「え、今から至急日本にですか?そりゃまた人をこき使いますなぁ、いったいどういう了見で?

え?戦略自衛隊付属研究所の所長を、明日中に・・・って、今日本時間でもう23時じゃないですか・・・まあ、ご命令とあらば、すぐ飛びますけどね。」


ゆるんだネクタイを、片手で縒りなおして、壁にもたれかかる。


「そう言えば、使徒はうまくやったらしいじゃないですか、何でも、日本中を停電させたとか・・・え?そりゃ、裏のルートで・・・海の上からだって、別に難しい事じゃないですよ。

いや、それはいいんですよ、司令、ともかく、アレを持ってはいけませんし、万が一、そちらに寄ったついでに見つかったりしたら、マズイじゃないですか、だから・・・分かりましたよ、やってきましょう。

まあ、そちらの諜報員を使えば、一発でばれますからね、僕の方が適任なのは分かりますけど・・・はあ、分かりました、行って来ましょう、明日中ですね・・・明後日だと?葛城が来てしまうんですね・・・どうせ後で会えますからね。分かりました。話を付けといて下さいね、では・・・・」


無線のスイッチを切る。

そして、胸ポケットから、赤ラークを一本取りだし、愛用のZippo No.200で火を付ける。

長年使っているそのライターは、表面の銀色がくすみ、いい色になっている。

そのライターの横腹には、なぜか刻印があった。


"Ryouji & Misato"と・・・。




「さて、しょうがないな、アスカのことは・・・そうだな、他の艦艇にでも行っているとでもしておくか・・・久しぶりだな、飛行機の操縦は・・・アレはどうするか・・・持って行くわけには行かないしな・・・とりあえず、隠しておくか・・・」


そういうと、安直にも、ベッドの下に隠す。

だが、直後、ベッドの下に、なにやら仕掛けをはじめた。



しばらく後、満足したのか、別のトランクから、いろいろ取りだし、物色し始めた。

そして、愛用の銃を分解し始め、掃除をはじめた。


「まずはここからだな、ふんふんふふ〜ん」


その鼻歌は、なぜかもの悲しく、男の広い背中に流れ続けていた。







昨日と今日と、明日

第7
まずいわ/Lazy Bird








使徒との死闘を繰り広げてから3日後。

第3新東京市の中心部には、その巨大さ故、今だ片づかない使徒が、横たわっていた。

この使徒のおかげで、第3新東京市の都市機能は、麻痺し続けており、破壊されたビルを修復するにせよ、相当な時間がかかる物と見られていた。

いや、都市機能ばかりではない。

戦闘能力も、今だ戦闘前の30%にも満たず、この状況下での使徒の襲来は、あまりに危険であった。


それ以上に、世界を守るという名の下に結成され、その第3新東京市に本拠を置くネルフの状況は、芳しいものではなかった。

その切り札である、エヴァンゲリオン初号機は、戦闘前から右足を失うという、あまりに不吉な状況に追い込まれたし、零号機は、使徒からの攻撃をよけきれず、胸部装甲がほぼ融解してしまっていた。

パイロットである綾波 レイは、意識不明の重傷を負い、今だ眠っている。

もう一人のパイロット、碇 シンジはと言えば・・・。




「ミサトさ〜ん、起きて下さいよ〜、今日も早くから出るから、8時に起こしてくれって、昨夜3時に無理矢理僕を起こしてたのんだの、忘れたんですか〜」

「もうちょっちだけ、寝かしてよ〜、昨夜は家でも残業持ち込んで、寝たの6時頃なんだからさ〜」

「もう、知りませんよ〜、遅刻で減俸されても。」

「いや、それはマズイわ!!」


いきなりがばっと起きる。

その寝起き顔は・・・彼女を女神と信じて疑わない、ある人物に見せれば、かなり幻滅するであろう事は間違いなかった。

髪はぼさぼさ、化粧を落としてないので、顔もぐしゃぐしゃ、その上制服のまま寝たため、しわくちゃになっている。


「ミサトさ〜ん、制服のまま寝るの、やめて下さいって言ったばかりじゃないですか。クリーニングに出すとき、恥ずかしいんですから。」

「あら〜ん、どうして?も・し・か・し・て・?」

「ちちちちちち違いますよ、なんかいつもお世話になっているクリーニング屋さんのおばさんが、なんかいつもにやついているんですよ、もう、先に行きますよ。朝ご飯、テーブルの上に置いてありますから。」

「いってらっしゃい。」

「いってきま〜す」


玄関の方へと遠ざかるシンジの足音。

その足音が、ドアの向こうへと消えたのを確認してから、ミサトは電話をかける。


「今、サード学校に向かったから、後、よろしく」


それだけ言うと、電話を切って、二度寝するわけにも行かず、しょうがなく、起きあがった。






「しっかし、よくお前あんだけでかいの、倒したな。」

「そや、ようけあんなでっかいもん、倒しよったなぁ。な、シンジ。教えろや、どうやったんや。」

「別に、ただ、でっかい銃で撃っただけだよ。」







素っ気なく、シンジが言う。




「うわー、その銃、なんて言うんだよ!!」

「何だっけなぁ・・・かでん・・・カデン・・・第一家電じゃないし・・・」

「それは電気屋や!!」


鋭いトウジのツッコミに、ケンスケは追い打ちをかける。


「なあ、シンジ、ホントは知ってるんだろ、ただ、そうやって機密を守らなければならないのはよく分かるよ、でも、教えてくれよ〜」

「いや、機密でもなんでもないと思うけど・・・」

「頼むよ〜、そうだ、なんか代わりにやるからさ〜、モデルガンひとつやるからさ〜」

「いらないよ、別に。」

「そう言うなよ、な、頼むよ、シンジ〜」

「ああ、そうだ、思い出した!」

「なんだよ!!」

「荷電粒子・・・ほう、とか言ってたっけ・・・まだ、返しに行ってないから、ネルフのどこかにはあると思うけど・・・」

「って、どっかから借りて来よったんかぁ?」

「うん、筑波の戦自研、とか。」

「うんうん、それで。」


ケンスケは、どこからかPDAを取りだし、真剣になってなにやら記録している。


「後は、知らないよ・・・でも、いつ返しに行くんだろう・・・」






ネルフの技術部の倉庫内。

倉庫、とは言っても、ジオフロント一層をぶち抜いた巨大な物であり、ここには、エヴァ仕様の様々な兵器が、すぐに地上へと運び出せるよう、リフトが至る所に取り付けられていた。

