**** 『りぼん』はつまらない雑誌なのか****

  『りぼん』の評判は、現在決していいとは言えません。また発行部数が少女マンガ雑誌の中で最も多いからといって、人気がある雑誌ともいえる状態でもありません。『りぼん』はつまらない雑誌なのかどうかについては、個人の考え方の違いだと思いますので検証は行うつもりはありません。ここでは、つまらない理由と上げられているものについて考察して行きたいと思います。

  まず、『りぼん』が、ここ数年どのようにコメントされているかをまとめました。

出版 発行年月 コメント
このマンガがえらい! 別冊宝島 1997/01 少女マンガの基本中の基本
少女まんがゆめ王国 白泉社 1997/10 明るくかわいくファッショナブルに、大きい瞳の少女たちの恋や夢を展開しており、小学生の女の子にたちにはもっとも読まれている雑誌だ。『「こどものおもちゃ」』(小花美穂)、『赤ずきんチャチャ』(彩花みん)などTVアニメ化された作品も多く、男性ファンもついている。どの作品も少し隠し味があるのがみそ。
別冊宝島 乙女心を忘れない伝統と格式のおちゃめ系の少女漫画誌。だが最近恋愛パターンがイージー。
みんなのマンガ 毎日新聞社 1998/03 安定した読者層
PUTAO 白泉社 1999/04 かつて私たちが現役読者だったころ、『なかよし』よりちょっと大人な小学生向け雑誌が『りぼん』だった。が、最近は逆にストレートな恋愛話も多く、少女まんがらしい恋愛モノはこちらでは?と思わせる雰囲気なのだ。最近、スレちゃったかも……とお悩みのあなた、大人な恋愛話ではなく、乙女な気持ちを味わいたい人、初恋のトキメキを取り戻したい人には、おすすめですね。(中略)
まったく正反対のベクトルを持つ作品が一誌に収められているのも、『りぼん』らしいといえば、らしい。読者的にも読みがいがあって嬉しい。

  『りぼん』へのコメントで注目したいのは“安定”という言葉です。“低年齢少女マンガ誌はつぶれない”と「ニッポン漫画家名鑑」にあるように、他の雑誌を少女マンガの中心と見ているマンガ評論の世界では、『りぼん』のような児童向け少女マンガ雑誌は“安定”していると見られています。それを象徴した文章が、「コミック・ファン」04号(1998/12)の「少女マンガは今、こうなっている!」です。これは、少女マンガ雑誌編集者のインタビューを交えながら、1998年の少女マンガを振り返ったものです。

少女誌が飽和したような状況下で“色”が違うということは強みですよ。(中略)誰もが楽しめるといえば聞こえはいいが、実は読者層の年齢が中途半端な雑誌というのは、危ないと思っているんです。『りぼん』が最小限の部数限に抑えられているのもそこだと思うんですよね。たとえ読者に大人がある程度いようと、幼年誌であるというスタンスを崩さないことで、雑誌としての色が自然と確立しているんでしょう。ヒット作が出ても他の作品が引きずられなかったことも大きいとは思いますけどね。

  上で書かれている通りなら『りぼん』は現在、“つまらない雑誌”などと呼ばれることはないでしょう。ここで指摘されている内容は、苦しい少女マンガ界で苦しい雑誌同士どんぐりの背比べをしているようで、読者から見れば納得できるものではありません。まず、『りぼん』のマガジンカラーは、幼年誌のスタンスを崩さないことよりの前に、『りぼん』の歴史や、読者カラーが関係していることだと思います。また、『りぼん』の発行部数の低下は最低限といえるレベルであるとはいえないと思います。『ちゃお』を例にあげた方がいいでしょう。これは、少女マンガ界が厳しい状況にあるので、発行部数が最も多い雑誌に読者が集まっているように感じられるからでしょう。ヒット作に引きずられなかったというのは、『なかよし』と比べるとそのように感じるだけであり、引きずられていないとは言えません。

  「『りぼん』はつまらない雑誌なのか?」というタイトルは、『COMIC GON!』Vol.5の「つまらない少女・女性マンガを探せ!!」のつまらないマンガ雑誌ベスト5で『りぼん』は2位になったことから引用したものです。(ちなみに、1位『ぶ〜け』、2位『りぼん』、3位『CUTiEコミック』、4位『YOUNG YOU』、5位『コーラス』)このコーナーは『COMIC GON!』の編集者や、ライターの計5人が、少女・女性マンガのつまらない作品を対談形式で言いたい放題いう記事です。最初の煽り文句は以下のようになっています。

背表紙平均、3.5cm、書店で幅を利かせてぬく×2厚みを増す少女・女性マンガにいまちり紙交換がしのびよる!トイレットペーパー1個とマンガ家1人の命、どちらが重いのか!?
カラーページもザラ紙ページも読まれてこそ華、読まれなければ灰!運命を握るのは僕たちだ!!

