毒々鰻41さんから素晴らしい小説をいただきました♪

是非お読みください!!

(本作品は、同タイトルのオンライン投稿作品の加筆修正版です)


 

菩薩 〜〜逢瀬の果てに〜〜 (前編)

作:毒々鰻41さん

内容:志保×新一 (名探偵コ○ン)

 





“……苦しい……。こんなに苦しいなんて……”

出口の見えない暗闇に、女は一人ぼっち。

“……命の糸。……たった一本の命の糸。……私は……それに縋って生きてるの……。仕方がないの……。こうしなかったら、生きていられないの……私……。でも、苦しい……。苦しいよ……。……助けて……新一………………”



暦の上では秋になったと言うのに、まだまだ重苦しい暑さの残る夜のこと。

“米花プリンスホテル”の一室に、一組の男女がいた。二人とも、一糸纏わぬ姿である。

寝台に腰掛けた男が、相手の女を背後から抱いていた。

見方を変えて言うと、赤みを帯びた茶髪をしている女が、相手を椅子とするかのように、男の上に座らされていた。

大学で教鞭を取るその女は、職場で“シニカル過ぎる”と言われつつも、隠しきれぬ知性が香るクールビューティとして認識されている。しかし、今の彼女から、普段の“近寄り難い冷たさ”は感じ取れない。

……後背座位…………。

そそり立つ男の逸物を、綺麗なピンク色をした牝淫花の奥深くまで、彼女は咥え込まされていた。

「んっ! ひゅんっ! しっ、新一ぃ!」

男に揺さぶられ、彼女の喘ぎ声は切れ切れになってしまう。

二人の繋がった部分から響く卑猥な水音を、男は楽しそうに聞いている。のみならず、男の左手は女の胸を弄んでいる。

「……志保……。お前……なんか今日は……一段と敏感じゃねぇか。ひょっとして半年近く……自分で慰めもしてなかったのか?」

「やぁっ! へんなこと、訊かないでよ!」

「変なことじゃなくて……大事なことさ……どうなんだ?」

女は、羞恥に頬を染めて、答えたくなさそうな素振りを見せている。しかし、男はしつこく、訊くのを止めない。

全くもって知性を感じられない遣り取りだが、世間からは“二人とも大変に優れた頭脳を持つ”と信じられている。


女の名は、宮野志保。

二十六歳の若さながら、薬化学や薬品分析学等の博士号を持つ才女である。先にも触れたように、現在は都内の有名私立大で講師として、教鞭を取っている。


男の名は、工藤新一。

数々の難事件を名推理で解き明かした実績を持ち、“東の名探偵”とまで謳われた、二十五歳である。ただし現在は、機知に富んだ話術と爽やかなルックスのタレントとして有名である。何しろ有名すぎて、探偵業が成立しないので……。

余談だが、某TV局の人気サスペンス“工藤新一の事件簿シリーズ”では、彼本人が主役を演じている。

工藤新一はまた、愛妻家としても知られている。妻の名は、蘭(旧姓、毛利)。同い年の新一と蘭は、二十一歳のクリスマスに結婚した。二人の間には、そろそろ二歳になる娘がいる。一家三人、この米花町で暮らしている……。


志保と新一の肉体関係は、新一の結婚前から続いていた。

即ち、志保の立場は世間一般から“愛人”と呼ばれるものであり、人前では愛し合う素振りも見せられないばかりか、自由に逢うこともままならない……。

それでも志保は、新一と別れることなど考えられずにきた。

志保が新一と別れるとき。それは、自分の命が尽きるときだと、志保は誓っているから……。


「ほらほら……答えないでいると……また先にイかせちゃうぜ♪」

新一は志保のナカへ、己が逸物を挿入しているだけではない。

彼の左手は回りこんで、志保の右乳房を擦り上げていた。特に、その人差し指は、乳首と乳輪を丹念に擦り回している。のみならず、器用なことに新一の左下腕は、志保の左乳房の下側を擦っていた。