そして、そのど真ん中に座する、一層巨大な砲身。

先の作戦で借用してきた、荷電粒子砲である。


「ミサト、これいつ返しに行くつもり?ここにあると、邪魔でしょうがないのだけど。」


リツコは、眼鏡をくいっ、と持ち上げると、横に立つミサトを振り返った。


「ああ、明日中には返しに行くわ。今日はチョッチ、ね。」

「あら、そう。」

「あら、そうって、わかってんの?」

「いえ、べつに、ただね。」

「ただ?」


もう一回、リツコは眼鏡を持ち上げる。


「これ、私が研究してた物とは、仕様が僅かに違うことに、今気づいてね。」

「それがいったい何なの?」


だが、リツコは答えない。



ミサトは、これを返しに行くに当たり、所長から詳しい話を聞くつもりであった。

大学を卒業して以来、この組織にいるが、あまりに不透明な部分が多かった。

別段、そのこと自体はどうでもよかったのだ。

だが、心のどこかに引っかかる、あること・・・そして、大学時代からの、唯一の親友とも呼べる彼女のことを知る機会とあれば、それを逃すわけには行かなかった。


とはいえ、今日一日は、作戦レポートを仕上げなくてはならなかったのもあり、ここを離れるわけにはいかなかった。

しょうがなく、ミサトはレポートの続きを書くために、リツコのそばを離れ、去っていった。



リツコは考え続ける。


(どうしてかしら・・・私がいた3年前から比べて、もちろん性能自体は上がってるけど、それ以上に、火器管制システムが、変わっている・・・まるで、エヴァに合うようになっているわ・・・

これのおかげで、作戦自体がスムーズに進んだけど、これはおかしいわ・・・エヴァ自体の情報ならともかく、なぜ、ここ以外でエヴァ仕様の管制システムが存在するのかしら・・・しかも、戦自研で・・・)


彼女は、しばらく倉庫の中を歩き続けた。





ミサトは、レポートを書き続けていたが、やがて咽が異様に乾いているのに気がついた。


「うーん、のど乾いたわねぇ・・・そうだ!!」


そういうと、なぜか懐から、一本のビールを取り出そうとした。

だが、ここは・・・作戦部室であり、ここはしっかりと、モニターされている。

先日ビールのことで、冬月に注意されたばかりだったので、さすがのミサトも、ここで飲むのはためらわれた。


「どっか別の場所で飲みながら仕事した方が仕事がはかどるわね。どこか無いかしら・・・?」


そう呟くと、コンピューターをいじり始める。


「あ。ここいいわねぇ。」


そうミサトが呟いたとき、コンピューターには、予備の発令所である、第2発令所が映っていた。




ミサトは、第2発令所へと、自分のノートパソコンを持ち込んだ。

彼女のアクセス権なら、ここには入ることが出来る。


「よっし!!」


そういうと、ビールを開けて、飲み始めた。


「ぷっはぁぁぁぁぁ!!!!これで仕事もはかどるってもんよねぇ!!!」


はかどるわけがない。

飲み始めると止まらなくなってしまい、彼女は、食堂へと行って、ビールをしこたま仕入れてくると、発令所のゲンドウの席に座って飲み始めた。


「こっから指揮すんのよねぇ、いい気分だわあ。」


などとのんびり呟いていたが、やがてあることに気がついた。


「ここもモニターされてたら、まずいわ!!壊さなきゃ!!」


なんで壊すのだろうか。

壊す必要はないはずなのに、酔った彼女の頭には、今や破壊衝動しかなかった。


「どりゃああああああああ!!」

ばき。

「っっっっっっっっっっいつえええええええええいいいいいいい!!!!」

ぼこ。


彼女のアクセス権で調べたモニターやらセンサーを、全て見よう見まねのカンフーで破壊してしまった。

しかも、破壊されても、警報が鳴らないように、彼女はわざわざ、警報を彼女の権限できっておいて。

まあ、警務員も、彼女がモニターを破壊するために警報を切ったとは思わないだろう、いくら何でも、作戦部長様が、である。


「よっし!!」


何がよっしなのかは知らないが、彼女は破壊衝動をようやくにして納めると、またビールを飲み始めた。








やがて、夕刻。


「シンジ、今日は暇なんやろ?たまには、ゲーセンにでもつきあえや」

「そうだよ、いつもシンジは訓練だから、一緒に遊べないじゃん」

「ゴメン、でも、今日はちょっと、いくとこあるから。」

「そっか、じゃあしゃあないなあ、またな、シンジ。」

「じゃあな、シンジ。」

「うん、また明日。」


そう言って、家のあるマンションとは全く違う方角へと歩き出すシンジ。


「なんやアイツ、どこ行くつもりやろか?」

「まあなんかネルフの用事かなんかだろ、行こうぜトウジ。」

「あ、ああ。」


長くなった影を背負って歩くシンジを後ろに、二人はゲーセンへと歩き出した。





しばらく後、ネルフ付属病院の受付に、シンジの姿を見出すことが出来る。


「すいません、あの・・・?」

「はい?」

「綾波 レイ、って言う患者が入院しているハズなんですけど・・・」

「面会ですか?」

「はい、そうです。」

「面会は5時までですよ。」


シンジが時計を見ると、すでに4時を僅かに過ぎていた。


「303号室ですよ。」

「はあ、ありがとうございます。」


(303、って事は3階、だよな)


