「状況は!?」

訓練層から、リツコとともに上がってきたミサトが問う。

「約300秒前に、突如芦ノ湖南端部に、未確認飛行物体が出現、波形パターンを分析したところ、使徒と確認、第1種戦闘態勢に120秒前自動的に移行しました。」

「映して。」


前面の巨大スクリーンに、使徒の姿が投影される。


その形状は、四角錐を二つ上下に張り合わせた物体、というか、つまりはピラミッドを二つ裏から張り合わせた形をしている。

表面は鏡面処理が施されているのか、周囲を映し込んでいた。



「エヴァーは?」

「両機ともにエントリーを確認、起動完了まで後150秒ほどです。」

「まだ地上には出さないで。敵の出方が分からないわ。リツコ、あの使徒に関してアドバイスは?」


手元のコンソールを眺める。


「何とも言えないわね、形状がアレですもの、どうとも言えないわ。」

ミサトは頭を抱える。

「うーん、そうね、戦自への連絡は?」

「完了していますが、何せ突然の出現ですし、スクランブル発進した偵察機が到着するまで、まだ時間がかかりますね。」

「そうね、戦闘機に至っては、もっと遅いでしょうね。」


「なんでですか?」

マコトがなぜかこの非常時に訪ねる。

「未だ20年前のシーカーなんかつけてるサイドワインダーを装備してるからよ。高速で飛行すれば、赤外線感知式のシーカーなんてすぐにイかれるわよ」

怒ったようにミサト。


「いいわ、ネルフの所有する兵器のリスト、私の端末に出して頂戴。無人使用が可能な物だけ、リストアップして。」


ミサトは手元の端末をのぞき込み、いくつかチェックマークをつける。


「これだけ、緊急発進であの使徒にぶつけてみて。」

「しかし、エヴァを出さないんですか?」

「敵の出方も分からないし、形状からも攻撃方法すら分からないのに、秘蔵の刀は出せないわ。せめて、どういう攻撃をするのかだけでも、分かれば対策が立てられるはずよ。」

珍しく正論を吐くミサトを、ちょっとだけ見直したマコト。

「まあ、本音は、なにすりゃいいのかわかんないだけだけどね。」

やっぱり、その評価はまだ後回しにした方が良さそうである。









「やはり、葛城君を作戦部長に抜擢したのは、正しかったな。」

「ああ。だが・・・」

「なんだ。」

「切れ味よすぎるな、葛城印の刀は。いつ諸刃になるか知れん。」

「そのためにも、あの男を呼んだんだろう?」

「ふむ、だが、アレも、いつ砥石になるか分からないな。」

「碇、周り全てが敵というわけでは・・・」

「いや、いい。もうすぐ、弐号機も揃う。すでに出発しているだろうからな。」








昨日と今日と、明日

第5
話 はうっ!!/Birks Works









「使徒、芦ノ湖北端、第3新東京市外縁部に到達しました。」

「通常兵器はどれくらい用意できてる?」

「軌道走行式自走砲、それとロケットランチャー、後は無人ヘリ、戦車、くらいですね。」

「ふーむ、えっと、自走砲には成形炸薬弾、ロケットランチャーとヘリはミサイル、戦車には徹甲弾、それぞれ発射準備させて。」

「しかし、自走砲の成形炸薬弾では、初速が遅すぎませんか?」

「いいわ、発射準備させて、それでもって、そのまま芦ノ湖外縁部を走る鉄道軌道を使って、芦ノ湖南端まで移動させて。」






すでにエントリー、起動が完了している、静かなケージに佇む、2機のエヴァ。

シンジは、司令部のあわただしい様子を無線で聞きながら、映像として入っている使徒を眺めていた。


(なんだこれ、人、じゃないよな、なんでこんな形してるんだろう。)


ふと、隣が気になり、レイが乗っているはずの、零号機を眺める。


(綾波も、こんな事考えてるんだろうか・・・あっ、カード渡さなきゃ。

でも、リツコさん米がくるくる〜とか言ってたな、綾波って実はお茶目な子なんだろうか・・・)

