漫画賞とは何なのか?


 漫画賞を意識したことのある人はどれくらいいるのでしょうか?
漫画賞を受賞したからといって、芥川・直木賞のように売り上げに反映されることはないと思われます。つまり、作品を選ぶ参考にしている人は少ないのでしょう。

  私はマンガ作品を選ぶ際、漫画賞を参考にすることがあります。近年では受賞前に読んでいる場合がほどんどですが、作品名は知っていても読もうか迷っているときには漫画賞を受賞したことを期に読み始めたりするのです。私はどんなマンガ作品を読めばいいのかわからなくなったとき、漫画賞を参考にするのは有効だと思っています。以下に書くように様々な思惑がある賞なのでその時の一番すぐれている、面白い作品ではない可能性が高いですが、ある程度はいい作品であることは確かだと感じています。

  私は漫画賞という存在自体にも賛成しています。以前、朝日新聞社が「手塚治虫文化賞」を創設したとき、週刊誌ではかなり酷評されてました。どんな思惑が裏にあろうとも、素晴らしい作品を描いた漫画家が、賞をもらうことで少しでも「名誉あることだ」「うれしい」「これからも頑張ろう」と思って下さるのならそれだけで意味があることだと思うのです。

 少女マンガが関わることが多い講談社・小学館漫画賞について考察していきたいと思います。過去の漫画賞の受賞作品については、各マンガ賞の一覧漫画賞リストを参考にして下さい。

1.漫画賞のきまり・性質

漫画賞のリストを見ているといくつかのきまりがあることに気がつくと思います。

1.自社の作品中心
2.一度受賞した作家は2度と受賞しない
3.連載途中の作品であることが多い

1は、講談社漫画賞には小学館の作品はほとんどありません。その反対も同じことがいえます。つまり、中間的な集英社・白泉社の作品のみ両方の漫画賞に出てくるという事です。それも、ほとんどが、自社の作品なのです。
これは当り前のことですが、賞をあげるなら自社の作品に漫画賞をあげて、漫画家&編集者を励ましたほうがいいからでしょう。敵に塩を売るような真似は極力さけたい気持ちはわからなくもありません。
1999年小学館漫画賞は少女部門で「受賞作なし」でした。他の出版社のものには腰が重いのがうかがえます。

注目すべきは2、3です。漫画賞とは若手(といっても新人ではない。大体が、連載誌では重鎮的存在だけど、漫画界全体でみるとこれからの人)の作家を賞を与える事を指しています。もちろん例外もありますが、それはほぼ講談社・小学館以外の作家さんであることがほどんどです。
作者は連載途中なのは、期待も含まれているでしょうし、旬を逃さない意味もあるでしょう。読者は好きな作品が認められたという喜びを感じられるのです。陰ながらマンガ界を盛り上げようとしている気持ちが伝わってくる選び方をしています。

そして、講談社・小学館以外の作品が漫画賞を受賞する場合の受賞理由もいくつかに分類できます。

  • 出世作系

*講談社漫画賞
1993年 武内直子「美少女戦士セーラームーン」
1998年 小花美穂「こどものおもちゃ」
2002年 よしながふみ「西洋骨董洋菓子店」

*小学館漫画賞
1995年 羅川真理茂「赤ちゃんと僕」
1996年 神尾葉子「花より男子」

とてつもない大ヒット作品(「美少女戦士セーラームーン」・「花より男子」)、人気作品で大人の心を捉える作品(「こどものおもちゃ」・「赤ちゃんと僕」・「西洋骨董洋菓子店」)に分かれます。
前者は、大・大ヒットのレベルなので作品の内容というよりもマンガ界に対する功績が賞に値すると思います。
後者は、運も見方にしないと取れないでしょう。かなり微妙な位置にいます。大人の心を捉える側面から、漫画評論の分野では、前者と同様以上に取り上げられる作品です。

