誰もいない都会を、白い軽乗用車が疾走していく。

軽乗用車の横には"Nerv"のあかいロゴが入っている。

お世話様にもかっこいいとは言えない車である。

運転しているのは、若い女性、おそらく20代後半から30代前半と言ったところであろう。



よく軽であれだけのスピードを出せるものである。

巡航速度120km/hと言ったところであろうか。

中の女性は必死こいて飛ばしているが、いかんせん軽では、彼女もその才能を発揮できないようである。

「なんでこんな時にレストア出しちゃったんだろう、もう!!」

そういいながら、計器類の中に混じるカーナビには、彼女の行き先が表示されている。

そこには、「第3新箱根湯本駅」と表示されていた・・・。





昨日と今日と、明日

第1話 なんでぼくが/I'll Remember April





彼女の行く先であろう駅では、一人の少年が途方に暮れていた。

「箱根湯本って言ったら、温泉街だよな・・・温泉入っていこうかな・・・。

でも、非常事態宣言が出てる、っていうから、たぶん閉まってるよね。」

そりゃそうだ。

いくら何でも、緊急事態にのんびりやっている温泉はないし、それで死人が出れば、閉鎖される。

目立つことはしないのが、商売のうまくいくコツなんだろう。





「電話も通じないし、駅は非常宣言が発令されちゃってどこにも行けないし、どうすればいいのかな・・・。」

そうつぶやいて、彼は手元にあるくしゃくしゃの紙を見る。

「来い」

ただ一言の、父親の言葉。

「・・・どうして、いまさら・・・」

そうつぶやくと、少年はある決意を固めた。








先ほどの軽で飛ばしていた女性は、やがて程なく第3新箱根湯本駅に到着する。

しかし、そこにはネコの子一匹いない。

「あっれー、ここでいいハズなんだけどなぁ〜、アタシ間違えたかしら・・・。」

そうつぶやくと、もう一度、構内を見回してみる。

人気のない構内は、静まり返っていた、否、遠くから聞こえてくる不吉な音が、そのとき確かに彼女の鼓膜に届いていた。

「あっちゃー、もう近いじゃ〜ん、どうしよ・・・?」

そうつぶやくと、すこし考えて、もう一度車に乗り込んだ。








少年は、駅を出て、あらぬ方へと歩き続けている。

シェルターに入りたい、と思ったのだ。

とりあえず、先ほどから国連軍の戦闘機やらなんやら飛び交っているし、いくら何でも、普段からここが基地でもないのに、戦闘機が飛び交っているなんてことはないだろう、と思ったからだ。