・・・それは冗談だろう。








「準備、いい?」

「はい、通常兵器はOKです。」

「いいわ、逐次やらせて、それぞれの管制部に任せるわ。」


まずは、エヴァ用の発射口から出てきた戦車が、火を噴く。

だが、砲弾が使徒に到達するかと思われたその瞬間、八角形の半透明の物体に遮られ、むなしく表面で散った。


「ダメね。分かってはいたけど。」

「そうですね、しかも、相当強力ですよ、このATフィールドは。目視できますからね。」


次の瞬間、何かのインジケータが急に跳ね上がる。


「なに、これは!?」

ようやく出番の回ってきたシゲルが、答える。

「エネルギーが、使徒の外縁部を回転して、収束しています。」

「こ、これは・・・」

リツコが驚く。

「なによ!!」

「加粒子砲、いや、荷電粒子砲かも・・・」

「なによ、それ!!」

「簡単に言えば、レーザー兵器よ。」

「なんでそんなもん、使徒がもってんのよ!」

「無人戦車、破壊されました。」


画像には、焼けこげた戦車が、いや、ほとんど溶解してしまっており、知らなければ、何かの鉄屑だとしか思えないくらい、見るも無惨な姿をさらしていた。


「使徒、なおも移動を続けています。」

「いいわ、次はやくやらせて。」


兵装ビルから、次々とミサイルが旅立っていく。

だが、むろん使徒には指一本触れられず、逆にビルごと攻撃されてしまう。

しかも、ビルは、先ほどよりも長時間照射され、融解してしまった。


「凄まじいエネルギーね。」

「で、何か分かった?赤木博士。」

「もう少しデータが欲しいわ。」

「アタシもよ。次、やって。」


気動車にひかれて、今までトンネルに隠れていた砲身が現れる。

線路上を伝っていくその姿は、いくら巨大といえども、あの使徒の攻撃を見てしまっては、何とも頼りないものではあった。


「発射。」


先ほどよりも、ゆっくりと赤く輝く砲弾が使徒に迫る。

だが、今度は砲弾をまず攻撃し、その次に自走砲を、線路ごと派手に吹っ飛ばした。


「ふーむ、ヘリがまだ残ってたわね。」

「はい。」

「対空ミサイルを発射させてみて。」


ヘリから切り離され、ヘリを巻き込まないように一度自由落下して、その後着火。

だが、ミサトはハッキリ見ていた。

インジケータが跳ね上がるのが、着火してから以後だということを。





加速がついたミサイルは、まっしぐらに使徒に向かって飛んでいくが、あっけなく使徒の攻撃によって破壊され、ヘリも撃ち落とされてしまう。

いや、ほとんど空中で融解してしまい、地上にはほとんど残骸が堕ちては来なかった。


「リツコ、万が一あのレーザーが第3新東京市直下に照射され続けば、どんくらいでここまで来る?」

「それはあり得ないわ、あの使徒の荷電粒子砲は、一旦使徒を巡って収束してから、一気に解放するタイプだから、おそらく・・・30秒連続照射できればいい方でしょうね。」

「でも、エヴァーの装甲は?」

「まともに当たれば、一番分厚い胸部装甲でも、12秒が限界ね。」

「うーん、でも、今のところここにはなにも仕掛けてこないわよね?」

「今、仕掛けてきてるわよ。」


リツコが指さす画面を見ると、使徒は自分の下向きのピラミッドの頂点から、なにやらドリルを出していた。

そして、ぐりぐりと第3新東京市の地面を掘り出しはじめる。

「はー、当然ながら目標は、ここ、ネルフってわけね。」

右側にある画像の、地図と使徒の位置を照らし合わせて、ミサトは呟く。

リツコは、キーボードを叩くと、

「そう、みたいね。あと、約13時間後には、ネルフ本部に到達するわ。」

「うーん、いいわ、とりあえず全員待機、一旦作戦会議と行きましょうか。」









ネルフ内にある会議室は、全てスーパーコンピューター・MAGIと直結しており、アクセス権を有する物なら誰でも利用できる。

また、テーブルにはキーボードも用意され、電子会議にはぴったりの場所である。

ケージから戻って、なぜか作戦会議に参加させられているパイロット二人。

しかも、シンジはお茶くみまでさせられている。



シンジが入れたコーヒーを飲みながら、集まっている都合10人ほどの人間たちが、眉間にしわを寄せて、話し合っている。

そこに、ゲンドウの姿はなかった。



「おそらく、使徒は自らに対する攻撃の確認を、赤外線もしくはそれに類する、熱戦感知式のデバイスによって行っていると思います。」

珍しく、ビールではなく、コーヒーを手にしているミサトが言う。

「その根拠は?葛城作戦部長。」

ある士官が真剣な表情で問う。


「先ほど、有線ヘリから発射されたミサイル、アレを見て思ったのよ。ちょっと青葉君、その瞬間の映像と、使徒のエネルギーインジケータを、タイムラインにリンクさせて画像に出して。」

「はい。0.25倍にして、再生します。」


ゆっくりと、画像が流れていく。

確かに、使徒のインジケータが、ミサイルが自由落下して、ロケットに着火してから、上昇を始めている。


「他の場合、そうね、軌道自走砲の時のを出してくれる。」

「はい。」


自走砲からゆっくりと、加熱していく成形炸薬弾が飛翔していく。

「ほら。」

その成形炸薬弾が加熱していくその段階で、すでにインジケータは相当な高さを示している。


「それでは、最初の戦車の場合が説明つかないのではないでしょうか?」

マヤがおずおずと口をはさむ。


「そうね、でも、発射する瞬間に、高熱を発するから、それを認識したんだと思うわ。」

と言って、さっそく口が渇き、手元のコーヒーを飲もうとするが、空だった。

だが、シンジが気がつき、さっそくコーヒーのおかわりを入れる。


「では、エヴァが出撃することに何ら問題はないのでは?」

別の士官が口をはさむ。

「無理よ、近づく前に攻撃されるわ。そもそも、近接戦闘用兵器とは言っても、全くエネルギーを使ってないわけじゃないし、高速振動していれば、そうとうの高熱を発生させているもの。

おそらく、近づいていこう物なら、一発でおじゃんだわ。」

リツコが答える。

「だから、エヴァーによる近接戦闘は不可能に限りなく近い、と思っていいし、なおさら近接すること自体が不可能でしょう、これじゃあ。

装甲も長時間は持たないし、かといって、生半可な兵器じゃダメ・・・どうしたらいいかしらね・・・」

ミサトは考え込む。

(あと、12時間、か・・・)

手元の時計は、19:56を示している。

ドリルの予想本部到達時刻は、明日8時15分。

(きっついなぁ・・・)


そんな大人たちを、裏から眺めるパイロット二人。

レイは落ち着き払って、ただ眺めている。

そんなレイを見やって、シンジは考える。

(なんで僕だけ・・・

綾波も手伝って欲しいよ・・・)

そんなことをシンジが言えるわけもなく、コーヒーはどんどん無くなっていき、次々におかわりを要求される。

(はあ、結局僕って家政夫がお似合いなのかな・・・)



ふと、ミサトは、リツコが戦自研に所属していたことを思い出した。

「リツコ、あなた戦自研にいた頃、なんかレーザー兵器の研究を始めたとか言ってなかったっけ?確か、N2爆雷が完成した後、エネルギー兵器研究科に移ったわよねぇ?」

(いやなことを思い出させるかもしれないけど・・・今はこれしかないのよ・・・)


ミサトの瞳の想いがリツコに伝わったのか伝わらなかったのか、リツコはタバコを一本取り出すと、火をつけた。


「そうね、ちょうど私が辞める直前、要塞都市破壊レベルの荷電粒子砲を作っていたけど・・・」

なぜかそこでマコトが言う。

「荷電粒子砲というと、メックウォーリアーではPPC、つまり粒子砲って奴ですね。アレは発熱がすごいんですよね、発射間隔も大きいし、いまいち重量メックじゃないと使い切れないんですよね。そうそう、旧横浜のトレルワンにありましたよね。僕はヴァルチャー2使ってましたよ」

「日向君」

「それに、発熱大きすぎて、たまに加熱で動けなくなっちゃうんですよね」

「日向君!!」

「はうっ!!」

さすがに、周りの見る目が厳しくなっている。

(そうか、こいつはそういう奴だったんだな。)

(日向さんて・・・不潔!)