受付の右奥手に見えるエレベーターに乗り込み、3階を押す。

エレベーターを降りて、目指す303号室へと向かう。

手には、いつの間にか持っていたクレジットカードを弄んでいた。



「ここ、か。」


病室の扉には、名札がつけられていた。

綾波 レイ。

ここ以外であるはずもない。

だが、なぜかその前で彼はしばらく立ち止まるばかりで、ノックすらしないままだった。


そんな彼の横を、看護婦が物問いたげな目つきで歩み去ってゆく。


ようやくに決心したのか、彼はノックした。


短く2回。


「はい。」


短い返答。


「碇、シンジだけど・・・。」


だが、扉の向こうから、沈黙しか帰ってこない。


「入るよ、いい。」


シンジは扉を開けた。




入るなり、シンジはその病室のあまりの白さに、目が眩みそうになった。

そう、自分が初めて使徒と戦って、その後目を覚ました場所のように、白い。

まるで、ナニもなかった。

レイですら、その白い部屋にとけ込んでいるかのように白かった。

その白い世界の中で、彼女は本を開いていた。


「あ、目、醒めたんだ。」


返事をもらっているのに、いまさら目が覚めたなど無いとは思ったのだが、なぜか話が続かないので、こればかりはしょうがない。


「ええ。なに。」


相変わらず、レイの返答は短い。

視線は、本の上に置かれたまま。


「これ、さ、前に渡そうと思ったんだけど、ほら、カード無いと、何もできないからさ、って言うか、ホントは使徒の前に渡そうと思ったんだけど、いろいろあってさ、綾波も入院してたから、渡せなかったんだけど、起きれるようになったって聞いたから、でもって、今日持ってきたんだけど・・・」


