二人の果て

−中篇−

書いた人 乾



「まったく、びっくりしちゃったよ」

シンジは何とか間に合ってほっと一息ついていた。

朝のショートホームルームの時間だが担任がまだ来ないので、

さっきの出来事についてしゃべっていた。

「大通りのさ、交差点を渡り終わったところで急に後ろから声掛けられて、いきなり学校はどこ!だもんね」

あんなの初めてとシンジ。

「レイちゃん、あそこ通ったの?大丈夫だった?」

ヒカリこと委員長、もとい委員長ことヒカリが心配する。

「うん。何とかね。シンちゃんに引っ張ってってもらったから。心配してくれてありがと。 そうそう、そのせいでその子にカップルかなんかと勘違いされちゃったみたい」

レイはあくまで明るく。

「レイちゃん。次はシンジのヤツに代わってこの私、相田ケンスケがエスコートいたします」

そういって恭しく礼をするケンスケ。

「あはは。ありがと。それじゃ、こんどの時にはよろしくね」

レイはケンスケの気遣いに目で感謝の意を送る。

「しかと承りました」

にこやかに笑ってまた礼をするケンスケ。

「で、どないなやつやったんや?」

トウジが話題を元に戻す。

「髪の毛と目の色からして外国人とのハーフかクォーターね。 背が高くてすらっとしてて、うらやましいくらいかわいかったわ。かわいいというより美人て言った方があってるかも。 ほんとスタイルいいしハーフとかって憧れちゃう」

ハーフで美人と聴いてケンスケが反応する。

「ハーフかあ。レイちゃんが褒めるくらいだし、被写体としては申し分なさそうだね」

どこから出したのかデジタルカメラをさっと構えながら言う。

「ケンスケくん。撮るならわたしたちを撮ってよ」

レイがヒカリを引き寄せてピースして見せる。

「見慣れているから新味に欠けるかなあ」

ケンスケが構えた手を下ろしながら言う。

「失礼ね。トップモデル二人を目の前にしてさ」

「あは、冗談だよ。ほらスーパーモデルのお二人さん、撮るからポーズとってよ」

レイがポーズをとるとヒカリも恥ずかしがりながらそれに習う。

「ん。ばっちり撮ったよ。プリントアウトでいい?それとも写真にする?」

「プリントアウトでいいわ。そだ、トウジくんにもあげるから部屋に飾ったら?」

撮れ具合を液晶で見せてもらいながらレイが言う。

「誰が好き好んでいいんちょの写真なんか部屋に飾るかい。飾るならそのハーフの女子みたいにもっとスタイル抜群な方がええなあ」

トウジは即座に断った。

「スタイル抜群でなくて悪かったわね、鈴原。」

かな〜り怒っているヒカリ。

「べ、別にいいんちょのスタイルが悪いとは言ってないで。そ、そや、その女、ハーフだか何や知らんけど、礼儀を知らんのはいかんなあ。 礼節を重んじるのが日本の心やさかい。なあレイさん」

トウジは立場が危うくなったと悟って急に話を振った。

「そうそう、日本の心はともかくとして、あれは人にものを尋ねる態度じゃないわね」

あの時は咄嗟のことで思考停止していたけど今思い返すと噴飯ものなんだからと、

レイがちょっと大げさに言う。

トウジは作戦が上手くいってヒカリが追求するのを止めたようなのでほっとしている。

「まあまあ、レイ。そんなに怒ることでもないよ。何かひどく急いでいたみたいだったからね。人間余裕がない時は礼儀とかにこだわっていられないと思うよ。それにちゃんとお礼も言ってくれたし」