(ニンニクラーメン大盛りチャーシュー抜き・・・)

(あちゃー、作戦部ってこういう奴がたまにいるから、部下の選び方は慎重にしなきゃ・・・)

(無様ね)

(イカイカ)

見る目とその思いは百人百様だが、さすがにマコトもその気まずさは気がついたらしく、口を閉じて、黙り込んでいる。



「つづけて」

ミサトの声はかなり厳しい。

「どこまで話したかしら・・・そうそう、作ってたわね、要塞都市破壊レベルの。」

「どういうこと、要塞都市破壊レベルって?」

「さあ、近日の有事に備えるためでしょうね、その時点では世界各国の主要都市が地下要塞化計画進んでたから。セカンドインパクト以来、津波と寒さ、その他の危険から身を守るには、やはり地下へと沈降するのが一番だ、って言う世論が席巻していたものね。」

「そうね、だから第3新東京市もこうやって地下要塞化工事を行っているものね・・・。」

「それでもって、もちろん極秘裏にだけど、その地下要塞を破壊できて、なおかつ爆雷などの周囲に影響を与えない兵器、でもって、高エネルギーと来れば、やはり粒子砲が最適だという結論になったらしいわ。それで、予算が通って、私もN2爆雷を開発してたから、そちらへと移されたのね。」

「ふーん。」

「でも、今はどうなっているかしら。いちおう確認してみるわ。」


そういうと、リツコは手元のコンソールからディスプレイを持ち上げ、なにやらやり始めた。


「マヤ、アクセスログを消去して。青葉君、プロキシサーバの速度確認して。」

かなり大がかりなことらしく、他の人員をも駆使してのクラックのようである。

「昔とは全然変えてあるわね・・・でもチョロいのには変わりはないわね。」

「そうなの?」

「これじゃあ、各国の皆さん情報を好きなだけ持っていってください、って言ってるようなもんよ。」

「ふーん。」


よく分からないミサトは、とりあえずリツコを眺めている。

もちろん、状況に取り残されているシンジは、片隅で灰皿を洗っている。

(なんだよ綾波、灰皿くらい洗ってくれても・・・)

そういうレイは、周りと一緒にコーヒーを飲んでいる。

しかも、黙ってシンジの方を向いて、空のカップを差し出している。

(おかわりくれって事?)

シンジがお湯の入ったポットを入れるフリをすると、レイはただうなずいた。

(もう、しょうがないなぁ)

結局なにも言えないシンジは、レイにコーヒーを入れるしかなかった。


「あら、もう完成しているじゃない。」

ようやく、基本スペックなどの情報を仕入れたリツコが漏らす。

「どんなカンジ?」

「かなり強力なものね・・・もちろん、収束時の電圧によるけど・・・

ミサト、あなたこれをどう使うつもりなの?」


ミサトはコーヒーを一旦飲み干すと、立ち上がる。

「高エネルギーをぶつけて、使徒を使徒のATフィールドごと貫く!」

即座にリツコが反対する。

「無茶よ!目視できるほどの強力なATフィールドが展開されているのよ!!それだけの威力を発生させるだけのエネルギーをどうするつもり!?」

「ってどんくらい?青葉君、具体例で表して。」

「そうですね、射撃地点を芦ノ湖南端と仮定して、ATフィールドが先ほどの戦闘で展開されているものだと想定して、なおかつ使徒の表面が光学兵器等に有効な鏡面処理などされていなければ、というもとで算出すると・・・」

ぴ。

「そうですね・・・関東圏から関西圏の家庭や企業の電力全てを徴発して、その状態を12秒間維持させなくては無理です。加えて、大気中での電子の収束には不安定な要素が多すぎて、これが最良の状態で算出した物ですから、実際はもっと長くなる可能性があります。」

「そう・・・」

リツコが眉を跳ね上げる。

「あなた、もしかしてそれを実行しようとか考えてるんじゃないでしょうね!?」

「もちろん、そうよ。」

「どう考えても無理。」

「原因は?」

「まず、相手の最大射程距離が分からないわ。さっきの通常兵器を相手にした場合では、芦ノ湖南端まで届いていたでしょう。約7000メートル強あるのよ。しかも、あの使徒の射撃精度は恐ろしく高かったし、その上減衰を考えれば、エヴァ相手なら15000メートル先でも、まず当ててくるでしょうね、しかも致命的打撃を受けると思うわ。

その上、さっきも青葉君が言ってるけど、大気中の電子の収束はまだ安定させるのが困難な技術なのよ。電圧を上げれば上げるほど、その管制は大変な物になるし、そもそも戦自研で開発していた荷電粒子砲だって、エヴァ仕様のものではなくて、あくまで輸送して、しっかりと固定してからの使用が基本なのよ。都市攻撃用だから、相手からの反撃なんて想定してないもの。

それでもって、使徒が気がついて反撃を受ければ、射撃能力ががた落ちするでしょうし。」


だが、ミサトはあきらめない。なおも食いつく。


「じゃあ、思いっきり距離を離せばいいんじゃない?」

「あなた、軍の訓練所で狙撃術は習っているでしょ?目標が遠いほどずれが発生すれば当たらなくなるのよ。

もし芦ノ湖南端から射撃した場合、目標との角度が1度ずれれば122メートル使徒から外れるのよ。これが遠くなればなるほど、このずれはひどくなるわ。15000メートルのときは、248メートルにもなるのよ。

それを技術的な問題で突破したとしても、距離が長くなればなるほどエネルギーの減衰は大きくなるし。そう簡単なことではないのよ。」

「それなら、電力を世界中から徴発してでもやるわ。やるしかないでしょ。今、ここでこれ以上意見は出ないでしょう、だったら出来得る中でもっとも可能性の高い物、今はこれしかないけど、これに全力を尽くすしかないわ!」