加えて、この事態が終わってからにしないと、父親もどうすることもできないだろう、という判断だった。


しかし、状況はそれを許さなかった。




歩き始めてから数分後、なにやらただならぬ音がして、少年は、その音の発生源らしき方へと顔を向けた。

そこには、数機のホバリングしているUN機、そして、それらUN機は何かに向けてミサイルやらガトリングを発射している。

しかし、その砲塔がなにに対して向けられているのかが、山に隠れて分からない。

「何かいるんだろうか?」

そういう彼の疑問は、やがて驚きへと変わった。

「なんだ・・・あれ。」

そこには、とてつもなく大きな、何かでかいものが、歩いていた。



UN機が何発もガトリングを命中させ、そのたびに砲煙がそのでかいものを包むのだが、そのでかいものはいっこうにお構いなく、歩いている。

しかし、やがて飽きたのか、そのでかいものは腕から、光の槍状のもので、そのUN機のうち一機を撃ち落とした。

墜落するUN機。

その自由落下が、自分の方に向かってくるのを感じて、思わずシンジは逃げ出した。

だが、容赦なくUN機はシンジの方へと墜落してくる。

「もうダメだぁ、いいこと無かったなぁ、僕の人生・・・」

そうつぶやくと、シンジはぎゅっと目をつぶった・・・。




至近距離で落下して爆発するUN機、だが、シンジは身辺に何も起こらないのに気がつき、目を薄く開けてみた。

爆風と、飛散物から車でシンジを守っていたのは、ミサトだった。

だが、何も言えないシンジは、ミサトが顎でしゃくるまま、車に乗り込んだ。



「いかり・・・しんじ君ね?」

「はい・・・そうですが・・・」

「私は、ネルフ、国連直属の機関であるネルフにつとめてる、葛城 ミサト、っていうの、よろしくね。」

「はぁ・・・」



シンジには何がなんだか分からない。

いきなり、爆発から守ってくれた女性が、自分の勤めている会社を名乗られても、どう反応すればいいのかなんて、普通は分からないだろう。

だが、とりあえず、基本は守ることにした。



「あ、ありがとうございます。」

「いいのよ、別に。どうせこんな官給品、国民の税金やらなんたらで支給されてる物だしね。それより、お父さんから何か聞いてる?」

「えっ、父を知ってるんですか?」

いきなり父親のことを聞かれてうろたえる。

(この人は、愛人なのかな・・・まさか・・・それで正式に結婚するから、僕に紹介して・・・)

「えぇ〜、何も聞いてないの!?」

シンジは黙って、父の手紙(?)を渡した。



「ああ、これじゃ分からないよね、な〜んだ、何も聞いてないんだ、シンジ君は。」

「ええ、でも、これからもよろしくお願いします、ええと、碇になるんですか?」

「ミサト、でいいわよ、でも、碇になるってどういうこと?」

「父と結婚するんですよね?」



ミサトはいきなり急ブレーキを踏んでしまった。

「はぁ?それどういうこと?」

「だって、父を知ってて、それで僕に何か聞いてない?とか言われて、なんかそこらへんから思ったんですけど・・・」

「ああ、ごめんなさいね、説明が足りなかったわね。

お父さんは、ネルフに勤めてて、私の上司、というか、お父さんはネルフの司令、なのよ。」

「そうなんですか、なんだ、びっくりしました。」

(こっちのほうがびっくりしたわよ)