うまく話を切ることが出来ない。


「ここに、おいとくよ。」


横のデスクに、置く。


「そう。」


レイは、視線をカードに向けようともせず、相も変わらず本を読み続けている。

この期に及んで、シンジは話題もなくなってしまった。

とりあえず、何か話題を作らなきゃ、と思い、本に目を向ける。


「本、好きなんだね。」

「ええ。」

「何、読んでるの?」

「これ。」

「面白いの?」

「ええ。」


だが、会話が続かない。

シンジは、もはや呼吸が出来ないような苦しみを憶え始めていたが、ふと、あることを思い出した。

それは、彼が初めて使徒と対面し、入院したときのこと。

そう、彼の父親のことだった。


「あの・・・さ、聞いて、いいかな。」

「ええ。」

「僕が初めて入院したとき、夜中に、父さんと話してたよね。どうして、あんな時間に、父さんと会っていたの?」


初めてレイは、本から視線をあげて、シンジと目を合わせた。


「お父さんのこと、きらい?」


「え!?」


予測もしなかった返答だった。

いきなり、そうくるとは思っていなかったのだ。

まあ、普通はそうだろうが。



シンジは、いきなりの質問で、とまどった。

だが、瞬間的に、答えていた。


「きらいだ、あんな父親。」


自分を幼い頃捨てた父親。


いきなり呼びつけておいて、巨大ロボットに乗せる父親。


同じところにいるのに、生活は共にしようとはしない父親。


なのに、なぜか目の前の少女には、夜中にまで会いに行こうとする父親。


好きか嫌いか、という問題なら、シンジは嫌いだった。

間違いなく、嫌いだった。

いや、本当は好きなのかもしれない。

だが、裏切られたと感じる彼の心は、なぜか、父親を嫌っていた。




「そう。」


レイは素っ気なく、答える。

シンジを見ようともせず。


「きらいだ。」


ただ、それだけ。

だが、シンジはもう一回繰り返した。



だが、レイはシンジに目をくれることなく、言った。


「じゃ、私もあなたが嫌い。」

「え?」


シンジは伏せていた目を、レイに向けた。

だが、レイはもはや何も語らぬ。



夕日が、白い病室を、赤く染めていった。

だが、二人は身じろぎもせず、ただそこにいた。

レイが本のページをめくる音だけが、響いていた。

寂しく。

レイの瞳は、赤くシンジを拒絶するばかりで、シンジはもはや病室には居ることが出来なくなっていた。


「じゃ、また。」



だが、レイの唇はもはや、何も言葉を紡ぐことはなかった。





その夜、あれから寝てしまい、すっかり酔いの醒めたミサトがネルフから帰ってくると、シンジはキッチンに向かって相変わらず食事を作っていた。


「ただいま〜。」

「あ、お帰りなさい。」

「おなかすいた〜、夕飯な〜に?」

「簡単に、カレーにしました。」


ミサトは着替えるため、自室に向かう。

着替えて食卓に着くと、すでにテーブルの上にはサラダや漬け物などが並び、後はカレーを待つのみである。


「じゃあ、食事にしましょう。」

「はい」


シンジがカレーをよそう。

ミサトは自分の裏にある、ビール専用冷蔵庫を開けて、中からビールをとりだし、おもむろに栓を抜く。


「ぷはー、じゃ食べましょ。いただきま〜す。」

「いただきます。」


ただビールを飲み続けるミサトとは違い、シンジは礼儀よく手を合わせる。


「シンちゃ〜ん、今日はレイのところ、行った?」

「え、ええ。」

「どうだった?」

「いや、別にカードを渡しただけですよ。」


ミサトはカレーをつまみにして、ビールを飲み続ける。

こんな奴、まずいないだろう。


「あらあ〜、二人きりだったんでしょ〜?」

「そ、そんな、別になんでもないですよ、。」


シンジはすこしうろたえる。

というより、嫌いと言われたことがまだ頭のどこかに引っかかっているのかもしれない。


「いいわね〜、夕日が射し込む病室で、ふたりっきり。これで何もない、って方がおかしいわよ〜ん」

「そそそそんなことはないですよ。」


思いっきりあわてふためくシンジ。


「何かあったんでしょ〜。ま・さ・か、押し倒しちゃったとか?」


拍子に思いっきりカレーをのどに詰まらせ、むせぶ。


「げほげほっ、おえ〜、そんなこと、あるわけ無いじゃないですか!!」

「って、その割には、ずいぶんなあわてようじゃないの?」

「何もないですよ、ミサトさんが期待するようなことは。」

「あら〜そうなのぉ〜?」


口調とは裏腹に、ちっとも残念そうではないミサト。


「そうそう、それより、明日なんだけど、学校早退して欲しいんだけど・・・」

「え、どうしてですか?」


そこは中学生、やはり堂々と早退できるのが嬉しいシンジは、思わず身を乗り出す。


「筑波にアレ、返しに行くんだけど、アレを運ぶの、エヴァしかできないし、後は所長さんとも約束しちゃったしね〜、午前の授業終わったら、迎えの車よこすから、早退して。」

「はい。」

「あ、おかわりちょーだい!!」

「はい。」


カレーをよそいに台所へと行くシンジの背中。


(何か、病院であったのかしら・・・)