志保は、乳房を揉まれるよりも、乳房を擦り回されるのに弱い。

自分好みに志保の躰を開発してきた新一は、勿論ちゃぁんと心得ていた。

――最良な手段とは、即ち、最も実益の大きな手段である。

新一は、随分と大仰な文言を脳裏に浮かべ、速まる左手の動きに合わせて速くなる志保の息遣いに、ニンマリとした笑みを浮かべる。

新一の右手は、それほど活躍していない。二人の繋がるすぐ近くまで、派遣されてはいる。しかし、志保の薄い茂みの感触を楽しんでいるだけだ。

「あっ。あっ。いやぁあ。いっしょにっ。いっしょにぃ!」

「だったら♪」

「ぁうっ、ぁあ……ハァ……ハァ……。しっ、してないわ……だって、勿体無いもの……」

「んん〜? どうして勿体無いのかなぁ♪」

「そ、それは…………」

頬を赤く染めて言いよどむ情婦の様子に、新一は緩めていた左手の動きを加速する。


さらに右手の人差し指は、志保のク○トリスを探り当てていた。

濡れて光る、可愛らしい牝珠。

それを新一は、意地悪な笑みを浮かべ、少し強めに一撫でしてみた。

「ひゃぁぁああぁぁああ!!」

志保は電撃に打たれたように仰け反った。自分の躰を玩具にして弄ぶ男にもたれたまま、ピクピクと躰が痙攣するのを止められない。

「おっ、お願い……。今日は……今日は本当に……新一のザーメンミルク……たくさん欲しいの……。いっしょにっ。イクのはいっしょにぃぃ!!」

「そんなに俺の……欲しいのかい?」

「……欲しいの…………」

「じゃあ、“勿体無い”の訳……言ってくれよ」

観念したように、志保は目蓋を閉じて、言葉を紡ぐ。

元々、ベッドの中で抵抗しても、勝ち目が無いのは判っている。

新一の指使いに遭っては、彼の思うままに、いくらでも淫らに鳴かされてしまうから……。それを自分は悦んでしまうから……。

そういう風に自分の身も心も調教済みだと、これまでも志保は、散々思い知らされてきた。

「ずっと逢えないでいると……あなたが、夢に出てきてくれるから…………」

「……ああ、お互いが強く想い合ってると、離れていても夢で逢えるって言うよな」


「本当にそうね……。私が夢を見てるとき、あなたは蘭さんを鳴かせるのに忙しかったとしても…………」

躰は熱いままなのに、志保の台詞に凍てついたものが忍び込みそうになる。それは彼女の、行き場の無い思い……。

新一と逢えない夜に、「彼は今頃……愛してると言いながら……蘭さんの躰を……唇で……」などと思ってしまう悔しさ……。

思ってはいけないと、自分に言い聞かせる思い。

しかし……決して……消せぬ思い……………………。

「……………志保……。俺が愛してるのは……。甘えるんじゃなくて……対等のパートナーとして愛せるのは、お前だけだ。信じてくれ………………」

掠れ声で囁くと、新一は志保の首筋に唇を這わせた。自然と、彼女を抱き寄せる力が入る。

「……くぅ……ん……もぅ……そればっかり………」

「本当に、俺は……」

「……ええ………」

そう信じていると言うよりも、信じたいという気持ち故に、志保は頷く。胸の何処かに居座る氷を無視して、彼女は微笑んでみせる。

「ねぇ、新一。夢に出て来るあなたが、私にどんな事するか判る?」

「どんなだ?」

「“江戸川コナン”から“工藤新一”に戻ったあなたが、初めてのとき、私にしたようなこと……」

強張りそうになる頬を無視して、悪戯な台詞を紡ぐ志保。

「あの日、私を言葉巧みに地下室に連れ込んで、ドアに鍵を掛けたのよね。……逃げ惑う私を捕まえて……手鎖をはめたのよ………」

「おいおいおいっ。逃げ惑たって……お前……俺はあの時……鍵を掛ける前に……その……無理やりには……」

新一は、己が分身を呑みこんでいる志保の女壷が、より一層の熱を帯びるのを知った。

言わずもがなの事ながら、志保が躰を開くのは、新一に対してのみ。

普段なら誰に口説かれようと、志保の躰は氷のように硬く閉ざされたまま。

しかし、官能の火が点いてしまった今………。

蜜壷の入口は、真綿のようにきつく新一を締め付ける。

ナカは、トロリとした柔肉が漣立てて、新一を包み込んでいる。

愛しい男を奥深く咥え込んで尚、もっと深くへと貪欲に、肉襞が蠢き誘う。

「はぁぁっ……あの日……あの日々……私は……あぁああっ! 何度も……何度も……あなたの手で牝にされてしまった……。言葉を忘れ……あっ、あっ、ああぁ…………あなたに注ぎ込まれることだけ望む……淫らな獣にされてしまった…………。もう戻れない……戻れないのぉ!」