レイが本当に怒っているわけではないと判っていながらも、シンジは一応宥めようとする。

「あ〜〜あ。やけに弁護するわね〜。ちょっとかわいい子だったからって、いや〜ね」

まったくお兄ちゃんたらとレイ。

「い、いや、別にそんなんじゃないよ」

こういうことになると必ずしどろもどろになるのがシンジの面白いところである。

「でさ、うちの学校を探していたってことは転校生だよな。うちのクラスに来たりして」

ケンスケが希望を述べる。

「え?あ、そう言われればそうかもしれない。そっか、あの子も遅刻しそうだから急いでたんだ」

言われないと気付かなかったのが不思議だ。シンジのボケに思わず一同額に手をやる。

みながやっとそのダメージから回復した頃。

「は〜〜い、みんなお待たせ〜」

のんきに間延びした声を出しながら担任である葛城ミサトが教室へ入ってきた。

もちろんとっくに一時限目は始まっている。で、一時限目の授業はミサト教諭の英語。

この曜日のショートホームルームに来ない確率は五分五分といったところ。

それでも、今日は遅刻時間のタイ記録だろう。

「遅くなってごめんね〜。でも、その分いいことがあるわよ。特に男子!」

ミサトはそういってから間を置く。

「よろこべ!我らが2年A組にとびきりかわいこちゃんの転校生がやってきたぞ!」

どよめく2-A。次の瞬間男子たちから歓声があがる。対照的に女子たちはしかめっ面。

反応に満足したのかうんうんと頷くミサト。しばらくそうさせておいた後に、

「はいはい。静かにして。」

そういってミサトは両手でばんばんと壇を叩く。

ぴたりと静まるクラス、とはいかず生徒たちは思い思いに騒ぎ続けている。

一向に静まらないクラスを見てミサトはある女子生徒にアイコンタクト。

無論のことその女子生徒とは我らが委員長洞木ヒカリ嬢である。

指令を受けたヒカリはミサトに力強く頷いて見せた後おもむろに立ち上がる。

「みんな!授業中なのよ静かにして!」

流石は委員長、効き目は十分。今度こそ静まるクラス。

「おっけ〜おっけ〜。それじゃあ、入ってきて惣流さん」

ミサトの声に導かれて開け放たれたままだったドアから颯爽と入ってきたのは、

果してシンジとレイが出会ったあの少女だった。

自分が姿を見せたとたんから復活した歓声の嵐に臆することもなく少女はミサトの元へ。

「それじゃ、かる〜く自己紹介お願いね」

「はい」

そう答えた少女は黒板に流れるような筆記体で名前を書いていく。

教室は何時の間にかシンと静まり返っている。

“Soryu Asuka Langray”と。

「はじめまして、惣流・アスカ・ラングレーです。よろしくお願いします」

非常に簡単ながらも、両手を後ろで組んでにっこり微笑みつつの自己紹介は効果テキメン。

早くもファンクラブ結成の呼びかけがちらほらと聞こえてくるほどだ。

ケンスケはこれこそ求めていた被写体だとばかりにデジタルカメラのシャッターを切りまくっている。

トウジはこの幸運を神に感謝していた。

ヒカリはまたぞろ騒がしくなったクラスをどう静めようか思案中である。

そしてシンジはというと、周りで起こっていることなどお構いなしに隣りを向いてレイとしゃべっていた。

「ねえ、レイ。考えたんだけどさ、やっぱり遊園地はまた今度にしない?試験も近づいて来ていることだし」

まだ諦めていないようである。

「試験なんてまだ1ヶ月以上先じゃない。シンちゃんてそんなに勉強好きだったっけ?」

「ぼくの中間試験の成績が結構まずかったの知ってるでしょ。ミサト先生にもしっかり勉強するようにってクギ刺されてるんだ。そうしないと夏休みは補修だぞって。」

とはいっても1ヶ月も前から試験勉強を始めるだろうか。おそらくしないだろう。

「シンちゃん...そんなにわたしと遊園地に行きたくないの?そうだよね...妹と遊園地に行ったって面白くないよね。アスカさんみたいな美人な人と行ったほうがいいに決まっているよね」

お決まりの泣き落としだ。シンジ以外から見ればバレバレもいいとこなのだが。

「そんなことないよ。前に行ったときだってとても楽しかったよ」

とことんレイに弱いシンジである。

「ホント?じゃあA10クラッシュ3回は乗んなきゃね」

A10クラッシュとは件のジェットコースターの名前である。

「ははっ、そうだね。楽しみだよ...」

乾いた笑いをしつつ、シンジもようやく諦めた。

心の中ではどうやってトウジやケンスケたちを道連れにできるだろうかと考えて...

