Evangelion Fragments

Fragments I サイカイ

Scene 1

−ここも夏だ。

片手をまぶたの上にかざし、目を日差しの眩しさから守りながら辺りを見渡した。

それでも目が自然と細まってしまう。余りに強い日の光。そしてひどく蝉が鳴いている。

これほど大きな音でも大して気にならないのは、生まれた時からいつも耳にしているからかな。

手に持つスポーツバッグがやけに軽い。

−誰も居ないや。

待ち合わせの場所には誰もいない。

そういえば、列車を降りてこのかたヒト一人遭っていないじゃないか。

もしかしたらこの街に人間は自分一人だけ、なんてね。

勿論そんな事はないのは分かってる。少なくとも僕に手紙を寄越した人物はここにいる筈なのだから。

蝉が気になるわけじゃないけどSDATを聴くことにした。

何もしないでいると余計なことを考えそうだから。独りの時はいつもそうしている。

今入っているカセットはセカンドインパクト前のロックバンドの曲。数少ないクラシック以外の一つ。

取り出す時にポケットに入れておいた写真に気が付いた。

葛城ミサト。待ち合わせの人。僕を迎えに来る人。僕を呼んだ人の部下。

見た感じは美人だ。いつも明るく笑っているお姉さんてとこ。

ココに注目!なんて書き込み、右下には口紅の跡。唇拓とでもいえばいいのかな。

こういうのは余り好きじゃない。

それにしても何時来るんだろう。もう20分は過ぎてる。

ん?

後ろに視線を感じて振り返った。

−レイ!?

向こうの道路の真ん中に立っているのは確かにそうだ。

間違えるはずがないじゃないか、彼女は僕のたった一人の肉親。父さんを除いてだけど。

蒼い髪と紅い瞳を持つ女の子。

そして1年前急にいなくなった...ぼくに何か訴えている!

...タスケテ?助けて!?

−レイ! そこで待ってて!

僕が駆け出そうとした瞬間。

頭上で空を切り裂くような轟音。思わず仰ぎ見る。

巡行ミサイル!?

何故そんなものが街の上空を!?

それも1発ではない。立て続けに4発。いや5発も。

何なんだ一体。 戦争が起きた? 僕が知らない間に?

着いたそうそうろくな目に会わない。これというのも葛城さんが遅れるからだ。

後で文句言わなくちゃ...

ってそうじゃない。どうも混乱気味みたい。

文句を言わなくちゃいけないのは父さんにだ。違う違う、じゃなくて。

問題はミサイル。ミサイルが何故飛んでいるかが問題だろう。散乱していた意識を集中させる。

と、紅い閃光、爆音、突風。とっさに腕を交差させ顔を守る。

−くっ。着弾したんだ。でも、どこに?何に?

ミサイルによって生じた煙がゆっくりと消えていき、それの姿がだんだんと鮮明になっていく。

そして僕はこの街に来てしまったことを少し後悔した...

 


 

Scene 2

−まずいわね。

思わず舌打ちしてしまう。我ながらはしたないとは思う。

妙齢の美女のすることじゃない。

でも、こんな状況なのだから舌打ちの一つや二つしてもばちは当たるまい。

巡行ミサイルじゃ足止めにもならないし、レイだってどれだけ持つか分からない。

起動限界値よりは高いとはいえ実戦に耐えられるシンクロ率ではないのだから。

それ以前に彼女には実戦経験がない。

それをいえばネルフには使徒のデータが絶対的に不足していて、戦略を立てるどころじゃない。

リツコは色々と知っていそうなのに何も教えてくれようとはしないし。

それに、パイロットの人数も足りない。

全く、本当にないないづくしじゃないの、ネルフは。

こんなで人類最後の砦とはね。見た目は堅牢、叩けば破れる張りぼての砦だわ。

大体レイがやられたら誰があれを倒すのかしら。...やっぱりシンジ君ね。

こんな時期にわざわざここ第三新東京市に呼ばれ、作戦部長たるわたしがわざわざ迎えに行くのだから。

シンジ君、戦闘に巻き込まれてたりしないでね。遅れたのはまずかったわ。今行くからもうちょっと頑張って。

そしてルノーよ青き弾丸となれとばかりにアクセルを踏み抜く。

 


 

Scene 3

−レイ、ちょっとふらついているようだけど大丈夫?