同時刻、強羅に設置された、仮設司令所では、戦略自衛隊、そして国連軍の司令官たちが頭を抱えていた。

「全然効果無いですねぇ。」

「無い、じゃ済まされんよ!どうにかしたまえ!」

「はあ、しかし、通常の兵器では全く効果がないんですが。」



「そうか、ではN2爆雷を使用するしかあるまい、許可を取ろう。現地部隊は準備にかかってくれ。」

「はっ。」



そういうと、司令官の一人は、おそらく政府上層部に確認するためであろう、電話をかけ始めた。



その後ろで、二人の中年男性が、冷ややかにその鍋をひっくり返したような騒動を見つめていた。

「N2爆雷、だと。無駄なことをするなぁ。」

頭に白髪の入った男が冷ややかにいう。

それに答えて、薄暗い部屋の中だというのに、サングラスを取ろうともしない男が言う。

「ああ。」



「N2爆雷、というと、赤城博士が、戦略自衛隊の研究所にいた頃開発した、と聞くが。」

「ああ。」

「さすがはネルフ切っての才媛だ、科学なら何でもお任せだな。」

「ああ。」

「50音最初の文字は?」

「つまらないことを聞くな。」



ちょっとつまらない表情の、冬月。







「あれはなんですか?」

ミサトに問いかけるシンジ。

「ああ、あれは、『使徒』、よ。」

「『使徒』ですか?あの聖書に出てくる?」

「名前はね、でも、人類の敵。お父さんの仕事のこと、聞いたことない?」


僅かないらえの後、シンジは答える。


「人類を守る、大切な仕事、と聞きます。」

「そう、ネルフの仕事はまさにそれなのよ。」


ネルフの公用軽自動車に乗ったミサトは、町の中を超高速で走るが、いかんせん軽自動車、その足は遅い。

そんなミサトの目をバックミラー越しにとらえたのは、UN機が高速で「使徒」から離れる姿だった。

「えええええええええええええええええええええええええええ!?」

思わず耳を塞ぐシンジ。

「ここで、こんな町中でN2爆雷を使う気ぃ〜!?」

「え」

何かをシンジが言わんとしたその瞬間、彼方から、ネコの鳴き声が・・・

にゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃー

そして、ネコ型にあがった爆炎。


爆風で吹っ飛ぶ軽自動車。

崩れ落ちる、周囲の廃屋。

きっかり一回転した後、自動車は回転を止めた。



「なんであれがN2爆雷というか、分かった気がします。」

「いってみ」

「ニャーニャー言うからでしょう」

「正解」



ボロボロになった二人は、しばらく惚けているしかなかった。






戻って、仮設司令所。

「オペレーター、状況はっ?」

「現在、爆風とそれに伴う超音波で、空間が乱されモニターできませんっっ!」

「画像回復まで、後10秒」

喜ぶ司令官たち。

「この爆発と音響だ、爆炎もほぼネコ型だし、これはやっただろう。」

「うむ。」



だが。

「レーダー回復。あっ、これは・・・」

言っていいのかオペレーター、迷ったが、報告する。

「爆心地付近に、高エネルギー反応確認!」



「画像、復帰します。」



そこには、やっぱり先ほどと同じ格好をした使徒が、立ちすくんでいた。



「なんてことだ・・・N2爆雷すらも効果ナシとは・・・」

「ニャーニャーうるさいのが恥ずかしいと言った高官どもをなんとか納得させたのに・・・」



いやみったらしく後ろでつぶやく二人。

「あれは、やっぱり、ATフィールドだろうな」

「ああ。」



そこにかかってくる電話。

戦略自衛隊の司令官は、二人を振り向き、苦渋の表情を浮かべる。


「碇君、これからの指揮権は、君たちネルフへと渡った。だが、勝てるのかね。」

「ああ。」

「ああ、じゃないだろ、なんか他の言葉も言ったらどうなのかね。」

「乗るなら早くしろ、でなければ帰れ!!」

「何を言ってるんだ?」

「ちがうちがう、それはもっと後だろ」

あわててフォローに入る冬月。

「ああ。」



それだけ言うと、碇君、本名:碇ゲンドウは、ネルフへと黒い公用車で向かった。


車中、車内TVと携帯電話で指示を出すゲンドウ。

「葛城三佐を出してくれ。」

「いま、おりませんが。」

「何をやってるんだ、葛城三佐は!!」

「はぁ、サードチルドレンを迎えに行った帰りに、N2作戦に巻き込まれ、ハンドルが折れてしまったそうです。」


短い思考の後、ゲンドウは答える。

「では、私が直接戦闘の指揮を執る。レイのみでいい、零号機で出撃準備を整えてくれ。」

「はっ、初号機は。」

「射出準備だけしといてくれ、両方とも準備が整ったら、連絡するように。」

「了解しました。」



冬月は、すこし青筋を立てているゲンドウに、訪ねる。

「どうするのかね。」

「レイの怪我が治っていてよかった。とりあえず、零号機のみで行かせるさ。」

「シンジく・・・いや、サード・チルドレンは?」

「後回しだ。だが、葛城君は・・・降格だ。」





しばらくして、またゲンドウは電話に手をかける。

「私だ。使徒の状況を、車に回してくれ。あと、葛城一尉のカーナビにもだ。」