シンジの目の前では、決して見せない表情ですこしだけ考えると、また元の表情に戻る。

そして、ミサトはビールの栓をまた開けた。






「あ〜あ、今頃葛城は家でビールでもかっくらってんだろうな〜、俺はこんな面倒な作業を引き受けちゃったしな〜、まあ、これも給料のウチか・・・」


そう呟くと、男はなにやら暗い空間で、ごそごそやり始めた。


「おっと、この下か・・・さて、行くか・・・」


なにやら腰から道具を出すと、彼の足下をいじり始める。

そして、穴があいた。

そこからは、禿げた頭が上からよく見えた。

男は足下の穴から飛び降りた。


禿げ頭、それはもちろん、戦自研の所長である。

目の前にいきなり現れた男を見て、さすがにビビった。


「な、なんだね君は、ガードを呼ぶぞ。」


だが、男は自信ありげな視線を背けない。


所長は手元のインターコムのスイッチを押す。

だが、何回押しても、何も反応しない。

無駄と分かると、所長はむしろ落ち着き払って、若い男に尋ねた。


「そうか、すでに手配済み、と言うことか・・・で、私に何か用かね。」

「ええ、それは、僕の彼女に手を出した、その償いをしていただこうと思いましてね。」


さすがに所長はびっくりした。

ここ最近、別に若い女性と、そうなった記憶がないからである。


「それは何かの間違いじゃないかね?私はここ5年、妻とも・・・」

「そう言うことを言ってるのではありません、物の例えですよ。」


男はポケットから赤ラークを一本取り出すと、火をつけた。


「ほう、ラークか、趣味が合うな。」


所長も、胸ポケットから赤ラークを取り出す。


「私の想像に間違いなければ、これが末期の水ならぬ、タバコというわけだ、君の年期の入ったジッポで火をつけてもらえんかね。」

「ええ。」


その返答が、所長の言葉の全てを肯定しているのか、それとも一部を肯定しているだけなのか、分からなかったが、それは所長にとってはどうでもいいことだった。

肺に深々と煙を送り、ゆっくりと吐き出す。

紫煙がゆらゆらと、空調と戯れるその様を見ながら、所長は問う。


「私を殺しに来たのかね。」

「ええ、まあそう言うことです。」

「君はどこの者だ?まあ、戦自研の所長なんて言うのは、いろんなところから恨みを買う立場だろうし、秘密を守らなきゃいけない立場でもある。

だから、恨みを晴らしに来た、とも思えるし、口封じだとも、とれるな。まあ、おそらく、あるところだろうが・・・」

「ほう、私がどこから来たかおわかりで・・・」

「まあ、この部屋には盗聴器のみならず、どうやら電波発信式ではない盗撮カメラがあった、ということだろうな。」

「ええ、よくおわかりで・・・」

「なおかつ、この部屋に最近来た女性と言えば、まあある組織から来たとしか取れんだろう。」

「まあ、あなたのご想像通り、と言っておきましょう。」


灰を手元の灰皿に落とす。


若い男は、腰から物騒な物を取り出した。


「では、よろしいですな。いまさらどうしようと、無駄なことくらい、おわかりだとは思いますが・・・」

「ああ、だが、これ一本くらいはゆっくり吸わせて欲しいな。」

「結構です、あなたみたいな人は、なかなかいないですよ。」


やがて、葉も尽き、灰皿でねじり消す。


「痛くないように、頼むよ。」

「ええ。」



のち、銃声が一発だけ、所長室から響いた。





翌朝の朝刊、社会面には、小さく記事が載っていた。

「戦自研の所長、行方不明!!」

だが、その小さな記事が、朝の時間のないミサトやシンジの目に留まることはなかった。



午後、シンジが学校を早退し、ネルフに向かうと、すでにミサトは空輸の体制を整え、シンジを待っていた。


「では、行きましょうか。」

「はい」


さっそく、またもや、戦自研のある筑波へと、ミサトとシンジは向かった。




ほぼ同時刻、ネルフ本部、司令室には、ゲンドウと冬月、そしてリツコがいた。


「葛城一尉が、筑波へと向かったようだね。」


冬月がお茶をすすりながら、呟く。


「ああ。」

「新聞を読まなかったようだね。」

「ミサトは、新聞なんか滅多に読みませんよ。」

「それはいい。それより、エヴァ初号機は、どうなっている。」

「あと、1週間いただければ、どうにかなりますわ。」

「ふむ、レイの方は。」

「レイは、もう少し時間が必要です。」

「そうか。」

「それより、司令、実は、サードが・・・」

「知っている。私とレイが夜中話しているのを見た、と言うんだろう。」

「はい。」


そのときのリツコの目は、何か、くぐもった響きがあった。


「それはいい。」

「はい。」


リツコは、サングラスの奥に光るゲンドウの瞳の、奥底にある物をまだ知らない。

ゲンドウは、身じろぎひとつせず、リツコを見据えている。


「それよりも、セカンドが来週頭にも着くそうだ。」

「はい、聞いてます。」

「一緒に、ドイツから、あの男が来る。」

「ええ、というか、昨夜の事件は彼の仕業ではないですの?」

「よけいな詮索はいい。あの男を、よろしく頼む。」

「はい、分かっております。」

「一緒に、アレがつくはずだ、そちらの研究も頼む。」

「はい。」


ゲンドウが黙り込むと、室内は、冬月がお茶をすする音だけが響いた。

ずず。




「ええええ!!!!ぬわんですってぇぇぇぇ!?」

「はい、昨夜ですが、行方不明に・・・。というか、新聞にも出てましたけど・・・」

「読んでないわよ!!」

「はあ。」


戦自研の入り口でガードマンと口論を繰り広げるその女こそ、ミサトその人である。

もちろん、この時刻まで、そんな情報いっさい耳に入っておらず、無駄足を踏んだわけだ。


「こんな事だったら、日向君あたりに荷電粒子砲返させに来るんだった・・・。」


面倒なことをした物である。

返すのに、作戦部長自ら出向くことはなかったのだが、それは、やはり先日借りに来たときのことが気にはなっていたのだ。


(というより、タイミング、よすぎるわ・・・。)


あまりにそのタイミングの良さが、彼女の心には引っかかる物があった。

誘拐、にしても、彼女の情報網にひっかから無いわけはない。

警察の情報など、ネルフの特別権限を用いれば、なんのことはないのだ。

だが、調べてみれば、警察にはそういう情報はない。

まさに、行方しれずになってしまっているのである。



何か、喉に小骨が刺さっているような気持ちながら、彼女は戦自研の入り口を去っていった。


(何か、おかしいわ・・・タイミング良すぎるし、私が今日ここに来ると言うことを知ることが出来る人間は・・・ネルフの中ではいくらでもいる、それに内部スパイがいるという可能性も・・・考えたくはないけど、あり得るわ・・・)


だが、彼女は一番考えたくはないことから、あえて自ら考えを逸らしていた。

一番、これまでの彼女の身辺と、経緯を考えれば、それがネルフの仕業であると言うことは、簡単に推察していたが、その考えを、ミサトは自ら、封印していた。



「帰りましょ。ピクニックは、これでおしまい。」


ミサトは、空輸機に帰るなり、シンジにそういうと、帰るようパイロットに指示を出した。


「どうしたんですか?」

「この前会った所長がね、行方しれずなんですって。」

「ええ!?」

「まあ、しょうがないわ、とりあえず、返すことは出来たし、まあこれで帰りましょ。」


そういうと、席について、腕を組んで考えに没頭し始める。


やはり、彼女が知ってはまずいことが、ネルフにはある。

所長の口が封じられたことで、なおさらそれがハッキリした、と言える。

それも、おそらく、彼女の親友である、赤木 リツコが、ネルフに来るきっかけとなった、ある陰謀に関わる、何かを所長は知っていたのだ。

そう、彼女がまだ戦自研にいた頃、そして、彼女がネルフへと来るきっかけとなった、ある事件ではかの所長は一旦どういう役割だったのだろうか。


だが、それを知る前に、失踪した。

もしかすれば・・・もうこの世の住人ではない可能性すらある。

いや、その方が確率は高いだろう。

そして、その死を知ることが出来るのは、ネルフでもおそらく最高位の人間のみ・・・司令や副司令のみだろう。

そうなれば、自ずから、今回の失踪を命じた、もしくは事後承諾にせよ、知っているのは、その二人、と言うことになる。


しかし、彼女の権限では、調べることが出来るのは・・・そうだ!!

諜報部の人間の動向を調べればいいはずだ。

そこから、何かを知ることが出来るかもしれぬ。


ミサトはそう思いつくと、いてもたっても居られなくなり、早くネルフへと戻りたくなった。

だが、今は空輸機上。

どうすることも出来ず、ただいらつくミサトを、シンジは不思議そうな目で見ていた。





ネルフへと戻ったミサトは、まず作戦部のコンピューターにかじりつき、自分のアクセス権で知る限りの情報を仕入れはじめた。

だが、結果として・・・昨日の時点で、諜報部の人間で、日本にいる人間全てを確認したが、筑波方面に行っていたり、戦時研関係で動向が不明確な物は居なかった。

そう、いくら調べても、諜報部と、戦自研を結ぶ線は見えなかった。


「はあ〜、いい思いつきだと思ったんだけどな〜。やっぱウチじゃなかったのかな〜。」


そう呟くと、ミサトは思いっきり、背もたれにのしかかり、背伸びをした。

次の瞬間。

背もたれは普段からの主人の力業に耐えきれなくなったのか、背もたれが吹っ飛び、ミサトは思いっきり後頭部を打ち付けるハメになってしまった。


「いった・・・・・」


やむを得ず、彼女はネルフの医務室へと、コブをさすりながら行くハメとなってしまった。





「はい、加持です・・・司令ですか。

今回の奴は、結構葛城も目つけてましたね。一日違い、でしたからね。まあ、これで彼女がいくら知る限りのこと調べても、俺の口から出ない限り、大丈夫ですがね。

え?ええ。セカンドは今のところ、たまに癇癪起こしますが、まあ元気いっぱい、と言ったところでしょう。

そうですね、航海は順調ですよ、何もない、優雅な船旅、って言うところですかね。これがもうちょっと、綺麗な豪華客船だと、もっと素敵な船旅だったんですけどね。

さすがにむさ苦しい男ばっかだし、え?司令がそういう冗談を言うお人だとは思いませんでしたよ、アスカは14ですからねぇ、妹みたいなもんですって。

はあ、じゃ、また、日本で。」


無線を切ると、また、ラークを取り出して、愛用のジッポで火をつける。

そして、ネクタイをゆるめながら呟く。


「司令、全てがあなたの思うままに動いていると思ったら、大火傷しますよ。」






その翌日。

エヴァは両機とも、未だ修理中だが、パイロットの訓練は再開されており、負傷しているレイはともかく、元気なシンジを休ませるわけには行かず、とりあえず実験用プラグでの訓練と、講義が始められた。


