「ふう・・・・・」
ホーロー製のバスタブ。
一人暮らしの個室では、あり得なかったゆとりの空間、それはバスタブである。
やはり、ユニットバスでは、こうはゆっくり出来ない。
あふれるお湯、ゆっくりと出来るのはやはり、ここが純和式(というか、現代家庭にありがちな)の風呂だからだろう。
あまり、風呂に長く浸かっているほうではないシンジだが、このときばかりは、一人で風呂に入れるという気持ちが、彼を浴槽から出さなかった。
タオルを、お湯につけて、空気を入れて沈めて、ぶくぶくと遊ぶ。
子供の頃以来、やったこともない、遊び。
よく、おかあさんがやってくれたっけ・・・。
でも、それはずいぶん・・・。
いやなことを思い出してしまったシンジは、とりあえず独り言を言っておく。
すこしは、気が紛れるだろうから。
「ぬるいな・・・」
だが、誰も返事をしてくれないので、追い炊きのスイッチをひねった。
タオルで、飽きずに、あわを作る。
ぶくぶく・・・。
白いタオルは、何かの貰い物だろうか。
だが、そのうち、追い炊きで暑くなったお湯が、シンジの肩を直撃する。
「あちっ!」
ゆっくりと、浴槽を手でかき混ぜながら、シンジの意識は、ゆっくりと過去へ舞い戻っていった。
昨日と今日と、明日
第4
話 おやすみなさい/
Just Friends
「とりあえず、車に乗って。そこの二人も、いらっしゃいな。」
そういうと、すこしダサめのネルフ公用車にミサトは乗り込む。
白い軽乗用車、ピンクよりはましだが、やはりいまいちの感が否めない。
「ええんかなぁ、あんな美人に誘われてしもうた。」
「いいに決まってるだろ。」
すこしトリップしかかっているトウジを押し込んで、ケンスケも後に乗り込む。
シンジは、言われるままに補助席へとのりこんだ。
「どこへ、行くんですか?」
シンジが、口をはさんだのは、車が走り出してからしばらくした後。
軽乗用車は、4人乗ると重い、などとミサトがひとしきりグチグチ心の中で愚痴った後である。
「しりたい?」
「ええ。だって、ミサトさんの家にお世話になるにせよ・・・」
よせばいいのに、後からトウジが冷やかす。
「ええのう、こんな美人と同棲やて。ワイもおじゃまして、ええですかぁミサトはん!」
「お前が喋ると話が進まないんだよトウジ。すこし黙っててやれよ。」
「なんやお前はなんと友達甲斐のないやっちゃなー、わいはただ」
「いいから。」
後でケンスケとトウジが争っているのを見て、ミサトはすこし笑った。
「もう、実は荷物は運んであるのよ。すこし勝手だとは思ったけど、いいことは早い方がいいし、それに、せっかくそこの二人もいることだし。」
「え、ワイら手伝わされるんでっか?」
「ちょっとだけね。終わったら、引っ越しパーティーでもやるから、一緒に参加してもらおうと思ったんだけど。」
「えええええ!?ワイら手伝いまっせ、ミサトさんのためなら火の中水の中!!」
「そうね、あっ、ってことはすこし買い物しなきゃ!!ちょっち寄り道するわよ!!」
そういって、これまでは抑えていたアクセルをぐいと踏み込み、いきなりレンジを「1」」にして、ローミッションにしてから急にブレーキを踏みつつ、ハンドルを切る。
「どうわぁ!」
「いて!」
「いくわよー!!」
無理矢理軽に4人乗せて、オートマでドリフト+スピンターンをかますミサト。相当、無理(実際、出来ないことはないです)。
反対車線に回ったはいいが、もちろん対向車にぶつかりかけ、ねずみ取りを張っていた黒いバンが飛んでくる。
そう、ここは・・・黄色い中央線。
4人を乗せた軽が、警察の特車にかなうわけもなく、あっさりと追いつかれる。
だが、警察官は、横に印刷されたネルフのロゴを見ると、かえってどこかへと行ってしまった。
「はっはっはっはっはぁ、ネルフのロゴは人類の至宝ーぅ!」
そう言いながら、平然と走るミサト。
コンビニで、なぜかレトルト食品ばかり買い込む。
「あれ、ミサトさんが何か作ってくれるんじゃないんでっか?」
トウジは、レジに置かれたカゴの中身を見て、すこし落胆しかける。
だが、ミサトはあわててこたえる。
「あ、ああのね、そうそう、今日はなんか私も疲れちゃったし、これでいっかな、とか、あははははは。」