  マンガ家1人の職業生命とトイレットペーパー1個の必要性を比べて、暗にトイレットペーパーの方が価値がある場合があると言っているかなり過激な出だしですが、この特集はマンガ読みが(マンガ好きではありません)誰もが思っていることを語っているだけであり、内容面の過激さは大したことはありません。むしろ納得するほうが多かったです。ただ、ネット上では当り前に言われている、作品のネガティブな面での批評を、印刷物で出したという点がすごいなと感じました。ネット上でのコメントは出所や発言者を確定できないので、ここでは『COMIC GON!』の記事を使って、『りぼん』がつまらない理由と上げられているポイントについて考察して行きたいと思います。

  『りぼん』は2位にランクインしていますが、作品単独では対談では一つも上がっていません。このことから、この評価をしたライター・編集者は現在の『りぼん』に詳しいのではなく、この特集のために軽く読んだだけであることがわかります。(おもしろい作品の2位に矢沢あい「下弦の月」が挙がっています)しかし、67誌の少女・女性マンガ雑誌の中から『りぼん』が選ばれているのは、停滞する少女マンガ界では児童向けも例外でないということを示しており、無視することはできないのではないかと感じました。

どーしてこんな赤ちゃん雑誌になってしまったのか、誠に遺憾なり。水沢めぐみの罪は重いね。それにしても、全体的に絵が似すぎ。椎名あゆみ、倉橋えりか、高須賀由枝、亜月亮は眼球肥大症4姉妹か?

  批評の対象となっているのは、1999年1月号です。コメントを見て明らかなように、元りぼんっこの発言です。ネット上などで『りぼん』の批評を読んでいると、『りぼん』をつまらないという人は、『りぼん』のライバル誌である『なかよし』、『ちゃお』を好きな人ではなく、『りぼん』の現役読者や、元読者という、『りぼん』を身近にいる人が多いのです。基本的には、『りぼん』が好きだったり、『りぼん』がかつては好きだった人なので、この手の批評からはいつも憂いみたいなものが漂っています。

  ・どーしてこんな赤ちゃん雑誌になってしまったのか、
   誠に遺憾なり。水沢めぐみの罪は重いね。

このコメントを書いた方が、『りぼん』の今を詳しくは知らないけど、『りぼん』についての全体の流れを知っているというのが、すぐにわかる文章です。こういうのに見当違いなことを書かれると、「こいつは『りぼん』について知ったかぶっているだけ。出直してこい!」とか感じますが・・・
赤ちゃん雑誌については、読者層の低下と、キャラの年齢的・精神的年齢の低下からでしょう。その原因として“水沢めぐみ”先生を上げたのはその通りだと思います。
一条ゆかり先生のインタビュー(1998年『CREA』1月号)です。

『りぼん』そのものが年齢を下げたんですよ。で、私が描いているときにテクマクマヤコンみたいなのがわるわけですよ。

というコメントがあります。“テクマクマヤコン”と一条先生に指摘されているのが、言うまでもなく「姫ちゃんのリボン」です。一条ゆかり先生の『りぼん』での最後の連載となる「女ともだち」を連載中に、『りぼん』で人気があった作品が「姫ちゃんのリボン」でした。「姫ちゃんのリボン」が『りぼん』に与えた影響は大きいと思います。

「ちびまる子ちゃん」のアニメ化で『りぼん』は部数を伸ばしましたが、『りぼん』のマガジンカラーは「ちびまる子ちゃん」で変化しませんでした。しかし、「姫ちゃんのリボン」のアニメ化により、『りぼん』作品が次々とアニメ化されることになったのは『りぼん』に大きい変化をもたらしたといえると思います。(もちろん、「ちびまる子ちゃん」、「美少女戦士セーラームーン」のヒットで児童向け少女漫画雑誌の作品は売れるとスポンサーが飛びついたこともあるでしょうが・・・)