「葛城さん・・・一尉のにですね。」

口調と内容から、ミサトの降格を知るオペレーター。

頭がいい。

「あと、葛城一尉とつないでくれ、音声のみでいい。」





町をこちらへとやってくる使徒を見て、どこに隠れるか考えながら、ミサトがぼーっと周囲を眺めていたときだった。

突如、携帯が鳴り出す。

発信音が、緊急のだとわかり、あわてて取るミサト。

「はい、葛城ですが。」

「葛城一尉ですか?」

「何言ってんの!アタシは三佐よ!私の階級を間違えるなんて!アンタ階級と氏名を明らかにしなさい!冗談を言っていいときと悪いときがあるのよ!!軍法会議ものだわ!!」

「えっ、しかし・・・」

弱るオペレーター、いきなり割り込むゲンドウ。

「遊んでいる場合ではない、葛城一尉。君はたった今から一尉だ。何をやっているのかね。」

ゲンドウに言われて、降格が決まってしまったミサト、落ち込むが、今の状況を思い出し、即座に返答する。

「はっ、碇 シンジ君を迎えに行った帰りに、爆発に巻き込まれまして・・・」

「いいわけはいい。今そちらのカーナビの画面に、状況を流す。準備が出来たら、初号機と技術班を回す。そこで起動するように。」

「し、しかし、パイロットが・・・」



「分かってるはずよ、葛城一尉」

いきなり耳元で拡声器で叫ぶ白衣の女性。

「な、何よ!!耳が痛いじゃない、もう。」

「拡声器を切り給え、赤城君!!」


けっこう携帯越しでもダメージを受けたゲンドウ、またキれてしまう。

「はっ、申し訳ありません。」


通信回線を、技術班の車から流れる拡声器に切り替え、作戦会議は続く。


「話を続ける。シンジを、パイロットとして初号機に乗せる。」

「えっ?」

今まで会話に参加していなかったシンジ。

「なんのパイロット?それに、この声は、父さんだね。」

「そうだ。」

「父さん、なんで呼んだの、この僕を!それにパイロットってなんだよ、三年ぶりにあっといて、それはどういうこと?」

「おまえは、エヴァンゲリオン初号機のパイロットとして、この町に呼んだのだ。」

「なんだよ、それ、見たことも聞いたこともないし、いったい何を言ってるのか分からないよ!!」

「乗るなら早く乗れ、でなければ、帰れ!!」

だが、冬月は焦らない。

「碇、まだエヴァは出とらんよ。乗るとか乗らないとかより、ほれ、もう使徒が迫っているんじゃないのか、シンジ君たちに。」



気がつくと、もうシンジがいるあたりから程なく離れたあたりに使徒がいる。



「零号機はまだか!?」

いかるゲンドウ、だが・・・

「もうすでに発進準備整っています。」

「初号機は!?」

「あと300秒ほどかかります。」

「なんで言わない!!」

冷静な冬月は、ゲンドウを宥める。

「さっき、双方の準備が整ったら連絡しろ、と言ったのはおまえじゃないか。片方だけしかそろわなかったから、黙ってたんだろう。」



かすかにうろたえるゲンドウ、だが、その表情を読めたのは、おそらく長いつきあいの冬月だけだったろう。



「では、零号機発進!」







「あ、あの、どこに?」

「使徒と、サードがいる場所の中間点にだ。初号機は、サードがいる場所に一番近い発射口。急げ!」



ゲンドウや、技術班、ネルフ公用軽自動車のカーナビに、発進予定地点が表示される。






そして、エヴァンゲリオン零号機は、シンジやミサト、リツコ達の目の前にある地上発射口にリフトで移送されてゆく。





やがて、10秒後、エヴァンゲリオン零号機はシンジの目の前に現れる。



「こ、これがエヴァンゲリオン・・・大きい・・・」



続いて、ゲンドウから指示が出る。

「レイ、まずはATフィールドをはれ。そののちに、パレットガンを使徒に撃ち込め。」

「了解。」



初めて聞いたパイロットの声が、女の子、それも自分とあまり年齢に差がない子のものだろうと知って、シンジはミサトに尋ねる。

「ミサトさん、あの、レイ、って子は何歳ですか?」

「14歳よ。あなたと同じ。」

「えぇ、そんな子が、あんなのに乗って、命を懸けている・・・?」

「そう、人類を守るためにね・・・。あなたも、乗るのよ!!」

「え!?僕も!?命を!?なんでぼくが!!」

「あなたにしかできないからよ。」

いきなり、割り込むゲンドウ。

「そう、お前にしかできないからだ、シンジ。」

「どうして、どうしてだよっ、なんでこんなことで・・・」

「必要だから呼んだまでだ。お前しかできないからだ。他の人間でもいいなら、他の人間を呼んでいる。」



優しく肩を抱きしめるミサト。

「あなたにしかできないの。あなたが必要なのよ、人類には。」

優しく語りかける。

「もうすぐ、エヴァー初号機、つまりあなたの乗る機体が、ここに到着するわ。そう、あなたもそれに乗るのよ。」

「なんで、なんでなんだよ、いきなりこんなとこに連れてこられて、どうしてそんなことやんなくちゃいけないんだ!!」





その目の前で、戦う零号機と使徒。

パレットガンを撃ち込むが、効果はまるで無し。

使徒は、零号機に向かって、飛び跳ねた!!




