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自分を誉めてあげようよっ!
Episode 04 -諦めないでっ!-
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<通学路>

進路についての個人面談があった為、今日はいつもより帰りが遅くなった。レイは先に
ネルフへ向かったが、アスカはシンジの面談が終わるのを待っていた。

「三者面談だけど、アスカはどうするの?」

「ミサトが来てくれるんじゃない? ま、アタシは高校行くかどうかわかんないけどさ。」

「そうだね・・・。」

面談が終わってからというもの、シンジは少し思い詰めた様な顔をしており、いつにも
増して言葉数も少ない。

「うん・・・逃げちゃ駄目だ。」

アスカの隣で肩を並べて歩いていたシンジが、握り締めた自分の拳を見ながら小さな声
でボソリと呟いた。

「ん? 何か言った?」

「ちょっと、電話。いいかな?」

「誰に?」

「父さん。」

「そう・・・。」

煙草屋に公衆電話を見付けたので、直ぐさま駆け寄りゲンドウへの直通回線に電話を掛
ける。

「あの・・・今度学校で三者面談があるんだけど。」

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予想はしていたことだったが、ゲンドウの言葉を聞いてがっかりしてしまう。そこへ、
膝の前に両手で鞄を持ったアスカが、そっと近づいて来た。

「ミサトに任せるって?」

「うん・・・。でも、たぶんこうなると思ってたし・・・。もういいや。」

「でも、よく電話したわね。」

「うん・・・いつまでも逃げてちゃ駄目だと思って・・・。」

その言葉を聞いたアスカは、優しい目を静かに細めると、口元にほんの少し笑みを浮か
べた。

「でもさ、なんか変だったんだよ。」

「何が?」

「電話を切ったというより、切れたって感じでさ。」

いくらゲンドウでも、自分が話してる途中に電話を切ることはないだろう。さっきの電
話の切れ方に違和感が残る。

「きっと、気のせいよ・・・ん?」

にゃぁ〜。

しばらく歩いていると、空き地の草むらから一匹の子猫が甲高い鳴き声を上げてアスカ
の足下に擦り寄って来た。

「あらっ。かわいい。」

にゃぁ〜。

その場に座り込んでアスカが子猫の頭を撫で始めたので、シンジも立ち止まりその光景
を眺める。

ごろごろごろ。

頭を撫でられた子猫は、目を細め嬉しそうに喉を鳴らし、頭をアスカの白い手に擦り寄
せてくる。

「この子、お腹空いてるのかしら? うーん。」

子猫を撫でるのを止めたアスカは、カバンを開けて何やらごそごそ漁ると、ティッシュ
ペーパーでラッピングされたクッキーを取り出した。

「ヒカリに貰ったんだけど・・・こんなの食べないわよねぇ。」

そう言いつつも、その欠片を少し取り子猫の前に置いてみると、余程お腹が空いていた
のか、パクパクと食べ始めた。

「あら、食べるのね。よっぽどお腹空いてたんだ。」

クッキーでも食べることがわかり、残りを全て置いてやると、夢中になってその殆どを
食べてしまった。

「アンタも必死で生きてるのね・・・。どう? お腹膨れた?」

にゃぁ〜。

子猫は、お礼のつもりかアスカの手に何度か頭を擦りつけ、再び草むらの中へと戻って
行った。その子猫の後ろ姿を、いとおし気に眺めるアスカ。

「がんばってっ!」

必死で生きている子猫に小さな声でエールを送ったアスカは、再びシンジと一緒にネル
フ本部へ向かって歩き始めるのだった。

<ネルフ本部>

ネルフ本部に到着はしたものの、なぜか全ての施設が停止しており中に入ることができ
なかった。鞄から非常事態マニュアルを取り出し、2人で目を通す。

「こんな時の対応、書いてないよ。」

「仕方無いわねっ。」

メインゲートの裏手に、手動ハッチがあることを思い出したアスカは、シンジと共にそ
こから本部内へと入ることにする。

「暗くてよく見えないよ。」

「下って行けば、必ずジオフロントに出るはずよ。」

