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Love Piece

 

− 4 −

 俺の質問に、リョウは満足そうに微笑っただけですぐには答えなかった。
「出よう」
 そう言ってさっさと立ち上がる。
 そんなリョウに、俺はいつものように慌てたりはしなかった。ここへ出てどこへ行くのか、リョウの考えが判っていたからだ。
「俺の行きつけでいいよな?」
 簡潔な問いに俺はただ頷いた。
 モテルで二人きりになると、俺はすぐ切り出した。
「いつもどんな風にしてるんだ?」
「一応料金設定があって、安い方から、フェラをやらせる、手でする、口でする、最後までって分けてるけど。ショートだと手だけとかが多いけど、部屋を取る場合はほとんど最後までだな。ただしマグロで良ければ多少安くなるけど」
 そうしてリョウは続けて料金の説明をした。
 俺はここへ来る通りすがりにあったATM機から引き落としてきた札を、ベッドサイドに置かれたナイトテーブルへ無造作に置いた。
「全部知りたい」
「OK。そこに腰掛けて」
 リョウがベッドを指差し、俺は言われるままそこへ腰掛けた。その前にリョウが膝をつき、器用な手つきで俺の前をはだけさせる。
 俺の物を取り出すと、リョウはまず検分するようにそれを両手で捧げ持った。片方の手でまだ萎えている物を支え、一方の手で先を軽く擦る。服をはだけさせた手つきに比べてぎこちなく、まだ慣れていないように感じられて俺は嬉しかった。
 軽く弄られるといくらもしないうちに俺の物は固くなっていく。リョウにそこを触られているというだけで俺は無性に興奮した。
 先走りがツッとこぼれ、それを塗り広げるように擦られて思わず俺は低く呻いた。その上更にリョウは俺を口に含み吸い始めた。
 可愛らしいリョウの唇が俺のものを挟み込んでいる。ふっくらと柔らかそうな唇から赤い舌が覗き、グロテスクな代物をチロリと嘗めあげる。――怖ろしく卑猥な図だ。
 慣れきっていない手つきに妙にそそられた。音を立てて吸い付き、懸命に舌と唇を使っている仕草は意外にも色っぽい。刺激を与えられ徐々に脹らんでいく物を、頬を紅潮させて健気な様子で嘗め擦っている姿は実際の感覚以上に俺を興奮させた。
 同性と性交渉をしたことは今まで一度もないので少しばかり心配したのだが、リョウは指先から目線から吐息から、細かな動作まですべてが俺の官能を刺激した。
 リョウが口に含んだままでチラッと俺を見上げる。俺がじっとリョウを見ているのに不安そうな顔になり、舌先から糸をひきながら顔を上げると訊いてきた。
「いい?」
「ああ。とてもいいよ……」
 それは直接触れているリョウの方が判っていると思うのだが。まあ実際のところ、技巧よりもリョウにしてもらっているということに俺は欲情していて精神的興奮の方が大きかったかも知れない。
 十分に固くなった物が我慢しきれなくなる前に、俺はリョウを押しとどめた。立ち上がり、リョウも立たせて衣服を脱がせようとする。
「脱ぐよ」
 自分から脱ごうとするリョウの手を止めた。
「脱がせたいんだ」
 リョウは軽く両肩を上げると「好きにしろ」と服に掛けていた手を離した。遠慮なく俺は好きにさせてもらった。
 もう秋とはいえまだ暑い。リョウは素肌の上に直接シャツを着て、下はジーンズだけという軽装だ、脱がせるのは訳はない。それをすぐ脱がせたのでは面白くないので、俺は半端にシャツをたくし上げると胸を撫でるように素肌に手を這わせる。片手でジーンズの前を開けて腰へ手を入れると若い筋肉の張りを楽しんだ。
 リョウの息が僅かに乱れていく。堪える躰が微かに震えだすとようやく上をすっかり脱がせ、淡い突起へ舌を絡め、キュッと吸った。
「アッ…!」
 掠れたリョウの声が腰に来た。だが、まだ本番には早い。
 リョウの前へ手を入れると、想像通り小振りなそれを握り、片方の手でリョウの肩を抱き寄せ唇を重ねた。
 俺の手の動きに喘いで開いた唇の割れ目から舌を差し入れ、チュクチュクと音をたてて貪る。リョウも応えようとしているようだが、なんともぎこちない。
「他の奴ともこんなふうにキス、してるのか?」
 唇を話してからつい訊ねると、リョウは怒ったような顔をした。
「いつもはンなことやってねえよ」
 やっぱり客と口付けるのは希なことなのかと嬉しくなった。
 そうして愛撫しながら服を脱がせ、自分も脱ぎ捨てた。
 ベッドへリョウをうつ伏せさせて背中を唇でたどる。いつか嗅いだことのある若々しい匂いがした。
 太腿へ手を這わせ、膝裏を撫で、脹ら脛を、形を確かめるようにそっと掴む。形の良い足を掌で辿りながら唇は腰の上をさまよい、じらすようにゆっくりと双丘へ降りていく。
 内腿へ手を差し入れ、割れ目をさぐった。
「…ッ……」
 くすぐったかったのか感じたのか、リョウが息を洩らす。俺は思い出して、リョウの後ろから差し入れていた手で前をまさぐった。
「ンッ……」
 そこは少し固くなっていて、リョウが感じていることが確かめられた。俺はわざとそこから手を離し、代わりに小さな二つの凝りを握ると感触を確かめるように弄くった。