シンクログラフの乱れが激しい。やはりレイでは無理ね。

これ以上精神的負担が増えればエヴァの停止すらありえる。

一年間の訓練も実戦には役に立たないようね。

今あの子に怪我をさせるわけにはいかない。まだ先は長いのだから。

早くシンジ君と交代させなければ。

たく。ミサトは一体何をやっているのよ。

この緊急事態に及んでまた道に迷っているわけじゃないでしょうね。

いやありえるミサトなら。まったく頭が痛いわ。

−はい、大丈夫です。

大丈夫って、モニタを見ればあなたの状態は全てわかるのよ。

心拍から脳波から恐怖に怯える様が手に取るように。

それでも。

シンジ君が来るまでは頑張ってもらわないと。

−しっかりして、目標が近いわ。

私とあろうものが少し感情的になっている。

あくまで冷静に。いつでも最良の選択ができるように。

−大丈夫です。ちゃんとやれます。作戦を続行します。

また嘘をついて。声が震えているわ。

でも退避命令はまだ出せないのよ。

ミサト早く!

レイ、私を恨むかしら。それでもいいわ。一箇所に集まりすぎた感情は危険だから。

零号機と使徒との距離が縮んでいく。

双方相手を見据え歩み寄る。戦国時代一対一の闘いをした武士はこんな感じだったのかしら。

パレットガンの射程範囲内に入ったわ。零号機は動かない。

まずいわね。このままではやられに行くようなもの。

っ!!使徒が跳んだ!?

零号機が動かないのを見て一気に間合いを詰めようとしてるのね。

−レイ、なにやってるの!?使徒は目の前よ!!

使徒が目の前に跳んできても零号機は俯き加減にただただ前に歩きつづけるだけ。

使徒はその場で待っている。

罪人が処刑場に向かう図のよう。最悪に滑稽な光景ね...

!?使徒が片手を挙げ掌を零号機に向けた。何をする気?

紅い光。エネルギーが集約されている。

−レイ、避けてっ!!

ああ。それでも零号機は動かない。

十四歳の子供を戦地に追いやる私たちこそ罪人に違いない。

けれども今は神から許しを得る暇も断罪を受ける時間もないわ。

全てが終わってから甘んじて受ける。

もっとも神は既に死んでしまっているらしいけれど。

−巡航ミサイルで迎撃して

無駄弾でも多少の効果はあるはず。

 


 

Scene 4

−レイ、ちょっとふらついているようだけど大丈夫?

やけに遠くから赤木博士の声がする。

−はい、大丈夫です。

答える自分。その声もまるでラジオから流れたように遠くよそよそしい。

実戦。1年間訓練を積み重ねてきて、きっとやれる大丈夫と思っていたのに。

わたしが頑張らなきゃいけないの。たった一人でも。

わたしは勝ちつづけなければいけないの。負けることはできない。それなのに。

−しっかりして、目標が近いわ。

心配そうな声。

−大丈夫です。ちゃんとやれます。作戦を続行します。

でも、声が震えてる。まだ敵が見えているわけでもない。

体が恐怖の漆黒の衣にすっぽりと覆われている。

それでもエヴァの歩みは止まらないでいる。

わたしは着実に近づいている。

一体何に?死、に?

だめ、違う。

わたしは誓ったのだから。負けないって。だから...

−レイ、なにやってるの!?使徒は目の前よ!!

俯いていた顔をハッと上げる。黒い人型の物体が見えた。

あれが、天使の名を冠した人類の敵、使徒。

わたしは今それと対峙している。間に遮るものは何もない。

だめっ。やっぱり。

体が鉄でできているように重く、硬い。

両腕で自分を抱きしめている。

しっかりと強く。

ごめんなさい。

結局弱虫なのはわたしの方。

−レイ、避けてっ!!

使徒が手を翳している。

赤い光が生まれていく。

すべてがとてもゆっくりに見える。

でも、わたしは指一本動かせない...

もうだめっ。目が熱い。身体が冷たい。

お願い、助けて。おにいちゃん、助けて...

 


 

Scene 5

煙幕が晴れ現れたのはなんと二体の巨人。

ミサイルを受けていた方は一応人型だけど頭がなく首にあたる位置に仮面のような顔?をつけている。

はっきり言って不気味極まりない。

対する一方はいわゆる巨大ロボット。アニメや戦隊モノに出てくるアレ。

はっきり言って非常識極まりない。

ま、非常識加減ではどっちもどっちか。

ロボットの方は攻撃を受けたらしくダウンしている。ミサイルと同時に見えた閃光が怪物の攻撃だったのか?

ん?まさか!!

あのロボットにレイが乗っている!?

いやまさか。

でも。確かにレイはあそこにいる!

くそっ。父さんは一体何を考えてるんだ!