確かにそうだろうが、道がどう繋がっているのさっぱりわからない。それにも増して辺
りは暗く分岐も多い。

「また、分かれ道だよ。」

「うーん・・・きっとこっちね。」

「さっきから、アスカの言う通りにしてたら、行き止まりばっかりじゃないか。」

「ウッサイわねぇ。適当に進んでんだから、しょーがないでしょっ!」

「適当・・・って・・・。」

頼りないアスカの後に続いて、下りになったり上りになったり狭くなったり広くなった
りする暗い通路を、当てずっぽうで進んで行く。

「はぁ〜。やっぱり行き止まりだよ・・・。」

「うだうだ言ってないで、さっさと戻るわよっ!」

「ふぅ・・・。」

元来た道を引き返し、別の分かれ道を進む。何処へ向かっても暗闇が続き、手探りで進
むしかない。

「一旦、地上に戻った方がいいんじゃないかなぁ?」

「地上に戻る道なんて、もうわかんないわよっ!」

「えぇぇぇーーーーーーーーっ!」

「ほらっ、進むのよっ! 必ずゴールはあるんだからっ!」

下手をすれば、ジオフロントにも辿り着けず地上にも戻れないまま、ここでさまよい続
けるのではないかという不安が襲ってくる。

『使徒接近中。繰り返す、使徒接近中。』

暗闇の中で歩き回っていると、頭上高くから日向の声が聞こえてきた。あろうことか、
使徒が迫っていると叫んでいる。

「し、使徒ぉ? くっ! 急ぐわよっ!」

「急ぐったって、どっちへ行けばいいんだよ。」

「マコトの声が上から聞こえたんだから、だいたいは合ってるはずよっ! 行くわよっ!」

「うん・・・。」

急ぎ足で歩いていくアスカの後を、暗闇の中で見失わない様に必死で付いて行く。アス
カと逸れてしまってはそれこそ終わりだ。

「でもさ、発令所まで行っても、停電ならエヴァ動かないんじゃないの?」

「ミサト達なら、なんとかしてるわよっ!」

「電気も無いのに?」

「大丈夫っ! とにかく、アタシ達はケージまで行けばいいのよっ!」

「うん・・・。」

本当にエヴァが動かせるのか半信半疑だったが、今は早足で進むアスカの後に付いて行
くしか無い。

ドン。

「いたっ!」

突然、目の前でアスカが立ち止まってしまったので、急ぎ足で歩いていたシンジは、そ
のまま背中にぶつかってしまった。

「まいったわねぇ。」

暗がりの中、頭上から射す非常灯などのわずかな光に映し出されたのは、とても手動で
は動かせない巨大なハッチ。

「こんなの・・・どうしようもないよ。」

「むぅー。」

「そう簡単に、ジオフロントには入れない様になってるんだよ。」

弱音を吐くシンジを無視して、アスカは足下に転がっていた鉄パイプでハッチを殴りつ
けてみるが、当然のことながらビクともしない。

「むぅー。」

「もう、これ以上無理だよ。」

「さっき・・・通風口があったわっ。」

「通風口?」

「ええ。あそこに入ってみましょ。」

「そんな所、中がどうなってるか、わからないじゃないかっ!」

「通風口なんだから、絶対ジオフロントまで通っているわ。」

「無茶だよ。」

鉄パイプをほおり投げたアスカは、その場に座り込むシンジの肩をガシっと掴んで、暗
くてよく見えないシンジの顔を見据えた。

「使徒が来てんのよっ!」

「う、うん・・・でもっ!」

「アタシ達が諦めたら、みんなはどうなんのよっ!」

「・・・・・・。」

「諦めない限りなんとかなるんだからっ! ゴールはあるんだからっ! 行くわよっ!」

「そう・・・そうだね。」

諦めたら、そこで全てが終わっちゃうんだ・・・。

そう思い直したシンジは、再び立ち上がると先程見えた通風口まで、元来た道を戻って
行った。

少し道を戻り、狭い通風口へ四つん這いになりながら入って行く。その狭いダクトは、
空気を逃がす為だろうか、少しづつ少しづつ、下へ下へと伸びて行っていた。

「前、見たら殺すわよ。」

「見るも何も真っ暗じゃないか・・・。」

「それでも、駄目っ!」

埃だらけのダクトの中を、ゴホゴホと咳をしながら前へ前へと進んで行く。どこまで進
んでも、光は見えず先に何があるのかもわからない。