「初号機、準備完了しました。」

「緊急射出、位置は先ほど指定した場所だ、急げ!」

まだネルフ本部につかない、二人が乗った車。

焦りながら、指示を出す冬月。

ようやく、入り口を通ったときだった。





エヴァンゲリオン初号機が地上に現れるのと、ほぼ時を同じくして、零号機が使徒に組み付かれる。

「きゃっ!」

かわいらしい(変態か!?)声を上げて、零号機=レイははり倒される。

だが、使徒はかわいい声を上げても容赦しない。

零号機を組み敷いて、顔をその手でつかむ。



悲鳴を上げるレイ、だが他の人間には為す術がない。

「レイ!!」

叫ぶミサト、そして、シンジに向き直り、

「今、あなたが行かなくちゃ、この町は、私たちは、人類は助からないわ!」

目の前で繰り広げられる戦いを見つめるシンジ。

そして、初号機の準備を進める、赤城 リツコそのほかネルフ技術班。



そして、本部に到着したゲンドウ、決めの科白を言えるとあってか、この状況下の中、すこし嬉しいらしい(冬月による)。

「乗るなら早くしろ、でな「零号機、完全に沈黙、パイロットは脱出しました。」

オペレーター、青葉 シゲルをにらみつけるゲンドウ、シゲルは降格を覚悟した。


「パイロットの容態、及びエントリープラグ到達地点は!?」

冬月が叫ぶ。

「技術班の車から、おおよそ50mの地点です。」





初号機のエントリーの準備がすんだ、と思ったら、エントリープラグが飛んできた技術班、ミサト、リツコ、そして、シンジ。

あわてて、エントリープラグを緊急開放し、レイを助ける技術班。



「零号機パイロット、重傷、右足を骨折しており、内臓にも異常が見られます。出血も多量で、このままでは危険です!」

「使徒接近中、危険です、待避してください!」

「しかし、待避なんてしてたら、レイは助からないでしょう!!」

「でも、もうここは危険です!!」



言いあうミサトとオペレータ、そんなミサトを後目に、リツコはシンジに話しかける。

「シンジ君、あなたが乗らなきゃ、少なくとも、今ここであなたを助けてくれていた、この子が死ぬわ。それでも、いいの?」



血にまみれたレイ、そして、通常兵器で弾幕を張られて動けない使徒。

だが、それも時間の問題。



そして、苦しみ悶える、レイ。

美しい、と思った。

そう、ヒトが、シヌ・・・。



「僕を、初号機に乗せてください」











「これでよかったのだな、碇」

「ああ、問題ない」










「のんびりやっている暇はないわ、シンジ君」

そういうと、リツコは、俯せになったエヴァ初号機によじ登り、首の後ろの部分に立ち上がる。

「マヤ、やって頂戴」

そういわれると、マヤと言われた若い女性が、なにやら携帯端末を操作する。

すると、首の裏の部分がするすると開き、中から白い、エントリー・プラグが出現した。

「いらっしゃい、シンジ君」



シンジは、リツコの言うままに、リツコのそばへとよじ登る。

そして、半ばあらわになったエントリープラグの中を覗く。

「あそこに人型のくぼみがあるでしょう?」

「はい」

「あそこに座って、とりあえずそのままにしてて。」



シンジは、言われるままに、くぼみへと自らを填め込んだ。

「では、ハッチを閉めます。」

ひゅっと、ハッチが閉まり、真っ暗の空間になった。



「でも、起動すんのぉ〜、エヴァーって、なんだっけ、何たらシステム、って言われてたわよね?」

「ああ、起動確率が0.666666666%でシックス・ナインシステム、って言う話?」

「そう、その恥ずかしい名前」