ようやく訓練が終わり、帰途につくシンジの背中から、声がかかった。


「おっ、シンジ君、今帰りかい?」


後を振り向くと、シゲルが、一人で歩いてくる。


「あ、そうですけど・・・。」

「よかったら、そこまで一緒に行かないか。」

「ええ、いいですよ。」


二人は肩を並べて歩き始めた。


「そうだ、前から言ってたけど、今度の日曜、よかったら、うちに遊びに来ないか?」

「え?」

「せっかくだから、ギターでも持ってさ、ウチに来いよ。ギターデュオでセッションでもどうだい?」

「ええ、でも、いいんですか?」

「最近やってなくてね、相手がいないからつまんないんだけど、シンジ君はジャズギターやってる、って言うし、どうかな?」

「はい。」


シゲルは、ポケットからメールボロを取り出すと、火を付け、ゆったりと吸い始めた。


「ジャズはいいよな・・・ネルフの人はみんな分かってくれなくて。」

「え?そうなんですか?」

「ああ。みんな聞かないか、邦楽ばっかだよ。最近流行の、モーニングム○コとか、スマッピュとかばっかだよ。」

「なんかセクシャルな名前ですね。」

「ああ、なんか邦楽を聞く奴は多いんだけど、ジャズを聴くやつがいなくてね。話にならないな、とか思ってたんだよな。」

「へぇ・・・。」


しばらく歩けば、そこはもう別れ道だった。


「じゃあ、また。」

「ええ。おやすみなさい。」








ミサトはあれから、自らの知りうる限り、諜報部のことを調べたものの、彼女の権限ではあまりに調べられないことは多かった。

実際に、司令や副司令の通信先等を調べることが出来れば文句はないが、彼女のアクセス権では拒否されるのは分かっているし、アクセスログを残してしまってはつまらない。

ミサトはしばらく、悶々とした日々を過ごさねばならないようだった。





そして、日曜日。

いちおう、ネルフにも日曜日は存在する。

パイロットの訓練は休みだし、常勤の勤務者も、交代で休みを取ることは出来る。

だが、むろんそれが出来ないものもいれば、休まないものもいるし、なんと言っても、仮にも24時間365日、使徒の動向を見張るための、そしてそれを撃退するための組織である以上、組織が休む、と言うことはあり得なかった。

だから、ネルフ自体は、そしてスーパーコンピューター・マギも、その例に漏れず、日曜日だというのに、働き続けていた。

それに加え、初号機・零号機の修理は急ピッチで進められているから、技術部第1課は、他のところからも人員を割いて、日夜問わず作業を進めている。




「全く、日曜だとはいえ、たまさかの休みすら、私はネルフにでなければならんとは。全く、碇の奴め、自分はのうのうと休みおって・・・」


発令所の一段高くなっている席に、冬月は座って、今日は普段よりも人数の少ない発令所内を見回していた。

いつもならゲンドウが座る席だが、今日はゲンドウは休みを取っている。

そのせいで、副司令たる彼は出勤を余儀なくされてしまったのだ。


だが、副司令と入っても、日曜は基本的には休みなのであり、彼は暇であった。

やむなく、手元から詰め将棋の本と、将棋盤、駒を取りだし、一人で打ち始めた。

ぱちーん。

人気の少ない発令所に、副司令の駒の音だけが響き渡る。


そんな彼の手元に、湯飲みが差し出された。


「ああ、ありがとう。」


冬月はおざなりに言うと、一口すすった。


「うまい。」


緑茶、しかも彼好みに、濃く入れてある。

冬月は、振り返ってみる。

振り返って、冬月は後悔した。

実のところ、彼はかわいい女子オペレーターが入れてくれたんじゃないかなぁ・・・とか思っていたのだが・・・そこには。




「どうですか、副司令。」




日向 マコトがいた。






その後、副司令は、手元のコンピューターで、マコトの給料を、5%カットしておいた。

そのカット分は、彼のお茶代に回る予定である。

彼の期待を裏切った代償は、大きかったようだ。







ネルフの技官・オペレーターの独身寮は、第3新東京市の一角にある。

そんじょそこらの企業の独身寮よりは、かなりいい物である。

ワンルームなどではなく、いちおう、二部屋+バストイレ別付きである。

その一室の前で、シンジは背中にギターをしょって、ノックしていた。


「青葉さーん、いますか?」


だが、返事はない。


こんこんこん。


「青葉さーん、碇です、碇シンジです。」


ノックを続けるが、なぜか返事はない。


(おかしいなぁ、部屋番も合ってるし、住所もここだし・・・間違ってないしな・・・どうしたんだろう。)