 リョウの息が上がり、切なそうな吐息が断続的にこぼれ始める。ずっとそこだけを嬲りながら双丘を撫でていると、うつ伏せていたリョウの腰が次第に上がってきた。すっかり四つん這いになって喘ぎだした頃、リョウの方から降参してきた。
「……ちょっ……おま…、いい加減……しろよ……」
「どうして欲しい?」」
 悪戯心を出して訊ねると、怒鳴り返された。
「この、むっつりスケベが!!」
 紅潮して色気の漂いはじめた表情にみとれながら、俺はその勝ち気な唇を唇で塞いだ。
「っ……ん…ゥ……」
 喉にかかった声が愛らしい。俺はもっと鳴かせようと前へ手をやった。
「あっ…」
 途端にリョウの躰がビクンと跳ねる。素直な反応が嬉しくて、俺は夢中でリョウを擦り続けた。
 リョウの絶頂が近づいてくるのがわかると、俺は動きを止め、そこを握るだけにして後ろをさぐった。リョウの物で濡れている指先を、そこはスルリと招き入れる。だが、第二関節ですぐ引っかかった。
(もう少し焦らそうかな……)
 俺自身、リョウを触りながらもう充分に高ぶっているというのに、ふいにまたしても悪戯心が芽生える。
「顔、見せて」
 俺はリョウを仰向けにさせた。見下ろしたリョウは全身が薄紅色に染まり、しどけなく手足を投げ出して眩しそうな目で俺を見返す。
 少年らしいまだ筋肉の薄い胸に手を這わせ、小さな乳首の先を軽くつつき、ピクンと反応するのを楽しんでキュッと指先で摘む。
「アッ!」
 声をあげるリョウに満足しつつ、そこへ顔を近づけ唇で吸い、舌で嘗め上げる。
「んっ……ウ……ハァッ……」
 今まで知っていたどんな女よりもリョウは敏感だった。打ち上げられた魚のようにピクピクと小刻みに跳ね続ける。
 リョウの眦に涙が浮かびはじめてようやく、俺はリョウの膝を折り曲げ足を広げさせると、再びその箇所を探り、確認するように指先を潜り込ませた。今度は指を根本まで入れることが出来た。
 腰を抱え、淡く色づいたすぼまりへ顔を寄せて舌先でつつき、ぺろっと嘗めてから思いきって舌を射し込んだ。
 生まれて初めてする行為だが、不思議と抵抗はなかった。リョウのそこは乳首と同じ綺麗な淡紅色(ときいろ)で、女とやるときにはじっくり見ることのなかったそこは、こうして見るとヴァギナよりずっとそそられる形をしている。
「ハ……はぁ……ン、アッ……」
 舌の動きに合わせるように、リョウが喘ぎを洩らす。もう大丈夫だろうと、俺はようやっとそこへ自分の物をあてがい、侵入しようと試みた。
「…てっ!」
 リョウが苦しそうに眉をしかめる。思ったように押し進められず、俺は戸惑った。女みたいには濡れないから軋んで痛むのだろうとは想像できたが、どうしたらよいかが判らない。
「ごめん、痛いか?」
「……ちょっと待って」
 リョウはすぐ横に置かれたナイトテーブルの引き出しを開けると、中の潤滑剤を取り出した。自らそこへゼリーを塗り込むと再び横になり、恥ずかしげなか細い声で「いいよ」と囁いた。
 すべらかな小さな肉を割り、俺はそこへ己を突き立てた。
「――ッア!」
「う……」
 きつい締め付けにあって俺も呻いた。だがリョウはもっと苦しいだろう。
 いつもだったらここで声をかけているところだが、今日の俺にはまるで余裕がなかった。
 リョウを執拗に愛撫しながら追いつめられていくのは俺自身だった。セックスをするとき、ひとつひとつの動き毎にいたわりの言葉をかけゆっくりと行うのが常だったが、リョウに対して俺はそうした言葉の一切をかけてやることができなかった。――勿論、それは終わった後で思ったことだが。
 考えてみると、俺はリョウに触れたのは今日が初めてだった。リョウの肌は今まで眠っていた生の俺を引きずり出し、容赦なく曝させる。
 俺は身の深奥に渦巻く激情のままに荒々しくリョウを揺さぶった。
「あっ! …ああっ……う、クッ……」
 いきなりの動きに萎えかけていたリョウの物も、そうして挿入し引き抜きまた打ちつける動きを繰り返すうち、再び頭をもたげ始める。荒い息遣いの内に歓びを掃く声音に、俺はどうしようもなく熱くなった。
「ん――っ……ん、う……んっ……っ……」
 興奮で紅潮した頬、しどけなく開いた口元、快楽を追うように瞑られた瞼――すべてが淫らに美しかった。
「……あ……あっ……」
 二人の動きに合わせて、ぐちゅ…ぐちゅ…と淫猥な音が響く。
 リョウの中はどんどん解れ、熱を増し、より深く銜え込もうとするかのようにまとわりついてくる。
 シーツの上にリョウの先から滴った白濁が染みを作っていく。
「…ッア……アゥッ……ア、ン……」
「…ク……ウ……」
 もう部屋に響く喘ぎのどちらがリョウのものでどちらが俺のものなのかも判らなくなっていた。
 絶頂が近づくと、俺は我慢できず細い腰を掴んで膝の上に抱え上げるように持ち上げ、より深い場所へと凶器を埋め込んだ。
「アアッ!」
 リョウが悲鳴を上げるのに構わず突き続け、これが最後と思いきり打ちつけた。
「――ック!」
「ヒッ…――!!」
 意識の飛びそうな快感に、俺は無意識にきつくリョウを抱きしめて果てた。