一瞬、新一の眉間に、苦悩の皺がよる。志保の言葉の裏に潜む、寂しさと切なさを感じ取ったから……。

快楽と引き換えに、生きる力と不可分の“苦しみ”を彼女に植え付けてしまったのは、新一自身に他ならないから……。

コナンだった頃、新一は志保を、“純”に守れていたはずなのに……。

いまさら言っても詮方無きことなれど、見えない針が、新一の僅かに残っている良心を刺す。

「あっ! あっ! あっ! ああっ! あぁあああっ!」

「すっげぇ、気持ち良いぜ。志保、こんな風になれるのは、お前だけだ……」

痛みを振り払うように、新一は囁く。彼の両手は、一度、志保の躰を撫で回した。

彼女の躰を火照らせるのは、快楽の波動……。それを両掌で、肌越しにさんざん味わうため。

「んっ! うんっ! あっ! あっ! あひぃいい!」

弄られて……、煽られて……、高められて……。

はしたない声を、志保は漏らしてしまう。しかし、それと覚える余裕さえなく、志保は懸命に動きだした。

結合部から響く淫音は、「ぐちゅ、ぐちゅ」と、はっきり汁気と熱気を増している。


「あぁ、あぁ……。もっと……新一っ……もっと……私のことっ、新一の好きにしていいのっ! 私のこと! 新一になら、なにされてもいい! もっと、めちゃくちゃにしてぇええ!!」

「志保……俺も……お前だけだ………!!」

帰り着いた新一の両手が、志保の両乳房を揉む。左右の人差し指が、それぞれ乳首を擦る。擦り回す!

「んっ! くはぁ! あっ! あっ! あっ! いっ! いいっ!!」

新一は、自分も本格的に腰を使い始めた。

クチュンッ! クチュンッ! クチュンッ! クチュンッ! クチュンッ! クチュンッ! クチュンッ! 

水音のリズムは小気味良い。ベッド上で、お互いを知り尽くした二人でなければ、奏で得ぬ協和曲……。

「いいっ! いいっ! あぁ! お願いっ……あっ! あっ!……新一も……私で!
 私で、気持ち良くなってぇ!」

「あぁ……いいぜ……最高だ……」

新一の逸物が、その先端で子宮口を突き上げる。

躰の中で、「クォン!」と音が響くたび、志保の理性が砕ける。

「あっ! あっ! あっ! 堕ちる! 堕ちるぅ! 私! 私! わたしぃいいっ!!」

「……いいんだよ……志保。……俺たち……今だけまた……二匹の獣になろう…………」

「うっ、うれしひ! ひあぁああっ!!」

突き上げられるたび、揉み解されるたび、そして、新一の唇に首筋を吸われるたびに、志保の躰を染める朱色は深くなる。

惚けた笑みを浮かべ、息も絶え絶えに、志保は喘ぐ……。

舌先をチロチロと覗かせ、唇の端から淫蕩な滴を溢してしまった志保に、もはや理性も知性も無い。

唯々、新一の繰り出す快感に嬌声を上げる、一匹の牝…………。

唯々、新一を悦ばせたくて、愛蜜滴る壷で抱きしめ、懸命に腰を振る猥らな牝…………。

“嗚呼……。新一が……わたしと……こんなに一緒にいてくれる…………。幸せ……。いま……わたし……しあわせ…………”

「あっ! いっ! いあぁ! あっ! あっ! いいっ!」

「くっ……イキ……そうだ……!!」

「あっ! あっ! わたしも! わたしもぉ!!」

二人の動きが、さらに加速する。

「出すぜ! 志保!」

「あぁああっ! おねがい! たくさん! たくさん! わたしの中に! わたしのおなかに! たくさんっ、そそぎこんでぇ!!」

「ああっ、三つ子孕んじまうくらい! ドバドバ注ぎ込んでやる!!」

己の無意識に口走った言葉が、志保に至福の笑みを浮かばせたことを、新一は気付かなかった。

「うれしい! うれしい!! いっ! いぃいん!」

「……一緒に……イクぜ!」

「あぁ……わたし……イキそう……! あっ! イク! イク! イク! イクーーーーーー!」

「くううっ!!」

“絶頂”という閃光が炸裂し、志保の意識が白く染まる。と同時に、新一もまた達した。

ビクビクと逸物が震え膨れたかと思うと、次の瞬間、一気に白い熱情を吐き出す!