自分の娘をあんなロボットに乗せてあんな怪物と戦わせようなんてまともじゃない!

ミサイルが全然効かないような相手にレイがどうやって勝てというんだ。

怪我くらいならまだしも死んじゃうかもしれないじゃないか!

きょうびマンガやアニメの主人公だって死ぬ時代なんだから。

なんとかならないのか?思わず地団駄を踏んでいる自分に気付く。

くそっ。こんなところに居たってなにも出来やしない。

人間一人が立ち向かっていったって気付かれもせずに潰されるだろう。

そうだ。NERVだ。父さんの所に行って、すぐにやめさせるように言ってやる。

う〜。葛城さんって人は何をやっているだろう?こんなに遅刻するなんて。

ん?車のエンジン音だ。青い車がこっちに来る。もしかして葛城さんかな?

そうなら35分16秒の遅刻だよ。おっと。止まった。運転席にいるのは女の人だ。

−碇シンジ君?

−あ、はい。そうです。葛城さんですか?

−そうよ。あなたを迎えにきたわ。それと、私のことはミサトでいいわ。

−わかりました、ミサトさん。早くNERVに行きましょう!

早く父さんを止めなきゃ。

−そ、そうね。さ、乗って。ちょっち遅れたから飛ばすわよ。

車に乗りこみつつ、ちょっちじゃないでしょちょっちじゃ、と心の中でつっこむ。

−それより、何でレイがあんなロボットに乗ってるんですか?

−え!?...エヴァのことね。レイはエヴァのパイロットなのよ。

そんなのは見ればわかるとは口には出さず。

−あの怪物にやられてるじゃないですか。大怪我でもしたらどうするんですか!

−レイは一年間訓練を積み重ねてきたけれど、精神面での弱さがネックになっているわ。 それに使徒の能力はまだ未知数だし...

−大体なんでレイが乗っているんですか?誰か大人の人が乗ればいいじゃないですか。

父さんが自分で乗ればいいじゃないか。

−良く知らないけど、あなたたちくらいの子供じゃないとエヴァは動かせないのよ。

−良く知らないって...そんなものにレイを乗せてるっていうんですか!

父さん。許すまじ。

−わ、私を怒ってもしょうがないわよ。造ったのはリツコだし。ははは...

−とにかく早くNERVへお願いします。

−おっけ〜おっけ〜。空を飛ぶより速く行くわよ〜。

−うわっ!!!

揺れて揺れて舌を噛みそうだ。

NERVってこんな人ばかりなんだろうか?

父さんがトップをしているくらいだからまともな組織じゃないとは思っていたけど。

やはりそんなところにレイを置いておけない。

一刻も早くレイを取り返さなきゃいけない。そう僕は決意した。

 

 

*付録

時間線がシーン1から5までキレイにまっすぐではありません。

簡単なチャートを作ってみるとこんな感じです。

      Scene 1(シンジ)
       ↓  Scene 2(ミサト)
       ↓         Scene3(リツコ) Scene4(レイ)
       ↓           ↓       ↓
       ↓           ↓       ―
       ↓           ―
      Scene 5(シンジ)
       ↓
       ―

 

*アトガキ

第壱話の最初の部分を多人数一人称でリライトしてみました。
え〜。要するに、しすこんシンジです(笑)<こんなんばかりですね(^^;
更にあれだけ色々と言っておきながらシンジは自分がエヴァに乗らされるとは夢にも思っていません(笑)

PS Fragments Iとか書いていますが、IIやIIIを書く保証はありませんのでご了承のほど...

注)MIND WAREとは今は亡きWIRED誌の編集後記で、
使ったHARD WARE・SOFT WAREとともに、雑誌作成中にお世話になった
本・CD・映画などなどのWAREを紹介していたことに拠ります。

*MIND WARE

FragmentsIII/Yamamoto Naoki
Koibito Play1/Tamaoki Benkyo
Afternoon 99.04/V.A.
1996/Sakamoto Ryuichi
Classic Garage Volume1/V.A.
Kareshi Kanojo no Jijou/GAINAX


それでは、また


 なしつぶです

 最初っから兄妹という設定はおもしろいいですね。
そしてやせ我慢しているレイが当然ですが人間くさくてよかったです。
 
 しかしこの引き,
「お兄ちゃん助けて」
「レイを取り返さなきゃいけない」
で続きがないなんて殺生ですよ〜〜〜(;;)


素晴らしい小説を書いて下さった作者にぜひ感想を!
感想は作者への感謝と次回作を生み出すエネルギーです。
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