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――俺はリョウにとって一体何なんだろう?
――どうしても、俺はリョウを手に入れることは出来ないのか?!
やるせない想いが日々募っていく。
「今日は泊まって行かれないの?」
モテルの部屋で、訊ねる俺にリョウは面倒くさそうに言った。
「いつも言ってるだろう、俺は絶対に泊まりはやらねえんだ。他は全部許しても、泊まりだけはしない」
何故頑なにそうするのか判らないが、リョウなりの想いや考えがあってのことなのだろう。それがなんとなく察せられたから今までは我慢していたが、そんなふうに拒絶されることがどうにもいたたまれなくなる瞬間がある。
この日の俺は、特にどこかおかしかった。リョウへの想いが限界になっていたのかもしれない、感情をセーブすることができなかった。
「なんで…いつもそうやって俺を拒絶するんだ?! 気を許してるフリしながら商売だなんて言って、俺を翻弄して楽しいのか!!」
「な、なんだよいきなり」
リョウが戸惑い、ベッドの上へ膝立ちになって後退さる。
いつも、リョウを守りたいと思いつつ思うさま蹂躙したいという相反した欲望があった。俺から逃げようとするリョウの姿に、俺の中でふくれあがった獣が理性の檻を破って目前の獲物へ襲いかかった!
――いつかこうなるような気がしていた……
心のどこかでそう思っていた。
「イヤだって言ってんだろ!!」
喚き暴れまくるのを無理矢理押さえつけ、ベッドへ押し倒す。
「っ……何すんだよッ!」
Tシャツを脱がせようとして抵抗が激しすぎてできず、俺はリョウをうつ伏せにして首の付け根を押さえ込むとまずベルトを引き抜き、荒々しく膝丈のズボンを引き下ろした。
「や……は、離せっ!」
なおも暴れて抵抗するリョウの両腕を、引き抜いた自分のネクタイで縛る。
腕の動きを制限されうつ伏せた腰の上に乗られると、さすがのリョウも身動きできない。
「グッ……」
俺はすでに手慣れた手順でリョウの秘部へ指を射し込み、中を探る。そこは先ほどの行為の跡でほどよく湿っていた。
それだけ確認すると、俺は体を入れ替えそこへ己の物を押しつけた。
「や……やめろっ!」
俺を後ろざまに蹴り上げようとする足を、力任せに殴りつける。まるで幼児が気に入りのオモチャを取られまいとしているようだと、追いやられた理性の片隅で自嘲した。
無理に侵入しようとする俺を、そこはきつい締めつけで侵入を阻む。自分自身苦しみながら、俺はグッと力を込めてそこを貫いた。
「――!」
今までしたことのない強引な行為に、リョウが声にならない悲鳴を上げる。
それが痛みなのか快感なのか、よく判らないまま俺はガンガンにリョウを揺さぶった。
悲鳴を俺に聞かすまいとの考えか、リョウは枕の端をきつく噛みしめていた。幾度も荒々しく楔を打ち込まれ、その度にそんなリョウの唇の端からヒィッと苦鳴が漏れる。
「ッ……グ……ゥッ……」
「…ふ……うっ……」
低い喘ぎが部屋を充たす。いつまでそうしていたのかまるで記憶がなかった。かなり長かったような気もするし、案外あっけなかったような気もする。
腰の痺れが強まっていく感覚に、俺は更に動きを増した。次第に洩れる声が力無くなっていたリョウも、さすがに声を上げて鳴きだした。
「…ァッ! ック……ウ、ッ…――ヒッ!」
ふいにビクンとリョウの躰が痙攣し、がくりと崩折れる。気を失ったのだ。
その躰へ、俺は容赦なく欲望を突き立て、ぶちまけた。
「――っ!」
気を失ってぐったりしているリョウの上に、俺も半ば朦朧としたまま倒れ込んだ。
「……ごめん、ごめんな、リョウ……」
気を失っているリョウを抱きしめながら、俺は何年もの間忘れていた涙を流し続けていた。
「どうして……どうしたらいいのかわからない。リョウ――リョウが好きだ。どうしようもなく、リョウのことが好きなんだ! ……ごめんな、リョウ。大好きだよ。…リョウ、……リョウ…――」
腕の中でぐったりしているリョウにほおずりし、髪を撫でながら、俺はいつまでも囁き続けていた。
「二度とあんたとは寝ない」
二度とあんな乱暴はしないから、と平謝りする俺に、当然だがリョウは冷たく言い放った。
あれから数日が経っていた。リョウはしばらく歩くことが出来ず、俺はそれへつけ込むようで気は引けたが、ここで別れたら本当に二度と会えなくなると恐れてリョウを自分のアパートへ連れこんだ。
そうはいってもリョウの両親へ何も知らせないわけにもいくまい。不承不承リョウの書いたメモを片手に、俺は初めて安藤家を訪れた。
想像したのと違い外見はごく普通の家だったが、玄関へ入って驚いた。もう何カ月もなんの掃除もしていない様子で廊下の端には綿埃がたまり、薄暗い家の奥からはなんともいえない臭気が漂ってくる。家の中には通されないで玄関先で話しただけだったからよくは判らないが、中はもっとすさまじいのだろう。