ドクッ! ドクッ! ドクン! ドククン! ドッククン! ドックン! ドドックン! ドククン!

ドクッ! ドクッ! ドクッ! ドクッ! ドクッ! ドクッ! ドクッ! ドクッ!

膣のみならず、子宮までも膨れ上がるのではと、思わせるほどに…………。

これでもかと言わんばかりの勢いで、新一は志保のナカへ、子種を注ぎ込み続ける…………。

「ひぁあああああああーーーーーーーー!!!」

新一の迸りは、止まるということを知らないかのようだ。

躰の内側を綺麗に溶かしてしまいそうな激流に、志保の意識は翻弄され、焼き切れていった…………。

“……嗚呼……新一の……いっぱい……とってもあたたかい……しあわせ…………”



「…………ん……ん……ん……あ……新一……」

気が付くと志保は、ベッド上で仰向けにされていた。

彼女の乳首を吸い、舌で転がしていた新一が顔を上げる。

「や♪ 気が付いたな」

「ごめんなさい。私また、失神しちゃってた……」

「謝るようなことじゃないさ。それに、敏感な志保は、すっげぇ可愛いぜ」

「………バカ……」

気恥ずかしさで赤くなってしまった志保に、新一はせり上がり、覆い被さった。

至近距離で、見詰め合う二人……。

「俺……今日はもう少し、志保と愛し合いたい……。良いかな?」

「嫌なわけ……ないじゃない…………」

嬉しそうに微笑む志保に、やはり嬉しそうに微笑み返す新一。

接吻。

時を惜しむ二人は、再びお互いを貪り合い始めた…………。



結局この夜、新一が帰り支度を終えたのは、午後十一時過ぎになってしまった。

まあ同じ町内であるし、彼はハーレーを足にしているから、日付が変わる前には家に帰り着けるだろう。

今晩、このまま泊まる予定の志保――彼女の家は、都内某所のマンション――は、ドアのところで新一を見送る。

「蘭さん……大丈夫かしら?」

「今日は遅くなるって言ってあるんだ。ばれやしないって。志保……心配すんなよ」


「そんなこと言ってると、後で痛い目を見るわよ。母親の“感”は、鋭いんだから。特に、子育てで疲れているときにはね……」

「おいおい。それじゃ俺が、育児に何も手を出してないみたいじゃないか、って…………」

口を尖らせて、思わず抗議しようとした新一だったが、志保の表情を見た途端、口を噤んだ。

志保が、嘗て“哀”であった頃の表情。

自ら命を絶とうとした、そのときの表情。

とうの昔に振り払ったはずの“負の決意”の色を、今話している彼女に、見た気がしたのだ。

「……志保。お前……今、何を考えてる?」

「そうね……。ごめんなさい。せっかく時間を割いて、逢って貰ってるのに……。私が言って良いことじゃなかったわよね。逢えてる時だけが……私……寂しくないのに……」

「お前の誤ることじゃない。悪いのは……。いや、そうじゃなくてだな」

韜晦するでもなく、少々ずれた角度の返答をする志保を追及しようとして、新一はまたも挫折した。

縋るような目で訴える志保を前にして、どうして新一に、言葉が続けられようか!

「私も蘭さんと同じだったら、寂しくなんて無いのに…………。ねぇ……新一……。私……アナタの赤ちゃん……産んじゃだめかな…………。認知してなんて言わないから…………。私……、一人でも育てられるから…………」