そして、アニメ化されたことにより、マンガが好きで『りぼん』を読んでいた読者以外の多くのファンが、部数の大幅な増大などには関係なくできたと思います。それは言うまでもなく、「少女まんがゆめ王国」で書かれているような、男性読者の流入です。『りぼん』ではそれ以前にも、熱心な男性読者がたくさんおり、乙女チック全盛の時期には、東京大学の学祭で『りぼん』関連の催しものが開かれたり(注1)、「星の瞳のシルエット」を好きな男性読者が“偽久住くん事件”(注2)を起こしたりしていました。しかし、男性読者はアニメから入ったのと、マンガから入ったのとでは、女の子だったらそう大差がないのですが、『りぼん』作品に対するスタンスの取り方が異なります。『りぼん』の読者カラーは、「姫ちゃんのリボン」前後では微妙に変化したのではないでしょうか?
また、「姫ちゃんのリボン」は「ときめきトゥナイト」の影響を受けた作品(注3)であることは明らかです。ファンタジー要素の入った作品は『りぼん』の中でも比較的低年齢の読者を対象で、純粋な恋愛ものを比較的高年齢層の読者を対象にしていると考えられ、「ときめきトゥナイト」*「月の夜 星の朝」の関係を、「姫ちゃんのリボン」*「ママレード・ボーイ」(現在では「神風怪盗ジャンヌ」*「グットモーニング・コール」になります)に置き換えると、「姫ちゃんのリボン」は、年齢層の低下の促進させた作品の1つと言えます。

  ・それにしても、全体的に絵が似すぎ。
   椎名あゆみ、倉橋えりか、高須賀由枝、亜月亮は眼球肥大症4姉妹か?

『りぼん』が嫌い・つまらないという人は必ず絵について触れます。
乙女チックの全盛期の後、1970年代後半には、『りぼん』には乙女ちっくの絵柄に影響を受けた作家
(萩岩睦美・高橋由佳利・小椋冬美etc.)が次々とデビューしましたが、『りぼん』で中心的な役割を担うようになってからは、自分の絵を描いており、デビュー時と数年後の絵柄の差に驚きます。
しかし、現在では、作家の個性みたいなものが薄く、『りぼん』の読者に受ける絵ばかりになっているように思います。『りぼん』の作家の絵はかわいいと必ず言われますが、それ以外に表現できる言葉が出てきにくいのです。『りぼん』の作家では絵がかわいいのは当り前なので、さらにその人だけの形容詞がほしいと思います。
(かわいいだけで、デッサン無視というのは悲しい・・・)あと、これから多くなるに違いないのはアニメ絵です。種村有菜先生の描いていらっしゃいる絵ですが、『りぼん』の本誌で描かれる方はいないで目立ちますが、現在少女マンガで急増してますし、同人誌での主流となっている絵柄のように感じます。(ネット上でも非常に多いですから、流行であることを実感できます)新人を選ぶのは『りぼん』の作家の方なので大丈夫だと思いますが、同じような方は出てきてほしくないものです。(話がおもしろければそれもあるかもしれませんが)「絵が全体的に似すぎというコメント」にはその通りだと思います。

そして、絵の批判の中でも最も多いのが、目の大きさについてです。椎名あゆみ、倉橋えりか、高須賀由枝、亜月亮各先生について、ここでは特に上げられていますが、今は確かに大きいですが、これからの作家だけが『りぼん』でキャラの目が大きいわけではないと思います。

私は『りぼん』の重鎮だった、水沢・矢沢・池野・吉住先生が「姫ちゃんのリボン」(1990年8月号)、「天使なんかじゃない」(1991年9月号)、「ときめきトゥナイト(第3部)」(1991年7月号)、「ママレード・ボーイ」で、前の作品より目が大きくなるというのが最初の布石だと考えています。それが、1994年頃の『りぼん』の読者層の低年齢化を引き起こした原因だと思います。さらには、水沢めぐみ「おしゃべりな時間割」(1994年6月号)、小花美穂「こどものおもちゃ」(1994年8月号)、池野恋「りりかSOS」(1995年3月号)で小学生のヒロインを登場させます。しかし、当初はまだ『りぼん』ではそれなりの目の大きさでした。(他に比べれば大きい)
目の大きさが際立ってくるのは、椎名あゆみ「ベイビィ☆LOVE」
(1995年9月号)、藤田まぐろ「ケロケロちゃいむ」(1995年11月号)の頃です。人気が出て長期連載になったこの2作は、両方とも目がすごく大きいヒロインでした。それに他の方も引きずられるように、目が大きくなってきます。駄目押しは吉住渉「ミントな僕ら」(1997年6月号)、です。『りぼん』の作家に影響を与える吉住渉先生が主役を高校生から中学生に下げたこと目が大きくし、小学生だけでなく、中学生までも大きい目になったことで、歯止めが利かなくなりました。そして、その後人気が出た若手の作家の3作品、高須賀由枝「グットモーニング・コール」・藤井みほな「GALS!」・種村有菜「神風怪盗ジャンヌ」で、主役が高校生でも目が大きいことで、『りぼん』に巨大な目が定着しました。