「そうでんな、仕事お疲れですしな。」
あっさりだまされる、関西人1名。
やがてミサトのマンションへとついた頃には、とっぷり日が落ち、電灯の明かりに蛾が舞っていた。
「ここよん。」
葛城、という表札がまだ新しいマンション仕様の扉、いや、まだ全体が新しいようだ。
ミサトが扉を開け、トウジとケンスケが「おじゃましますー」と中に入っていく。
その後で、シンジがゆっくりと、足を踏み入れる。
「おじゃま・・・」
「ちがうでしょ。あなたは、今日から家族、なのよ。」
「ただいま・・・。」
にっこりとミサト、
「おかえりなさい。」
だが、このいいムードをぶちこわしたのは、トウジの悲鳴であった。
「なんじゃこりゃあああああああああああああああああああああああああああ」
トウジが見た物とは・・・そう、カップラーメンの空き容器、ビールの空き缶、コンビニ弁当の空き箱、くしゃくしゃになった袋、その他、ゴミと呼ばれる地上のあらゆる物体が、ここに集合しているような有様であった。
その山の向こうから、眼鏡をかけた男と、ロンゲの男が顔を出した。
「お、帰ってきたね。」
「お帰り、シンジ君。」
またもや、トウジは悲鳴を上げる。ついに、松葉杖が飛ぶ。
「ミサトさーん、もう男が二人・・・・」
「違うわよ、その二人には、シンジ君の荷物を運んでもらったのよ。」
「そうそう、シンジ君の荷物自体は少なかったんだけど、ミサトさんの部屋がすごくて、入れるの大変だったんですから。」
眼鏡もとい日向が言う。
「あははははは・・・アリガト。」
「どうも、わざわざ忙しいのに、ありがとうございます、えと・・・」
「ああ、僕は日向 マコトって言うんだ。」
「でもって、俺が青葉 シゲルさ、よろしくな、シンジ君」
「あ、いつもオペレーターとして一括処理されている・・・」
「それをいわんでくれ・・・」
どどーん、と沈む二人。
これだから、なにも知らない子供は怖い。
と、シゲルが気がついたように言う。
「そうだ、シンジ君の荷物を運んでいるとき気がついたんだけど、ギター、持ってるんだね、シンジ君は。」
「ええ、そうですけど」
「どんなの弾くんだい?」
「えぇ、まあ、その・・・」
「ジャズよねえー」
横合いからミサトが口をはさむ。
「はあ、その、そうです。」
「あっ、俺と同じじゃん。おれもジャズギターやってるんだ。」
「そう、聞いてます。」
「どんなのやるんだい?」
と、ギター談義でシゲルとシンジが盛り上がってきた。
ミサトは、その様子を眺めつつ、
(シンジ君も、あるじゃない、やりたいコト)
と、ほほえんでいた。
「じゃあ、今度一回ウチに遊びに来いよ、セッションでもしないか?」
「はい、ぜひ行かせていただきます。」
どうやら一段落ついたのを見計らって、
「さてさて、じゃあ宴会でもはじめましょうか、ぱあーっとね、ぱあーっとぉ」
とミサトが叫ぶ。
間髪入れず、トウジが
「いつでもええでっせ!!!」
と返すが、同時に
「「じゃあ、きょうはこれで。」」
とハモるシゲルとマコト。
「なあーに言ってんの!せっかく手伝ってもらったのに、ここで返しちゃあたしの立場がないでしょ!!いいからいいから、宴会よ宴会!!!!」
シゲルとマコトは、目で語る。
(これだからやだったんだよ、ミサトさんの手伝いって。)
(全くだよな、でもシゲルはシンジ君と盛り上がってたじゃないか)
(それはそれ、別の問題だろう。それよりどうする。この場をどう切り抜けるんだよ、マコト)
(どう切り抜けるって・・・)
有無を言わさず、ミサトは二人をひっつかむ。
その形相は、
「まるで氷の笑顔、でした」(日向 マコト 後日談)
「笑いながら、その手でつかんでました、腕。」(青葉 シゲル 後日談)
もちろん、そんなミサトから逃げおおせるわけもなく、オペレータ二人は、あっけなく宴会の下働きをさせられることが決定した。
「うっわー、ええ飲みっぷりでんなぁ〜、ミサトさん」
「まっかせなさい!この程度はまだまだ序の口よぉ〜」
ミサトが飲むのにあわせて、トウジが褒めちぎる。
すでに宴会は小1時間が経過している。
無理矢理ゴミの山をどけて、作ったスペースに大人3人子供3人、でもやっぱりちょっと狭い。
そこで鎮座まします、ミサト様。