「あら、あなたの口から恥ずかしいなんて、珍しいこともあったものだわ」

「なによっ!って、そおいうこと言ってる場合じゃなかったわ」

「もう準備は出来てるわよ、あとは起動するかしないかは、神のぞ御知る、と言ったところかしら。」

「っていうか、シンジ君次第な訳ね。」

「ええ。」



そういうと、リツコは、手元の通信機を手に取り、話し始める。

「シンジ君、聞こえる?」

「ええ、聞こえます、でも真っ暗なんですけど」

「すこし待ってね、今はそれよりも、まずあなたとシンクロさせねばならないから。」

「はい、でも、どうすればいいんですか?」

「とりあえず、そのままにしてて。」

といって、技術部員に、LCLを注水するよう命じる。

その話がすこし聞こえたシンジは、

「注水って、もしかして、ここにですか?」

「ええ、そう。」

「待ってくださいよ、ちょっと、ええええええ!?」

そういう間にも、シンジの足下からなにやら液体が湧いてくる。

「え、う、あ、むー(口を閉じて我慢してる音ね)。」


リツコは、あわてて言う。

「シンジ君、肺がLCLで満たされれば、直接肺がLCLから酸素を取り込んでくれます。」

口を開けるシンジ。

「がボー、ありゃ、苦しくない、こりゃすごいや」



素直に驚くシンジを知ってか知らずか、いつの間にか作戦をしきりにかかるミサト。

「リツコ、あとどんくらい?」

「そうね、もうちょっと」

「あまり時間無いわよ、もう使徒もさすがにこちらで何かやってること気がついてるみたい。」



そう、すっかり忘れていたが、使徒は、いまだミサトがいるところまでは迫ってはいないが、ゆっくりと向かい始めている。

ここにくるまでには、まだ多少時間稼ぎに、通常兵器が役に立つだろうが、それも時間の問題だ。

加えて、レイも重傷を負っていて、こちらに今は車等を向かわせてはいるものの、使徒があそこにいる間は、安心してみていられない。


だが、今はやるしかなかった。

リツコは、シンクロの機械的な操作を終え、ようやくシンジに声をかける。

「では、シンジ君、席のそばにある、カチューシャみたいなのを取って、ロケット砲を乗せた車のことではないわ」

「はあ、その後半の、やたら説明的な科白は・・・」

「はやく!」

ビビったシンジは、そそくさと頭にインターフェイス・ヘッドセットを着ける。



「それでは、起動を開始します。」



LCLが電化され、様々な紋様を見せるエントリープラグ内。

シンジは、その美しくも恐ろしい光景に見とれていたが、やがて周囲が先ほどの光景になり、リツコに話しかける。

「どうなってるんですか?」



すこし離れた、ネルフ司令室。

「勝ったな」

「ああ」

ちょっとおきまりの科白が言えて、嬉しい冬月。




「これは・・・、シンクロ率、50.5%、なかなかいい数字だわ。」

「ええ!?レイをすでに抜いてるじゃない!」

「そうね、やはり碇司令の息子だから・・・それとも・・・」

さすがに考え込むほどの時間がないことに気がつき、簡単なレクチャーを始めるリツコ。

「ではシンジ君、無事起動したので、次に、すこし歩いてみて」

「リツコ!使徒が迫っているわ!」

「分かってるわよ!いい、歩くことだけでいいわ」

「はい、でもどうすればいいんですか?」

「自分が、歩く姿を想像してみて。」



普段人間は、自分が歩くとき、別に何か「歩く」ために、どこの筋肉を動かそう、とか考えている訳じゃないから、なかなか歩く、と言うことを考えるのは難しい。

だが、シンジは、なんとか、歩く、と言うことを想像してみた。

そう、歩いている自分を・・・。



「よし、歩いてるわよ、シンジ君!」