「ミサト!!」


リツコが立ち上がる。



「この作戦担当は、私です。」


ミサトはリツコを見据えて、続ける。


「だったら、まず技術的な問題は技術課にお願いするとして、問題は如何に反撃を受けないように射撃を行うかでしょう。だったら、エヴァーを囮にすればいいんじゃない?そうね、囮エヴァーにはウチの陽電子砲を使ってもらって、使徒に一発撃たせる。

使徒が一回射撃してから、もう一発撃つまでには・・・さっきの画像とインジケータを参考にすれば、だいたい20秒ほどかかるでしょ。その上で、もう一体のエヴァーがカバーに入って、戦自研の荷電粒子砲をサポート、使徒の充填中に射撃を行う。でもって、距離と必要電力の計算は狙撃地点に依るでしょうから、ここは後回し、として、こんなもんでどうかしら?」


リツコは黙っている。


他の面々も黙りこくっているのを見て、ミサトは頷く。


「では、反対意見はない物として、この作戦を実行します。作戦部は今から至急狙撃地点の策定と、電力の確保を行って。技術部は、荷電粒子砲が来るまで、エヴァ用陽電子砲の調整、来たら荷電粒子砲の射撃調整をしてもらうわ。
あと、情報部は、情報操作、特に徴発されてしまう地域への、停電の広報と、情勢の掌握に勤めて。

私は、これから作戦の具申に向かいます。

では、一旦解散。」

急に活気づく会議室。

だが、シンジは今だお茶くみをやっていた。





「あの使徒に対しては、おそらくエヴァーによる近接戦闘も不可能です。

と言うわけで、作戦部としては、超遠距離からの高エネルギー兵器による狙撃、及び囮作戦を提案します。」


司令室に響く、ミサトの声。


「ふむ、なかなか悪くない作戦じゃないか、まるでゴルゴ・・・失礼。」

「・・・この作戦の指揮権は君にある、葛城一尉。存分に、やりたまえ。」

「了解しました。では、これから打ち合わせがありますので、失礼します。」


すっと閉まる、扉。


「だが、その狙撃が外れてしまった場合は、どうなるのかねぇ。」


冬月が、この状況下にもかかわらず、文芸雑誌を読み続けている。


「ああ。」


だが、ゲンドウはいつものポーズを変えない。

ちなみに、ゲンドウが無理矢理承認させた、「ゲンドウポーズ手当」は、1時間につき800円。

いちおう公務員なので、それが給料に乗っかる。

(私も、「コウゾウ将棋手当」とかつかんかな。)

ちょっとうらやましい、冬月先生だった。







「葛城さん、だいたい狙撃地点がここ、でもって、囮設置地点がここ、でどうでしょうか?」

「どれどれ、ふむ・・・。」


会議室の前面ディスプレイに、地図が映し出される。

狙撃地点は、十国峠、囮地点が金時山になっている。


「狙撃地点として、旧国道1号線沿いの双子山も考えましたが、やはり途中にある箱根山がネックになりますね。標高こそ低いものの、温泉の噴煙というやっかいな物が絡みますので、やはり十国峠付近の方がいいと思われます。」

「距離は?」

「十国峠から、約15000メートル、金時山からは約5000メートル弱ですね。」

「運輸の便は?」

「双子山には劣りますが、時間めいいっぱいでなんとかなります。」

「そう、じゃあ、決定。各部署に通達して。それと、その場合の必要な電力と、機材の収集、急いで。」

「はい。」

「それと・・・こればっかは人には任せらんないか・・・シンジ君、レイ、アタシについてきて。」


ようやくお茶くみから解放されたシンジが走り寄ってくる。


「はい。」

「ちょっち、付き合ってくれる?」

「どこですか?」


ミサトは、ニヤリ、と笑うと、

「ピクニック。」

と言って、歩き出した。






御殿場にある、ネルフ用の滑走路、そこから飛び立った初号機と零号機、そのパイロットたちとミサト。

離陸時、ふと、ミサトは時計を見る。


「9時半か・・・」

あと、11時間半。

「なんとか、なるかしらね・・・」

何となく、落ち着かず、手元の書類をぱらぱらめくりだす。




ミサトは、エヴァに二人とも乗ったまま離陸させていた。

もちろん、外部電源はないので、中の電気などつける余裕もなく、シンジはなにも見えないエントリープラグの仲で、考え事をしていた。

なぜか、レイに渡すはずのカードを持ったまま。


(なんで、綾波はあのとき、父さんに会いに行ったりしたんだろうか。

そもそも、綾波って、あまり人のことに干渉しない質だと思ってたのに。

今日だって・・・お茶くみ手伝ってくんないし・・・おかげで大変な思いしたよな・・・って違う、そんなことを言いたいわけじゃない・・・

それに、どうしてエヴァに乗るんだろう。

綾波にも、家族って居るんだろうな。

どういう家庭なんだろう。

わからないな・・・)


そういうと、もう一回カードをくるっと回す。

手先だけは器用なシンジだった。




たとえ、飛行機の中といえども、ミサトは仕事を続ける。

作戦部長としての彼女は、多忙であった。

それでも、やはり戦自研には自らが行かなくてはならなかったのだ。

司令や副司令を行かせるわけには行かないし、いちおうネルフでは作戦部が戦時には部署の中では一番上に来るので、やむを得ないことではあった。

だが、やはり見るものが見れば、あとを誰かに任せていけばいいのに、という貧乏性という見方もできるかもしれないが、そこは彼女の矜持が許さなかった。

使徒は、自分が倒す、という自負が、彼女を縛っていたのかも、しれない。



相も変わらず、コンピューターに携帯をつなぎ、フル稼働させて、情報の収集に加えて、指示を出し続けていた。


「赤木ですけど、ほぼ必要電力の概算、出たわよ。」

「お疲れさん、で、どう?」

「これはかなり厳しいわね、日本全国の家庭用電力を回さなくてはならないし、そのための機材も設置しなければならないから、おそらく作戦開始時刻は、使徒がここネルフに到達する8時15分と、ほぼ同時刻になるわ。」

