き出すと、シンジを一瞥してツンと上を向く。

「フンッ!」

シンジにはそれ以上何も言うことができず、部屋に入って行くアスカの後ろ姿を黙って
目で追い続ける。

なんだよっ!
泳げないくらいで、なんでそこまで言われるんだよっ!

結局その日、別々に各自の部屋で食事をした2人は、顔を合わせることもなく眠りにつ
いた。

<ネルフ本部>

翌日、浅間山の火口でサンダルフォンが発見され、シンジとアスカはネルフ本部に召集
された。

「マグマの中・・・ですか。」

ミサトより捕獲作戦の説明を聞いたシンジは、今回の作戦がマグマの中で行われると聞
いて、蚊の鳴く様な声を発する。

「D型装備は、初号機か弐号機にしか装備できないわ。」

「そんなの、訓練もしてないのに無理ですよ・・・。」

横で弱音を吐くシンジを見たアスカが、視線は前を見たまま小さな声で独り言を呟く。

「また逃げるんだ。」

「なっ! 違うよっ! ただ、ぼくは・・・」

しかし、必死で言い訳しようとするシンジになど耳を貸さず、セリフを途中で遮ってア
スカがミサトに進言する。

「いいわっ! アタシが行くっ! D型装備ってダサイから嫌だけどねっ。」

アスカの志願とも言える一言が最終決定となり、使徒捕獲作戦にはアスカが向かうこと
になった。

<浅間山>

現在、アスカは遥かマグマの下で捕獲作戦を実行中、シンジは火口付近で待機任務につ
いていた。

こんな中で、もし何かあったら・・・。

眼下に燃えるマグマを見下ろす。D型装備の様な身動きが自由にできない状態で、もし
戦闘状態に入ったらと考えると、恐怖が襲ってくる。

こんなのむちゃくちゃだよ。

自分が何をしているわけでもないのだが、この下でアスカが作戦行動中だと考えると、
手の平に汗が滲んでくる。

アスカだからできるんだよ。
ぼくには無理だよ。
そうさっ、アスカなら大丈夫さっ。ははは・・・。

アスカが潜ってからしばらくして、使徒の捕獲に成功したという報が初号機のエントリ
ープラグに入った。

「ふぅ〜。」

その報を聞いたシンジは、一気に緊張していた面持ちを崩し安堵の溜息をこぼした・・・
が、それも束の間、その直後に弐号機が戦闘状態に入ったという報が飛び込んでくる。

戦闘っ!?
そんなのできるわけないよっ!

フル回転で引き上げられる5本のケーブルが、キーーーッという嫌な金属音とブーンと
いう鈍いモーター音を立てる。

早く引き上げないとっ! もっと早くっ!
だから、こんな作戦嫌だったんだっ!

いろいろな情報が飛び込んでくる中、固唾を飲んで浮かび上がってくる弐号機の姿を、
ただじっと待ち続ける。

通信を聞いていると、アスカがかなり劣性で戦闘をしているように聞こえる。
アスカの悲鳴が、ときおり通信に入って来る。

D型装備じゃないから、ぼくにはどうしようもないよ・・・。

マグマの中に、弐号機とサンダルフォンの影がかすかに映った。

ドーン。

そして、サンダルフォンの殲滅に成功。

「あっ!」

しかし、最後の最後でアスカを引き上げていたケーブルに亀裂が入った。

B型装備じゃ・・・。
どうしようもないじゃないか。

燃え滾るマグマを見下ろすシンジ。

ブチブチブチッ!

弐号機を引き上げていたケーブル5本のうち、4本が一気に跳ね上がってくる。

「アスカっ!!」

逃げちゃ駄目だっ!