 ベッドから丸見えになっているガラス張りのシャワールームを眺めながら、俺は至福というのはこういう感じかとぼんやり考えていた。シャワーを浴びているリョウを眺めていると、どうしようもなく愛しさがこみ上げてくる。
 ただここから眺めていようと思ったのに、結局俺はそれを断念してシャワールームへ入り込んだ。
「なんだ、来たのか?」
 リョウが呆れたように俺を見る。俺は言葉が出ず、熱いシャワーに打たれながらギュッとリョウを抱きしめた。
 細い。その折れそうな感触に、本当にまだ少年なのだなと実感する。
「なんだよ、またやる気かよ」
「いや……」
 そうじゃない、ただこうしたかったのだと言いたかったが、あいにく俺の正直な物は固くなり始めていた。
「今日はもう終わりだって言っただろう? いくら全部ったって限度ってもんがあんだろうが」
 俺にとっては久々の行為ということも手伝って、一体何度したのか判らないほどリョウを貪ったのだった。
 そうしてじゃれつく俺を鬱陶しがりはしたものの、リョウは本気で反発する素振りは見せなかった。誰にでもそうなのだとは思いたくないが、終わった後のリョウはいつもよりやや表情が穏やかな気がする。
 最近の無関心からすると格段の進歩に俺は内心酷く喜んだ。と同時に、不安もこみ上げてくる。
(リョウはもしかするとセックスする相手のことしか意識しないのかも)
 俺がただのメッシーではなくこうして肌を触れ合わせる相手になったから、きちんと見てくれるようになったのだろうか?
「リョウ、俺のこと好きか?」
 訊ねた俺に、リョウは冷たく言い放った。
「何言ってんだ、そんなわけないだろう。商売だから相手してやったんだ」
 その言葉に俺の心は再び凍り付いた。
 どうやってもリョウを手に入れることはできないのか…。
 こんなにも誰かを欲したことは初めてだというのに、相手はそうは思っておらず、どうしたらよいのか判らない。自分だけが相手を好きだということがこんなに辛く切ないとは、俺は初めて知ったのだった。