「うーむ、余裕、無いわね。」

「それに、8時15分というと、全国で通勤ラッシュの時刻なの、明日は平日だから、相当の混乱が予測されるわ。」

「そうね、厳しいわね・・・」

「今から通達を開始しても、全国に行き渡るかどうか・・・これだけのことだから、今から首相の元へと回しても、おそらく早くて今晩11時以降にはなるでしょうね。」

「まだ、ましね、最終ニュースのトップには間に合うでしょ?」

「なんとかね。でも、このせいで休日になったら、ミサトのせいね、『葛城の日』とでも名付ける?」

「それ良い案ね、一緒に司令に作戦案として提出しておいて。」

「本気?」

「本気も本気、大まじめよ。そうね、ちょっとネーミングには難があるから、これに関しては保留しておいて。」


リツコは頭を抱えると、


「善処しておくわ。」

とだけ言って、映話をきった。

だが、たとえ緊急時でもユーモアのセンスが絶えない彼女に、リツコはどれだけすくわれてきたことだろうか。




ようやく、シンジの無線にミサトの顔が映る。


「お待たせ、じゃあ今から空中離脱を行うわ。今から起動を開始、かなり低空まで輸送機をおろすから、着地まで時間がないから、切り離されたらすぐに着地体勢を取って。

着地したら、一番高い建物の前で、私が合図するまで待っててね。

それじゃ、行くわよん」


次の瞬間、輸送機2機が、急降下を始める。

あまりジェットコースターとかが好きではないシンジは、

「うげぇ、ダメだこりゃ」

と、初号機の中で悶絶していた。

だが、そう言っている暇はない。

即起動を開始、成功する。


「切り離すわよ。」


すっ、と輸送機からエヴァが切り離される。

たとえ、自動操縦になっていても、夜の闇夜から地面へとダイブさせられるというのは、あまりぞっとする光景ではなかった。


「うっわー、落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる」

シンジはもはや半狂乱である。


その横で、零号機も切り離されるが、レイは落ち着いて、着地体勢をとる。

だが、未だシンジは着地体勢がとれない。


「着地まで、あと5秒。」

レイが、カウントを取り始める。

「マズイ!」

シンジはようやく自我を取り戻す。

だが、そのときすでに遅し・・・。

初号機は、まるでピョン吉を裏から見たがごとく、地面と熱烈なキスを交わしていた。



「あちゃー・・・いいわ、そこで待機していて。」

ミサトは、輸送機を傍に着陸させるよう指示して置いてから、その建物を見る。


シンジからも、その建物の看板がハッキリ見えた。

「戦略自衛隊研究所・筑波分所」

とある。





研究所の所長室にミサトが向かうと、今だ白髪の混じる、初老の所長は落ち着き払ってお茶を飲んでいた。


「ふむ、君がかの有名な葛城ミサト三佐かね。」

「はい、今は一尉ですけど。」

ちょっとミサトはむっとして答える。

「こういうやり方は、あんまり好きじゃないがね。」

所長はお茶をすすりながら、答える。

「今はやり方云々を言っている場合ではございませんので。」

そういうと、ミサトは手元にある書類を突きつけた。

「当研究所にある、荷電粒子砲を、借用願います。」

「どうせ断っても、徴発していくのだろう。」

所長は相変わらず、お茶をすする。

「もちろん、そういうやり方もございますけど。」


「ネルフはいつもそうだ。裏にある絶対的権力をバックに、いい物ばかりを集めようとする。あのときもそうだ。」

「は?」

ミサトは首を傾げる。

これまで、ミサトの知る限り、戦自研にお世話になったことなど無いからだった。

「君は知らんかも知れんが。ウチの研究員を引き抜いたりとかね。」

え?

ミサトはすこし考え込むと、過去に戦自研にいた、ある人物の名前を出した。

だが、その人物は・・・ネルフに来るきっかけになった事件では、ネルフはいっさい関与していないはずだった。

しかし、ミサトは、あえて、その親友の名を出した。

「それは、赤木 リツコ博士ですか?」


だが、所長は何も言わず、ただお茶をすするばかりだった。

「お答えください、所長。今、あなたを拘禁することもできます。」

「君の手で調べればいいだろう。これ以上、私が何かを言えば、私の首が飛ぶよ。あんたらネルフによってね。」


彼の発言で、分かったことが2つ。

少なくとも、この部屋には、ネルフ、もしくはネルフに友好的な組織が、盗聴器などの音声を盗み取る機械が設置されていること。

それと、リツコがネルフに来た事件に関して、この場で話せば、彼のみならずミサトも危ないと言うこと。

今は、そのことを聞くべきではない、と判断したミサトは、とりあえず、目前の目的に突進する。


「それでは、荷電粒子砲を、借用願います。ここに、サインをお願いします。」


だが、所長はお茶をすするばかりで、なにもしようとはしない。

「所長!一刻を争う事態なんです。今すぐ、サインを下さらなければ、強制徴発して、事後承諾という形を取ることも出来るんですよ!あなたではなく、あなたのライバルにね。」