アスカ・・・怖くないのかな。
本当にジオフロントに出れるかどうかもわからないのに・・・。

よく考えると、さっきから自分はアスカの後を付いて行っているだけだが、アスカは目
の前に何があるかもわからない暗闇の中を、手探りで進んでいるのだ。

「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

その時、突然アスカが悲痛な悲鳴を上げて、急に後退してきた。アスカのお尻を顔に押
付けられたシンジも、何事かと焦って後ろへ下がって行く。

「アスカっ! どうしたんだよっ! アスカっ!」

「キャーーーーーーッ! イヤぁっ! キャーーーーーーッ! キャーーーーーーッ!」

「アスカっ! アスカっ!」

「痛っ!! イヤーーーーーっ! 痛っ!! キャーーーーーーーーーーーーッ!!!」

いくら呼び掛けても、アスカは悲鳴を上げて後退してくるばかりで、前で何が起こって
いるのかわからず、とにかく後ろへ後ろへと下がって行く。

「イヤッ! イヤッ! 痛いっ! キャーーーーーーーーッ!」

「アスカっ! アスカっ!」

「キャーーーーーッ! キャーーーーーッ!」

しばらく下がると、途中にあった少し空間の広い場所に抜けた。そこまで出たシンジは、
下がって来るアスカの腰をがっちりと掴んで、思いっきりダクトから引っこ抜く。

「アスカっ! 早くっ!」

チューチューチューチュー。

アスカが出た後からは、何匹ものドブネズミが列をなして飛び出して来た。どうやら、
突然現れたアスカを敵とみなして飛び掛かっていた様だ。

「大丈夫?」

「はぁはぁはぁーーーはぁはぁ。」

叫び続けて後退して来たアスカは、息も絶え絶えで声も出せずに息を整えている。

「はぁ・・・びっくりしたぁ。」

そう言いながら、片手でもう一方の手を押さえている。どうやら、あちこち噛まれた様
だが、暗くてよく見えない。

「はぁ・・・。」

ちらりと通風口へ不安気な目を向けるアスカ。

「もう、戻ろう?」

「えっ!?」

「ぼく達、精一杯やったよ。だから、もう戻ろう?」

「ここまで来といて、諦めるってーのっ!?」

「だって、アスカ怪我してるじゃないかっ!」

「アンタ・・・。」

しかしアスカは、シンジを見据えたかと思うと、キッと再び通風口に目を向けた。

「アタシは諦めないわよっ! こんなことくらいでっ!」

「でもっ! 危ないよっ!」

「諦めないでっ! 見てなさいっ! 諦めない限り、必ずゴールは見えるんだからっ!」

言うが早いか、アスカが再び通風口へ四つん這いになって入って行ったので、シンジも
その後に続く。

「見てなさいよっ!
  こんなことくらいで、諦めちゃダメなんだからっ!
  諦めちゃ、おしまいなんだからっ!
  見てなさいよっ!!!」

通風口に入っても、アスカはそんなことを何度か言っていた。

あんなことがあっても、まだ諦めないなんて・・・。
どうして、こんなに強いんだろう?

自分の前を、おくびれも無くずんずん進んで行くアスカ。その後から、遅れない様に狭
いダクトの中を這って追って行く。

アスカに怖い物なんて無いんだろうな・・・。
やっぱり、アスカは凄いや。

恐れも知らず突き進むアスカの後姿を頼もしく思いながら、手足を精一杯動かしてシン
ジも急ぐ。

「!!」

しかし、少し急ぎすぎたのだろうか。シンジの手がアスカの太股に振れた。
その瞬間、シンジはハッとして顔を上げる。

アスカ・・・・。

恐れも知らずずんずん突き進んでいるかのように見えたアスカの脚が、小刻みに震えて
いる。

「・・・・・・・。」

それでも進む速度を落とさず、この先にジオフロントがあることを信じて狭く暗いダク
トを突き進んでいくアスカ。まるで、自分にその姿を見せつけるかの様に。

諦めないでっ!・・・か。

「うん。そうだね。」

そんなアスカの後ろ姿を見ながら、シンジは声を出さずに口の中だけで呟いた。

ガタン。ドスっ!

何か音がしたかと思うと、突然目の前からアスカが消えた。
その瞬間、まばゆい光が見え、自分の身体も浮遊感にとらわれる。

ドシャッ!