「あっ、ホントだ」

一歩一歩、歩き始めるエヴァ初号機。

「では、使徒の方に向かって歩いてみて。」

「はい、でも、あれに勝たなくてはならないんですよね」

そうね、とリツコは心の中でつぶやく。

だが、今は、彼だけが期待の星なのだ。





すこしずつ、使徒へと歩み寄る初号機。

後ろでは、技術班が、撤退の準備を進めている。

何が起こるか分からない。

戦闘に巻き込まれれば、操縦の出来ないシンジは、何を巻き込むか分からないからだ。

また、レイの容態も悪化しており、その場をとりあえず離れなくてはならなかった。

だが、その場で初号機を見つめ、通信機から離れない女性が二人。





ついに使徒が、初号機に気がつく。

そして、初号機に向かって突進してくる。

リツコが、通信機に向かって叫ぶ。

「シンジ君、ATフィールドを「そんなの分からないわよ、リツコ!」

「そうね、目の前に壁が出来るイメージを持って」



「目の前に壁、目の前に壁、目の前に壁、目の前に壁、目の前に壁、目の前に壁、目の前に壁、目の前に壁、目の前に壁」

しかし、何も起こらない、初号機。

それどころか、歩きながらよけいなことをやってしまったためか、初号機はこけてしまう。

こけたその場所は・・・使徒の目の前だった。



「いってぇー、なんでここにいるのに痛いんだ・・・えっ、う、うわあああああああああ!!!!!!」

「シンジ君、落ち着いて!!」

ミサトは、ここからでは何もできない自分が歯痒くて叫ぶが、所詮無駄だった。



使徒は、目の前にいい物が落ちていたとばかりに、初号機を頭からフェイス・クローのような技でつり上げると、もう一方の手で、エヴァのボディーをぶっ叩きはじめた。

「う、うう、ごほっ、いってええええ」

「シンジ君、落ち着いて、そのからだはあなたの体ではないのよ」

言葉で落ち着けるなら苦労はしない。

全くあわてまくっているシンジ。



「痛いの、どうにかならないの?」

「そうね、今度乗せるときからはノーシンでもあげとく?それともモルヒネでも?」

「そういうことを言ってる場合じゃないでしょう」

「あなたもレクチャーは受けたでしょう。シンクロ率が高まるほど、起動性能は上がるけど、フィードバックも高まるってのは知ってるはずよ。

それに、ここで、シンクロ率をカットすることは出来ないわ。」

「どーして!!」

「彼に、シンジ君にかけてるんでしょう?だったら、信じましょう。」

「それじゃあ遅いのよ!!」



「それにしても、いいボディーブローじゃないか。」

「ああ。」




「腹部装甲の損傷率が、30%を越えました。危険な状態です。」

「パイロットの意識レベルが、もうすぐ昏睡状態になります。」

「シンジ君・・・。」





だが、何もできないミサトたちを後目に、使徒は最後の決めとばかりに、めいいっぱいエヴァ初号機を放り投げた。

ほとんど意識不明状態のシンジは、もはや叫ぶこともできない。


使徒は、自由落下してくる初号機に、バク転蹴りを見舞った。

いわゆる夏塩、というやつである。



「使徒もバーチャをやるのか、これは予定外の出来事だぞ。」

「ああ、あれはパイだな。」

ジャッキーだ、というツッコミをあえて抑える冬月。





だが、冗談を言ってる間にも、初号機は吹っ飛ぶ。

頭から、血のようなLCLを吹き出して。

地面にたたきつけられる。






「しょ、初号機、沈黙」












何も言わない、ネルフの面々を気にもとめず、使徒はとどめのつもりか、地面に横たわる初号機に向かって歩き出す。

そして、あのUN機を墜落させた光の槍を初号機に放とうとしたその瞬間。