ご本尊は、はやくも2桁台へと突入していた。
その隣で、トウジもビールをかっくらっている。
言わせれば、「ビールの飲めへんやつは、男やない!!」
などと叫んでいる。
そう、彼の前には、空き缶が3本。
松葉杖はとっくに折れてしまい、帰りはケンスケにお世話になるしかないようだ。
オペレータ二人は、はやくも撃沈、マコトは上の空で、無いはずのキーボードを叩いている。
ただ無口で、もはや意識は天上らしい。
そのそばで、シゲルは時々ギターを弾くようなマネをするが、いきなり叫ぶ。
「プリブノー・ボックスです!!」
彼の本家での一世一代の名セリフだが、本編では出るかどうか。
そして、シンジとケンスケは、遠くから震えてこの様子を見ているしかなかった。
「なあ、シンジ、ミサトさんって、いつもああなのか?」
「うーん、今日まではそんな接点があったわけじゃないから、どうとも言えないけど・・・。それより、トウジ、ってあんな奴なんだ。」
「アホ、だろ?でもさ、いい奴だぜ。」
「そう、だね。」
「いつまで続くんだ、この宴会地獄は。」
「さあ、ミサトさん次第、かな。でも、トウジの足のこともあるし、シゲルさんやマコトさんもどうにかしないといけないからなぁ。」
「誰か、ネルフの人に連絡しちゃまずいのか?」
「そうだね、それがいいかな。」
シンジは、電話の前に行って、自分の携帯から、ネルフ本部を検索して、電話をかける。
「すいません、作戦部所属パイロット 碇 シンジですけど、技術課所属の赤木 リツコさんいらっしゃいます?」
「少々お待ちください。」
しばらく、「エンターテイナー」が流れる。
ありがちな保留音である。
「はい、赤木 リツコです。」
「あっ、リツコさんですか?」
「シンジ君ね、どうしたの?」
「ミサトさんが、宴会はじめちゃって・・・」
「だいたい予想つくわ。それでもって、オペレータ二人が今日連れてかれたから、二人も一緒に精神汚染されているというわけね。」
「はい、すでに精神汚染Yに突入しています。心理グラフも反転して、危険な状態ですけど」
「そう、デストルドー反応は?」
「確認されていませんけど」
「じゃあいいわ。ほっといて。しばらくすれば、勝手に帰るし、飲酒運転もミサトのお得意だから。」
「はあ。」
「どう、ミサトの家は?」
「え?」
汚い、とも正直に答えられないが、きれい、とウソをつくには、まだまだシンジは子供すぎた。
「うーん、」
「きたないでしょ?ずぼらなのよね、ミサトは。でも、掃除とかあまりしちゃダメよ。調子に乗るから。」
「はあ。」
「それでは、また明日の訓練で。」
ぷつっ、ぷーっ、ぷーっ、ぷーっ、ぷーっ。
切れた電話。
「来てくれるって?」
「いや、ほっとけって。」
「マジか!?この状況をほっといたらまずいんじゃないか?」
「でも、どうしようもないし・・・」
宴会は、果てる様子も見えず、ミサトは30缶目を手に取っていた。
ようやく宴会が終わるが、オペレータ二人とトウジは沈没しているので、ミサトが車で送ることになり、ケンスケは足で、帰ることにした。
シンジは、ケンスケをマンションの下まで、送る。
「シンジ、今日はごっそさんな。」
「それなら、ミサトさんに言ってよ。」
「いや、宴会だけじゃないさ。お前の強さ、すこしだけ見せてもらったからな・・・」
「ぼくは、そんな・・・」
「いや、お前は強いよ。だけど、もうちょっと自信もっていいぜ。」
「でも・・・」
「そう遠慮するなよ。ま、がんばれよ、じゃ、あした学校で。」
「うん、じゃあ、また。」
夜道を一人去っていくケンスケ。
後ろ姿が、闇夜に溶けて無くなるまで、シンジはマンションの下で一人佇んでいた。
もう一組、車に乗った4人は・・・言うまでもない。
翌日、ネルフに返された車の中は、運転席以外は汚物まみれで、掃除させられたあるオペレータは、「行くんじゃなかった」と漏らしているそうである。
3人を送ってくると、ミサトはすっかり酔いも醒めたらしく、
「なにがともあれ風呂に入ってらっしゃい」
と、風呂を勧めた。
マンションの部屋のほとんどががらくたとゴミの山なのに対して、なぜか風呂場だけは、きれいだった。
ただし、洗濯物はどっさりとあったが・・・。
ミサトの黒い下着を見て、ちょっと緊張するシンジ。