くたびれた感じの父親と、アルコール臭の漂う母親が出てきて、気のない様子で俺の「リョウの具合が悪いので数日預からせてもらう」という話を聞いていた。
だが、『売り』のことは当然伏せておいたが、リョウが繁華街を歩いていたところを知り合ったと言うと父親はさすがに少しばかり驚いた様子でおどおどと俺にいくつかの質問してきた。リョウが何か悪さをしているのではないかと心配したようだが、問題を起こしてはいないと聞かせると安心したように小さく吐息を吐き、何事か考え込む様子だった。
リョウは寝込んでいる間、遠慮なくあれを食べたいこれをしろと俺を顎でこき使った。そうされることで俺は己の罪を購えるような気がし、喜んで奉仕したのだった。だがさすがに若さで三日もするとすぐにある程度元気を回復し、立てるようになるとさっさと帰っていってしまった。
「本当に申し訳ない」
リョウの帰り際、俺はもう何度目になるかわからない謝罪の言葉を改めて口にした。そうして、ずっと恐れて言えなかったことをようやく言った。
「こんなことしておいて何だけど……また、会ってもらえないかな…?」
「さてね、どうしたもんかな」
リョウは意地悪そうに俺を見上げたまま黙り込む。リョウが口を閉ざしている間、俺は心の中で天国と地獄を行き来した。
「――ま、仕方ねえから飯だけは驕らせてやるよ」
リョウはにやりと笑うと、感激にリョウを抱きしめようとする俺をするりとかわして去っていったのだった。
数カ月後――俺は有休を取って、遅ればせに咲きほころんだ桜の並木を見ながら歩いていた。
傍らに、リョウがいた。
「それ、よく似合うね」
「そうか? 既製服だからかなり大きいんだけどな」
面映ゆそうにそう言うと、リョウは詰め襟姿の自分を見下ろす。俺のアパートからほど近い公立高校へ合格したリョウの、今日は入学式だった。
リョウの家は相変わらずゴタゴタしているようだが、何とかやっている様子だ。リョウはもう売りをすることはやめ、学費補助を受けながらアルバイトすることを決めていた。
「良かったな。ちゃんと進学できたじゃないか」
「まあね。暮れにお袋がアルコール依存症で初めて入院して親父もようやく反省したみたいだしな。ま、あとは夫婦でなんとかしてもらうけど。放ったらかしてた家事はとりあえずみんなで分担ってことになったから、却って前より忙しくなっちまったけどな」
リョウの逞しさを眩しく思う。
まだ完全に俺に気を許してくれたわけではないが、あの強姦事件から徐々にリョウとの関係は修復の方向へ傾いていた。
「本当はなんでも相談して欲しいし、頼って欲しいんだけどね」
俺が言うと、リョウは「ケッ」と実に似合わぬ顰めっ面をし、俺は我ながらバカだなぁと思いつつそんな彼も可愛いなと見とれた。
「何でも言えるってのは、恋人とか夫婦とか、そういう相手だけだろうが」
言われて俺は、ため息を吐いた。
「リョウとは結婚できないんだよな…」
「バッカ、あったり前だろう?!」
怒鳴られてしゅんとしてしまう。
「バカって……。俺、子ども好きだしいつか結婚もしたいって夢もあるんだけどさ。もうこの先リョウ以上に好きな相手なんてできそうにないよ……」
そんな俺に、リョウはたしなめるように言った。
「いいか、俺も子どもは好きだけど、俺は女とできないんだ。――俺はどうやら真性ホモらしいからな。こうなるまで意識したことなかったけど。
けど、あんたはできるんだから、子どもが欲しけりゃ作りゃあいいんだ」
「それは、理屈はそうだけど」
「ただし。結婚しといて俺とも、ってのは俺は願い下げだからな。まあ、子ども産んで、しかもその子を引き取らせてくれるなんてけったいな女はそうそういないだろうけどな。例えいても、あんたにそれを実行するだけの甲斐性があるかどうか…?」
フフンと鼻先で笑う。
「出来もしねえことをごちゃごちゃ考えてんじゃねえよ。自分がどうしたいか、何ができるか考えれば、道は決まってんだろうが」
「そうだな……」
俺はリョウが好きだ。そして、リョウが俺といてくれる限りは周囲がどうであれリョウを手放す気はない。
自分のことなのに、リョウに言われなければわからないとは。
「俺ってつくづく、人に依存する質なんだな……」
俺はリョウから与えられてばかりだ。また今日もそんな自分に気づかされ、気落ちする。
そんな俺に、リョウはポソッと言った。
「俺もよく言葉キツいとか可愛げないって言われるし、甘えられるくらいで丁度いいんじゃねえの?」
その言葉に驚いてリョウを見やると、リョウはすました顔で、青空へ白線を引いてゆく飛行機を見送っていた。
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