背広を着込んだ愛しい男の胸に両手を当てて、志保は訊ねていた。

瞳が……潤んでいる…………。

「う゛…………」

反射的に「産んで良いよ」と言いたくなるのを、自分でも嫌になる利己的な理性が邪魔して、新一は酷くナサケナイ表情を浮かべてしまった。


確かに、志保は経済面では完全に自立――米国での特許や実用新案に依る収入が大きい。大学に勤めているのは、寧ろ“労働による社会参加”のためである――している。

だが、そのことは必ずしも、志保がシングルマザーたり得ることを意味しない。彼女はメンタル面であまりにも……。

それに、志保も新一も、子供が出来たからといって、“関係を清算する”意思はまったく無い。二人が度々逢っていれば、子供は自分の父親が誰なのか、必ず気が付く。

そうなれば、新一と志保がどんな約束をしようと……。

だが、はっきり「産むな」と言ってしまったら、どれだけ志保を傷付けることか……。

これまでにも、さんざん志保を泣かせてしまってきた新一ではあるが…………。


今更ながら新一は、心底返事に窮していた。

「俺は……その……俺は…………」

背中を、嫌な汗が数滴滑り落ちる。

気まずい沈黙を破ったのは、志保の方だった。

「な〜んてね♪ 冗談よ♪」

先の台詞とまるでそぐわない悪戯な笑みを浮かべて、唯々狼狽する新一から、志保は離れる。

本当は泣きたくても………。

取り乱して訴えたくても………。

「冗談よ♪」と誤魔化してしまうのが、志保の悪い癖…………。

彼女の睫毛は、濡れていた……。

「きゃっ」

「すまない……。子供は……隠し子にしちまうのは…………。今度こそ……なるべく早めに連絡する…………」

胸に沸き起こる愛しさにかられて、思わず新一は、志保を抱き寄せていた。

しかし……、

「……厭なのね……私が産むの………。早めって……この前もそう言ってたじゃない………」

「え?」

腕の中の恋人が発した言葉は、あまりに冷え冷えとしていて、新一の動きを凍てつかせる。

志保は、再び新一の胸に両手を当てていた。先ほどと異なる、仕種……。縋るのではなく、愛しい人の抱擁から抜け出すため……。

「志保……お前……」

「あらあら……何て、深刻な顔をしてるのよ。冗談がキツ過ぎたかしら? ほら……。こんなことしてて、服に私の匂いが付いちゃったら、大変でしょう?」

笑顔でやんわりと、しかし、はっきりと拒絶されて、新一は抱擁を解いた。

「あっ、でも、本当に今度こそ、早めに連絡してよね♪ 声を聞かせてくれるだけでも良いから……ぁ…ん………」

甘い声に送り出されてしまう前に、新一はもう一度、志保に接吻をした。

唇同士が触れ合うだけのキス。

「もぅ! 本当に、匂いで蘭さんにばれちゃうかもよ……」

「それも……良いかも知れないな………」

「……なに馬鹿なこと言ってるのよ。あなたは、今晩泊まっていけないんでしょ? ……ほらほら、おやすみなさい」

志保の駄々っ子をあやす様な口調が、どこか痛々しい……。

腑に落ちないものを感じながらも、言葉を見付けられなくて、新一は彼女に促されるまま部屋から出る。

「あのな、志保……」

不吉なものを覚えて振り返った新一に、志保は微笑んで見せる。

「連絡くれるの待ってるから……。愛してるから…………」

「ぁ……」

「おやすみなさい♪」

訳も判らずシドロモドロになっている新一へ向かって、にこやかに言った志保は、彼の鼻先でドアを閉めた。

「………………」

一度ドアを叩きかけて、新一は思いとどまる。

“俺は、何を言いたいのだろう?”

“俺は、何を不安がっているのだろう?”

新一は、釈然としないまま踵を返す。

漠然とした暗雲を胸中に抱え、廊下からエレベーターホールへ出る前に、志保の泊まる部屋のドアを見たものの、結局そのまま帰路に着いた。


「……行っちゃった……………」

足音が遠のいていくのを聞いて、志保は室内へ戻る。

やっとベッドまで辿り着くと、力尽きたように、その上へ突っ伏してしまう。

シーツの乱れは、つい今し方まで二人が愛し合っていた証拠。

しかし、一人になってしまえば、虚ろな時を過ごす理由にしかならない。

「新一……困った顔してた…………。私ったら……。彼が頷いてくれないことなんて……判りきってるじゃない……………。何を期待してたのよ……………。あんなこと言って……これっきりに……なっちゃったら……どうしよう……………」

“今”に感じる寂寥と、将来に感じる“不安”が、志保に独り言を止めさせない。

「頷いてくれなかった……やっぱり望んじゃいけなかった………どうしよう……私………………」

前回の“逢瀬”から、今日の“逢瀬”までの間に、半年もの時間が流れていた……。


その間、志保は避妊薬を一度も飲んでいない……。

「新一が……蘭さんと別れられるはず……ないもの……。蘭さんは……新一にとって……まるでお母さんだもの…………。私みたいな北風は……蘭さんみたいな太陽には……なれないもの…………。でも……でもせめて……私も蘭さんみたいに…………抱いてみたかった…………。どうしよう……………」