しかし、相も変わらず所長はなにも語らず、ただお茶をすするばかり。

だが、ミサトは、あることに気がついた。







「司令、葛城作戦部長から、政府への要望書が届いてます。」


ところ変わって、ネルフ本部内、発令所。

今は、ゲンドウ自らが、発令所でネルフを指揮していた。


「まわしてくれ。」

「はっ。」


画像には、ミサトとリツコの連名で、内容が記されている。

後から、冬月がのぞき込む。


「ふむ・・・作戦上の必要性のために、全国の家庭用電源の停電と、それに伴う全国の休日化か、だが、何だこりゃあ」


冬月をして、何だこりゃと言わせたその内容は、もちろん「葛城の日」という提案である。


「だが・・・これまで六月には法定の休日がなかった。これはいい案だ。」

「碇、そこはいいのだよ、だが『葛城の日』とは、あまりにやりすぎではないかね。」

「うむ。」

「いくら我らが政府には圧力を掛けられるとは言っても、こればかりは、まずいな。」

「ああ。」

「名前は、なにがよいかな・・・そうだ、将棋の日にしよう。これでどうだ。」

「だめだ。」

「どうしてだ・・・では、碇には何かいい案があるのか。」

「ああ。」

「まさか・・・『ゲンちゃんの日』とかにするつもりか!?」

「・・・」


内心、そうしようかと思っていたゲンドウは、冬月の反応が意外なので、マズイと判断し、黙っていることにした。


結局、おとなしく、2015年から、6月25日は「科学の日」となった。

その原案を雛形として、長野にある首相官邸に送付されたのが、6月24日22:25分。

そして、正式にこれが公布されたのが、同日22:48分。

あまりに急な、休日であった。




同時刻、筑波の戦自研にいるミサトは、まだ所長の前にいた。

所長の湯飲みの底に、ある物を発見したからである。

底には、文字が記されていたのだ。


「ネルフは陰謀で為っている」


それは、ミサトにとって、疑問を抱いてはならないはずの疑問であった。

ネルフという組織が、ここまで日本において、最高の権力を握る機関であること、そして、その過程が、彼女には全く分からなかったし、調べることが出来ない物であったからだ。



