◇◇◇ 「BSマンガ夜話」レポート ◇◇◇

-- Return --
--
←その3 ---- その5→ --

■夏目の目
先ほどもちょっと触れましたけれど、この人の現実感に対するちょっと異常な執着(注31)って言ったんですけれど。(略)

(注31)→(注21)
ここは学校ですよという、同じような導入のコマ(注32)なんですが、すごく細かいでしょう、実をいうと。(略)これはやっぱり、ここまで本当は重くする必要って物語の必然性としては本当はないんですね。(略)で、これは多分、アシスタントさんにそう指示しているはずです。これは明らかにプロデューサーとしての好みということになりますね。なんで、その、特に少女漫画系の背景としては、こんなに重すぎるものを持ってくるのかっていうところが、たぶんこの人の、どんな架空のものを描いても、どっかで現実につながっていようっていうところがあるんじゃないかと思います。(注33) (注32)…第1巻P26
一条先生のこういう導入のコマに関しては、見慣れているのでなんとも思わなかったのです。重いと感じたことはありません。一条先生の作品だから、背景はこれくらいはあるなというような感覚になっていたからです。

(注33)
この正確で丁寧な背景から、現実感にこだわる一条先生の姿勢につなげるという見方はとても新鮮でした。確かにそんな感じがします。。私は「有閑倶楽部」でそのことを感じるのですが、「有閑倶楽部」は設定からして現実離れしているのですが、その舞台はしっかりと設定されて描き込まれているので荒唐無稽に感じられないような気がしてしまいますから。

(略)これが人物に現れるとどうなるかっていうんですけれど、この女性なんですね。僕、歓心したんですよ。これが博明の最初の客ですわね。(注33)で、この辺の腕の太さとか、指の太さとか、これやっぱりね。これくらいだったらいいかなというところとね。本当に上手く、30歳だっけ。それで未だ経験なさってない貴重な方なんで。で、その辺をね。ギリギリのところでリアルに描いているわけ。この辺やっぱり上手いし、その辺はね、執着っていうのかな、作品の中のリアリティに関する執着だと思います。

(注33)…第1巻P50
キャラで主要キャスト以外はどこかにいそうと思える容姿・体型の人を出してくるのは、確かに一条先生の作品の特徴だと言えると思います。しかし、主要キャラは、「どこにいるんだこんな人は」といつも感じてしまうくらい普通の人ではあったことがないようなキャラばかりです。赤ちゃんから老人までこれを描いちゃうのねというインパクトのあるキャラを描かれます。(「おいしい男の作り方」、「有閑倶楽部」etc.)
人物造形でいいますと、(略)博明という少年は非常に注意深く描かれるんですね。(注34)これは告白される画面です、他の女の子に。で、そこでこういう顔をすると。で、それが断るわけですよね。断って、下にいきます。それで断ったときの顔がこれです。(略)このページをめくります。めくりますと、この上ですが、つまり彼女にキスしちゃうわけですよね。この辺の切り返しがやっぱり上手いんですよね。で、ここで意外な展開をさせて、で、さっきの最後の舌なめずりしているというか、こういう顔になるんですね。この辺、非常に注意深く描いているんですね。何故、注意深く、さっきのコマ送りとこの顔を描いているかというか、ここで、この人の性格を設定しているからです。つまり、すごく真面目そうなのに、実はいい加減っていうところを。だから、これが設定して非常に冷静なんですよ、描き方が。(注35)冷静にそれを設定して描いてる。

(注34)…第1巻P26〜29
このシーンは「正しい恋愛のススメ」を読んだことある人なら誰でも印象に残っているはずのシーンだと思います。普通の少女マンガのヒーローならばしなかったところをしてしまうわけですから。

(注35)
冷静、冷静って驚くべきところなのですね。一条先生の作品では主要キャラは一条先生は細かく設定してくるので「有閑倶楽部」の美童のように、最初とは予定が異なる場合も多少あるのですが、ほとんどの作品では最初から最後まで設定に矛盾を感じることさえありません。(美童は一人っ子→弟がいるという風に設定が変わりました。)

で、ここから、(略)要するにこの設定が出来てこの物語の核になる共犯関係にいくんですね。で、これはつまり洸と博明がキスするシーンですが、えー舌入っています。(注36)つまり、この小量のリアリティといいますか、生生しさなんといいますか、この作品の中で、全体というとそこまでね。見ない。でも、見たらちゃんと入っているんだよな。その辺がやっぱ上手いなと私は塩の使い方が。こしょうかな、まあいいや。その辺が上手いなと思います。

こっからですね。この人の得意なといいますか、軸になる人間関係のドミノ倒しが始まるわけですね。(注37)で、人間関係の論理ですが、元々メロドラマですから、矛盾・格闘ってものが核になります。で、この順列・組み合わせってのは「デザイナー」以来あんまり変わらなくてですね。(注38)えー、だれそれが、だれそれのあれだったって話ですね。

(注36)…第1巻P45
手書きで「舌 入れんなよ 気持悪いじゃないかあ」とあるので、男同士のこの舌入りのキスシーンだとわかります。これは、リアリティというわけではなく、落しどころだと思います。女性の読者には男同士のキスシーンそのものにリアルにしても仕方ないと感じます。ただ、真面目にやるのではなく、高まったところで外したという感じじゃないでしょうか?(このまま盛り上がったら、ホモ系話に一直線ですが。)