だが、5分経っても、なんの返事もないので、シンジは帰ろうとした、その瞬間。


「お、おはよう・・・」


ようやく扉を開けて、シゲルが顔を出した。




「昨夜、飲み過ぎちゃってね・・・ちょっと起きれなかったんだよ・・・それにしても、早いな、シンジ君は・・・」


そりゃそうだ。

普段から6時には起きているシンジと、生活の不規則なネルフのオペレーターをやっているシゲルでは、その健康度には天と地ほどの差があるだろう。

相も変わらず玄関に突っ立っているシンジを、シゲルは中へと招き入れた。



部屋の中は、それなりに綺麗に整頓されており、部屋の片隅には、CDやらSDATやらがどさっと積まれていた。

そして、壁にはポスター、なぜかパット・メセニーやら、マイルス・デイビスやら、ジャズの巨匠たちのポスターが所狭しと貼られていた。


シンジは思わず、隅に積まれたCDを取り上げて、眺めはじめた。


「これ、いいですね・・・。」

「ん、なんだい?」


シンジは、一枚のCDをつまんで、シゲルに見せた。


「ああ、これはチャーリー・クリスチャンのか・・・」


チャーリー・クリスチャンは、ジャズギターで初めてアドリブの概念を取り入れた人物である。


「これ、貸して下さいよ!」

「ああ、いいよ、今日よかったら何枚か持っていきなよ。」

「あ、ありがとうございます。」


シンジはCDやらSDATを選びはじめた。

シゲルは、キッチンへ向かい、自分とシンジのために、コーヒーを入れる準備を始めた。





ぱちーん。

冬月が差す駒の音だけが響く発令所内。

冬月は、すでに詰め将棋を5局解きおえ、6局目のようだ。


下では、今日は一人勤務のマコトが、モニターを監視するフリをして、雑誌を読みふけっている。

別段、異常が無いかだけを監視していればいいだけだから、暇なのだ。

むろん、そのこと自体で給料がカットされているわけではない。

単に、冬月の神経を逆撫でしたときだけ、だ。



そのモニターに、何か異常を知らせるウィンドウが開いた。

マコトはあわてて、内容を読みとる。


「副司令!」

「ああ?」


詰め将棋に熱中していた冬月は、楽しい詰め将棋を中断されてむっとした顔をしたが、それも一瞬で消し、すぐに普段の冷静な顔に戻った。


「なんだね」

「未確認生物が、ネルフの内部に進入した模様です。」

「生物?」

「はい、赤外線探査での体温の確認、及び、呼吸を確認しましたので・・・。」

「パターンは?」

「は・・・不明」

「不明?使徒では、無いのか?」

「使徒のように、青系統ではありません・・・ガ、今のところは何とも言えません。」

「マギは?」

「回答を保留しています。」


冬月はひとりごちた。


「これで、碇もこざるをえんな。」


そう呟いて置いて、


「警戒警報発令、及び第1種警戒態勢に移行、侵入者ありとの情報、全セクションに回せ、あと、そうだな・・・全警務員及び、直接戦闘部員は、武装・及び発砲を、まだ許可しない、以上だ。」

「は。」

「あと、ネルフ入り口を全て洗え。」

「私一人では・・・」

「休みのオペレーターで不足な人数だけ、本部に呼び給え。あと、司令もだ。」

「司令、もですか?」

「当然だ、君が、呼びたまえ。」

「は、はあ。」


マコトは、ゲンドウの個室に電話を掛ける。

ゲンドウは寝ていたようで、映話には出たが、画面はオフにしていた。


「なんだ。」

「は、未確認生物の侵入を確認しました。」

「今行く。」


そういうと、映話を切った。







「これなんか、どうだい?」


シゲルは、楽譜をぱらぱらとめくり、"Lazy Bird"のページを示した。


「あ、いいですね。これ、お願いしますよ。」

「ああ、いいよ。」


そういうと、シゲルはカウントをとり、一人ベースラインを弾きはじめた。

それに合わせて、シンジがメロディーを弾く。


二人のセッションは、なかなかのものである。

ギター同士でデュオというのは、なかなかいい物である。

シンジも、なかなか楽しくなってきたようだ。






冬月の裏からリフトがするすると上がってきた。


「碇、これは予定にはないんじゃないのか?」


ゲンドウはそれまで冬月が座っていた席に座ると、いつものポーズを取った。


「ああ、だが、備えは必要だ。今、どこら辺にいるのだ?」

「本部第2発令所付近で、先ほどから動いてません。」


すこし考えると、ゲンドウは次の命令を下した。


「オペレーター全員と、警務員全員呼び出せ、あと、課長以上もだ、加えて、エヴァのパイロットも召集しておけ。以上。」

「は。」


マコトは、指令を下して置いてから、もう一回モニターの画面を見直した。


「これ、使徒の反応とはすこし違うと思うんだけどな・・・」






シンジの携帯と、シゲルの携帯がなったのは、ほぼ同時である。


「「はい。」」


取って置いて、顔を見合わせた。


「使徒、ですか?」

「わからんが、呼び出しがかかった。行こうか、シンジ君。」

「はい。」


二人は、取るものもとりあえず、部屋から出ていこうとした。

すると、独身寮の他の部屋からも、呼び出しがかかったせいか、ぞろぞろとオペレーターやら、勤務者やら出てきて、皆口々に話しながら、急ぎ足にネルフへと向かいはじめた。




シゲルが発令所につく頃には、発令所内には、すでに勤務中だったマコトはもちろん、リツコとマヤまでがすでに席に着いていた。

シゲルは、そっとマヤに耳打ちする。


「どうなってるの?」

「どうやら、使徒かどうかは分かりませんが、なにやら第2発令所にいるらしいですよ・・・まだ、葛城一尉が着いていないから、突入もしてないんだって。」


そこへ、ミサトが現れた。


「どうなってるの?」


答えて、リツコ。


「第2発令所に、何かいるみたいなのよ、それで、使徒、かどうか分からないんだけど、ここは作戦部長さまにおいで願ったってわけ。」

「なんで、作戦部長を呼ぶのよ、それだったら、警務課長でしょ?」

「あなたが一番、何に喰われても、死にそうにないから、じゃない?」

「しっつれいねぇ〜!!」

「つまらない冗談よ。単に、警務課長が今実家に帰っているから、それでもって、保安課長以外で、保安課に指揮できるの、あなたくらいなもんでしょ?」

「ああ、そういう事ね・・・って、いったいどんくらいのことが分かってんの?」


そう言って、前面のモニターを見る。


「現在判明しているのが、まず生物であるらしきこと、そして、使徒、かどうかは分かりませんが、人間より小型で、よく動く、と言うことです。」

「なんか、動画とかでは実物を目視できないの?」

「それなんですが・・・第2発令所は、実は先日からモニターが壊れてまして・・・予備の発令所としての機能はあるんですが、何せ、内部のカメラやら、モニターやらが先日から何者かに破壊されたまま、使徒が来てしまって、今そちらには人員を割けなかったんですよ。」