「・・・こんなの着るんだ、ミサトさん・・・」
そして、自ら入れさせられた風呂へとつかった・・・。
ようやく意識が現代へと舞い戻ってきたシンジだが、さすがにぼーっとしている。
(すこし湯あたりしちゃったかな)
さすがにこれ以上つかっていると、あちらの世界へと飛翔しそうになることに気がつき、風呂からゆっくりと上がる。
風呂から上がると、なぜかミサトが変な表を作っていた。
一週間の曜日が横軸に、縦には、「朝食」だの、「洗濯」だの、いろいろ書いてある。
「これ、なんですか?」
ミサトはにんまり笑うと、
「
加持
家事の分担表。」
こともなげに言う。
「でも、どうやって・・・」
「太古からの人間のもっとも合理的な決議方法、じゃんけんよ!!」
結果は、シンジの予想通り、シンジがほとんどの仕事をやることになってしまった。
「うあっはっはっは、ごめんなさいね、でも、これもじゃんけんの結果だから〜」
そう言いながら、またもやビールの栓を抜くミサト。
本日48本目。
「そしたら、もう寝なさい。今日はもう疲れたでしょう。あしたも学校あると思うから。」
「はい、えっと、おやすみ、なさい。」
「おやすみ〜」
自室、とは言っても、がらくたを全て居間へと移して、少ないシンジの荷物が整理もされず散らばっているだけの部屋だが、その部屋に布団を敷いて、シンジは寝そべっていた。
相変わらずSDATを聞いている。
部屋を真っ暗にして。
聞いているのは、相変わらずジャズ。
耳に流れてくる"Just Friends"。
松葉杖をついている、トウジ。
ハンカチを差し出す、ケンスケ。
ドリフトターンをかます、ミサト。
ギターを熱く語る、シゲル。
宙に舞う指、マコト。
そして、前に立ちはだかる、父さん。
「一緒に、住んで欲しい」
なぜか、いや、言うべきではない、言葉。
でも、ほんとは言いたかった、言葉。
武田鉄矢は贈る、言葉。
言葉。
口から、出ない。
「おやすみ、なさい」
一人では、決して言わない。
家族があるから、言える。
でも、家族って・・・なんだろ?
そういう無限ループを繰り返すうちに、やがてアトランティスの謎のごとく、100面にはいけず、夢の世界へと、堕ちる。
コードレスを持ち込んで、ゆったりと風呂に浸かる。
声が、反響して、隅々に響く。
会話があわとなって、排水溝へと流れていく。
「うーん、なんか友達とは、すこしうまくいったみたい。」
「そう。」
受話器の向こうからは、機械音。
「でもね、本当はお父さんと一緒に住みたかったようね。」
「まだ14歳でしょう。まだまだ父に甘えていたい年頃だと思うわ。それより、あなた今日も飲酒運転したでしょう。」
「う、うー」
「加えて、追い越しのための車線はみ出し禁止区域で、Uターン。速度オーバー15km/h。まだまだあるわね。ネルフの特権がなかったら、一発で免停よ」
「ちょっちねぇ、急いでたのよ。」
「ちょっちちょっちって、いつもあなたは」
ぼちゃーん
「あっ、しまった」
だが時すでに遅し。
コードレスの受話器は、見事風呂にダイビングし、沈んでいった。
「ああああっ、これ高かったのに・・・これ!」
いちおう、取り出してぶんぶんと振ってみる。
振ってなおるなら、修理屋さんはいらない。
もちろん受話器に耳を当てても、なにも聞こえない・・・なにも!!
「あちゃー、切れちった・・・ま、いっか」
気にせず、風呂に浸かりなおすミサト。
『ばしゃーーーーぶくぶくぶく・・ぶつっ』
「ミサト、また落としたわね・・・ってコトは、そろそろ来るかしらね、結局作るしかないのね、ミサトの我が儘のために・・・」
切れた電話を充電器に戻し、電話の仕様書と設計図を、家電メーカーからハックして持ってくる。
そして、なにやらぶつぶつ呟くと、電話を持って、部屋の奥にある工具台へと、歩んでいった。
いつものごとく、風呂から上がってビールをかっ喰らう。
のど越しは、いつもと同じ。
別段、変わりはない。
そう、変わったのは、この家か。
母親姉代わりというわけね・・・その割には、頼りない姉ね・・・。
家事の分担表を眺めながら、ビールをのどに流し込む。
いつもの、のどごしだった。
Prrrrrrrrrrrrrrr
目覚ましがなる。
