8月1日――俺の誕生日は、夕方から親友の岡部智久(おかべ・ともひさ)を含めたいつもの悪友達で祝ってくれることになっていた。
場所はいつもの『ロフト』。まだ三十そこそこのマスターが経営しているカラオケバーだ。そんな店に俺達未成年が気がねなく行かれるのには、ちょっとした訳がある。
店長の長門馨(ながと・かおる)さんは非常なカラオケ好きで、歌の上手い人が店に来るとつい驕ってしまうという変わった性癖があるのだ。
智久は酒屋の息子で、小さな頃から店の手伝いで配達などもしていたが、それを耳にすると早速「友達にすごく歌の上手い奴がいる」と俺を紹介した。
そうして長門さんに気に入られてからというもの、何かというと俺達はロフトで騒がさせてもらうようになったのだ。
「よう、琳!」
「おっ、主役が来たか」
待ち合わせ場所に行くと、もう十人程の悪友共が集まっていた。どうした訳か男ばかりなのが情けないが。
「なんだ、ずいぶん来てるんだな。家族でどっか出かけたりとかしないわけ?」
「冗談。この歳になって家族旅行なんてやってられっかよ」
「っていうか、遊びたいけど先立つものがない哀しいボンビーだからだろ」
みんな笑ったが、不況のこのご時世では心底から笑い飛ばせる問題でもない。
(そういえば、前に長門さんも店の運営がちょっと苦しいからって、何か内職だか副職を考えてるって言ってたっけ……)
そんなところに俺らみたいな懐の寂しい未成年が押し掛けて、しかも今日は貸し切りにしてくれると聞いている。俺は非常に申し訳ない気分になった。
(これは今日はよっぽどリキ入れて歌わないと)
長門さんはどういう訳だか、歌のことを除いても俺のことを非常に気に入ってくれていて、何かというと良くしてくれる。俺としてもそれは嬉しいことだったから、つい断りきれずに甘えてばかりだ。
せめて、俺にできることでお返ししよう。
そんなことを考えているうちに、大遅刻の智久が走ってきた。
「悪ィ、だいぶ遅れちまった。今日は用があるって言ってんのに、ギリギリまで店手伝わせるもんだからさあ」
「いいから早く移動しようぜ」
予想通りの言い訳を俺らは聞き流し、ようやくゾロゾロと移動を始めた。
取り留めのない話をしながら歩く途中、智久がふと思い出したように俺に言った。
「そういえばこの前会った時、長門さんが琳に何か頼みたいことがあるって言ってたぜ」
「頼みたいこと?」
なんだろう。
(まさか、いつも言ってるアレのことじゃないだろうな)
チラッとある考えが脳裏を過ぎったが、まさかそれなら智久に言うわけがないかと思い直す。
ここのところ長門さんに会うたびに、本気とも冗談ともつかぬセリフを言われるようになっていた。本気とも思えないセリフなのだが、冗談と笑い飛ばすこともできない熱い眼差しで……。
「琳? どうしたよ。なんか顔が赤いぜ?」
「…エッ、そ、そんなことないと思うけど。夕日のせいじゃないの?」
「う〜ん、熱はないよな? 具合が悪いとか」
「何言ってんだよ、なんともないって」
「…ならいいけどさ」
焦った。どうも俺は、考えていることが顔に出やすいようだから気を付けないと。
「多分、その長門さんの頼みってのは歌関係だと思うけどな」
「まぁそうだろうな……」
他には考えられないし。
ま、これから会うんだから、直接訊いてみればいいか。