いきなり、ミサトは猫撫で声になった。

「所長、お茶のおかわりでもいかがですか?」

「うむ、もらおうじゃないか。」

「私の部下で、おいしいお茶を入れる者がいるんです。」


そういうと、ミサトは通信機で、ある人物を呼びだした。


「はい、何ですか、ミサトさん。」

そこに現れたのは、シンジであった。


「この方に、お茶を入れて差し上げて。」

いきなり呼び出されて、何かと思えば、いきなりお茶を入れろという不可解な命令に、とまどったが、そこは家事に関しては自負があるシンジのこと。

すぐに、おいしいお茶を入れて、戻ってきた。

なぜか、入れるときに、給湯室にミサトもついてきて、湯飲みになにやら細工したあと、自分の分も入れてもらって、一緒に所長の元へと戻ってきた。


シンジの入れたお茶を一口すすって、所長。

「うまい!」

そういって、シンジを褒めた。


そして、ミサトもお茶をすする。

そして、所長に同時に底を見るよう、目配せをする。


「またのちほど。」


というその文字は、ハッキリ所長から見えた。


「この少年のお茶の旨さに免じて、ここは快く荷電粒子砲をお貸ししましょう。」

そういうと所長は手元の書類にサインをした。

「ありがとうございます。また、返しにお伺いしますので。なるたけ、原形をとどめて、お返しできますよう、努力いたしますわ。」

「うむ、またシンジ君のお茶を飲みたいものだ。」

「ぜひ、連れて参ります。」

「ああ、そうしてくれると、私も長生きできそうな気がするよ。」


そういうと、二人は握手をした。

その目線には、微量の何か成分が混ざっていた。





エヴァ初号機が、研究所の屋根を持ち上げ、零号機が荷電粒子砲を持つ。

そして、零号機は荷電粒子砲を持ったまま、初号機はなにも持たずに輸送機につながれ、飛び立っていった。

星が瞬く、夜空へと。



ミサトが機上で時計を見ると、時刻は22:57分になっていた。

あと、9時間あまり。



「そっちには、そうね、0時頃着けるんじゃないかしら、雲の様子にもよるけど。」

「はい、こちらの状況ですが、使徒の攻撃は相変わらず続いてます。先ほど、5分くらい前ですが、22ある地中防壁の内、6番目を突破されました。ほぼ、予定通りです。

あと、電力の収集機材ですが、変圧器、冷却器等の徴発、設置は順調に進んでまして、明日午前7時には完了する予定です。

エヴァ用陽電子砲の方も、おそらくここまま使用が可能と思われます。あとはそちらの荷電粒子砲だけですね。」

「バッチリよん、あと、停電とそれに伴う全国の休日は?」

「テレビをつけてみて下さい。」

「そうね・・・」



ちょうどミサトが機内テレビをつけた瞬間、テレビでは23:00を示していた。

「こんばんは、ニュース23です。まず、こちらのニュースからです。

え〜、突然ですが、明日は休日になりました。それに伴い、全国では、明日8時15分より、いっさいの家庭で電気がストップします。

政府によりますと、明日、大規模な軍事訓練と、新兵器の実験によるもので、一部の病院施設等を除き、全国的に送電がストップするそうです。

また、全国の会社はこれを一斉に休業にするそうです。テレビも、明日8時10分から10分間は停止させていただきます、あらかじめご了承下さい。」


「ちゃんと伝わっているじゃない・・・」


「長野市の首相官邸によりますと、明日6月25日の休日を、特別法の規定により、『科学の日』と名付けるそうです」


「えええええええ!?!?!?ぬわんですってぇぇぇぇ!どうして『葛城の日』じゃないのよぉぉぉ!!」

「司令の判断です。」

「がーん・・・」


けっこう本気だった、ミサトであった。





シンジは、うつらうつらしていた。

相変わらず、電源は切っているので、なにも見えないし、退屈だったので、なにもせずただぼーっとしているうちに、眠ってしまっていた。

けっこう、疲れていたのもあった。

結局、訓練から使徒が来て、そのあとは会議でお茶くみ、そのあと筑波へと飛んだのだから。

14歳の体には、ちと酷なスケジュールではあった。




だが、その次の瞬間、悲劇は起きた。

初号機用の輸送機パイロットが、驚いた声を上げた。


「葛城一尉!!」

ミサトは顔を上げた。

「どうしたの?」


パイロットは、計器類の中で警告音を発する物を指さした。

それは・・・


「これは!エヴァーの固定器具の圧力計!!」

そう、固定用器具の圧力が、ゼロになっていた。


「初号機が・・・落ちていきます!!」

「マズイ、この高度じゃ、機体は無事でも、パイロットが!!」

ミサトが後方を見ると、闇夜の中に消えていく初号機が、見えた。




初号機の中で、シンジははっと目覚めた。

だが、妙に浮遊感があるのが、変だった。

まだ、到着予定時刻ではない。

高度変更という割には、いつまでも落下し続けているのだ。


「おかしいな・・・」


そこへ、ミサトからの通信が入る。


「シンジ君、あなたなにやってるの!!」

「え、なにもやってませんけど・・・」

「あなた、落ちてるわよ!!」

「えぇ!!」


あわてたシンジがエヴァを起動すると、表は闇夜の中、上に見えるはずの輸送機もなく、ただどんどん落下する様子が見て取れた。


「ミサトさん!!」

「落ち着いて、今迎えに行くから。」

「ダメです!」

輸送機のパイロットが口をはさむ。

「実は、時間が無く、往復分の燃料しか入れてませんし、なにより、今あなたは現場になくてはならないので、なにがあっても戻すよう、碇司令から言われてます。」

唇をかむ、ミサト。



エヴァは、やがてくるくる回り始めた。

着地するには、あまりに高すぎ、横風にあおられ、駒のように回転する初号機。

「うわわわわわ!ダメだ・・・」

次の瞬間、シンジの視界はグレイアウトした。

体が振り回されて、視神経まで血液が循環しなくなったために、視界が無くなってしまったのだ。

「なにも、見えない・・・」


そして、シンジは気絶した。

着地体勢を取ることも出来ず、ただ初号機は落下していった。

闇夜の山中に。




「シンジ君!シンジ君!!」

ミサトは何度も無線に問いかけるが、いっこうに答える気配がない。

「葛城一尉、私がおります。」

レイが、口をはさんだ。

もちろん、その申し出はありがたかった。

だが、今は出来うる限り、作戦の遂行が至上の目的である。

ミサトは、承諾の言葉を飲んで、言った。


「レイ、いまはこのまま、第3新東京市に帰ります。」


その目線には、そんな言葉など、微量も混ざっては居なかった。






初号機墜落の報を受けて、発令所は大騒ぎになった。

「大変だ、こりゃあ」

「作戦自体がつぶれるじゃないか、これじゃあ。」


だが、ゲンドウが珍しく大声を出した。

「諸君!自分の仕事をしたまえ!」

珍しいゲンドウの大声に、ネルフの面々は黙って、持ち場に着くしかなかった。


「だが、どうするのかね。夜中に山の中に落ちた初号機を探し出すのは、至難の業だぞ。」

「ああ。」

ゲンドウはいつものポーズを構える。



数秒して、ゲンドウはすっくと立ち上がる。

「どうした。」

「冬月、後を頼む。」

「どうするつもりだ」

「探すしかあるまい。」

そういうと、ゲンドウはリフトで下へ降りていった。




日が変わって、0時5分、ようやくミサトと零号機、レイがネルフ本部へと戻ってきた。


「ただいま、帰りました。」


会議室で、なにやら指示を出しているゲンドウに敬礼をするミサト。


「ふむ、ご苦労だった。」

「司令、私はこれから初号機の・・・」

「いや、そちらは私が指揮を執る。君は、このまま、使徒殲滅作戦の指揮を執り給え。」

「しかし・・・」

「早くしたまえ。」

「はい。」


ミサトは、やむなく作戦会議の方に戻るしかなかった。




ゲンドウのまえには、シゲルがいる。

かなり、かしこまっているが、これはしょうがない。

いつもなら、彼を指揮するのは冬月かミサトなのだから。


「青葉君、申し訳ないが、初号機捜索には、君が現地指揮を執ってもらうことにした。」

「は。」

「で、初号機捜索の手順を説明してもらいたいのだが。」

「はい。」


そういうと、地図を広げる。


「輸送機の飛行経路、落下時刻、落下方向、その他を計測した結果、北緯35度40分15秒から16秒、東経138度52分33秒から34秒のあいだと推測されます。」

「具体的な地名でいいたまえ。」

「山梨県大月市北東部の山中ですね、黒山の麓になると思われます。」

「で。」

「現在、初号機の電源も切れておりますので、初号機からの無線発信等による探知は不可能です。その上、山中なので軍事衛星等による地上走査も不可能に近いと思われます。

なので、ここはネルフの勤務者で、現作戦に従事していない者100人ほどを現地に差し向けて、北緯35度40分15秒から16秒、東経138度52分33秒から34秒のあいだの地域を人海戦術で、捜索に向かいたいと思います。」

「うむ、ではさっそく向かい給え。」

「はっ。」





一方で、使徒殲滅作戦のほうは、なおも順調に続いている。


「ようやく、戦自研の荷電粒子砲のお出ましね。」

「これで、なんとか使徒も倒せますね、先輩。」

「だといいのだけれど・・・」


まだリツコの中には、何か不安なものがあるようである。


「では、これからこの荷電粒子砲を、エヴァ仕様に改造します。マヤ、私が引いた設計図面を、勤務者全員のPDAに写して。」

「はい。」


戦自研の荷電粒子砲は、元が野戦砲仕様なので(いわゆる、対戦車砲だと思って下さい)、砲身がただあるだけで、エヴァが構えるには難がありすぎるために、砲身に冷却器や引き金を取り付ける作業が不可欠だったのだ。


「おそらく、この作業も、本日6時には間に合うと思われます。」

「そうね、ミサトにそう連絡入れといて。」

「はい。」





「そう、荷電粒子砲も6時には揃うのね。分かったわ、ありがとう。」

インカムを切って、ミサトはさらに指示を出し続ける。

「囮用の陽電子砲と、防護壁はどうなってるの?」

「はっ、あと2時間もあれば、設置が完了します。」

「そう、続けて。」

腕時計は、すでに1:30を示していた。

初号機以外の全ての作業は順調にはかどっている。


(あとは、あなただけよ、シンジ君。早く、戻ってらっしゃい)