「あらあ、そうなのお・・・。」


そう言って、ミサトはそとめには平静を保っていたが、内心冷や冷やしていた。

そう、第2発令所のモニター類を破壊したのは・・・他ならぬ、彼女なのだ。


「碇指令が、なぜかは知らないですけど、葛城一尉に指揮を執らせて、最初に突入させろ、というもので・・・」


(やっぱし、ばれていたのね・・・)


やむなく、ミサトは、突入の準備を始める。


「えっと、警務員10名は、第2発令所の扉前で待機していて。私も装備を調えてから、すぐ行くわ。」


そういうと、警務員室で、ライフルを借り受け、扉の前へ向かう。


そこには、警務員が10人、凛々しい顔で待っている。


「おはよう、準備はいい?」

「はい。」


警務員のリーダー格と思われる男が返事をする。


ミサトは、リツコに無線で連絡をする。


「生物は、今どこいらにいるかだけでも分からない?」

「ええ。」


無線の向こうから帰ってきた、頼りない返事。


(こうなりゃ、やけね。)


ミサトは先頭に立つと、後ろに続く警務員たちを振り返ることなく、言う。


「突入!!」


そう言って、ミサトは扉を蹴り開け、中に飛び込んで、そのまま伏せて、様子をうかがう。

モニター・・・オペレーター席・・・いない・・・あ!!


そう、彼女が先日座ってビールを飲んでいた、指令席に、その生物はいた。


「クエ!グエーー!!」


なにやら叫び声をあげると、またそこにあったらしき、ビールを飲み干す。


そして、指令席にぐたっと寄りかかり、また叫ぶ。


「グエーーー!!!」


ミサトの中で張りつめていた緊張は、一気にブチ切れてしまい、彼女はペンギンをむんずと捕まえると、息も上がらぬまま、発令所へと戻っていった。






「これは・・・ペンギンね。」


リツコは、眼鏡をかけ直すと、そう言う。


「使徒とかには関係ないの?」

「いえ、単なるペンギンよ、ちょっと違うけど。」

「へえ?」

「そうね、これは・・・温泉ペンギンね、最近発見されたばかりの新種だわ。」


コンピューターの画面には、2010年に発見、とある。


「そう、でも、どうしてここへ・・・?」


そう言うミサトの声を遮って、リツコはそのペンギンの羽の裏を示した。


「ほら、ここ見てごらんなさい。」


そう言われてミサトがのぞき込むと・・・そう、そこには酷いまでの注射の後やら、皮膚を剥がされた後やらが残っている。


「あ・・・。」


ミサトは絶句してしまった。


「おそらく、実験漬けだったのがいやで、逃げ出したんでしょうね。ペンギンは、そんじょそこらの人間よりも賢い、と言うしね。」



「ねえ、リツコ、このペンギンどうするのかしらね・・・」


ミサトは、檻の中で眠るペンギンを見る。


「そうね、おそらくその実験場へと、戻されることになるわね。」


リツコは、コーヒーを飲みながら答える。


「・・・・・・・・・あたし、引き取っちゃマズイかしらね・・・・・」

「ふふっ。」


リツコは、ミサトの目を見ずに、微笑んだ。


「何がおかしいのよお。」

「いえ、あなたならそう言うと思ってね。」

「どーして。」

「べつに。」


そう言うと、リツコはまた、コンピューターのキーボードを叩きはじめた。










その夜、シンジが夕飯の準備をしていると、そこへミサトが帰ってきた。


「おかえりなさーい。」

「ただいまー。」

「クエクエ!!!」


シンジはびっくりした。

誰か、来たのかと思ったのだ。

だが、ミサトの後から着いてくるその影は・・・。


「ペンギンですか?」

「ええ、今日の騒ぎの張本人。でもって、今日から、同居人になったから、よろしくねん☆」

「クエッ!!」


そう言うと、ペンギンは何回か跳ねた。


「ペンペン、って言う名前だから。」

「ペンペン、ですか・・・誰が付けたんですか?」

「あたし。」


自慢げに、ミサトは自分を指さした。

すると・・・

ペンペンは、シンジに向かって羽を伸ばした。


「何が、したいんでしょうか?」


ミサトは、ペンペンを見ると、シンジに微笑む。


「握手、って事じゃない。」


ペンペンは、ミサトの言葉を肯定するかのように、また数回跳ねた。


シンジは半信半疑ながらも、手を出した。

その手に重ねられる、ペンペンの羽。


シンジはすこし笑顔を浮かべると、ミサトに尋ねた。


「ペンギンの好物って、なんでしょうね?」


ミサトは、笑いながら、答える。


「ビール。」

「グエグエ」


ペンペンは、いつまでも跳ね続けていた。


(第8話に続く)



第8話へ行く




どうも、だいちゃんです。

第7話、お届けです。

LASデー23時45分に書き上げたんですが、全然LASじゃないっすね・・・あっはっは。

今回はまとまりのない話になってしまったような気がしないでもないですが・・・。


葛城家、第3の同居人、ペンペンの登場です。

こういう展開に、一回してみたかった・・・。

ただそれだけのことで、ペンペンはここまで登場が遅れたんですね。

JAの話は、カットしましたけど、JAの話自体は、全く消えたわけではないんで、時田ファン(っているのだろうか)もご期待下さい。


さて、次回の話ですが、あまりここで話すとつまらなくなりそうなんで、話しません。

ご期待下さい。


いつも様々な助言を下さいます、NASAさんや春日さん、ホントにありがとうございます。

そして、私めの駄文をいつも掲載して下さっているなしつぶさんには感謝の言葉もありません。

では、次回第8話で、お会いしましょう。


素晴らしい小説を書いて下さった作者にぜひ感想を!
感想は作者への感謝と次回作を生み出すエネルギーです。
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