(注37)
これがたまらないんです。ドキドキして目が離すことができなくなる…
『りぼん』の吉住渉先生は私は勝手に一条先生に影響受けていると思っているのですが、キャラ関係図を描きたくなってしまうような作品を描かれるのです。

(注38)
「しかし…しみじみ思うに一条の作品って親子とか兄弟とか姉妹とか―血のつながりの話がやたら多いな」(SGC版、一条ゆかり「クリスティーナの青い空 摩耶の葬列 9月のポピィ」のあとがき)
一条先生は当然自覚されていますし、ファンだって気づいていますとも。楽しいから気にならないのさ。(構造はわかっていても、次の展開でさえ想像できないのだから…)

(略)1、2、3、4というのは、物語の中で露見していく順番です。(注39)まず、店と客の関係ですね。1ってのは。2がこれが洸で博明で(略)クラブの経営者・社長ですよね。そういう関係になっていると。3番目が核となるところの、三角関係。恋愛の三角関係ですよね。博明と母親と娘。なおかつ、これが、元家族であったという4つの三角関係が重層しているんですね。これが順列・組み合わせなんですけれど。で、結局のところ、ここの物語の展開というのは、この2の関係が出来上がって始まるんです。つまり、さっきのあのキスのところからはじまっているんです。非常にわかりやすくて論理的なんです。それは、きっちり設定しているからなんです。で、この物語の展開の核になっていて、1から3に物語の核が進んでいくっていう形になっています。

(注39)…第3巻P113
この図には感動しました。一条先生の演出力・構成力がすごいのか痛感してしまいました。
私は博明・美穂・玲子という三角関係ばかりに目が言ってしまっていたのですが、この関係をもりあげるのには、博明・
洸・社長の関係からすべてがはじまるというのは言われてみればでした。(話が進んでしまうとそういうことは忘れてしまいます。)
なんだか、一条先生の作品でキャラの相関図を作ってみたくなります。ストーリーの構造とか見えてきたりするのでしょうか。「正しい恋愛のススメ」は、「おいしい男の作り方」+「女ともだち」+「うそつきな唇」etc.の要素が入っていますが…
で、(略)そういう矛盾感情が頂点に達したあたりでどうなるかということなんですが。これやっぱり上手いと思うのは、これ博明が、勘違いされるんですよね。恋愛感情を自分に対するものだっていうふうに娘から。
その時にね。博明はずっと右を向いています。右を向いているってことは、読者がこっちから入ってくるからです。それを受けて立っているんです。で、彼女は逆を向いています。ところが、次のページにいくと、これを軸にして(略)今度は彼女の方が右を向いています。で、博明は左を向いています。切り返しをいきます。このコマ自体が、非常に論理的に、非論理的な雰囲気作りのコマ作りになっています。で、この辺が空白で空いていて、読もうと思えばすーっと流れるようになっています。で、これでページをめくります。そうすると、今度は正面から来ます。正面から来るということは、この時博明が内面で何を思っているかってとこに読者が入るということなんです。でアップになります。で、これが内面の独白になります。
で、これ本当に上手い、構成が、演出家として。(注40)それで、しかもここが真っ白だって、これは少女漫画の特徴ですが、この真っ白だというのは、絵として、つまり感情としてはここで矛盾が一番高まってて、ごちゃごちゃなんですよ。ぐちゃぐちゃなのにそれを真っ白にするってことは、絵としてここで昇華させているってことなんですな。なんかこれを見ると上手いとしか言いようがない、私は。

(注40)…第2巻P106〜109
構図・演出を褒めています。
「一条はネームを直接原稿にかく 一発勝負よ!プロットができればあとは勝手にすすめるネームも担当はみない(まねしないように)」
(一条ゆかり「一条さんちのお献立て」)
一条先生は、この計算されつくしたかに見えるネームを一発で作ってくるのです。
私は一条先生のコマ割り・コマ構成の素晴らしさがすっかり染み込んでしまっているので、他の作品でつまってしまうことがあります…(『りぼん』の作品で)
それで、物語として昇華するのは(略)これがやっぱり今だと思うのは、「慰謝料頂戴」って。(注41)これは結構、本当にこう、ストレス解消になるっていうかね。上手いものだなと思いますね。しかも、慰謝料をもらって、海外に行って、オヤジであるゲイと同居するっていう。上手く出来ているよなっていう。如何にも今的な解消の仕方で、やっぱり「デザイナー」からこれだけ時代が移ったんだなっていうお話でした。 (注41)…第4巻P142〜143
私はこのシーンそんなに印象に残っていませんでした。つまり、物語が解消されたなどとはまったくもって感じていなかったからです。やはり、“リセットボタン”でしょう。ここで「正しい恋愛のススメ」が終わっていたら消化不良だったと思います。→(注46)
ビジネス編には「BSマンガ夜話」では触れられませんでしたが、これも「正しい恋愛のススメ」の昇華に役立っていると思います。これも本当に読み応えのある話が並んでいて私は大好きです。

-- Return --
--
←その3 ---- その5→ --

Presented by Eiko.