もちろんのこと、ミサトが一発で起きるわけはない。
グーで殴った目覚ましは、壊れるかと思いきや、壊れはしない。
もちろん、リツコ特製の目覚ましである。
以前、ミサトが毎日目覚まし時計を破壊してしまうので、どうにかならないかと相談を持ちかけたところ、リツコが1時間で作ったものだ。
外面には、チタンがつかってあり、象が踏んでも壊れない、らしい。
その効果を試すため、リツコがネルフの象こと、ミサト嬢に踏ませたが、何ともなく、リツコは安心して目覚ましをミサトに贈ったといういわく付きの品だ。
Prrrrrrrrrrrrrrr
先ほどよりはかなり大きな音で鳴った。
かなりうるさい。
「うーん、もう後5分、いや3分・・・」
とお決まりのセリフを呟いておいてから、ミサトははたと気がついた。
「今日からシンジ君が一緒に住んでるんだっけ?」
呟きながら頭をぼりぼり掻いていると、なにやらいい匂いが漂ってくる。
「これは・・・みそ汁・・・誰が・・・そうか、シンジ君が朝食当番だっけ?」
っていうか、当番のほぼ全てはシンジになっている。
そのままミサトが台所兼食卓へと向かう、と・・・
「おはようご・・・」
ミサトのあまりにも無防備な格好を見て、シンジは思わず目玉焼きの乗っているお皿を落としてしまうところであった。
そう、14歳の少年、それもこれまで女性と暮らしたことのないシンジには、ブラ無しのタンクトップなんて格好はあまりに刺激が強かった・・・。
「・・・ざいます」
「おはよ・・・ご苦労さんね・・・」
そう言いながら、ミサトは気にした風もなく、食卓につく。
シンジは見ない振りをしてご飯をよそう。
(見ちゃダメだ、見ちゃダメだ、見ちゃダメだ・・・)
だが、身体の一部分は反応してしまう。
彼の第3の足は、彼の大脳がいくら禁止しても、巨大化してしまう。
(立っちゃダメだ、立っちゃダメだ、立っちゃダメだ・・・)
いちおう、学生服の上からエプロンを掛けているので、見えないかもしれないが、顔が紅潮してしまうのは避けられない。
「どうしたの?」
「はっ、なんでも、ないです」
「なんか顔赤いわよ?」
「いや、ちょっと、その、なんでもないんです、そっそっそっそっそうだ、目玉焼きに醤油かけます?」
なんとか誤魔化そうとするシンジ、だが働きはじめたミサトの脳味噌は、ある結論をはじき出していた。
だが、ミサトはあえて何も言わず、パイレーツスタイルでシンジに答える。
「いいわよ、あたしは。一緒に食べましょう。」
やむなく、シンジは食卓につくが、否応でも目に見えるミサトの谷間。
「おいしいわね。」
なんでもない一言でも、気が遠くなっていたシンジはどきっとしてしまう。
「えっ、そそっそっそっそうですか?」
思わず、どもってしまうのも仕方がない。
「どうして、料理こんなに上手なの?」
だが、ミサトのその問いを聞くと、急に気がさめてしまう。
「いえ、ただ、前は一人で寄宿舎にいたから、一人で作らなきゃいけなかったから・・・」
ミサトは心の中でこそ、しまったと思ったが、表情には出さず、口では全く違うことを言う。
「いや、ほんとにおいしいわ、このみそ汁といい、出汁がよくしみてる。」
「はあ、ありがとうございます。」
そういうと、シンジはまたご飯をゆっくりと食べはじめた。
ピンポーン♪
シンジが後かたづけをやっていると、チャイムが鳴った。
「はい!」
シンジが玄関に出ると、そこには松葉杖をついたトウジと、眼鏡を光らせているケンスケがいた。
「迎えにきたで!!」
「トウジはミサトさんが目的だろ!」
「そういうお前かて!!」
「俺は会うときは堂々と行くよ、何かのついでなんて言うマネはしないさ。」
「なにカッコつけてんねん」
玄関前でうるさいので、ミサトが出てくる。
「なぁに?新聞なら・・・あらぁ、鈴原君と相田君じゃない。」
ミサトの格好が、あまりアレなので、思わず目が釘付けになる二人。
「「どっどっどっどうも・・・」」
二人ともなにもしゃべれないようだ。
あわてて学校へと行く用意を済ませて、シンジが玄関までやってくると、そこには石化した二人と、戻っていくミサトがいた。
「じゃあ、いってらっしゃいな」
「はい。いってきます。」
シンジは、二人を抱えて、外へと連れ出す。