 一度寝れば何かが変わるだろうかと考えてみたことはあった。だが現実にそうしてみても何の変化もなかった。ただ、以前の状態に戻ったというだけだ。
 相変わらずリョウからの連絡で出かけて会う。ただし、レストランの後にモテルへ流れることだけが違っていた。
 なんとかしてリョウを諦めたいとも思う。こんなに辛いのではもう会わないようにしたほうがいいのではないかという気さえしてくるのだが、そう考える先から彼の姿や様々な仕草が脳裏をちらつき、またしても無性に会いたくてたまらなくなる。せめてリョウの客であるという関係をやめようと思うのだが、会えば触れたくなり我慢できずに買ってしまう。
 思い焦がれて死ぬことがあるとすれば、俺はとうに死んでいたかもしれない。
「好きなんて言葉じゃ言い切れない。もう一生、俺はリョウを忘れて過ごすことなんてできそうにない」
 行為の合間にそう洩らすと、リョウはどこか淋しそうに言った。
「今だからそう思うんだよ。この先俺が段々歳とってもっと男っぽくゴツくなったり、トウがたってきたらそんなこと言えなくなンだから……」

 最近、すっかり同僚とも付き合いが悪くなっている。いそいそと退社する俺の態度でどうやらデートらしいと見当を付けて「いつゴールインするんだ」などとからかってくる奴もいる。それへ俺は適当に笑ってごまかしているが、そうやってごまかせるのもほんの数年だろう。
 普通でないことをしている自覚は勿論ある。自覚があるから、却って自分の部屋に一人でいるときなど、どうにもならないもどかしさに気が狂いそうな瞬間が度々あった。
 その日は給料日だったので久々にちょっと良い店へ入った。
 一緒に食事をしている時が一番楽しいかも知れない。リョウは以前は頑なに必要以上喋るまいとしていたが、最近は大分気を許してきたようで色んなことを話してくれるようになっていた。
「リョウは中3だったよな。そんなだと受験勉強も大変だろう?」
 それでも話題は限られていて、リョウの家庭のことに触れまいとするとどうしても自分の仕事のことやリョウの学校のことばかりになる。
「まあな、家にいたんじゃ勉強どころじゃねえよ。まあ、まず学費なんて到底稼げそうにねえし……進学はほとんど諦めてるけどな」
 その言葉を俺は理解できなかった。
「進学できないって……そんな。高校に行かないでどうするの? 一年くらい浪人して働くとか?」
「バカだな」
 リョウはフッと鼻で笑った。
「進学しないんなら就職しかねえだろう」
「エッ、就職ゥ?!」
 それは俺の理解の範疇外だった。
「その歳で? もしかして何かの職人になりたいとか…?」
「本っ当に、あんたバカだな」
 相変わらずリョウの口調は容赦がない。
「進学できるだけの余裕が家にないから働くんだろう。適当なとこ……俺、あんま体力ないから働き口限定されちまうけど、どっか工場ででも雇ってもらえれば御の字ってとこじゃねえのかな」
「エエッ、リョウが?!」
 俺にはとうていそんなリョウの姿は想像が付かなかった。
「なんだよ、俺がって」
 リョウは憮然とする。
「これで俺、あんたなんかよりよっぽど色んなこと経験してんじゃねえかって思ってるけど? ンでも。、やろうと思えば大抵のことは出来るだろうけど、無い袖だけは振れねえもん。できることン中から選ぶしかねえだろう」
「学校の先生は? 何か言ってないの、推薦で給費生とかそいうの、あるんだろう?」
 今まで考えたこともなかったし自分の周りに実際そういう人間がいなかったからよくは知らないが。
「そうできるほど俺、頭良くねえんだよ。学費補助程度なら受けられるんだろうけど、それだけじゃ到底やってけねえし、この時期になってまだ受験準備も何もしてねえからな…。早いとこ就職口見つけないと……」
「――良ければ俺と一緒に暮らすか?」
 自然とその言葉が口をついて出た。言ってから俺は自分で驚いた。
「何言ってんだよ!」
 リョウは怒りでカーッと頬を染めた。
「冗談じゃねぇよ。自分のことは自分でやるよ。他人にあれこれ構われるなんて…!」
「……ごめん」
 リョウのプライドを傷つけてしまったのだろう、悔しそうな顔をするのへ俺は申し訳なく思い謝った。
 店を出ると、外は小雨が降り始めていた。
「あ、やば……じゃあな!」
 今日は食事だけという約束で、リョウは雨に急かされるようにさっさと走り去ろうとする。それを俺は咄嗟に彼の腕を掴み、引き寄せると腕の中に抱き込んでいた。
 ――愛しくてたまらない――
 だが、無情にもリョウはそんな俺の向こう臑を蹴り上げた。痛みで腕の力が弛み、その隙を逃さずパッと俺から離れる。
「なにすんだよ、アホ!」
 腕の中に捕らえたと思ったものが、一瞬のうちにすり抜けていく。
 そのまま走り去っていくリョウの後ろ姿を、俺は雨に濡れながら呆然と見送った。

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