出世作系の作品はすべて、メディアミックス化されており、メディアミックスが出世の手助け(メジャー化)をしているといえます。

  • ベテラン系

*講談社漫画賞
1991年 逢坂みえこ「永遠の野原」
1992年 岩館真理子「うちのママがいうことには」
1996年 くらもちふさこ「天然コケッコー」
1997年 樹なつみ「八雲立つ」

*小学館漫画賞
1991年 細川知栄子「王家の紋章」

ベテランで、今までにもヒット作・話題作を描きつづけているような作家の受賞です。(逢坂みえこ先生はちょっと微妙かもしれません。ベテランですが、掲載誌の関係でマニア向けという感じで、「永遠の野原」で一気にメジャーになったので。)
いしかわじゅんさんが「漫画の時間」の中で、その年だけ受賞した漫画家が活躍したわけではなく、長年の功績を称えることがあると書かれています。

しかし、このような受賞は安定感はあるのですが、裏を返せば、目立って活躍した新人漫画家(といっても、デビュー15年未満)がいないということを表していると思います。

 

2.各漫画賞の受賞作を読み解く

  • 講談社漫画賞(少女部門)

2002年 よしながふみ「西洋骨董洋菓子店」(新書館、『ウイングス』
2001年
 高屋奈月フルーツバスケット」(白泉社、『花とゆめ』
2000年
 池沢理美「ぐるぐるポンちゃん」(講談社、『別冊フレンド』)
1999年
 上田美和「ピーチガール」(講談社、『別冊フレンド』)
1998年
 小花美穂「こどものおもちゃ」(集英社、『りぼん』)
1997年
 樹なつみ「八雲立つ」(白泉社、『LaLa』)
1996年
 くらもちふさこ「天然コケッコー」(集英社、『コーラス』)
1995年
 小沢真理「世界でいちばん優しい音楽」(講談社、『KISS』)
1994年
 軽部潤子「君の手がささやいている」(講談社、『mimi』)
1993年
 武内直子「美少女戦士セーラームーン」(講談社、『なかよし』)
1992年
 岩館真理子「うちのママがいうことには」(集英社、『YOUNG YOU』)
1991年
 逢坂みえこ「永遠の野原」(集英社、『ぶ〜け』)

講談社の作品について取り上げます。

まず、1993年の「美少女戦士セーラームーン」に関しては、マンガにおいての功績というよりアニメの成功でブームになったことが受賞の足がかりになっているという感じがします。

また、1994年「君の手がささやいている」、1995年「世界でいちばん優しい音楽」はドラマ化されている作品で、実写に強い講談社のイメージ通りとなっています。また、少女マンガではなく、ヤングレディースマンガからの受賞というのも面白いところだと思います。

1999年の「ピーチガール」は今、講談社の少女マンガをひっぱっている作品の1つです。受賞当時からブレイク直前という状況でしたし、作者の上田美和先生は講談社の少女マンガの人気作家ということで、作品的にも作家的にも順当な受賞だったと感じます。

2000年「ぐるぐるポンちゃん」は、作品名も作家の名前も私は聞いた事がなく、漫画賞を受賞した後も、評価されているのか状況すら見えない状況で、自社の作品に受賞させたかったのかなと感じます。

残りの1996年〜1998年、2001年〜2002年と講談社は自社の作品から受賞作が出せない状態です。少年・青年部門はすべて講談社作品がしめていることから、少女部門では、多少なりとも他社の作品に受賞させていることを考えると、講談社の少女マンガはかなり苦しい状態であるのかがわかります。

  • 小学館漫画賞(少女向け部門)