「なあ、ミサトさんあんな格好して家におるんかいなぁ?」
「わかんないよ、僕だってまだ昨日来たばっかだもの。」
「ええのう、シンジは、毎日あんなん見れるんやからなぁ。おい、ケンスケ、ケンスケ、なんやコイツ。」
ケンスケは、先ほどのミサトの格好にショックを受けて、立ち直れないようだ。
「たにま、たにま、たにま・・・」
「こりゃアカンわい。」
固まったまま、ケンスケは学校へと行った。
結局、ケンスケは授業が終わるまで、固まったままだった。
「ケンスケ、ほな帰るで!ケンスケ、ケンスケ!!」
トウジがいくら呼びかけても、こちらの世界には戻ってこない。
「こらアカンなぁ・・・」
ケンスケが我に返ったのは、夕方、帰校時刻がすぎても帰らない生徒を追い出していた体育主任がぶん殴ってからだった。
イカ型使徒は、第3新東京市の中心部にその巨体を横たえていた。
むろん、ネルフが即日仮設研究施設を建造し、ほとんど一般市民の目には触れることはなかった。
技術部は、この研究で全員が超過勤務となり、特に部長であるリツコは、本部とこの施設を往復する忙しい日々を送っていた。
シンジがミサトの家に住み込み家政夫となってから数日後、その主人と家政夫はリツコの邪魔をしにやってきた。
「どーうおー、研究進んでるぅ?」
リツコが使徒の巨体の一部分を削り取り、分析機にかけて一息ついているところに、ミサト虫がやってきた。
「ん、まあね。」
そう言いながら、コーヒーを入れる。
「ミサトはいつもの通り、砂糖3杯とクリーム5杯・・・、シンジ君は?」
「僕はブラックでいいです。」
「あら、シブいわね。」
「あんまり甘いの、苦手なんです。」
「いい心がけよ、甘い物ばかり取っていると、ここにいるお姉さまみたいになっちゃうから。」
「どういうコトよ、リツコ」
鼻息荒くミサトが詰め寄る。
「あら、『おばさん』と言わなかっただけ、ましでしょ?はい。」
リツコは、気にする風でもなくタバコに火をつける。
ほぼ同時に、机のコンピューターが、分析終了の合図を送る。
「出たわね・・・っと、結局こうか・・・。」
「どういうこと?」
「つまり、解析不能。」
「ふーん、すこしでも成果はないの?」
「成果は今のところ、これだけね。」
と言って、手元のキーボードを操作する。
「数値が出ている中で、一番気を引くのは、この部分ね。」
ふむ、とミサトがのぞき込む。
英語で書かれているので、シンジには何がなんだか分からず、コーヒーをすすって黙り込んでいる。
「えええええ?これって・・・」
「そう、人間との遺伝子の一致率、99.83%。」
「でも、これってエヴァーと一緒じゃない!」
「そうなのよね・・・」
「これはどういうことなの?」
「わからないわ。かくも世の中謎だらけとはよく言ったものね。ああ、そうだわ。」
リツコがそういって机の下から取り出したのは、電話。
「これって・・・」
「あなたこの前電話をお風呂に落として壊しちゃったでしょ?」
「あ、だからずっと無かったんですね、電話。」
シンジが納得したように言う。
「だから携帯渡したじゃない・・・って、この電話、また象が踏んでも壊れない、とか言う奴じゃないでしょうね。」
「ええ、今度はエヴァが踏んでもOKだと思うわ、なんなら今度試してみる?」
「いいわ、どうせそれだけじゃないんでしょ?」
「ご名答。まあ深度5000メートルは沈んでも壊れないわ。それに加えて、留守番機能も強化してあるし。内蔵メモリに10000件入るし、コードレスにしても、スクランブル盗聴防止機能が強化されているから、モサドやなんかでもまず盗聴は不可能。それと、相手が『184』を入れようがなんだろうが相手の電話番号をハックして表示するし、いたずら電話相手には自動的に警察に場所を通報するようになってるし・・・」
リツコが電話についての解説を初めてしまい、ミサトはもらう立場上ずっとそれを聞かされているあいだ、シンジは倒した使徒の方を見ていた。
やっぱり、エヴァから降りてみると、大きいんだな、使徒って。
でも、なんで、僕らは使徒と戦うんだろう?
使徒はなんで僕らを襲うんだろう?
僕ら?
僕ら、って誰だ?
僕やミサトさんやリツコさん、トウジやケンスケ、綾波、そして、父さん?
第3新東京市にいる全ての人?