望んだはずのことが今、志保を苦しめている。



人の思いがどうあろうと、時は流れる。

望もうと望むまいと、日は昇りまた沈む。

月は……移ろう…………。

来るはずのものが来ない不安を、初めは誤魔化して過ごした。

しかし、悪心を覚えてしまっては、誤魔化しきれなくなった。

念のために受けた診察の結果、志保が告げられたのは、最初に彼女自身が望んだとおりのもの……。

「普通なら……慶ぶことなのに…………。言えない……言えるわけない…………。彼……こんなことないって……信じてるもの…………。私……嘘ついたから……。話したら、きっと捨てられる……。捨てられる……。捨てられる…………」

自分の中で育つ、新しい命。

事実よりも、悲観的な予想が、志保を混乱させ追い詰める。


目蓋に浮かんでしまう……。

冷ややかな目つきで、自分を見る新一。

彼が口にするのは、別れ話……。


「……いや………………」


想像してしまう……。

どこかの病院の、薄暗い病室。

ベッドの上、お腹に手を当てて泣いている、志保自身の姿。

宿していたはずの温もりが抜け落ちてしまった、言いようのない喪失感……。


「いやぁあああああ!!!」


新一と出会う前の志保なら、皮肉交じりの台詞をはきながら、ドライに対処したことだろう。

だが、新一を愛してしまった志保には無理だ。

新一の子を孕んでしまった志保は、まともに物事を考えられなくなっていた。


悩んで……。悩んで……。悩んで……。苦しんで……。苦しんで……。苦しんで……。

それでもどうしたら良いのか判らなくて……。

悩みぬいた末の、ある日の午後。

東京都内の自宅で、とうとう志保は、新一の携帯に連絡を入れようとしていた。

「別れるのはいや……。赤ちゃんを死なせるのもいや……。私…………いや……いや……いや……いや……いや……いやぁあああ………………」

志保から連絡を入れるのは初めてだった。

『蘭にばれるのを防ぐため、志保から新一へは連絡しない』というのは、二人の間にある不文律……。

しかし、フラフラとして幽鬼のような動作の志保は、もはやそんなことを言っていられなかった。

「赤ちゃん……ごめんなさい……。私……新一に捨てられたら……生きられないから…………。ごめんなさい……赤ちゃんの顔……私……見たい…………。新一……たすけて……たすけて…………」

自分でも何を言っているのか判らぬまま、呪文のように繰り返す……。

震える指先で、番号をプッシュしようとしたそのとき、電子音が響いた。


つくられた柔和さがオブラートの役目をしていても、どこか気に障る合成音。

それが来客を告げるインターホンだと思い至るまで、志保には少し時間が必要だった。

「……こんなときにっ!」

忌々しさを通り越して、殆ど殺気を覚えながら、志保は仕方なく、招かれざる客を先に追い返すことにした。

居留守を使うとしても、大事な話の最中に邪魔されたら敵わないと思ったからだ。

「どちら様っ」

剥き出しの不機嫌さを機械越しに叩きつける。すると、穏やかな声が返ってきた。

「こんにちは、工藤蘭です」

何気ない挨拶が、志保の心臓に杭を打ち込む!

「あっ、あっ、あの、どちら様ですって……。私、これから直ぐに出かける用事があって……」

志保と蘭は、直接の面識はない。そういう事になっている。

そもそも何故、蘭が志保の住所を知っているのか!

悪足掻きだと思いつつ、このマンション一階のエントランスに立っているはずの蘭を、とにかく追い払おうと試みた志保だったが……。

「夫のことで……、工藤新一のことで、お話があります。宮野さん、開けてください」

蘭の台詞に揺らぎは無かった。


「私には……話しなんて…………」

「とぼけてないで、開けてください。宮野志保さん。……いいえ、“灰原哀”ちゃん」

嗚呼、百年目!

自分が哀であった事実さえも、蘭が既に知っていると教えられて、志保は言い逃れが出来ないことを悟った。

「今……開けます……」

己が立つ床が割れ、奈落の底に落ちていくような眩暈を覚えながら、志保は開錠の操作をする。

“蘭さんが、私を殺す気なら、それはそれで良いわ…………”

破滅的な思いに囚われながら志保は、蘭がドアをノックするのを待った………………。




続く


 

皆さんの心のうちに生じた本作品への想いを作者の方に伝えてみませんか?

読者の皆さんからの感想を作者の方は大変楽しみにしておられますし、短い感想でも次回作への活力となります♪

作者と読者の距離が近いというネットSSの利点を生かして是非作者の方にご感想を(^○^)    

毒々鰻41さんのこの作品への感想は、

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