2003年 矢沢あい「NANA─ナナ─」(集英社、『クッキー』
       渡辺多恵子「風光る」(小学館、『別冊少女コミック』)
2002年
 清水玲子「輝夜姫」白泉社、『LaLa』
       吉田秋生「YASHA─夜叉─」(小学館、『別冊少女コミック』)
2001年
 篠原千絵「天は赤い河のほとり」(小学館、『少女コミック』
2000年
 いくえみ綾「バラ色の明日」(集英社、『別冊マーガレット』
1999年
 該当作無し
1998年
 渡瀬悠宇「妖しのセレス」」(小学館、『少女コミック』)
1997年
 さいとうちほ「花音」(小学館、『プチコミック』)
1996年
 神尾葉子「花より男子」(集英社、『マーガレット』)
1995年
 羅川真理茂「赤ちゃんと僕」(白泉社、『花とゆめ』)
1994年
 吉村明美「薔薇のために」(小学館、『プチコミック』)
1993年
 田村由美「BASARA」(小学館、『別冊少女コミック』)
1992年
 藤田和子「真コール!」(小学館、『少女コミック』)
1991年
 細川知栄子「王家の紋章」(秋田書店、『プリンセス』)
      渡辺多恵子「はじめちゃんが一番!」(小学館、『別冊少女コミック』)

小学館漫画賞は、講談社漫画賞以上にかなり受賞作選びに苦しさがうかがえます。(小学館漫画賞はは少女向け部門の他に、児童向け部門をもっており、児童向け少女マンガ雑誌(『ちゃお』『なかよし』『りぼん』など)は、そちらに分類されています。)
小学館漫画賞は、講談社以上に自社作品に賞を与えようという気持ちがありありと感じられます。

1999年は「該当作無し」には驚きました。純粋に優れた作品に賞を受賞させたいのなら、該当作はたくさんあるでしょう。自社の作品にこだわりが出ています。個人的には、ここ数年の小学館漫画賞該当作は自社の作品にこだわるあまり首をかしげたくなる状態だったので、それに比べればいいかもしれませんが、非常に残念です。

2000年は、いくえみ綾先生の「バラ色の明日」が受賞しました。すごく嬉しい受賞です。いくえみ先生は本当に漫画賞を受賞するに十分な作品と、今後の可能性を秘めている方だと思います。2年前にもノミネートされています。(その1998年は「妖しのセレス」(小学館)が受賞)

2001年は、篠原千絵先生の「天は赤い河のほとり」が受賞しました。篠原千絵先生は、1987年に「闇のパープル・アイ」で一度、小学館漫画賞を受賞しており、2度目の受賞となります。「天は赤い河のほとり」は漫画賞にふさわしい作品だと思います。しかし、漫画賞は若手漫画家の登竜門であるという位置づけができます。それを考えると、漫画賞をベテランに受賞させたということは、少女マンガ界の苦しい事情が見えているように感じました。

2002年は、清水玲子先生の「輝夜姫」と、吉田秋生先生の「YASHA─夜叉─」のダブル受賞となりました。「輝夜姫」はここ数年、漫画賞のノミネート作品に必ず入っており、順当な受賞だと思います。
吉田秋生先生は、昨年の篠原千絵先生に引き続いて、1983年に「吉祥天女」「河よりも長くゆるやかに」で
小学館漫画賞を受賞しており、2度目の受賞となりました。「YASHA─夜叉─」が漫画賞にふさわしくない作品とは思いませんが、そこまで他社の作品には受賞させたくないのかと感じました。

2003年は、2002年の少女マンガ界で最も話題をさらった矢沢あい先生の「NANA─ナナ─」と、1991年にも一度漫画賞を受賞している渡辺多恵子先生の「風光る」が受賞しました。渡辺先生が、2度目の受賞でなければ単独受賞となるところだと思いますが、2度目の作家が続いているため、2002年に引き続いて、自社と他社の2人に受賞させていると思われます。
小学館の作家は、2001年から3年連続で2度目の受賞が続いています。小学館の若手の漫画家は、ここ最近少女マンガ界を担う人材が育って来ていない事実を示しているのではないでしょうか?


各漫画賞の状態をみると、現在、最も状況が厳しいといわれる少女マンガ界をそのまま表していると思います。選考委員の方々が素晴らしい作品が多すぎて、困るくらいの状況になってほしいと思います。

Return to Review page

Presented by Eiko.