なんで、シトハ・・・
軽い白昼夢に浸るシンジの瞳に、見覚えのある背中が写った。
そう、アレは・・・あのひろい背中は・・・
とうさんだ・・・。
「ふむ、これがコアか・・・」
「本体はほぼそのままの状態ですが、コアばかりは・・・」
「わかっている」
目の前で、技術者と話し合う、背中。
広い、背中。
でも、僕は、あの背中に、抱かれたことは、無い・・・。
記憶の限り、いや、記憶がない頃のことも、ハッキリ分かる。
僕は、父さんに抱かれたことなんか無い・・・。
「どうしたの?」
先ほどまでリツコの新型電話の講義を無理矢理聴かされていたミサトが、ようやく解放されてシンジを見る。
「え、いや、なんでもないです・・・」
「その態度でなんでもないって言われても、気にしてくれ、って言ってるようなもんよぉ」
リツコが後から口をはさむ。
「そうね、どうしたの、シンジ君」
だが、このときばかりはシンジはいやに頑なだった。
「ホント、なんでもないんですよ!」
「「ウソおっしゃい!!」」
30女パイレーツがユニゾンをかます。
と同時に、なぜかリツコの白衣の中からマヤが現れる。
「シンジ君がウソをついている可能性は、初期段階の設計ミスから、妨害工作の線まで、31238通り考えられます。」
切り札である内蔵マヤを出されてしまっては、どうしようもない。
「父さんの、背中を見てたんです・・・」
「「え?」」
「いや、なんでもないです・・・」
シンジの瞳から、これ以上話す気はない、と読みとったミサトは、なにげに話題を転換する。
「そう言えば、レイももうすぐ退院ね。」
「そうね、たぶん明日明後日には退院できるはずよ。」
「そしたら、零号機も修理完了してるし、シンジ君も楽になるわね。」
「はあ。」
気がつけば、ゲンドウは去ってしまっている。
「あら、司令もお帰りね。ミサトも、すこしは仕事したら?」
「失礼ね!じゃあ、また後で。訓練もあるしね。」
「ええ、じゃあシンジ君もまた後で。」
「はい。」
ようやくミサトが去り、またリツコは思考に没頭し始めた。
(17体、ってわけね・・・)
その3日後、ようやくレイが学校へと来た。
まだ腕には包帯を巻いており、痛々しい姿では会ったが、周囲は気にもとめず、彼女はごく自然に風景と一体化していた。
だが、二人だけ、その姿を気にとめた者がいた。
ケンスケと、シンジである。
相変わらず本を読みふけるレイ。
題名は、なぜか「鬼平犯科帳」。
なかなかどうして、面白い本を読んでいる。
「さあー、メシやメシ、なによりも大事なメシの時間やわぁ。
なんやお前、綾波の方をじーっと眺めて。だいじょぶか、ケンスケ」
昼休み。
トウジはパンをしこたま買い込んできて、机に広げている。
ミサトの時の前例があるので、またトリップしているのかと心配したトウジがケンスケに話しかける。
「・・・いや・・・なんでもないよ」
ケンスケは、急に振り返ると、頬杖をついて、昼食も取らず、思考に耽っている。
「なんや、つきあい悪いやっちゃのうー、なあシンジ。」
だが、シンジも、自分の作った弁当を箸でときたまつつきながら、思考に耽っている。
「なんやお前ら、二人揃って熱あるんとちゃうか?」
そう言いながら、パンをほおばる。
(怪我してたよな、あのとき・・・
もしかしたら、俺があのロボットに乗ってれば、俺が怪我したかもしれないんだよな・・・
なんで、あんなに危険なこと、俺らと同じ歳なのに、引き受けてるんだろう?)
ケンスケは、また思考ループのあいだをさまよっているようだった。
シンジも、自分の作った弁当にろくに箸もつけずに、考え込んでいる。
(綾波・・・父さんと夜中話してたよな・・・
どうして・・・父さんは僕とは話さないのに・・・綾波とは病院に出向いてまで・・・
それに、なんで綾波は、使徒、と戦ってるんだろう・・・
分からないよ・・・どうして・・・)
昼休みのチャイムが鳴っても、二人は弁当も片づけず、
「しょうがないのう」
と嬉しそうなトウジが全てを片づけてしまった。
昨日まで、シンジ一人だった訓練にレイも加わりはしたが、それで何らシンジの訓練が変わるものではない。
いつもと同じように、訓練が始まり、講義を受けて、終わる。
ただそれにレイが加わっただけ。
それで何か変化があるか、というと、全くない。
だが、シンジは、自分が戦う理由を、まだハッキリと見つけられたわけではなかったのだ。
そう、人に言われて、ではなく、自分が、自分の意志で、どうしてエヴァに乗るのか、まだその理由を、訓練では見つけることは、未だシンジには出来なかった・・・。
シンジが引っ越してきた当初、葛城家のマンションはかなり汚かった。
いや、すごく汚かった。
ありとあらゆるゴミが散乱していて、しかも家主は全く片づける気がないもんだから、その被害はもう、甚大な物であった。
シンジが来る前、初めて葛城家に招かれたリツコは、そう記憶にある。
だが、今目の前にある風景は・・・全く違う。
ある日、ミサトに招かれたリツコは、その変貌を目の当たりにして、驚愕した。
「あら。これは、ああ、シンジ君ね。」
「あ・た・し、と言いたいところだけど、その通りよ。」