今、『りぼん』全体には顔いっぱいの目でありあふれかえっている状態になっています。
現在の『りぼん』の目の大きさは異常だと感じます。まさに、“眼球肥大症”です。他の少女漫画作品や過去の『りぼん』作品と比べて見れば明らかです。目が大きすぎて、気持ち悪いという人もいましたが、そのように感じるのも当然だと思います。絵が似ているというのも多くは目に原因があることだと思います。また、『りぼん』でデビューを目指す方から

担当さんに絵の指導をしてもらった時の第一声が「目はもう少し大きくしていいよ」だったので、「りぼんって…」と唖然としてしまった記憶があります。

という話をお聞きしました。このコメントで編集も共犯かという見方もできるのですが、私はそのようには感じませんでした。ストーリーは一緒に考えたり、アイデアをもらったりする部分があるかもしれませんが、実際に絵を描いているのは漫画家さんだけですから魅力的な絵であれば目の大きさは関係ないわけです。つまりは、絵が安定してない新人に、それなりのかわいい絵を描かせる最短距離が“大きい目”であるといえると思います。漫画家が試行錯誤して自分の絵を探求していく中でどのような絵を描くのかを判断するのが大切ですから、意見の一つでしかないのです。かわいい以外にもたくさんの表現方法がつけられる絵を多くの作家に望みたいと思います。最短距離に甘んじないようにしてほしいです。

  『りぼん』がつまらない雑誌であるか否かは私にはわかりません。わかっているのは、『りぼん』には魔法があるということです。いくら“昔の『りぼん』はよかった”と今のりぼんっこに話しても、伝わるはずはありません。元読者が、『りぼん』の魔法にかかっていたように、今の子も、魔法にかかっているに違いないのです。しかし、時がたったときに、「昔、『りぼん』が好きだったなんて今考えると馬鹿らしい」と思うのでは悲しすぎます。せめて「昔はあれがおもしろかったんだ」、さらには、「私が夢中だったときの『りぼん』はいつの時代よりも素晴らしかった」と思ってほしいものです。後者の割合が低ければ低いほど、『りぼん』はつまらない雑誌だったといえるのではないでしょうか?

(注1)
1977年『りぼん』12月号より
東京大学のりぼんファンが集まって、東大りぼんの会が作られました。11月12〜13日に行われる東大駒場祭では、「少女漫画を見直そう」というテーマで、会誌「りぼにすと」の配布、複製原画の展示など楽しい催しが開かれます。是非行ってみたら?
東大に『りぼん』ファンのサークルがあったことが、大塚英志「たそがれ時にみつけたもの」にも書いてあります。複製原画の展示ということは、集英社も協力しているということになります。(でなければ、『りぼん』に載っているはずがありませんが・・・)今では考えられないです。

(注2)
“偽久住くん事件”とは、「星の瞳のシルエット」の久住くんの偽者が現実に現れたというものです。事件が起きたのは、1989年2月の代ゼミの模試。「久住智史」(青陵高)なる人物が、数学、物理、化学(100点、全国1位)などで、総合5科目合計でも、全国2位になったのです。志望大学は“京大理学部”。それが、『りぼん』1989年 5月号「とんでもケチャップ」で読者の投稿で発覚しました。そして、 6月号の同コーナー(読者のページ)で本人から手紙が… 事件を起こした理由は「星の瞳」に対する想いを形にしたかったとのこと。その人物は、元・柊あおいFC準備委員会委員長と名乗り、当時東大1年の男性。その模試時には高3だったのだけど、高2になりすまし、天文学部がある京大理学部を第一志望にしたという当時の『りぼん』を読んでいた人には記憶に残る事件でした。
“偽久住くん事件”を起した上美谷智史さんが、
星の瞳のシルエット by 上美谷 release版 で事件の真相について語っています。

(注3)
「ときめきトゥナイト」と「姫ちゃんのリボン」との関わりは、設定の類似性にあります。大きな枠では、ヒロインが変身できるということが上げられますが、それ以外の細かい設定はかなり重なっています。
キャラでは、有坂静=アロン(3枚目の役割で、異世界から来た。ヒロインと秘密を共有する関係)、日比野ひかる=曜子(三角関係となるヒロインの恋のライバルで、髪型も似ているし、秘密がばれる展開も一緒)、織田和也=筒井(単行本ではカットされたキャラですが、親の本がベストセラーになり、映画化されという流れも一緒です)などが重なっています。
連載中に、織田和也が出たときには、私は水沢先生の姿勢を疑いました。私は「姫ちゃんのリボン」を評価していませんが、織田和也を単行本でカットした水沢先生のプロ根性は評価しています。
「姫ちゃんのリボン」の雑誌掲載分と、単行本収録分との比較は、
姫ちゃんのリボン変更点調査報告書で詳しく行われています。


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Presented by Eiko.