最後のケーブルが切れ、目前まで浮上してきていたアスカが重力に引かれ沈み始める。

そこから先、何を考えたのかわからない。

ただ、真っ赤に染まった視界の先にアスカの手が見えた。

気づいた時。手にアスカの感覚を感じていた。

何があっても離すまいと、思っていた。

<温泉宿>

各エヴァから降りたシンジとアスカは、ネルフが予約していた温泉宿で再会した。昨日
も、出撃前も、揉めた後なので、アスカの顔を見づらい。

「アンタのおかげで助かったわ。」

先に言葉を発したのはアスカだった。

「うん・・・。でも、どうしてあの時、手をぼくの方へ?」

シンジが飛び込んだ時、アスカは切れたケーブルを掴もうとはしておらず、自分の方へ
向かって手を高く上げていたのだ。

「マグマの上に初号機の影が見えたからよ。」

「ぼくが飛び込むかどうかなんてわかんないのに?」

「でも、アンタは助けてくれたわ。」

「そうだけど・・・。」

なぜあそこでB型装備のまま飛び込んでしまったのか、自分でもわからない。もしかし
たら、あのまま手を拱いて見ていたかもしれない。

「ぼくが飛び込まなかったら、どうするつもりだったのさ。」

「アンタっ! アタシを見捨てるってのっ?」

「そうじゃないけど・・・。B型装備であんなとこになんか・・・無理だよ。
  あれ? ぼくはどうして、助かったんだろう・・・?」

「まったく。あれだけのことしといて・・・よく言うわね。」

「え?」

「まっ、あの状況でアンタは逃げないでしょうけどね。」

「どうしてさ?」

「だって、アンタには逃げる必要なんてないんだから。」

よくわからないことを言うアスカの顔を、きょとんと見つめる。

「とにかく、ありがとう。アンタのおかげで、助かったわ。シンジの力のおかげでね。」

「ぼくの力で・・・。」

「そう。アンタの力でね。」

「ぼくの・・・・・・。」

そう言ってニコっと笑いシンジの鼻をピンと人差し指で弾いたアスカは、ミサトと相部
屋で用意された自分の部屋へと歩いて行った。

逃げなかったから、アスカが生きて戻ってきた。
ぼくの力で・・・。

アスカが何を言いたかったのか、はっきりとはわからなかったが、アスカが無事に戻っ
てきたこととは別に、自分の手の平を見ていると、何か嬉しい物を感じるのだった。

<ミサトとアスカの部屋>

その頃、ミサトは誰もいない部屋で本部のリツコと電話をしていた。

「興味深い資料、届いた?」

『これは・・・本当にすごいわ。』

「これが自信に繋がらないのよねぇ・・・あの子の場合・・・。」

『それは、あなたの仕事でしょ。』

「そうなんだけどねぇ。」

マグマに飛び込んだ時に発した、全身をマグマから遮断する程のATフィールド。
瞬間ではあるが、アスカをも凌ぐシンクロ率などの高い数値が並ぶ資料を前に、ミサト
は溜息を零すのだった。

<プール>

翌日シンジとアスカは、ネルフが運営するプールへとやってきていた。誰もいないプー
ルの端では、シンジが跳ね上げる水しぶきが上がっている。

「もっと、ゆっくり動かして大丈夫よ。」

「ゆっくりでいいの?」

「コツさえわかればすぐ泳げるようになるわ。力み過ぎなだけなのよ。」

身体の力を抜いて、手足をアスカに動かして貰いながら、まずは平泳ぎから練習する。

「そうそう。そのまま、ここまできて。」

10メートル程先で、水に胸まで浸したアスカが待っている。シンジは、教えられた通
りに手足を動かし泳いで行く。

「プハァ。」

「ほらぁ。できたじゃない。」

「少しだけど、泳げたんだ・・・。」

「少しだっていいじゃない。後は同じことの繰り返しなんだから。」

「うんっ。そうかっ。ぼくも泳げたんだぁ・・・。」

その後、息継ぎの仕方を覚えたシンジは、生まれて初めてプールの端から端までの50
メートルを泳ぎ切ることができた。

「プハァ。」

プールの端に立ち、今泳いできた50メートルを振り返る。一生できないと思っていた
ことが、今日という日を境にできるようになってしまったのだ。

パシャッ。

飛び込み台に立って泳いでくるのを待っていたアスカが、横に飛び込んでくる。
跳ね上がった水しぶきがシンジの顔にかかる。

「見てみなさい。やりゃぁ、できんじゃないっ。」

「うん、アスカのおかげだよ。」

「違うって。アンタはやればできるんだから。よーーしっ! さぁ、次はクロールよっ!」

「ウゲッ。」

「なによその顔はっ! うだうだ言ってないで、さっさと練習よっ!」

「アスカぁ〜。」

「まだまだ、背泳にバタフライに犬掻きが残ってるんだからねっ!」

「・・・・・・・・・・・・。」

シンジは夕方になるまで水泳の特訓を受け続け、翌朝、足腰が立たない程の筋肉痛にな
った。

その朝シンジは、布団の中で激痛に絶えながら、どうして平泳ぎができた時点で逃げな
かったのかと、ひーひーとうめきながら猛烈に後悔するのだった。

To Be Continued

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