と、シンジは先程のレイのセリフに聞き覚えのない名前があったことを思い出した。

「ところで、アスカさんって誰?」

レイが答えようとした瞬間。

「シンジ君!シンジ君ったら」

ミサトが呼んでいることに気付いたシンジは慌てて立ち上がる。

「あ、はい、すみません、全然わかりません」

炸裂するシンジのボケがクラスに笑いの渦を巻き起こす。

ミサトも笑いを噛み殺しつつ、

「違うわよ。惣流さんの席、シンジ君の隣りにしたいんだけどって話よ」

「えっ、惣流さんって誰ですか?」

マジで人の話を聞いていないシンジに周りからおいおいとの声。

「またレイちゃんとしゃべってて人の話聞いてなかったわね、ったく。 まあ、いいわ。この子が噂の転校生、惣流・アスカ・ラングレーさんよ」

あらためてアスカを紹介するミサト。

やっとアスカに気付いたシンジ。

「あっ、君は今朝の迷子の子。やっぱり転校生だったんだね」

今度は主に女子からクスクスと笑い声。

迷子の子などと言われては、アスカの颯爽とクラスデビューの計画が台無しだ。

シンジにビシッと指を突きつけるアスカ。

「あんた!人を迷子の迷子の子猫ちゃんみたいに言わないでよね。 あの時あんたに教えてもらわなくてもちゃんと辿り着けたんだから」

いや、多分無理だったんじゃないかな。

そんなシンジの考えがわかったアスカ。

「あ、信じてないわね。あたし記憶力抜群なんだから、一度通った道ならちょちょいのちょいでスイスイよ」

記憶力と方向感覚はまったく別物だと思うが。

ちなみに道に迷う人間は停車中の自動車のような動くものを目印にしてしまうとか。

「大体あんたがいちゃいちゃしてて、なかなか教えてくれないから遅刻しちゃったんじゃない」

責任転嫁もはなはだしい。それにさっきのセリフと矛盾しているようだが...

「別にいちゃいちゃしてたわけじゃないよ。ちょっとレイが...」

シンジはセリフを言い終えることができなかった。

「さっきだってあたしのこと思いっきり無視して二人でくっちゃっべてくれてたわね」

何時の間にかシンジの目の前まで詰め寄っているアスカ。

「ご、ごめん。気が付かなかっただけで無視したわけじゃないんだけど...」

何とか弁明するシンジ。けれどアスカにとってみればどちらも同じこと。

「ラブラブなお二人さんには、はるばるドイツからやってきた帰国子女のあたしなんか眼中にないってことなんでしょ。はぁ、まいったまいった。やんなっちゃうわね」

いまだ二人が恋人同士だと勘違い中のアスカ。

「惣流さんでしたっけ。あなたのせいで授業が始まらないので早く席に座ってもらえませんか」

丁寧かつ非常に棘のある言い方でちくりとアスカを刺したのはレイだ。

むっとするアスカ。しかしレイは反撃の糸口を与えない。

「そもそも迷ったあなたへ親切に道を教えてあげたのだから、まずは感謝の言葉があってしかるべきだと思うわ。シンちゃんが迷子の子と言ったことがあなたのプライドを傷つけてしまったとしても、理屈の合わない言い掛かりでもって一方的にシンちゃんを攻めるのは子供っぽいやり方だと自分でも思わないのかしら?」

レイの舌鋒にアスカは言いかけた言葉をぐっと飲み込んでしまう。

「とにかく言いたいことがあるなら、今は授業中なのだから昼休みなり放課後なりにして。その時にいくらでも相手になるわ」

何時の間にか自分が相手をすることになっているレイ。

「いいわ。あんたがそこまで言うなら。昼休みに屋上で待ってなさい、きっちりケリをつけてやるわ!」

相手がすりかわっていても関係ないのかどうなのか知らないがレイに対決を申し込むアスカ。

にわかに盛りあがってきた状況を楽しんでいたミサトだが授業時間が残り少なくなっていることに気付き、一応職務のまっとうにかかった。

「はいはい。それじゃ今はそこまでにしてあとは三人で解決しなさい。それじゃ授業始めるわよ」

―つづく






アトガキ

結局中篇になってしまいました。我ながら限りなく展開の遅い話です。

この中篇の作中では30分ほどの時間しか進んでいません。

さて、これからの展開ですが、このままいくと“何も起きない話”になりそうです。

実際には、書いてみないと分からないというのが本音ですが。

例えば、レイとアスカが屋上で対決するなんて当初の予定ではなかったんですよね。

シンジとアスカが屋上でしみじみ語り合うはずだったのに...

考えていた思い通りには行かない。そこが面白いといえるのかもしれません。

単に下手という話もありますが...



次作予告:

最近、こんなことを考えてしまう。ぼくはあの頃、何になれるはずだったのだろうか。

あの来なかった夏の日に...

かつてチルドレンだった全てのヒトに送る一作。「来なかった夏の日」


...なんて。なんとも大げさですね(^^;

全然大したものじゃありません。夏だから(なのに?)ちょっとセンチメンタルな短編です。

それでは。

1998.08.11 乾


 なしつぶです

 レイちゃんいういう(^^;;;

子供っぽいとかまで言ってるし。
アスカに対してそこまでハッキリ言っちゃってどうなっちゃうんでしょう。
ケリをつけるってレイの方が明らかに正論なんだから,
ここはシンジを攻撃してなし崩し的にやるしかないところかな(^^)

素晴らしい小説を書いて下さった作者にぜひ感想を!
感想は作者への感謝と次回作を生み出すエネルギーです。 



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