隅々まできれいに掃除された部屋。
整頓されている、ゴミ箱。
ミサトの家の台所に、使用された形跡がある、というのは、リツコがミサトと知り合って以来、初めてのことである。
「シンジ君、こんな行き遅れと一緒に住んでちゃ、家事で自分の時間なくなっちゃうわよ。」
「なによぉ、リツコだってそんなに家事できないクセして、しかも行き遅れなんて言わないでよ。シンちゃん、もう一本お願い!」
「はい。」
シンジの手によるつまみが出され、すこし酒が回ってきたリツコ。
実際は、すこしシンジが心配で来たのだが。
結局はミサトのペースに巻き込まれ、一杯やって帰ることとなってしまった。
「私は料理くらい、そこそこできるわよ、ただやらないだけよ。あなたは、やってもダメ、でしょう?」
「んなことはないわよ!」
「じゃあ、シンジ君、ミサトの手料理は食べたことある?」
「いや、まだないですけど・・・」
「食べたら、すぐ私のところへいらっしゃい。いい薬、知ってるわ」
「なによぉ、失礼ね!!」
「あんなまずい料理食べさせる方がよっぽど失礼じゃなくて?」
「ああああアレは、もう、かれこれ8年くらい前の事じゃない!」
「ろくに料理なんてこの8年やってないでしょ?」
「そんなことは・・・はっはっはっは」
誤魔化すように、ビールをあおるミサト。
「なにがあったんですか?」
「知りたい?シンジ君。」
「ええ、まあ。」
「まーまーまーまーリツコ博士、もう一杯いかがです?」
「いただくわ」
「え、いったいなにがあったんですか?」
「まあミサトが言って欲しくなさそうだから、又の機会にしましょう・・・これいただいたら、帰るとするわ。」
と言って、一気に缶を開けて、立ち上がるリツコ。
「っとそうだわ、忘れるところだった。
シンジ君、悪いんだけど、明日本部に来る前に、レイにこれ渡しておいて欲しいんだけど・・・」
そういって懐から出したのは、1枚のクレジットカード。
「レイがこの前、米がないから困る、って言ってたから、作ったのよ。ほら、あの子に現金持たせるわけには行かないから。くるくる回るのがオチだわ。」
クレジットカードを受け取る。
刻印された、"AYANAMI REI" の文字が、妙に気になる。
(綾波、か・・・)
「あらぁ、どうしたのシンちゃん、カードをじっと眺めたりしてぇ〜、じっと見つめてくれじっと、な〜んちゃって〜、レイのことが気になるのかなぁ〜」
そんなシンジを酔ったミサトが見逃すはずもなく、からかいモードにターボがかかる。
「いや、そんなんじゃないですよ!」
「いやにムキになるわね〜」
「違いますよ!ただ、ほとんど話したこと無いから、どういう人なんだろう、と思って・・・」
リツコが振り返る。
「いい子よ、とても。ただ、ちょっと不器用な生き方はしてるけどね。」
「不器用な、生き方・・・」
(不器用な生き方って、なんだろう・・・)
翌日、学校で渡そうと思っていたシンジだったが、レイは学校を休んでいた。
(なんだ、今日は来ないのかなぁ、綾波って、学校休んでるときはどうしてるんだろう?
カードは、いっか、訓練の後で)
やむなく、即座に渡さなければいけないものでもないので、シンジはそのカードを財布に入れたまま、本部へ訓練に向かった。
その日の訓練は、初号機関連の物はほとんどなく、零号機の微調整がほとんどであった。
訓練と言うより、実験である。
先の戦闘で、零号機のオートイジェクション機能が誤作動した、という事実から、イジェクション機能の再検討を図り、自己防衛システムを強化したのだが、それにはパイロット自身のデータをより多量に収集しなくてはならなかったのだ。
順調に進んでいた実験。
シンジは、初号機での訓練がほとんど終わってしまったので、この後の講義を受けるべく、実験室の後の方から眺めていた。
青い零号機。
懐で、カードをいじくりながら。
(なんて言って渡そうかな。
クレジットカードをくれ、じっとして・・・なんて、おかしいよな)
思わず、一人笑いしてしまい、周囲を見回した。
だが、次の瞬間、
びーっびーっびーっびーっ
急に警報が鳴り、シンジはビビってしまった。
「未確認飛行物体を芦ノ湖南端に確認、第1種戦闘態勢へ移行、戦闘要員は至急部署へと戻れ。繰り返す、未確認・・・」
「また、使徒、なのかな・・・」
シンジは、ケージへと走り出した。
(第5話へ続く)
第5話へ行く
こんにちは、作者のだいちゃんです。
今回は、まあお決まりというのを、わざと遅らせてみました。
特に意味は、無いですけどね。
でも、ちょっと遅れちゃいました。
申し訳ないです。
いつもながらの挨拶になりますが、EF5を運営なさってて、毎日更新しておられるなしつぶさんには、感謝の言葉もないです。
加えて、こうやって投稿まで受け付けてくれますから・・・ホント、いつもご苦労様です。
では、次回第5話でお会いしましょう。
素晴らしい小説を書いて下さった作者にぜひ感想を!
感想は作者への感謝と次回作を生み出すエネルギーです。
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