いきなり、初号機は立ち上がった。

そして、放たれた使徒の光の槍を、跳ね返した。

そう、ATフィールドによって。





「なんで、立ち上がれるの・・・」

呆然とするミサト。

その後ろで、何も言わない無表情のリツコ。



ミサトは、数ヶ月前に起こった事件のVTRの記憶から、結論づけた。

「暴走・・・」







「初号機、暴走しています。」

「パイロットの状況は!?」

「モニターできません!」

そう、中には、シンジがいる。

だが、ATフィールドを張ること自体教えていないし、存在すらも知らないはずである。





そして、槍を跳ね返した初号機は、顎部ジョイントというマスクを取り払い、叫ぶ。

その声は、ミサトには、もの悲しく聞こえるのだった。





初号機は、ひとしきり叫ぶと、使徒に向かって飛び跳ね、蹴りを見舞う。

そして、ひっつかむと、アッパーを喰らわす。

吹っ飛ぶ使徒。

初号機は、その手に炎をまとっていたとかいないとか・・・。




地面にぶっ倒れた使徒を見下ろし、踏みつける初号機。

そして、やがて馬乗りになり、使徒の顔とおぼしき部分を殴りつけ始める。





驚くしかない、ミサト。

「なんで、使徒の弱点を知っているの、それとも、本能?」





その顔の奥に隠された、コア。

やがて、初号機は、コアをつかみだし、ぶん殴る。

だが、使徒は、急に初号機に、からみつく。

これまでの形態を放棄し、球状になって。






「自爆する気!?全員耐ショック体勢、伏せて!!」







初号機は自爆しようと、一瞬コアを光らせた使徒もろとも、空中に飛び上がり、そして、使徒は空中で自爆した。

だが、無事に落下してくる初号機。



その爆炎を背負って、ミサトたちの方へ歩き始めるが、足下にあった川に足を取られて、初号機は見事にすっころんだ。





その有様を見たが、まだ動くんじゃないか、とけっこうビビっている技術班の面々。

「作戦終了、現地を撤収、及び、初号機が暴走収まり次第、パイロットを最優先で救助して。まだ近づくのは禁止します。」

だが、いつまで経っても、初号機は起きあがらなかった。






結局、シンジは外傷もなく、気絶姿でエントリープラグから救助された。





命を取り留めたシンジ。

だが、まだ起きあがりそうには、無かった。

ミサトは、後かたづけを指揮しながら思った。

「二度と起きてこないなんてこと、無いでしょうね・・・」

それは、シンジと、エヴァ初号機、どっちのことを言いたいのか、ミサト自身にも分からなかった。



第2話へ行く




どうも、作者の”だいちゃん”と申します。

EVA小説書くの初めてですけど、今後末永く、おつきあいくださいね。

稚拙な文章ですけど、何か感想等ありましたら、ぜひぜひ御教唆ください。

メールはこちらです:dai-chan@ijk.com

あと、こんな私の拙文を掲載していただいたなしつぶさんに、感謝!!


 なしつぶです

 だいちゃん,処女作をご投稿ありがとうございます。
N2爆雷には笑わしていただきました(^^)
突然,にゃーにゃーにゃーにゃーネコの鳴き声が泣き出すから何かと思ったらにゃんにゃん爆雷とは。
本当に破壊力があるのか緊張感のない爆音に疑わしくなってきますね(^^;

 皆さんぜひだいちゃんの初作品に感想を差し上げて下さい!
 

素晴らしい小説を書いて下さった作者にぜひ感想を!
感想は作者への感謝と次回作を生み出すエネルギーです。


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