強烈な痛みが身体に走り、何事かと目を開けると、その前には蝋燭の明かりに照らされ
たリツコとマヤの姿があった。

「あなた達っ。」

嬉しそうな顔でリツコが、微笑み掛けてくる。他のスタッフ達も、突然天井から落ちて
きた自分達に注目している。

「エヴァはっ!」

ケージの方に目を向けると、そこには人力で出動準備を進めている汗塗れのゲンドウの
姿があった。

「父さん・・・。」

エヴァが動ける様になっているとは思っていなかったシンジは、まさかの光景に目を丸
くする。

「シンジっ! 行くわよっ!」

「うんっ!」

ケージに向かって走って行く。シンジは、前を走るアスカの後ろ姿を走っている間ずっ
と見ていた。

諦めなければ・・・。
必ず光が見えるんだね。

それから数分後、先に出動準備を整えていたレイを交えた3人は、マトリエルを見事撃
破した。

<女子更衣室>

戦闘が終わった後、着替え終わったシンジは、女子更衣室の前でアスカが出てくるのを
待っていた。

プシュッ。

エアが抜ける音がしたので振り向くと、レイが更衣室から出てきた。アスカは、まだ更
衣室の中におり、下着姿である。

「うっ・・・。」

慌てて視線を戻したシンジは、見なかったことにしてその目をレイに向ける。

プシュッ。

更衣室の扉が閉まる音がする。

「綾波。もう帰るの?」

「星を見に行こうって・・・。」

どうやらアスカが誘った様だ。レイはそれだけ言うと、まだ明かりのつかない廊下を、
ツカツカと歩いて行く。

プシュッ。

数分後、今度はちゃんと服を着たアスカが更衣室から出てくる。更衣室の前で、シンジ
が待っていたので驚いている様だ。

「どうしたの?」

「ちょっと、来てくれないかな?」

「いいけど?」

アスカを連れて医務室へ入ったシンジは、いくつか立ち並ぶ蝋燭の明かりで、アスカの
手を映し出してみた。

「やっぱり・・・ひどいじゃないかっ。」

「大丈夫よ。」

既に何かで血を拭き取った様だが、手の何カ所もネズミに噛まれた跡があり、血が滲ん
でいる。

「駄目だよ。ばい菌が入るよ。」

そう言いながら、急いで消毒液と包帯を取り出し手当する。アスカは何を大袈裟なとい
う感じだったが、されるがままじっとしていた。

「こんなに手を噛まれちゃったら、そりゃ怖いよね。」

「怖い? アタシが? はぁ?」

『何を馬鹿なことを!?』という感じで、シラっと言ってのけるアスカ。

「だって、ダクトを進んでる時、足が震えてたじゃないか。」

「なっ!」

一瞬ビクッとしたアスカだったが、勢い込んで立ち上がると手当したばかりの指をビシ
ッと突き出して、大声で叫んだ。

「アンタバカぁっ! このアタシが震えたりするわけないでしょーがっ!」

「でも・・・。太股が・・・。」

「あんなことくらい、アタシにとってはどーってことないわよっ!!!!」

「だって、悲鳴も上げてたし・・・。」

「ウルサイウルサーーイッ! あれはびっくりしただけでしょっ!」

「そ、そう・・・。」

「それより、アンタっ! 太股って何よっ!?」

「え?」

「どさくさに紛れて、いろんな所を触ってたんじゃないでしょうねっ!」

「ち、ちがうよっ! 偶然・・・。」

「偶然、いろんな所を触ってたのっ!?」

「ちがうってっ! だから、一度だけ振れちゃったんだよぉっ!」

「それに、アンタ。なんで更衣室の前なんかに立ってたのよっ。」

「アスカが出てくるのを・・・。」

「覗いたりしてないでしょうねっ!」

「うっ・・・。」

思わず、アスカの下着姿を思い出してしまう。

「ちょっとっ! なんで、そこで詰まるのよっ!」

「いや・・・その・・・。」

いつの間にか、逆に詰め寄られしどろもどろになってしまっている。

「覗いたのねっ!」

「違うよ。そんなことしてないよ。」

「本当かしらっ。」

疑いの眼差しでジトぉーと睨みつけるアスカに、それ以上シンジは何も言えず。ただ黙
って消毒液と包帯を片付け始めた。

「それより、今から星見に行くから、アンタも一緒に来なさい。」

「え・・・ぼくはちょっと。」

「なによ? 来ないって言うの? 街中停電なんてチャンス、一生無いわよっ?」

「あの・・・父さんの所へ行って来るから・・・。」

「・・・・・・。」

「諦めないで、もう一度、三者面談に来てくれるように・・・。」

「そう・・・。そうねっ!」

それまで大声で迫っていたアスカだったが、包帯を巻いた手でシンジの背中を医務室の
入り口に向かってそっと押してくる。

「がんばってきなさいっ。」

「うん。」

「どこまでも、ねばんのよおぉぉぉーーー! 諦めずに、とことんねばってきなさいっ!」

「うんっ!」

シンジはアスカと別れると、医務室を後にして、ゲンドウのいる司令室までゆっくりと
歩いて行く。

そして、数分後。

闇に閉ざされていた第3新東京市は、まばゆいばかりの希望の光に包まれたのだった。

To Be Continued

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