「全員、現地に揃ったかね。」

ゲンドウが、映話の向こうにいるシゲルに問う。

「はい、揃いました。もう5分もすれば、始められます。」

「急いでくれ。」


そういうと、いつものゲンドウポーズに戻った。

その胸中には、なにが秘められているのだろうか。




ところ変わって、山梨県大月市。

山の麓に、人だかりが出来ている。

もちろん、初号機捜索隊の面々である。


セカンドインパクト以来、夜でも暑いので、全員が汗をかきかき、シゲルの指示を聞いている。


「全員が、横並びになって、山の中をひたすらに歩くぞ、ただそれだけだ。初号機を発見、確認次第、信号弾を上げること。

では、開始!!」


シゲルの号令の元、全員がぞろぞろと横並びになって歩き始めた。

それはまるで、「おはよう!ズームイン朝」でやっていた、33人34脚のようであった、とあるネルフ職員は語る。






そのころ・・・

初号機の中で気絶していたシンジはなにをやっていたのか・・・。


夢を、見ていた。



白い空間に、彼と父親が立っている。



父親は、なにも語らず、ただ黙している。



ただ、父親は先に行こうとするばかり。



子供の、手も引かずに。



だが、子供はついていく。



泣きながら。



しゃくり上げ、ひたすらに父の名前を呼びながら、歩み寄っていく。



だが、近づくたびに、父親は、子供を突き放し、一人で歩いていってしまう。



そして、父親は、子供から去り、白い空間へと、消え去っていった。





(そうだ、これは・・・僕の記憶なんだ・・・)







白い空間は、まるで全てを拒絶していたのだ。




何者とも、相容れない白さ。



それは、本当の黒でなければ犯せないような、何か絶対的な白さであり、その白さがシンジには、眼に痛かったのだ。



そして、子供は、もっと小さく、縮んでゆく・・・。



















「そちらの様子はどうかね?」

「午前2時15分現在、まだ見つかったという報告は入っておりません。」

「そうか・・・。」


シゲルの表情は、焦りの色が濃い。

一方、ゲンドウの表情には、相変わらず変わりがない。

自分の息子を捨てた男は、その息子がいかなる状況に置かれても、苦痛さえ味わうことはないのだろうか。

冬月は、そこで思考を停止した。





















白い、空間の真ん中に、子供を抱いて立つ女性が、一人。



その人物の雰囲気に、シンジは記憶があった。



白い中で、絶対的な存在感を持つ、その姿。



それこそ、白でなくては、存在し得ないような、そこには、清らかな何かが確かに存在した。



(アレは・・・母さんだ・・・そうだ、たぶん、あの感触は、母さんだ。



それに、抱いているのは・・・僕か・・・)



すでに電源も切れた初号機の中で、夢見るシンジ。



その前には、なぜか母親が、自分を抱いているのだ。



その白い空間の中で、男が一人、女性に歩み寄ってくる。



(あ、あれは父さんだ。)



父親は、しかし、なにも語らず、ただ黙って遠くに去って行くばかりであった。



(そうか、期待した僕が、バカだったんだよな・・・)





それは、まるで彼の気持ちを拒絶するように。

その空間の白さが、ゲンドウを溶かしていった。





と、そのうちに、彼の母親の姿が変わっていく。



(あれ?母さんが、変わっていく・・・)



いわゆる、モーフィングのように。



そして、纏う雰囲気も、変わっていく。

何か、別の物へと。




だが、顔が髪で隠れて、なにも分からない。

その雰囲気も、彼にはよく分からない物だったのだ。



白には決して犯され難い、その雰囲気は、まるでそこに強固な意志が存在するがごとく、存在感を放っていた。



そして、そのそばには、いつの間にか彼自身が居た。





(あれは、僕だ。でも、あの女の人は・・・誰だろう・・・いや、僕は知っているのかも、しれない・・・

いや、きみは・・・!!!)





彼が、顔を振り向かせようとした、その瞬間だった。








「青葉さん!初号機を発見しました!!」


無線機から届く喜びの声が、シゲルの耳に痛く突き刺さるが、その痛みは、シゲルには心地よい物であった。


「よし、場所をGPSで詳細確認の後、こちらに送ってくれ!加えて、信号弾を発射しろ!」


遠くの方で、光る弾が、撃ち上がった。


シゲルは、その光る弾が、まるで希望に均しく見えた。






「そうか、よくやってくれた、すぐに帰還したまえ」


初号機発見の報はすぐに、発令所内に行き届き、凄まじいまでの歓声が上がった。


「これで、何とかなるかしらね。」


ミサトはあまり表には出さない。

だが、マコトは、一番喜んでるのはミサトだということを、知っていた。





「先輩、これで使徒も倒せますね!!」

「ええ、よかったわ。」


技術班にもその報は伝わり、ようやく仕事もはかどってきた。

士気はいやがおうにも高まり、技術部の工作班の部屋は、熱い熱気で蒸せかえった。














だが、シゲルたち捜索隊は、つらい事実を発見してしまった。

それは・・・初号機の右足は、あり得ぬ方向へと折れ曲がり、使用が不可能になっていたのだ。




「これ、発令所に流したら、すっげえ冷めるだろうな・・・」


ロン毛オペレーターは、その事実を目の当たりにして、とりあえず発令所にこのことを報告するかどうかで悩み抜いていた。


森の暗闇に光る、ネルフの作業車のランプの前で。


滴る汗は、果たしてこの暑さのせいか、それとも冷や汗なのか。


現在、3時15分。


使徒がネルフ本部に到達するまで、そして、殲滅作戦開始まで、あとちょうど5時間になっていた。



(第6話に続く)



第6話へ行く




少々遅ればせ気味ながら、第6話、お届けです。

こんにちは、作者のだいちゃんです。


原作では、ちょうど「決戦!第3新東京市」の部分になりますね。

ちょっと長くなっちゃったんで、2話に分けることにしました。

次回は、決着ですね。

もしかしたら、もう少しインターミッション的な話が入るかも・・・?


さて、今作ではあえて、ミサトの戦術指揮を原作より、慎重な物にしています。

これには理由があるんですが・・・まあここではナイショにしておきましょう。

ここでネタ晴らししてもしょうがないですからね。

どうしても知りたいという奇特な方がいらっしゃったら、DMでも下さい。


そして!!!ついに300000ヒット、おめでとうございます、なしつぶさん。

すばらしいですよ、延べ300000人もの人がこのサイトを見たなんて。

これからも、頑張って下さいね!!


それでは、次回第6話で、お会いしましょう。

あの人は、もうすぐですよぉ・・・


素晴らしい小説を書いて下さった作者にぜひ感想を!
感想は作者への感謝と次回作を生み出すエネルギーです。
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